医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


英知を結集した睡眠臨床の力作

一般医のための睡眠臨床ガイドブック
菱川泰夫 監修/井上雄一 編集

《書 評》堀口 淳(島根医大教授・精神医学)

増加する睡眠覚醒障害

 およそどの領域の第一線の臨床医にとっても,睡眠覚醒障害への適切な対応が求められることは周知の事実である。睡眠覚醒障害は,あらゆる身体疾患や精神疾患に随伴すると言っても過言ではない。ましてやわが国の国民の生活環境は,ますますストレスフルな状況となっており,睡眠覚醒障害は増加の一途をたどっている。睡眠覚醒障害を有する患者が睡眠を専門とする医療機関を受診することはまれであり,その大半には一般臨床医が対応している。日常の診療の中で,一般医が睡眠薬を投与しない日は皆無であろう。しかしながら,わが国の医学教育の中に占める睡眠臨床に関する講義や実習の割合は,決して十分なものとは言えない。一般臨床医は多忙な日々の臨床の中で不眠患者に対峙し,不十分な知識の中で悪戦苦闘しているのが実状かもしれない。しかしこれまでに発刊されている睡眠関連の成書は,これから睡眠を研究しようとする者や,睡眠専門医のために発刊されたものが大部分であり,一般臨床医にとっては難解で,とっつきにくかった感は否めない。

診察室で「虎の巻」として活用

 本書は,睡眠臨床におけるわが国を代表する執筆陣が,英知を結集した力作である。一般臨床医の日常診療にただちに役立つ実践的な内容がまとめられており,一般臨床医が診察室のかたわらに置いて,「虎の巻」として活用するにふさわしいものである。総論では睡眠臨床に必要な基本的な知識を整理し,各論では臨床場面で遭遇することの多い睡眠障害から,比較的特殊な睡眠障害まで,それらの病態や最新の治療法を平易に示している。また睡眠覚醒障害の予防や日常生活の工夫まで網羅してあり,一般臨床医にとっては即戦力となる実践者向きの成書である。一度概略を短時間で通読したうえで利用されることをお勧めする。
A5・頁240 定価(本体3,400円+税) 医学書院


内視鏡診断名人への第一歩

内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
上部消化管

芳野純治,浜田 勉,川口 実 編集

《書 評》幕内博康(東海大教授・外科学)

確かさがうかがえる編者の目

 医学書院から,『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-上部消化管』が発行された。
 まず,編者と執筆者の陣容がよい。実力ある若手の錚々たるメンバーが名を揃えている。いわゆる「年寄り」がいないところがなおよい。よくぞこれだけのメンバーを集めたものだと感心するし,編者の目の確かさがうかがえる。
 次に,内容が新しく新鮮であり勘所をはずしていない。さらに一貫性があり,まとまりがよい。芳野,浜田,川口,村田,内田,小原,三坂,下屋,北台,松井,中村,吉村,大野と実質13名で執筆されていて,あまり多すぎず編者の目が十分に行き届いている。
 さらに,内視鏡写真がきれいで,図も懇切丁寧であり,また,表がよくまとまっている。コピーして手帳に貼っておくのもよいだろう。
 内視鏡を始めたばかりの初学者に必携の書であること,この内容を理解していれば実際の臨床で困難を感じることはないことは保証できる。特に,第1章から第4章までの基本的事項は,認定医試験を受けるにも必須の事項であり,熟読して憶える必要がある。
 第5章は,臨床実地問題にも相当する。食道,胃,十二指腸で,隆起を示していたり,平坦だったり,陥凹していたりする病変を発見した時,どのような病名を列挙すべきか,また,それらをどのように鑑別すべきかが明快に理解できるように構成されている。くり返して読んでおくと,実際に内視鏡検査をした際に本書の頁の写真が頭に浮んできて,容易に診断できるようになるだろう。また,これは一体何だろうと内視鏡診断に迷った時,本書を手元に置いておき,その項目の所を開いてみると,「あっ,これかな」と思い浮ぶことがあるにちがいない。その上,基本的な治療方針まで示されていて,至れり尽せりの感がある。
 第6章では,生検組織診断が示されている。生検診断は意外に高度な診断技術と総合判断が要求される高級な分野に属する。
 まず,正しい部位から正確に必要十分な組織を採取することが難しい。ついで,その病理診断がいかに行なわれて,どのような落し穴があるかを理解しなければならない。病理診断は必ずしも絶対的なものではない。組織採取,プレパラート作製,顕鏡の各段階で誤診が待っている。病理医泣かせの内視鏡医もいるし,病理診断の難しい病変で臨床情報が重要なものもある。これらの注意すべき事項について詳細に記載されている。
 内視鏡医はむやみに病理診断に頼るのではなく,自分の内視鏡診断に自信と責任を持たなければならない。内視鏡診断と病理診断が違った場合には,自ら顕微鏡をのぞいたり,内視鏡写真を見直したり,とことん追究する姿勢が必要であろう

