医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床面接のアートの真髄が開陳された好書

臨床面接技法 患者との出会いの技
J. Andrew Billings, John D. Stroeckle 著
日野原重明,福井次矢 監訳/大西基喜 訳者代表

《書 評》阿部正和(慈恵医大名誉教授)

 臨床医学の入門は診断学であり,診断学の入口は患者への面接である。ことほどさように,面接は医師が医師としての業を適切有効に発揮するために重要なことである。高度な医療技術が展開されている現在ではあっても,面接というテーマは,医師が存在理由を明らかにするためにも,いかに重要であるかは,本書を読めばよく理解できるであろう。
 学生時代および戦後の慌ただしい時代に,私が学んだ内科診断学の教科書では,「面接」とは言わずに「問診」という項目が巻頭に設けられていた。そして,その項目に割かれている頁数は,ごくわずかなものであった。近年になって,ようやく面接の重要性が叫ばれるようになり,面接を表題とする参考書も数多く刊行されるに至った。その中で,私が最近のヒットと思ったものに,2000年8月刊行の『はじめての医療面接-コミュニケーション技法とその学び方』(斎藤清二著,医学書院)がある。この書は,あくまで「患者の観点」に立って,どういう会話のやりとりが適切か,どういう態度が医師患者関係を良好に保つのに必要か,という点に力点が置かれている,すばらしい本である。

医療は医師と患者の共同作業

 ここに紹介する『臨床面接技法-患者との出会いの技(The Clinical Encounter-A Guide to the Medical Interview and Case Presentation)』は,前述の書よりもさらに上をいく好著と断言して憚らない。本書に一貫して流れている精神は,「医療は医師と患者との共同作業である」という私の日頃の主張とまったくよく合致するものであるので,私は心嬉しく思ったのである。
 本書は,StroeckleおよびBillings両先生の共著で,ハーバード大学医学部において,かなり以前から実施している自己学習方法(New Pathway)にのっとって作られたカリキュラムの内容が主なものである。
 内科医のみならず,各科の臨床家,さらに医学以外の分野の専門家の意見まで幅広く取り入れられている点も大きな特色である。患者との出会いから始まって,患者の意思も十分に反映させた上で行なわれる診断のあるべき姿を,豊富な会話例を含めて解説した実践的な書と言える。

言葉こそ医療の始まりであり,終りでもある

 本書は2部構成になっている。その第1部は入門篇であり,全巻268頁のうち,その1/3の頁数を占めている。とりあえずは,この第1部だけでも読むことをお勧めしたい。第2部は応用篇であり,ここでは面接技法を,いろいろな場面でどのように発揮したらよいかを,きわめて具体的に,実際の症例を提示しながら解説している。学生のみならず,一般医家の方々にも大いに役立つ内容となっている。
 また,各章の冒頭に掲げられている名医および有識者の方々の箴言も私たちの心に強く響くものがある。頭の中にとどめておくべき至宝と言ってよいだろう。
 平凡で,陳腐のように思われるかもしれないが,言葉こそが医療の始まりであり,また医療の終わりでもある。言葉と行動の如何が,診療そのものの成否を左右するといっても過言ではない。このことは,本書を読めば,まことによく理解できるのである。

行間に患者への愛情

 いずれにせよ,本書では,医師の言葉や行動こそが,臨床的実践の中でいかに重要であるかが力説されており,臨床面接のアートの真髄が述べられていると言えよう。
 私自身は,医学教科書の翻訳ものはあまり好きではない。それは,読んでも文章の意味がよくわからないで隔靴掻痒の感を覚えることをしばしば経験するからである。しかし本書は,その内容の1行1行が頭の中にそのままスーッと入ってくるのである。尊敬する日野原重明先生と,臨床医として現在最も光り輝いている福井次矢先生のお二方の監訳のなせる業だからであろうか。心から敬服する次第である。
 本書は,臨床面接入門のテキストとはいえ,きわめて洗練された文章に満ち満ちているばかりでなく,行間に患者への愛情が込められていることに,私は深い感銘を覚えた。
 学生のみならずベテランの医師の方々にも,格好の参考書として役立つ,近年稀にみる内容と言えよう。
B5・頁268 定価(本体3,400円+税) 医学書院


がん告知の方法論を診療経験豊かな臨床医が展開

がん告知
患者の尊厳と医師の義務

竜 崇正,寺本龍生 編集

《書 評》武田文和(埼玉医大客員教授・埼玉県健康づくり事業団総合健診監)

