医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


循環器疾患の診療に欠かせないコンパクトな百科辞典

今日の循環器疾患治療指針 第2版
細田瑳一 総編集/鰐渕康彦,他 編集

《書 評》傅 隆泰(心臓血管研究所長)

 他の診療領域と同様,循環器各分野における最近の進歩・発展には著しいものがある。各種の大規模臨床試験の結果を踏まえ治療ガイドラインが提示される一方,診断および治療技術の新規開発も急ピッチで進んでいる。また,循環器疾患の臨床現場では従来以上に内科,外科が相互に協調し診療に当たる局面展開となっている。したがって,内科医は最近の心臓血管外科の進歩を念頭に置いて治療デザインを構築すべきであり,また,外科医は術後管理にあたり,循環動態や不整脈などの面で内科的知識の活用が要求される。
 このような状況の中,本書がこのたび版を改めて上梓されたことは,まさに時と所を得た感がある。

実用面を重視した簡潔な記載

 本書に書かれている内容を見ると,循環器内科および外科医が臨床の現場で遭遇するほぼすべての疾病や病態が項目別に取り上げられている。その中には,スタンダード化されたものの他,血管内エコー・内視鏡,心肺運動負荷試験・PETなどの新しい検査法,ステントレス生体弁/フリースタイル弁の活用・ステントグラフト内挿術・バチスタ手術・心臓移殖など近年注目されている外科治療,虚血性心疾患・心不全・高血圧・高脂血症に対する最近の評価法と薬物およびICD・PCIなどの非薬物療法の組立て,循環器系薬物の使用に際し留意しなければならない薬物相互作用,心臓リハビリテーション・運動療法・生活指導・心身医学療法など早期の社会復帰や一次および二次予防に資するものも組み込まれている。その他,大動脈・肺動脈および末梢の動・静脈疾患や他臓器疾患に伴う循環器異常も含まれている。しかも,各項目についてその分野に精通しておられる計210人の専門家が,ご自身の豊富な経験をもとに診療の要点を平易な文章で簡潔にまとめ上げ,その上でワンポイントレッスン方式で読者に理解してもらうような配慮が施されている。

臨床現場で不可欠な教本

 本書のサイズをA5に改めたことも大成功で,ベットサイドでも気軽にひもとくことができるようになった。
 本書を通読してみると,編者の企図力と各執筆者の努力が実を結び,循環器の臨床に携わる人たちにとって不可欠な教本に仕上がっている。
 したがって,本書は循環器疾患に携わる看護婦(士),研修医の他,循環器を専門とする内科医,外科医にとってきわめて有用な著書であり,ぜひ購読されることをお勧めしたい。
A5・頁716 定価(本体9,800円+税) 医学書院


時代の要求に応える医学英語論文を書くための指導書

EBM医学英語論文の書き方・発表の仕方
Warren S. Browner 著/折笠秀樹 監訳

《書 評》大和眞史(信州大助教授・循環器内科学)

 私などは,本書の冒頭に述べられているように,抄録の数と論文の数がミスマッチし,リジェクトされたままお蔵入り,あるいは学会発表後に書きかけて新しさを失った研究など,ご指摘がいちいち痛む徴候を抱えた「患者」である。
 卒後研修に入ってまもなくの夏,早速与えられた症例報告を,忙しい教授が親切にも添削してくださった。真っ赤になった原稿を,「随筆書いてんじゃねえぞ」とのお叱りとともに受け取り,以来しばらく意気消沈してしまった。まことに医学部卒業生は,「仕事の文書」を書く修行がない。こうした忸怩たる自分史から,後輩には木下是雄著『理科系の作文技術』,佐川喜一著『英語で書く医学論文』などを紹介してはペーパー・ワークを推奨してきた。そうした中で本書は,よくデザインされた臨床試験が求められる時代に医学論文を書かれる方々に,まことに価値ある指導書になると保証したい。