熟読して内視鏡診療を楽しく

 内視鏡検査あるいは内視鏡治療は,医療事故と隣合わせにある。危険でおそろしい。また,誤診もついて回る。誤診から完全にのがれることは不可能であるが,内視鏡検査や内視鏡治療を楽しく,自ら満足して行なうためには,まず本書を熟読する必要があろう。次に,患者さんに優しく,人に愛を持って検査や治療にあたるべきである。自らも毎年検査を受けてみることもぜひ勧めたい。どうすると苦しいかがよくわかる。内視鏡を1度も飲んだことのない有名な内視鏡医もいたが尊敬できない。
 内視鏡の名人への第一歩が本書であることを確信していると,重ねて申し述べておく。
B5・頁336 定価(本体12,000円+税) 医学書院


患者を全人的に診るためのアートを解説

15分間の問診技法
日常診療に活かすサイコセラピー

Marian R. Stuart,Joseph A. Lieberman III 著/玉田太朗 監訳/佐々木将人,他 訳

《書 評》渡辺 武(日本プライマリ・ケア学会長)

取り入れられ始めた“こころ”へのアプローチ

 このたびようやく文部科学省は,医学生の研修項目に患者との面接技法をはじめとする“こころ”へのアプローチを取り入れました。プライマリ・ケアに対する認識は,欧米諸国に比しはるかに遅れているわが国ですが,将来医師国家試験にもOSCE(オスキー)などを導入し,面接技能を評価する仕組みが検討されているとのことです。一方で総合診療部を開設した大学は,30を超えました。
 医療は,患者のためにあります。当然すぎることです。患者=クライアントのニーズに応えていない科学万能主義では,医師のニーズを満足させているにすぎません。100近くの学会がそれぞれの成果を競っていても,病める者には空虚に映るだけです。
 インフォームド・コンセントにしても,カルテ公開にしても,専門家相手では蟷螂の斧ですが,実地医家にとっては傍観することなく,無駄に終わらせてはなりません。
 本書にも「学問の世界では,生物医学,行動科学,社会科学の接点で苦労しながら仕事を続けるプライマリ・ケア医の役割は,ほとんど顧みられなかった。患者と疾患を分離して考える還元主義的なアプローチが,医学教育と医療供給体制の基本であった。中心にとらえられるのはあくまで疾患であり,医師は主として病因論的,治療的観点から疾患を類別することに力を注ぐ。そこには全人的なデータや心理学的,社会学的属性についてのデータが抜け落ちている。医療の本質は必然的に“アート”でなければならず,科学の及ぶ範囲を超えるものである」とあります。
 では,どうするかです。
 本書はこれに対して,生物心理社会モデルに基づいた洞察方法を学習して,コミュニケーション技法を確立し,患者の治癒力を促進すべきと説いています。至言であり,プライマリ・ケアの原点でもあります。
 そして,15分サイコセラピーを通じて社会的支援を与え,患者の健康機能を強化し維持させる心理的介入法の概要を解説しています。

プライマリ・ケア医にとって必須の治療法

 患者への共感,受容,そして信頼を基本にしたこの治療法は,プライマリ・ケア医にとって必須なものとなりましょう。
 精神分析,精神科の治療ではありません。「最も単純明快にサイコセラピーを定義するとすれば,患者の世界地図を修理して,自分の望むものを手に入れることができるように方向づける過程である」とあります。
 自治医大教授の時,全人的医療の教育に努められた玉田太朗先生(1992年,第15回日本プライマリ・ケア学会会頭)の監訳に敬意を表します。
 医療不信の続く中でやり甲斐ある医療を求める真摯な実地医家にとっては,大変参考となる好著として広く推薦いたします。
A5・頁280 定価(本体3,000円+税) 医学書院


世界的評価を得る大作『肩』の第3版

 その機能と臨床 第3版
信原克哉 著

《書 評》越智隆弘(阪大大学院教授・応用医工学)

