医学界新聞

 

早くから診療所をみてみよう

内山富士雄氏(内山クリニック・PCFMネット)に聴く



内山富士雄氏
東京医大卒。東海大で研修した後,茅ヶ崎徳洲会総合病院内科,神経内科,地域医療部を経て,1989年にクリニック開設
 「医療の原点といえるプライマリケア,家庭医療診療所での見学実習・研修を通して医学生や研修医に,診療所医療の独自性・重要性,PCFM(プライマリ・ケア,家庭医療)診療所医師のやりがい・醍醐味を味わってもらう」ことを目的に設立されたPCFMネット(プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる診療所医師のネットワーク,本紙2438号参照)。
 その発起人の1人である内山氏に,診療所実習で学んでほしいことや,診療所の魅力を聴いてみた。

―――PCFMネットを始めたきかっけは。
内山 国家試験に合格して医師になった人の多くは,将来的には開業して診療所でジェネラルな医療を提供することになります。それにも関わらず,卒前卒後とも研修は大学や病院の中だけで終わっていることに矛盾を感じ,早くから診療所や開業医の姿を見てもらってはどうか,と考えたのがきっかけです。そこで昨年9月から診療所医師の有志が,自分の診療所で医学生や研修医を受け入れ,診療所での実習を始めました。
 これまでも一部の大学にはカリキュラムと結びついた診療所実習がありましたが,それがない学生にはチャンスがなく,彼らにも場を提供できるようにしたかったのです。
―――実習のプログラムは。
内山 これは指導にあたる診療所にもよりますが,私の診療所の場合は,ほとんど私と行動をともにして,外来診療と在宅医療と病診連携のコンビネーションを体験してもらっています。
 毎朝,連携病院である茅ヶ崎徳洲会総合病院の回診・カンファレンスに一緒に参加して,病院との病診連携の実際を体験してもらう他,毎日2-8件ある訪問診療や往診にも同行してもらいます。
 実習期間の比較的長い(2週間)学生にはその他に,連携している訪問看護ステーションの患家訪問の同行や,茅ヶ崎徳洲会総合病院の病院実習・ER実習もオプションとして選べるようにしています。

患者さんの生活を知る

―――学生たちに,診療所で学んでもらいたいことは。
内山 まず,「患者さんの生活を知る」ということです。先ほど述べた見学などの他に,例えば,診察後に患者さんが薬局で薬を受け取って自宅にもどるまで一緒に同行させてもらい,その患者さんが診察室を出た後,会計でいくら払うか,院外薬局でどのような説明を受けるか,なども学生にみてもらいました。帰路に交わした患者さんとの会話などは,彼らに強く印象に残るようです。このあたりが診療所実習だから学べることと考えています。
 また,家庭医の外来と大学や病院の外来の違いも見てもらいたいです。患者さんと医者との近接性や親密度,そして医療の継続性を実感できると思います。
 学生は,病院で働くスペシャリスト(教授・教官・勤務医)の実像は知っていても,診療所で働くジェネラリストである家庭医についてはまったく知りません。この実習では,1つのロールモデルとして,家庭医の仕事や生活を見てもらうことが大事だと思います。
 現在の医学教育の現状は,将来は大衆食堂で働く可能性も結構高いのに,一流ホテルで高級フランス料理ばかり修業している調理師見習いようなものです。一流ホテルで修業すれば食堂の料理なんて簡単にできると思っているのかもしれませんが,そうではないでしょう。大衆食堂を切り盛りするにはバラエティーに富んだメニューをはじめとして,ホテルにいては思いもよらない学ぶべき点がたくさんあるでしょう。ならば早くから,ホテルの厨房にいる時間をすこし短くして,街中の食堂の経験をふやすことを考えてもいいじゃないか,ということです。
―――実習を受けるのは将来的には開業をめざす学生さんが多いのですか?
内山 そうとは限りません。進路に関係なく,とにかく見てみたいという人もいます。それでいいと思います。今後連携していく上でも,開業医を理解している病院専門医が増えてもらいたいですし,そうすれば病診連携がスムーズに運ぶようになります。
 実際,開業医は病院勤めの経験があるので,勤務医の思考法や興味のありかたなどはよくわかりますが,逆はほとんど理解してないですね。そのギャップのしわ寄せは結局患者さんに行きます。そういう意味では,学生のうちに家庭医を理解してから病院勤務医,専門医になることは,患者さんのためにもよいことだと思います。
 欧米では医学生全員を家庭医のもとに研修に行かせる大学が多いようです。日本でも,学生全員に診療所見学・実習をさせる大学が増えてきてはいるようですが,まだまだ数は少なく,実習期間も短いようです。
―――最後に学生さんに一言。
内山 とにかく1度見にきてください。家庭医として,生きがいをもってやっている先輩医師の実像を見て,それからいろいろと将来のことを考えてもよいのではないかと思います。医師という仕事の半分は,地域診療所医師,開業医が行なっている仕事です。病院での仕事は,全体の半分なのです。にも関わらずそれしか知らずにいてよいのか,ということです。また,もし開業したいと思ったら,早めに自分の人生設計に組み込むのがよいと思います。
 いますぐPCFMネットのホームページ:http://www.shonan.ne.jp/~uchiyama/PCFM.htmlを覗いてみてください。