「目からウロコ」の連続

 訳者の折笠先生は,日本における医学統計のパイオニア増山元三郎先生の教育を受けた後,米国ノースカロライナ州立大学チャペルヒル(統計ソフト定番SASを開発した)のBiostatisticsでPh. Dをとり,数々の多施設臨床試験のアドバイザーとして大活躍中の人である。
 なぜ,論文の書き方を統計のプロが翻訳するか。それは,方法と結果の項を読めば,目からウロコの連続である。研究に着手する段階から,行きつ戻りつ考えるべきことを,その流れに沿って書かれている。論文とは,つまるところ研究とは,予測変数と結果変数を事象の山から見出して設定し,実験や臨床試験によってその変数の分布を知り,その間の関係を突き止めることだと改めて理解させられる。
 内容を少し紹介しよう。「臨床研究に完璧なものはない。したがって,完璧であるようにふるまう必要はない。だからうそはつかないようにしよう。……論文審査員は研究というものは乱雑であることを知っている。彼らは正直に述べたということもきちんと評価する」,「考察というのは,論文作成の中で最もストレスを感じない部分であろう」,「自分の確信の強さを示しなさい。確信しているのか,ほぼ確信しているのか,五分五分と思っているのか,それともただの思いつきなのか。例を4つ示す。These findings demonstrates that……. Our results suggest that……. A reasonable interpretation of these results is that……. Based on our results, it is at least theoretically possible that…….」

応用できる英文例

 英文例が多く載っているのは,ためになる。こなれた英語に,よい例,悪い例。そのまま自分の論文に応用できる。表と図のところも,とても親切である。「図表を中心に結果を書くと,美術館の退屈なツアーだ」として,本文と図表・Legendとの関係を明快に解き明かす。
 ちょっと注文を。わからない用語:“effect size”。「効果サイズ,効果の大きさ」という訳語が不適切なのであろう。考え込んでいると,効果を測るということから,結果には定量性が厳しく求められていることが今さらのようにわかる。統計の援用を受けつつ研究計画を立て,論文を読み書きする時,医学的な知のあり方が見えてくる。また,established statisticianとしての折笠先生はどう思うかのコメントがもっとところどころにほしい。
 まず,このような手引書がうってつけと思われるような研究をしよう,また,医学統計家と深くつき合おう,と思わされる。
B5・頁248 定価(本体3,200円+税) 医学書院


最新の精神科薬物療法の動向を余すところなく記載

精神科薬物療法ハンドブック 第3版
George W. Arana,Jerrold. F. Rosenbaum 編集/井上令一,四宮滋子 監訳

《書 評》木下利彦(関西医大教授・精神神経科学)

 われらの大先輩,尊敬する井上令一先生がハロルド・カプランの大著『カプラン臨床精神医学テキスト:DSM-IV 診断基準の臨床への展開』(MEDSi)の監訳に続き,ジョージ・アラナの名著『精神科薬物療法ハンドブック』第3版(原書第4版)を翻訳出版された。

新たな展開を示す精神科薬物療法

 新しい薬物がつぎつぎに開発され,精神科薬物療法が新たな展開を示したこの時期に出版されたことの意義は非常に大きい。抗精神病薬は非定型抗精神病薬,抗うつ薬では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),抗けいれん薬の気分安定薬としての位置づけなどを詳しく述べており,最新の薬物療法の動向が余すところなく記載されている名著である。各向精神薬の選択に際しての注意点を箇条書きにして,理解を促す配慮もなされている。
 精神医学の重要性がクローズアップされ,心のケアの必要性が認知される時代が到来している。精神科を受診される患者数は増加の一途で,すべての人々にとって必要な科となっている。これら新しい向精神薬は従来のものに比べて,明らかに副作用が少なく服用しやすく,処方件数も飛躍的に増加している。特に神経症からうつ病,さらに摂食障害や人格障害の一部までと幅広い領域の治療薬になりつつある新しい抗うつ薬(SSRIやSNRI)に関しては,最も多くの紙面を割き,懇切ていねいな解説を加えている。
 妊娠中の使用,高齢者への使用,自殺と関連した過剰摂取,副作用と毒性,薬物相互作用など従来の解説書ではあまり触れられていなかった部分(ある意味で従来の向精神薬は処方対象が限られていた)にも多くの紙面を割き,実にありがたい内容となっている。特に若い研修医にとっては,『DSM-Ⅳ精神疾患の分類と診断の手引』(高橋三郎・他訳,医学書院)と本書は,白衣のポケットに携帯する必読の書である。他科の医師にとっても,今後向精神薬を処方する機会が増えるであろうと思われるのでお勧めの書である。
A5変・頁280 定価(本体4,800円+税) MEDSi