豊富ながん告知の実践と対応例

 本書は,1968(昭和43)年医学部卒業の臨床医が中心になって書かれたユニークな本である。学園紛争の最中に卒業を迎えた私の周囲にいた彼らの仲間の多くが,当時の学園紛争を冷静に見つめ,新しい未来に期待をかけ力を貯えようとの意気込みで医師としてのスタートを切ったと記憶している。その後,多くの経験を積み,今やがん患者の診療を担う主力臨床医に成長した著者らの手によってまとめられた本書は,たのもしい限りである。
 本書は,患者の人権を守るために行なうがん告知のガイドライン,告知の実際と問題点,分担執筆者それぞれの専門分野からがん患者に病名や病状を伝えるために留意すべき点を具体的に論じ,しばしば遭遇した困難なケースについても考察している。本書を読んだ書評者自身は,「がん患者と真実を語り合うこと」の実現に向けて,埼玉県立がんセンターで全職員とともに進めた15年間の努力の経緯の中の1つひとつを想起し,同感する点が多かった。

がんであることを患者に伝える目的

 がんであることを患者に伝える目的は,「伝えること」にあるのではない。本書が述べているように,伝えられて落ち込み,悩む患者の心の動揺を受け止め,患者のペースに合わせて一緒に歩み,そのプロセスの中で患者が自分に適した治療を選択していけるように導くことが目的である。真実を隠すことは患者の人権を尊重していないことであり,そのような関係の中で患者との信頼関係を築くことは難しいのである。そう考えて著者たちは「がん告知」を推進し,さまざまな問題に遭遇することになった。がん告知を実践する時には避けて通れないこれらの問題と,その解決への模索が自らの経験から述べられており,読者が持っているであろう,がん告知後に起こる出来事への不安を軽減し,その対応への力を与えてくれるに違いない。患者に真実を伝えていない医師には特にお読みいただきたい1冊である。
 本書が示す「がん告知原則論」は,(1)責任逃れのためではなく,患者の人権尊重を目的とする,(2)患者の状況を踏まえて段階を踏んで進めるが,なるべく早い時期に話し始める,(3)できれば家族同席と看護婦の同席も得て患者に直接,顔を合わせて話し,患者の本音に留意する,(4)プライバシーが守れる場所で,(5)その後のケアの良否が成否の鍵,(6)病名と予後とは分けて考える,などである。
 法律家の立場から過去の判例が紹介され,精神科医の立場から患者の心理的変調の経過と対応のあり方が示され,病期別の考察,小児患者における考察,家族の問題,チームワークの重要性も述べられている。自験事例が豊富に示され,各主治医の反省点も率直である。
 この話題についての考え方は日進月歩であり,さらに発展させる余地が大きいわが国の現状から,近い将来,さらなる進歩に根ざして続編を執筆してほしいと願っている。その時,暗い印象を世間に与える「がん告知」のタイトルは使わないほうがよいと思う。がんの場合のみ「告知」と呼ぶのは,やがて時代遅れになると考えるからである。
A5・頁216 定価(本体3,500円+税) 医学書院


初版以来の出版思想を守り,時代に応じて改訂第8版

標準眼科学 第8版
大野重昭,澤 充,木下 茂 編集

《書 評》湖崎 克(湖崎眼科)

 本来,「教科書」というものは,進歩し続ける学問の中で,定説となり議論の余地のないものを,学生諸君に提供するべきものと私は承知している。
 このことは簡単なようで,意外と難しく,up-dateな学問の中に身を置くと,教科書のあるべき姿を見失いそうになるものである。

「教科書」のあるべき姿を順守

 今回『標準眼科学』第8版が出版された。初版以来の出版思想は十分に守られており,続いて時代に応じた改訂がなされ,今回の第8版に至っている。ことにこの第8版は,新たに書き換えたり,手直しをされた改訂が多く,価値のある新しい版として評価できるものである。なおかつ先に述べたごとく「教科書」のあるべき姿があり,医学生諸君に本書で大いに眼科学の知識を獲得し,眼科学に興味を持っていただきたいと願っている。私も本書で最新の,しかも標準的な眼科学を改めて勉強するつもりである。
B5・頁324 定価(本体6,800円+税) 医学書院


「画像診断の鉄人」たちによる消化管診断

フィルムリーディング・シリーズ(全10冊)
5 消化管
 齋田幸久 編集

《書 評》岡崎正敏(福岡大教授・放射線医学)

 玉書『フィルムリーディング』も好評のうちに,第5巻の『消化管』が刊行される運びとなった。消化管の診断学は,二重造影法に代表される手法を用いて日本が世界をリードする診断学である。本診断学は,点と点,線と線,面と面を画像と肉眼所見および病理所見を最も厳密に対比し得た診断学である。すなわち,消化管診断学は,本邦から30年以上前に発信された今はやりのroentogeno-pathological correlationの原点とも言えるものである。