仕上がった巨匠の第3作

 1人の巨匠が白いキャンバスに『肩』を描いていく。1979年に完成した第1作の後,さらなる精進で1987年に第2作を仕上げた。巨匠,信原克哉先生は,引き続き徹底した実証主義でエビデンスを蓄積し続けた。バイオメカ研究所を病院内に併設し,先端研究を続けた。当時,日本に希少のオープンMRIを入手して肩の構造の秘密を覗き続けた。投球に伴う肩関連の動きを検証するためにブルペンを造り,数台の高速ビデオで記録しコンピュータ解析を続けた。おそろしいほどの強い意志と執念で真実に迫り,この度,さらなる蓄積をもとに第3作を仕上げた。
 この書は,『肩』を描いた大作である。描出は極力わかりやすい表現で貫かれている。どのようにすればわかってもらえるかとの気配りが随所に表われている。肩に関連する諸項目ごとに,まず確立された事実をわかりやすく説明する。そして世界的な論点の流れを整理して紹介している。多くの文献の中から主だったものを引用しながら,議論の推移を説明している。どのような学説の相違があり,どのような主張がなされてきたか。次の時代の医学者に「ここまでの途は確かだ」と道標を立てている。若い研修医をも,先端サイエンスの土俵の上に導いてくれる。そしてその上で,現在未解決の問題点を整理していくつかの学説を示しながら解説してくれる。その中に並べて,ご自分の知見と学説を述べておられる。これをドグマとは言わない。まさにサイエンスである。

世界に紹介したい著書

 今までの日本の医学界にも世界的なオリジナリティを持った先人は,何人もおられたと思う。しかし日本には,オリジナルなサイエンスを育て,正当に評価し世界に紹介する素地はなかった。日本では細部の議論に終始して,いたずらに時が過ぎていった。海外で評価されて,初めて日本国内で見直したという歴史の繰り返しがあった。日本人には「日本で作られたサイエンスを,世界をリードするものだと自分たちで評価する」という自信がなかったのだと思う。
 時代が変わった。すでに長年にわたる欧米との交流の実績を持つ医学界は自信を持って,日本人が日本で作り上げたサイエンスを高く評価し,海外へと送り出すべきと思う。この書はまさに,その先駆けではないか。願わくば英文版も作っていただきたい。日本で作られた医学の作品に対して,海外の学者は高く評価するに違いない。そして21世紀を迎えた今,信原先生が若き日に夢見た日本のMayo clinicが名実ともにでき上がっていることが実証されたわけでもある。
 この一連の大作が自力で自筆で描きあげられたことに,筆者自身は同じ途を歩いている後輩として,驚きと深い敬意を感じながら,本書の書評を書かせていただいた光栄に大きな感激を覚えている。
B5・頁560 定価(本体18,000円+税) 医学書院


医療福祉サービスの全体像を効率よく学ぶために最適

介護保険時代の医療福祉総合ガイドブック
荒川義子,住居広士 監修/日本医療ソーシャルワーク研究会 編集

《書 評》長谷好記(広島市立安佐市民病院部長・リハビリテーション科)

利用者の視点でわかりやすく解説

 「そろそろ退院をと言われているのですが,すぐに自宅に帰るのは無理なので,どこか病院か施設を探してもらいたいのですが…」と日常診療の中では,毎日のように患者さんや家族の方から受ける相談ですが,あなたは的確なアドバイスをする自信をお持ちでしょうか。もし,少しでも不安に思われたのであればこの本をお勧めします。
 この本を読み始めて最初に感じたのは,非常に読みやすいということです。今まで手にした医療福祉の本の多くは,ただ単に制度を網羅したものや専門用語が氾濫している取っつきにくいものでしたが,この本はまったく違います。それぞれのサービスや制度が,内容,利用できる人,利用の方法(窓口)の順に利用者の視点からわかりやすく解説されています。さらに実際にサービスを利用する人たちを交えて,できるだけ平易な日常語でわかりやすく伝える努力をしたというだけあって,専門知識を持たない人にも読みやすく理解しやすいものになっています。実例をもとにわかりやすくその章の内容を説明した「物語」,的を得たイラスト,患者さんが描かれた挿絵,日常診療で見逃しやすいことやちょっとした注意点が書いてある「コラム」など,理解を助ける工夫も随所にみられます。
 本の構成も,高齢者,障害者(身体障害・知的障害),精神障害者,お金のこと,乳幼児・児童,権利擁護,相談と支援と,利用者(困っていること)の章を開けば,それに関する保健,医療,福祉制度の情報が1度に参照できるようになっています。医療現場においては,1つの制度を利用するだけで解決する事例は少なく,いくつかの制度やサービスを組み合わせることが多いので,これは便利だと思いました。また,文章だけでなく,複雑に絡み合っている制度をわかりやすいチャートや表にまとめてあるのも見逃せないポイントでしょう。
 私がよく相談を受ける高齢者の施設サービスを例にとると,介護の必要性,要介護度,病気の種類,痴呆の有無,年収などチャートに沿って答えていくと利用できる施設がわかるようになっています。その後にある解説で,施設の内容や利用できる人を確認すれば,大きな間違いは冒さないでしょう。自分の頭の中で行なっている作業がこんなに簡潔に表現されるとちょっと淋しい気もしますが,いつも退院先を探すのに苦労している研修医の諸君には,ぜひ読んでおいてもらいたいところです。