21世紀元年に相応しいオールカラーの皮膚科学教科書

標準皮膚科学 第6版
池田重雄 監修/荒田次郎,西川武二,瀧川雅浩 編集

《書 評》古川福実(和歌山医大教授・皮膚科学)

 25年ぐらい前であったろうか,医学書院の『新臨床内科学』が出版された時のインパクトは今でも忘れない。その当時内科学は分冊された重い教科書はあったが,教科書と言うより百科事典であった。学生の大半は,ハリソンの内科書を購入していた。英文のほうが,百科事典よりはるかに便利であった。しかし,英語で読むのは面倒臭いのも事実。そんな折り,確か茶色の表紙の『新臨床内科学』が出版された時は,「世の中にこんな便利な教科書があるのか!」と吃驚したものである。なんと1冊にまとまっているではないか。同級生の皆が購入した。同書はその後も医学生に売れているらしい。現在,第7版だという。
 さて,皮膚科の教科書である。現実のポリクリの学生の持参する教科書と言えば,例のペラペラの黄色の教科書もどきである。なんたることか。しかし,よくまとめてあるのを認めざるを得ないのも事実。私も,現在,某出版社の教科書を2人の先生方と執筆中である。企画から始まり,執筆,初校,再校と進むにつれ,多くの祈りに似たものが教科書には込められるようになる。たくさん売れますように!! いやいやこれは目標ではなく,結果なので忘れましょう。煎じ詰めれば,皮膚科学のおもしろさを,学生や研修医のみなさんにわかってほしいということである。どうすれば,わかってもらえるか,いろいろと考える。カラー写真を多くしよう,表を多くしよう,索引を充実させよう,疾患の漏れがないようにしようなどなど。教科書を執筆して初めてわかるのは,これらを満たす作業はきわめて困難であるということである。

読者とのクロストークによる改訂

 しかしこの『標準皮膚科学』第6版をみると,本邦皮膚科教科書初の総天然色!! 画質はきわめて鮮明で,発疹の理解は進み,皮膚への親近感は増すものと予想される。表や索引の充実あるいは疾患が十分に記載されている点などは,第5版に比べさらに工夫されている。本書は,共同執筆という形式をとり,初版以来17年間で5回の改訂を行ない,その都度,編集,執筆陣の新陳代謝が図られている。共同執筆にはよい点,悪い点がそれぞれある。よい点は,企画から発行まで迅速に進むということや,記述内容が一定のレベルを保つことなどであろう。一方,欠点としては,時に記述が専門的になり過ぎることや,本が醸し出す個性が消失しやすいことなどである。このような欠点は,第5版までの本書が多くの医師によって読まれたという事実や,読者からの建設的な批判とそれを反映した改訂という,理想的なクロストークによって克服されている。その結果,共同執筆という形をとりながら一個の個性を得た本書は,21世紀元年に相応しい内容を含み,皮膚科医にとって,まさに文字どおりの標準となっている。
B5・頁636 定価(本体7,900円+税)医学書院


保健・医療・福祉分野で学ぶ人のための副読本

リハビリテーション医療入門
武智秀夫 著

《書 評》大橋正洋(神奈川県総合リハビリテーションセンター部長)

リハビリ世界の土台となる知識が的確に

 A5判ペーパーバック,本文約120頁のリハビリテーション医療入門書が刊行された。
 著者の武智秀夫先生は,現在までの約40年間,義肢・装具のエキスパートとして身体障害者の医療に携わってこられた。また現在は,吉備高原リハビリテーションセンター院長として,医療以外にも各種リハビリテーションサービスが的確に提供されるよう,社会システムの整備に意を注いでおいでである。さらに武智先生は,以前に執筆された著書の中では,古今の書物から興味深い事例を引用され,障害者への対応を考える場合に,技術と人権思想の歴史を理解していることが重要であると主張されていた。
 このような先生の経歴を考えると,この入門書はリハビリテーション医療に関する些末な技術論に埋没していない。障害者支援を行なうために,押さえておかなければならない知識を俯瞰的に示している。すなわち本書では,広大なリハビリテーションの世界の土台となる知識が的確に示されている。したがって読者は,示された土台の上に,必要に応じて各自の知識を積み上げていくことが可能である。読者対象として,これからリハビリテーション医療,あるいはリハビリテーションについて学ぼうとする人々を想定しているが,妥当な内容と思われる。

