医学界新聞

 

第33回日本医学教育学会の話題から


●ワークショップ「EBM実践コース」

EBMの正しい理解のために

 第33回日本医学教育学会(19面に関連記事)では,会期中に2回のワークショップ「Evidence-Based Medicine(EBM)実践コース」が開催された。「EBM」という言葉はすでに医療界に浸透しているが,その一方で,EBMを正しく理解し,実践している人は必ずしも多くはないと言われている。本ワークショップでは,ニューヨークのベスイスラエル病院で臨床研修を行ない,現在は日本でEBMの実践・教育をしている能登洋氏(東大)をコーディネーターに迎え,EBMについての講義と具体的なシナリオを用いた小グループ形式での演習が行なわれた。
 はじめにEBMの解説を行なった能登氏は,「従来,検査や治療の方針を決定する際の根拠は,教科書的な病態生理学か,個人の経験であったが,それでは臨床問題の解決に限界がある」と指摘。効果的かつ安全な医療の提供のために,EBMという「信頼性の高い臨床スタディの結果を適用する方法」が必要だとした。また,「的確な臨床判断を下すためには臨床診断学の能力が不可欠であり,その基盤となる臨床経験なしにはEBMを実践することはできない。EBMは医師の経験との統合的医療であり,今までの医療を否定するものではない」と,誤解されがちなEBMの考え方をわかりやすく解説した。

患者に始まり患者に終わる

 能登氏はEBMの医学教育上の意義として,
(1)基本的な臨床能力である臨床診断学やコミュニケーション能力,さらにインフォームドコンセントを重視する
(2)常に自分から臨床問題を探求し,それを解決していこうとする問題解決型の志向を培う
の2点をあげ,「EBMは患者に始まり,患者に終わる。最終的に患者中心の医療をめざすものだ」と強調した。
 小グループに分かれて行なわれたEBMの演習では,能登氏,武田裕子氏(琉球大)と松村真司氏(松村医院)の3人がテューターを務め,「高コレステロール血症の治療意義」について,具体的なシナリオを用いて,参加者自身がEBMの手順を体験し,その理解を深めるという貴重な場となった。なお,本ワークショップの最後には,EBM実践のためのツールとして欧米で普及しつつある「UpToDate」の開発者であるバートン・ローズ氏(ハーバード大)らによる「UpToDate」活用の実演も行なわれた。

 


●講演「ファカルティ・デベロップメント」

 学会初日に行なわれた特別講演Ⅰ「Faculty Development:Preparing for Change in Medical Education」では,医学教育学の第一人者として知られるLuAnn Wilkerson氏(UCLA)が米国における医学教育改革の動向と戦略を紹介した。

改革の中でニーズ高まるFD

 Wilkerson氏は医学教育の新しい動きとして「PBL(問題解決型学習)」,「SP(模擬患者)の活用」,「Webと携帯情報端末の活用」,「コンピュータ・シミュレーション」,「外来ローテーション」,「変容する教育内容(老年医学,EBM,ゲノミクス,栄養学)」などを示し,それに伴い,「ファカルティ・デベロップメント(教育者の教育,以下FDと略)のニーズが高まっている」と指摘。FDを推進するためには,(1)教員をサポートするための制度とスタッフを整えること,(2)教育上のニーズに応えるようなFDのための資源,(3)教育業績を評価するシステム,これら3点が不可欠との考えを示した。