医学界新聞

 

「人によりそう看護」をテーマに

日本看護科学学会第4回国際学術集会開催


 日本看護科学学会第4回国際看護学術集会(4th International Nursing Research Conference)が,さる8月29-31日の3日間,前原澄子会長(三重県立看護大学長)のもと,三重県津市の三重県総合文化センターで開催された。
 国際学術集会は,第1回を1992年に東京(日本赤十字看護大学長 樋口康子会長)で開催以来,1995年に第2回学術集会を神戸市(兵庫県立看護大学長 南裕子会長),1998年には第3回学術集会を東京(大阪府立看護大学長 小島操子会長)と,3年ごとに開催。今回は,「人によりそう看護-21世紀に原点をみすえる」(A Holistic Approach:A Better Quality of Life for All-In Search of Core Principles for Nursing in the 21st Century)をメインテーマに掲げ,世界20か国から450名を超える参加者が津市に集った。


多彩な領域からなる演題発表

 今学術集会では,会長講演「人によりそう看護」(前原澄子氏)を基軸に,基調講演 I「Holistic Nursing and Caring」(米・コロラド大健康科学センター ジーン・ワトソン氏),同 II「A Holistic Approach:A Better Quality of Life for All-The Meaning of the Group or Region」(米・ウィスコンシン-マディソン大 バーバラ・ボワーズ氏),同 III「A Holistic Approach:A Better Quality of Life for All,on a Global Scale」(三重県立看護大 ダルニー・ルトゥコラカーン氏)をはじめ,駅伝シンポジウム I「Human & Human Relationship-Partnership with Dignity」,同 II「Nurses' Collaboration for Health Promotion in Cities & Rural Communities」,および最終プログラムとなったパネルディスカッション「A Holistic Approach:A Better Quality of Life for All-In Search of Core Principles for Nursing in the 21st Century」(写真)が一貫したテーマにより行なわれた。
 また,その他のプログラムとしては,ワークショップ2題,インフォメーションエクスチェンジ3題の他,市民公開講座「おばあちゃま,壊れちゃったの?」(フリーアナウンサー 生島ヒロシ氏)が企画された。なお一般演題は,地域看護,老人看護,家族看護,がん看護・緩和ケア,看護教育,女性の健康,など全30領域から口演・示説合わせて219題の発表が行なわれた。

「人によりそう看護」の意味

 前原氏は,開会式に引き続き,3日間にわたるメインテーマにそった基調講演・シンポジウムの基軸となる会長講演を行なった。その中で,「人によりそう看護」をメインテーマとした理由について,「21世紀の看護の原点を,人をみる原点である『よりそう』とした。日本語としては理解できても,学術的な言葉ではなく英訳も難しいが,看護実践においては重要となる『共感』とともに論議を深めたい」と述べた。なお,共感に関しては,(1)同一性,(2)結合,(3)反響,(4)離脱の4段階をあげ,氏が専門としている「母子関係」の視点から考察。「母親と子のかかわりは,共感を育む上でも重要となる」と指摘した。
 また,基調講演 I を行なったワトソン氏は,「ヒューマンケア」〔『ケアリングカリキュラム』や『ワトソン看護論-人間科学とヒューマンケア』(ともに医学書院)に詳しい〕理論家としても知られるが,東洋思想にも造詣が深く,「新しい世界観の中で看護を考えなければならない」,「肉体としての医学ではない広い観点からのエネルギーの世界」を提唱。それは「全人的なかかわりをしてきた,ナイチンゲールの心に還るもの」として,「看護に秘められた内なる力を引き出す」ことの必要性も説いた。

3日間にわたり討議されたこと

 駅伝シンポジウム I(司会=福島医大 中山洋子氏,兵庫県立看護大 山本あい子氏)には,前川厚子氏(名大),井上範江氏(佐賀医大),沼野尚美氏(六甲病院),Linda Peltier氏(カナダ・モントリオール大)の4名が登壇。前川氏はオストミーケアおよび管理について考察を深め,井上氏は「他者の尊厳を守り,自己実現のための援助をすることが看護職の役割」と述べた。病院チャプレンである沼野氏は,精神的にかかわる患者との触れ合いについて語り,Peltier氏は臓器移植と看護に関し,家族サポートの重要性を述べるとともに,「ドナーとレシピエントの狭間にいる看護職はより豊富な知識が必要」と述べた。
 また,駅伝シンポ II(司会=阪大 早川和生氏,新潟大 尾崎フサ子氏)には,Veckie A. Lambert氏(山口大),森口育子氏(兵庫県立看護大),Andi Annas氏(インドネシア・Academy of Makassar),余善愛氏(米・ミシガン大)が登壇。非開発地域における健康施策の問題や民族の概念化・ジェンダーの違い,またインドネシアにおけるプライマリヘルスケア,看護教育の実態などが報告された。
 最終プログラムとなったパネルディスカッション(司会=三重大 大西和子氏,三重県立看護大 早川雅資氏)には,前原会長をはじめ基調講演の演者3名に加え,駅伝シンポ II の司会を務めた尾崎氏が登壇。3日間のまとめとなる討論には,フロアの参加者も加わり,「人によりそう」ことの意味や,「Holistic」という言葉の持つ意味などが論議された。