画像診断の基本哲学

 編集者の齋田幸久先生は,いわゆるgeneral radiologistとして「画像診断の鉄人」の称号を有する方である。実は,編集者が最も好きな画像診断は,消化管診断であるということはあまり知られていないと思う。10数年前,編集者に「画像診断の基本は,前述の点と点,線と線を読む消化管診断学だと思うが,どう思うか」と質問されたことがある。編集者が最先端の機器を用いた診断学に精通している人だけに,意外な一面を垣間見た気もしたが,「私もそう思う」と答えたのが懐かしい記憶としてよみがえってくる。その後,消化管診断のスタンスを他の分野にも応用し,彼の診断学がなりたっていることが編集者の刊行物から理解できるようになった。本書は,編集者のこの思い入れが随所に盛り込まれた名書と言える。すなわち,従来の粘膜面を主にした診断学に加え粘膜外,管腔外の情報も加味した消化管診断学を念頭に置いた書物である。
 編集者が適材適所に彼の考え方を理解してくださる全国津々浦々の先生方を選択し,非常に的確でわかりやすく解説されている。読み始めると引きずり込まれる感があり,「止められない,止まらない」の小冊子である。消化管診断学を志す人のみならず,他の臓器の診断に従事なさっている方にもお勧めしたい玉書である。
B5・頁184 定価(本体6,500円+税) 医学書院


30年続いた名著,小児医療関係者必読の書

ヒトの成長と発達
David Sinclair, Peter Dangerfield 著/山口規容子,早川 浩 訳

《書 評》小林 登(国立小児病院名誉院長,東大名誉教授)

 Sinclair教授のこの本を,同門の山口規容子さんと早川浩君が立派に翻訳して出版したことは,まことに嬉しい。本書を愛読した者として心からお祝いしたい。本書は,「子どもが育つ」ということを,単に医学的にまとめただけでなく,生物学的基盤の上にある社会文化とのかかわりまでを総括的に整理したものであり,30年も続いた名著だからである。まさに「成長・発達のヒューマン・サイエンス(人間科学)」と言うことができよう。

ヒューマン・サイエンスの流れに沿う内容

 ここで言うヒューマン・サイエンスとは,文化を持つ人間を生物学的存在としてだけでなく,社会的存在としてもとらえる,最近はやりの「文理融合の科学」に通ずる学問という意味である。それは,ダーウィンから始まるイギリスで育った考え方でもあり,本書全体にその思想が流れている。
 私がこの本を読んだのは20年以上も前のことで,Sinclair教授が1人で書かれた1978年版の本である。その本はロンドンのUniversity Collegeの側にある,留学当時から行きつけた医書屋で買い求めた。パリの国際小児科学会の理事会に出席した折,イギリスに立ち寄った時のことである。
 本書では,細胞レベル,組織・臓器レベルから始まって,個体レベルまで広く成長・発達をとらえ,それに影響する遺伝因子,ホルモン因子,そして社会・文化までも含めた環境因子を整理して論じている。
 第1章の「成長の本質」は成長の細胞学が中心で,成長の生物学的な意義を教えている。私が読んだ時にも,それまで誰も教えてくれなかったことについて沢山学び,大変勉強になったことを今も思い出す。
 さらに後の章では,組織や臓器が損傷した場合の修復のプロセスを成長・発達との関係で論じ,日常生活や医療現場で問題になる成長障害の臨床もわかりやすく整理している。癌や老化の問題は生物学的に見れば確かに成長・発達と関係しているが,それについても本書では理論的に論じられていて参考になる。癌は細胞レベルの成長の乱れであり,老化は成長の停止なのである。
 また,本書の中にある図や表,さらに写真は,ヒトの成長・発達の理解を深めるのに役立っている。特にイギリス人なら1度は聞いたことのある話の人物や事例の写真は,読者にとっても強い興味を呼び起こすに違いない。
 本書は,子どもに関心を持つ者ならば誰でも,1度は読んでもらいたい本である。特に医学・看護学などを中心とする小児医療の関係者にとっては,必読の本でもある。私が大学で教えていた頃は,学生たちにも読むことを勧めた1冊であったが,英語だったので敬遠された。幸い,日本語に翻訳されたので,多くの学生にも読まれることを希望する。卒後,いかなる分野に入っても,役に立つ知識ばかりでなく,医学の考え方も学べるからである。
A5・頁296 定価(本体3,800円+税) MEDSi