問われる障害者支援の本質

 武智先生が,毎日をお忙しく過ごしておいでの中で,なぜ本書のような入門書を書こうと思い立たれたのか,それを推測してみたい。先生の動機の1つは,障害者を巡る世の中の変化に気づかれたからだろう。
 おそらく武智先生が,整形外科医として障害者の医療に取り組まれた初期の頃に比較すると,現在は障害者の社会参加と平等の考え方が広く認められ,社会基盤も著しく整備されている。その旗印となる言葉がリハビリテーションである。また高齢社会を迎えるにあたって,介護保険などのさまざまな施策が,国や市町村レベルで発動しており,この場面でも,リハビリテーションという言葉が便利に用いられている。わが国では,言葉が厳密な定義をされないまま,曖昧に使われる傾向がある。リハビリテーションも,そのような用語である。武智先生は,障害者への支援が的確に行なわれるためには,言葉ではなく,その内容であるということを示されたかったのではないだろうか。そうは言っても現実には,リハビリテーションの旗印の下で多くの事柄が進行している。そこで本書によって,リハビリテーション医療,リハビリテーションといった用語が正しく理解されること,そしてより本質的である障害者支援のために何が必要かが認識されること,それを期待されたのではないだろうか。
 本書は,入門書となっているだけに文章は平易で,また引用されている事柄の内容は正確である。保健・医療・福祉の分野で学ぶ人への副読本として考えることができるだろう。
A5・頁128 定価(本体1,800円+税) 医学書院


一世紀にわたる世界の産科学のバイブル

Williams Obstetrics 第21版
Cunningham F. G.,他 編

《書 評》武谷雄二(東大大学院教授・産婦人科学)

 世界各国おしなべて産科医に「代表的な産科学の教科書は何か」と問えば,躊躇なく本書を第1にあげるであろう。またあらゆる産科学の教科書は本書をモデルにしており,いわば産科学のバイブルといっても過言ではない。

100年にわたりたえず内容刷新

 なぜ本書がそのようにみなされているかというと,今回第21版が刊行されたが,初版はWilliams J. W. 博士が1903年に上梓したもので,実に100年近くにわたり,改版のたびに内容を吟味し刷新してきたことによる。本書に捧げた編集者の不断の努力と熱意が本書を一世紀にわたり名著たらしめたと言える。
 産科学は20世紀において内分泌学,生殖生理,胎児生理,感染症,超音波医学,遺伝学,などの進歩に伴い,その学問大系を一変させたが,まさに本書の100年の歴史にそれが凝縮されている。100年を経ても普遍的な事実と,100年の間の進歩の軌跡が実に巧妙に盛り込まれており,古典的かつオーソドックスな教科書であると同時に,産科学の最新の考え方やトピックが余すところなく紹介されている。あらゆる立場の方がそれぞれのレベルに応じて価値を見出せるものと言える。

ベッドサイドでのすぐれた実用性

 本書の創刊の序文で,いみじくもWilliamsが産科診療の実際の基盤となる科学的な論拠を呈示することと同時に,ベッドサイドで直接役立つ具体的な指針を明示することを心がけたと述懐している。まさに現在強調されているevidence-based medicine(EBM)の原点を見る思いがする。本書は,一貫して上述のWilliams博士の精神を踏襲し,時代を先取りしてEBMの確立を第一義としてきたものである。
 本書がベッドサイドでの実用性を求めた表れとして,実際の処置や手技の手順が詳細に記述されている。わかりやすい図表を用いて,あたかも「マニュアル」のような利用性をかね備えている。またアメリカの産婦人科学会,NIHをはじめ権威づけられた学術団体のガイドラインが紹介されており,国際的なコンセンサスを容易に知ることができる。
 最近の生殖医学,産科における基礎研究の進歩も,一般の臨床医にわかるように懇切かつ簡明に解説されているのも本書の特色となっている。特に図説が大変工夫されており,読者の理解を助けている。
 産科学のカバーする範囲は時代とともに拡大してきており,最新版では,出生前診断,胎児の評価,治療,各種薬物の胎児への影響など胎児に関して多くの紙面を追加している。母体優先から,母児を一体化した医療へとの時代の流れを反映していると言える。
 以上のごとく本書は産科学のすべてであり,あらゆる類書の特色をすべて包含していることがあえて本書の特色と言えよう。産科,産婦人科診療に従事している医師,施設にとって必需書と言える。
A4変・頁1667 \20,000(税別)
医学書院洋書部扱い