医学界新聞

 

【印象記】第35回日本てんかん学会

高沢 彰(碧水会汐ケ崎病院・精神科)


てんかん学の第一線の研究者が一堂に会して

 第35回日本てんかん学会は,9月25-26日の2日間,国際医療福祉大学・臨床医学研究センターの鈴木二郎教授(前東邦大精神医学教室教授)を会長に,また,東女医大小児科の大澤真木子教授を副会長に,新宿・京王プラザホテルにおいて開催された。いうまでもなく,てんかん学はきわめて学際的な領域であり,本学会は,精神医学・小児科学・脳外科学・神経内科学などの臨床家に加えて,基礎医学,特に神経科学領域の研究者も参加する,いわば,てんかん学の各研究領域の研究者が一堂に会する唯一の国内学会といえる。

「てんかんにおける病因と発達」

 新世紀におけるてんかん学と治療の発展の第一歩になることを願って,大会テーマは「てんかんにおける病因と発達-てんかんの克服に向けて」に定められ,一般演題に加え,国際抗てんかん連盟(International League against Epilepsy: ILAE)新会長のGiuliano Avanzini教授(イタリア・ミラノ神経研究所所長)と,米国てんかん学会会長のSolomon L. Moshe教授(アメリカ・アルバート・アインシュタイン大)の特別講演が企画され,さらに,基礎・臨床両面にわたるシンポジウムなどが含まれる内容豊かなものとなった。
 学会初日はシンポジウム・会長講演・特別講演・招待講演などが行なわれ,第2日は一般演題が集中して発表されるという,ここ数年来踏襲されている方式で運営された。Avanzini教授の特別講演では,ナトリウムチャンネル異常とてんかんに関する最新の研究が紹介され,また,Moshe教授による招待講演では,発達期におけるけいれん発現に対する中脳黒質網様帯の抑制・促進効果について興味深い知見が示された。
 また,これらの講演に挟まれる形で,「遺伝変異動物モデル-ELマウス-によるてんかんの研究」と題した会長講演があり,日本で開発された有用な遺伝性てんかんモデルの1つであるELマウスに関する展望とともに,てんかん学研究への情熱が語られ,大きな感銘を与えた。
 シンポジウムは2つ企画され,シンポジウム1「てんかんの治療-薬物療法を中心として」では,治療の開始と終結というてんかん治療において常に議論となるテーマを,また,シンポジウム2は「“てんかん”の影響-妊娠の成立から乳児期まで」として,遺伝子相談から抗てんかん薬の妊娠・成長への影響について幅広い知見が示された。

てんかんの分子生物学を論議

 一般演題は180題が口演・ポスターそれぞれ4会場で同時進行の形で行なわれたため,近縁の演題が複数会場で同時に発表されるという事態も起こり,関心領域のすべてを見聞できなかったきらいはあったが,それでも,内容の濃い充実したものであった。なお,神経科学セッションとして,近年進歩の著しいてんかんの分子機構に関する発表が一般演題から採択され,集中して議論された。一方,恒例となっている学会前後のサテライトシンポジウムと学会中のランチョンセミナーも開かれた。
 中でも,大会初日には,秋元波留夫先生(東大名誉教授)による「てんかんとわたし-てんかんから学んだこと」と題してランチョンセミナーが開かれ,現代に至る歴史的な展望ばかりでなく,21世紀への課題が提示された。
 プレコングレスならびにポストコングレスのサテライトシンポジウムは,「難治てんかん」の治療戦略と「症候性てんかんの成立と臨床」のテーマで行なわれた。
 本学会においても,てんかんの一部は遺伝子の変異,特にイオン・チャンネル異常に関連することが報告され,チャンネル病(channelopathy)として理解可能であることが強調された。一方,新しい治療法や抗てんかん薬の開発にあたっては,臨床実地における証拠の蓄積の重要性が痛感された。先端的なアプローチと伝統的な従来の臨床的な手法の間には,残念ながらいまだ隔たりがあるように見えるが,相互に接近する不断の努力が,てんかんというきわめて臨床的であり,かつ,人の脳機能を如実に示す現象の総合的な理解への唯一の道であることは変わらないと思われる。

次回はアジア・オセアニアてんかん機構と合同国際学会

 なお,第36回日本てんかん学会は,山内俊雄教授(埼玉医大・精神医学)を会長に,長野県・軽井沢にて明年9月11-14日まで開催される。次年度の本学会は,アジア・オセアニアてんかん機構(AOEO)との合同の国際学会として開催され,日本国内ばかりではなくアジア・オセアニア各地から広く参加者が集う予定である。