医学界新聞

 

連載 第6回

医療におけるIT革命-Computerized Medicineの到来

(6)次世代のコンピュータ画像診断

若尾文彦(国立がんセンター中央病院:放射線診断部)

2451号よりつづく

 新たな情報技術を活用し,画像診断の領域においてもさまざまな変化が生じている。それらのうち,現在,導入されつつある新たな技術について紹介する。

医用画像のデジタル化

 CT,MRなどの元来,コンピュータで画像を構築するモダリティに加え,従来X線フィルムを用いていた単純撮影,透視撮影系においても,CR,DR等のデジタル撮影機器が普及してきている。現時点では,アナログ撮影機器で発生するフィルムがあることもあり,デジタル撮影機器からもフィルムに出力し,フィルム読影を実施している場合が多い。
 しかし全モダリティがデジタル化されるに従い,高精細モニタを用いたモニタ診断に移行し,データ保管は,フィルムに代わり電子保管として,フィルムレス化されていくと考えられる。
 このフィルムレス化によって,臨床では比較読影の簡略化が,また病院経営の観点からみると,フィルム保管スペース,コストの削減などのメリットが考えられる。

ネットワーク読影

 医療画像のデジタル化は,病院内に限られるものではなく,病院間の画像情報の伝達にも活用が期待されている。例えば,患者紹介の際に,大きくて重たいコピーフィルムを患者に運ばせていたことに代わり,光磁気ディスクやCD-Rなどの可搬媒体によって紹介患者の画像を伝達することが可能であり,さらに,ネットワーク・セキュリティが確保されれば,オンライン転送に移行していくものと考えられる。
 また,医療画像の読影業務は,各施設に勤務する画像診断医が担当するか,常勤の画像診断医がいない施設では,非常勤の画像診断医や画像診断医以外の臨床医が読影を行なうことで対処している。しかし,画像診断技術が発達するに従い,臨床医や1人の画像診断医がすべての臓器,モダリティに関して,十分な専門的知識を有し,最適な読影を実施することが難しくなってきている。
 そのような状況の中で,専門領域の異なる複数の画像診断医がネットワーク上にグループをつくり,グループで各施設の読影を実施するという「ネットワーク読影」体制が期待されている。これによって,地理的な制約を受けずに,専門家による正確な読影を実施することが可能になると考える。

画像データベース

 臨床的に価値のある医療画像を構築し,日常診療に活用しようとするプロジェクトが実施されている。それは,先進8か国(G8)の共同プロジェクトである「Global Healthcare Application」のサブプロジェクトの1つである「Medical Image Reference Center :MEDIREC」(URL=http://www.medirec.ncc.go.jp/)で,国立がんセンターにがんの画像レファレンスデータベースを,国立循環器病センターに,循環器疾患の画像レファレンスデータベースを構築する,というものである。
 また,国立がんセンターでは,このプロジェクトの一環として,国内向けのがん診療画像レファレンスデータベース「NCC-CIR」(URL=http://cir.ncc.go.jp)の構築を行なっている。MEDIREC/Cancer,NCC-CIRでは,専用DICOMビューアー(Medirec Viewer)をダウンロードして,DICOM画像をwindow値,拡大率等の表示条件を変更して観察できるほか,画像所見から画像を検索し,検索結果を画像で表示することができる(図)。この方式により,診療で診断に迷った際に,画像所見で検索し,鑑別診断に利用することが可能である。さらに,将来的には,画像を受け取り,類似画像を提示することを計画している。


図 がん診療画像レファレンスデータベースの画面
 関連疾患の病変画像を比較することが可能


コンピュータ支援画像診断CAD

 1998年,FDAよりマンモグラフィの診断支援装置が医療機器としての認可を受けたことで,CAD (Computer-Assisted Diag-nosis)が研究レベルから実用レベルに移行したと考えられる。この機器は,マンモグラフィの中の微小石灰化とspeculaを有する腫瘤陰影を検出し,読影医に提示するというもので,診断そのものを実施するものではなく,「検出支援」であるが,読影者の負担を軽減し,効率を上げるものである。国立がんセンターでは,徳島大工学部と共同で,胸部CTによる肺がん検診支援システムの開発を行なっている。これは,今後,微小病変や低濃度病変を検出することが困難である胸部単純撮影に代わって,肺ヘリカルCTを肺がん検診に利用する際に発生する撮影枚数の増加による読影医の負荷を軽減し,検出率を向上させることを目的としている。さらに,乳腺超音波や,CTコロノスコピーにおける病変検出などのCADの研究開発が進められており,さらに多くのモダリティや臓器に適応されると考えられる。

将来展望・方向性

 マルチスライスCTに代表される診断機器の発展により,従来に比べ格段に優れた時間分解能,空間分解能を有する画像検査が実施されるようになった。しかも,ルーチン検査や検診の場においても,精密検査同様の,高いクオリティの画像診断が可能となっている。しかし,この高いクオリティの画像診断を実践するためには,膨大な画像情報から読影を行なう必要があり,従来通りのフィルムによる読影での対応は困難であると考えられる。
 そこで,この情報量の増大に対応するために,モニタ診断を導入し作業の効率を向上させるとともに,動的にスライス面を移動しながら観察する,奥行きの短い冠状断画像で観察する等従来の診断法に代わる新たな手法の利用や,CADによる拾い上げ支援,ダブルチェックの導入が必要だろう。
 また,診断に苦慮する画像に遭遇した際には,ネットワークを利用して専門家にコンサルテーションをする,ネット上のレファレンスデータベースを参照する,患者情報と画像を統合的に解析し,鑑別診断を提示するCADシステムを活用するなどの対応が考えられる。
 以上のように,診断機器の高度化による情報量の増大,専門領域の細分化が進む画像診断において,高品質の画像診断を実践するためには,さまざまな情報技術を活用する必要があり,読影手段そのものが変わっていくものと思われる。