役立つ医療福祉サービスのノウハウ

 「お金のこと」という章もよくまとまっています。医療費の自己負担を軽くするために利用できる保険や制度のチャートとその解説や全国の自治体の医療費補助の一覧表など役に立つ情報がたくさんあります。医師は,患者さんのお金の問題には触れたがらない傾向がみられますが,障害年金や疾病手当金など日ごろ何気なく書いている診断書がどのような意味を持つのか,なぜ支給される期間や金額が異なるのか調べてみられてはいかがでしょうか。
 「権利擁護のために」の章では,成年後見制度,地域福祉権利擁護事業,権利侵害があった時の救済システムについて詳しく解説されています。不服申し立ての方法や窓口について詳しく書かれているのは,本書が利用者の立場に立って書かれている証しなのでしょう。
 在宅ケアの重要性が言われるようになってから久しいですが,それを支援する制度に関して十分な知識や情報を持っている医師や医療スタッフは,どうも一握りのようです。在宅療養を行なうにしろ,施設サービスを受けるにせよ,どのようなサービスが受けられるかがわかれば,退院後の計画も立てやすくなり,在院日数の短縮,早期社会復帰も可能になるのではないでしょうか。
 最近の医学部での教育はどうなっているのか詳しくは知りませんが,自分の経験では医療福祉サービスに関して詳しく講義を受けた記憶はほとんどありません。臨床に出てから1つひとつ症例というよりも失敗を積み重ねながら学んできたように思います。もし,この本を読んでいたら,私の失敗の数も相当少なくなっていたのに,と残念でなりません。
 本書は,介護保険をはじめとした医療福祉サービスの全体像を短時間で効率よく学ぶために,また日常診療で困った時に知識や情報を得るために,研修医だけでなく,現場で活躍中の医師,コメディカルの皆さんにもぜひ読んでいただきたい有益な参考書と考えているのですが,いかがでしょうか。
A4・頁280 定価(本体3,200円+税) 医学書院


注目されてきた子どもの「心の問題」への面接指針

小児・思春期の「心の問題」面接ガイド
Claudio Cepeda 著/松浦雅人 監訳

《書 評》中島一憲(都教職員互助会三楽病院部長・精神神経科)

 本書は,既刊書『小児・思春期の「心の問題」診療ガイド』の姉妹版として出版され,同じ監訳者によって日本語訳されたものである。原著者は,重度の障害を持つ小児や思春期症例の診療に長年の経験を持ち,研修医の臨床教育にも携わっている精神科医である。それだけに本書を手にするとまず豊富な症例記載が目につく。しかも各章で展開される項目解説の後に適切な症例の記述が盛り込まれているために,内容理解の手助けとなるだけでなく,症例の定式化の凡例としてそのまま役立つようになっている。
 全体は,11章から構成されている。精神医学的面接の一般原則に始まり,非言語的面接技術,面接の記載の仕方,内的・外的症状に対する面接法,神経精神医学的診察,定式化の理論と実際,症状の発現と持続の問題,そして診断面接中にみられる抵抗や逆転移の問題まで詳述されている。このように精神医学的面接の心理力動的側面のみならず,社会的,神経心理的,精神生物学的な諸側面を包括的・体系的に解説しているのが本書の特徴であろう。

小児への直接面接の重要性

 特筆すべき点は,小児への直接面接の重要性がとりわけ強調されていることである。それは,この領域では長らく直接面接に消極的であったことと,最近の診断評価に関する面接の軽視に対する危惧に由来している。まったく同感である。精神科臨床の基本であり,最も重要なことは症例の直接面接にほかならない。これのみが治療関係を大切にした総合的な臨床実践を可能ならしめるのである。
 本書は,小児・思春期精神科臨床のエキスパートである監訳者のグループによって読みやすく訳出されている。子どもの「心の問題」が社会的にもますます注目されてきた昨今,まさしく時宜を得た刊行と言えよう。その道を専門とする精神科医や臨床心理士だけでなく,小児・思春期症例に接するさまざまな立場の人に1冊備えてほしい良書である。
A5変・頁300 定価(本体4,400円+税) MEDSi