医学界新聞

 

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米国外科レジデンシーへのストラテジー

十川 博(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校・外科レジデント)


はじめに

 私は卒後7年目の外科医で,本年7月からニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(State University of New York Stony Brook)で外科レジデント研修を始めることになった。外国人が米国の外科臨床研修(レジデンシー)に入るのは難しく,また具体的な方法論についての情報が皆無に等しいので,どのようにして外科レジデンシーに入り込むかというストラテジーについて述べたい。

米国の外科レジデンシーに入るのはなぜ難しいか?

 米国では1年間に外科レジデント(研修医)になれる人数が一定数に制限されている。少数の選ばれた人々に,より多くの手術をさせて,経験豊かな外科医を育てようという考えが背景にある。さらに収入も内科系の医師に較べて約2倍以上であり,外科医の満足度も高いことから,米国の医学生の間で人気があり,トップ15%に入っていないと外科医になることを断念せざる得ないという。つまり,米国の外科のプログラムは外国人なしでも優秀な人材を確保することができ,外国人に対する需要自体がないとも言える。したがって,外国医学部卒業生(以下FMG)が通常の外科レジデンシーに直接入るのは,現在ではほぼ不可能である。
 米国の外科のレジデンシーポジションは大きく2種類に分類される。「Preliminary」という麻酔科や泌尿器科や脳外科に行く前の,1年間あるいは2年間の外科初期研修のためのポジションと,「Categorical」と呼ばれる本来の5年間の外科のポジションである。前者に入るのは後者に入るよりもよほど簡単であり,多くのFMGは,Preliminaryで数年やった後,正規のCategoricalに編入するという方法をとる。
 しかし,Categoricalに移るためには,本人の努力もさることながら,運よくポジションに空きがでなくてはならない。つまり,Categoricalにいるレジデントが辞めたり,他のプログラムに移ったりしないとポジションは空かない。ただし,有名プログラムにこだわらなければ,案外,途中のポジションの空きはあるようである。リスキーではあるが,これがFMGにとって唯一の現実的な外科レジデンシーへの道である。

どうやってPGY-1(卒後1年目)のポジションを取得するか?

 ECFMG certificationは大前提として,以下の事項が重要になる。
(1)USMLEで高得点
(2)米国での臨床経験
(3)米国人医師の推薦状
(4)米国での研究経験
(5)本国での臨床経験
(6)Green Card
(7)英語がfluent
 これらが全部揃う必要はないが,(2)と(3)と(7)は非常に重要である。また(1)や(6)はあれば,かなり有利である。横須賀や沖縄の米海軍病院(U.S. Naval Hospital)でインターンをやっていると(2)と(3)と(7)の点で有利になる。また米国の大学病院で,エクスターンシップ(短期の臨床実習)をするのもよいであろう。(4)も研究している病院にコネができたり,大学病院のプログラムに入る際には有利になる。
 さて,前述したPGY-1(Post Graduate Year 1年目)のPreliminary positionには2種類あるのはあまり知られていないように思われる。Designated positionとNon-designated positionである。前者は2年目のposition(麻酔科や放射線科や泌尿器科など)が確保されている人のためのpositionであり,後者は2年目以降が保証されていない人のためのものである。多くのプログラムは前者を好み,後者をあまり採りたがらない。
 私の場合はストレートに後者で押していったのだが,振り返ってみると前者のポジションを探して,つまり1年目のpreliminaryと2年目の,例えば麻酔科(現在は比較的ポジション取得は容易である)のポジションを確保しておいて,途中で気が変わったと言って,外科Categoricalの2年目に移ればよいのではないかと思う。そのほうがよっぽど簡単にポジションを得ることができる。ただし,その場合は契約を破棄することになり,面倒が起こる可能性はある。
 ERAS(The Electronic Residency Application Service)というシステムを通じて,アプリケーションを各プログラムに提出し,10月から1月にかけて面接に招かれることになる。面接は事前に予想質問と回答を用意し,Native Speakerに目を通してもらって万全の体制で挑む。どのプログラムでも訊かれることは大体同じなので,何回か経験すれば,だいたい慣れてくる。面接の後で,候補者が有望だとその旨の手紙が送られてくることが多い。
 そしてNRMP(National Resident Matching Program)のマッチングリストに希望するプログラムの名前を載せ,順位をつける。
 やがて,3月のマッチデー(Match Day)となる。マッチとは言わば,プログラムサイドと応募者のコンピュータ上でのお見合いシステムである。双方が相手方に順位をつけて,上から順にポストが決まっていく。当然マッチすれば,それでポジションは確定で,そうでなければ,ポストマッチスクランブル(マッチしなかった人たちが,一斉に残ったポジションを求めてあちこちのプログラムへ電話をかけまくるのでそう呼ばれる)に突入せざる得ない。

ポストマッチスクランブルの対策

 私は昨年はペンシルバニア州立大学外科にマッチしたが,ビザ変更ができなかったせいでポジションを失った。本年はマッチしなかったが,ポストマッチで好運にもポジションを得ることができた。いわゆるマッチデーよりも数日前に,すべての応募者にマッチしたか,しなかったかという情報が知らされる。そしてその翌日ぐらいにUnfilledの(空席のある)プログラムの情報が公表される。この時より,マッチデーまでがポストマッチスクランブルと呼ばれる。Unfilled positionが公表されてから数時間でかなりのポストは埋まってしまう。だいたいは電話インタビューで決まってしまうが,インタビューに翌日に来いという場合もある。
 ポストマッチスクランブルの最初の数時間にたくさんのアプリケーションを送るのは難しい。だから私は,Unfilled positionが公表される日の数日前に届くように,カリフォルニアと軍関係を除く全米,約220の外科のプログラムにPersonal statementや推薦状などを含めた数10頁にわたるアプリケーションを郵送しておいた。ストレスの多いポストマッチスクランブルの末,最終的に3つのプログラムでいい線まで行き,2つからポジションをオファーされて,現在のプログラムに決まった。後で聞いたことだが,研究留学先のマサチューセッツ総合病院(MGH)で,推薦状を書いてもらった移植外科のCosimi教授のところには,ポストマッチの時に私のことを尋ねる電話がたくさんかかってきたという。Cosimi教授が最後のプッシュをしてくださり,そのような意味でもハーバード/MGH(MGHはハーバード大学医学部の教育病院)で研究をしていたことが,かなりよい方向に働いた。

ビザの問題について

 ここで,注意すべきは,研究から臨床にというのは常にビザの問題が関わってくる点である。Research J-1 visaからClinical J-1 visaへの変更は,通常12か月の空き期間が要求され,例外規定もあるが直接の変更はまず不可能である。実際にそのために苦い思いをして,1年を棒に振ることになってしまった。そして今年はJ-1なしの12か月を経て,ビザの問題を解決した。
 ちなみにGreen Cardを持っていない場合,J-1ビザとH-1Bビザを取得するという選択肢があるのだが,後者をサポートするプログラムは少ないので注意しておいたほうがよい。もしも抽選などでGreen Cardが手に入るのであれば,採用される際に,それは非常に大きなプラスになる。プログラム側にとって,ビザの問題は非常に大きく,プログラムはGreen Card保持者を優先する。実際,私がストーニーブルックで出会ったFMGレジデントたちは,ほとんど皆が,Green Card保持者か,米国市民であった。
 以上が,米国外科レジデンシーに入るために私が用いた方法である。私の次の課題はCategoricalの2年目のポジションを取得することにある。現在,米国でFMGが外科医になるのは非常に困難である。しかしながら,決して不可能ではないので,我こそは,と思う人にはぜひがんばっていただきたい。

MGHのCosimi教授と筆者(右)
<著者略歴>95年滋賀医科大学卒業後,在沖縄米海軍病院,東京女子医大消化器病センター外科にて研修。99年よりマサチューセッツ総合病院(ハーバード大学医学部)移植外科でリサーチフェロー。現在,ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校にて外科レジデント研修中