医学界新聞

 

【学会長インタビュー】

救急看護の連携・協働の成果に向けて

第3回日本救急看護学会学術集会長

中村恵子氏(青森県立保健大・健康科学部長)に聞く


 日本救急医学会の看護部会を発展解消し,救急看護学の構築をめざす「日本救急看護学会」が発足して4年目を迎える。同学会の学術集会は,1999年11月に第1回を大阪・吹田市で,昨年は鹿児島市で第2回を開催した。本紙では,本年10月19-20日に青森市で開催される第3回学術集会長の中村恵子氏(青森県立保健大)に,救急看護の専門性や災害看護と救急看護の協働などについて話をうかがった。


■救急医学会・看護部会から看護学会へ

「成熟時期」との判断が契機に

中村 1998年11月に,日本救急医学会看護部会は,これまでの看護部会を発展解消し,「日本救急看護学会」を創設すると表明しました。救急医療の分野は,他の分野以上に医師とナースの協働が求められる臨床の場ですから,学会の運営も合同で取り組んでいました。ただ,医師は「よりアカデミック」な学会をめざし,看護もいつまでも医師の助けを借りるのではなく,「看護の専門性の追究」や「救急看護領域の専門看護婦の育成」をめざそうという,ある意味で成熟時期になっていたことが契機となり,それまでの看護部会を独立させて,看護職による学会立ち上げとなったのだと思います。
 また同じ時期に,従来の日本救急医学会の協力会員を含めた救急医療人のための「日本臨床救急医学会」を設立するとの方向性が示され,医師・看護職・救急隊員が三位一体の活動をするという同学会の趣旨に賛同し,ともに活動をしていこうとの方針を立てました。ここは,分け隔てをなくし,すべてが正会員で,三者が同じテーブルについて,それぞれの専門領域から理事や委員を出すという組織です。

災害看護と救急看護

中村 日本救急看護学会の立ち上げと同じ時期に,日本災害看護学会(理事長=兵庫県立看護大学長 南裕子氏)が設立されました。日本災害看護学会は,1995年の「阪神淡路大震災」を教訓として誕生した学会ですが,同学会との接点や連携なども考えていく必要がありますね。
 私は,災害後の72時間は救急看護活動の領域だと考えています。毎年開催されます日本救急看護学会学術集会では,何らかのかたちで災害看護の領域の方にも企画に加わっていただいています。今回は交流集会の場で,「災害救急時のシミュレーション」のセッションを企画しました。これは,災害時のある場面をシミュレーションとしてを組み立て,それをもとに参加者間で意見交換をしようというものです。
 災害看護というのは,かなり長いスパンで物事を考えているのだろうと思うのですが,災害発生から72時間経過までのケアというのは,救急看護が担う時期だと思っています。つまり,トリアージをはじめとする災害救急期のケアのうち,このトリアージは医師でも,看護職でもどちらが行なってもよいのです。
 災害は,いつ,どこで起こるかわかりません。現場では圧倒的に看護婦の数のほうが多いわけです。ですから,特に災害救急期にあってトリアージができるナースの育成が重要となってきます。そこは,救急のほうが主となって行なえる場面ではないかとも思っています。両学会がそれぞれに乗り入れも考慮し,協調しながら学会運営や活動を考えてもよいのかもしれませんね。
 また,救急看護は災害の大きさとは関係なく,日常的に救急患者へのケアを行ないます。1人であっても集団であっても,その急性期症状に対するケアの実践や,教育,訓練を行なっていくことだと思います。

プレホスピタルケアでの重要性

中村 それから,救急看護領域でこれからさらに必要とされるだろうと思うのは,プレホスピタルケアです。今は,救急ナースの大半が施設の中で看護をしていますが,救急看護の現場は施設の中だけとは限りません。病院到着以前に,救急ナースの役割としてどのように活躍できる場があるのか,そこで何をしなければならないのかということについて,もう少し拡大して(例えばナースプラクティショナーなど)考えていく必要があると思っています。
 そこで,今学会ではパネルディスカッションに「プレホスピタルケアにおける連携」を取りあげます。ここでは,プレホスピタルケアに関して住民運動にも参加している看護職,救急救命士,大学での救急救命士の教育をはじめプレホスピタルに関してさまざまな場で活動している医師,そして厚生労働省の方に登壇いただき,「プレホスピタルケアと看護の接点」についてディスカッションしてもらおうと思っています。

■新しい企画を満載のプログラム

医・看護学会の両巨頭による対論

中村 今学会のメインテーマは,「21世紀に躍動する救急看護-救急看護の連携・協働の成果に向けて」としました。これからますます重要とされる,看護場面の「連携・協働」を焦点としました。連携・協働というのは,誰もが口にしながら,なかなかその成果が見えてこないものでもあります。そこで,学会全体の流れとして,「連携・協働」をキーワードに,教育講演や交流集会などの企画を組み立てました。例えば,シンポジウム「救急看護の連携・協働の成果を探る」では,教育場面やナース間,他職種などとディスカッションをしていただいて,その成果を探ってもらいます。
 それからもう1つの企画としては,高橋章子氏(日本救急看護学会理事長)と,島崎修次氏(日本救急医学会理事長)による対論があります。1時間枠の設定ですが,両学会の本音を聞くべく,お2人に登壇していただき,特に救急ナースの教育,救急医教育という面からいろいろな話をしていただこうという,今までにない企画ですので期待いただきたいと思います。
 医学教育も臨床研修の必修化から,救急医療での研修は必須となります。島崎先生からは,なぜそうなったのかについてを。また高橋先生からは,救急看護は「看護の原点である」と言われているのですが,一般ナースへ向け,救急看護の知識や技術の必要性について,救急看護を専門とする人たちに何を求めていくのかというようなことを含めて,この対論では話し合っていただこうと考えています。

初期・2次救急にもスポットあてて

中村 「日本救急看護学会」は,施設のナースから「救命救急センターを中心とした3次救急だけの学会なのか」という質問を受けますが,決してそうではありません。救急医療を担っている実践のすべての場が,救急看護の場だと私は思っていますし,救急看護学は高度先進医療だけではなく,いわゆる初期,2次救急の分野でも発展させるべきものと考えています。したがって学会としても,初期診療にあたる方たちにも参加を呼びかけています。
 確かに3次救急の人たちが抱えている問題とは多少違うかもしれませんが,初期・2次救急の方たちもさまざまに問題や課題を抱えています。そこで,今学会では,それらの方々が一堂に会し話し合う中から,少しでも解決の糸口が見つかればと交流集会を企画しました。私はたくさんの人にご参加いただき,特に初期・2次救急におけるナース教育や看護記録に関してもディスカッションできればよいと思っています。こういった交流集会を設定するのは今回が初めてです。
 また,昨年催して好評でしたオープンセミナーも企画しました。今回は「フィジカルアセスメントとトリアージ」をテーマに,救急看護認定看護師の活動の場として,学術集会に続いて機会を提供します。
 さらに,ワークショップでは,医師にも注目されています「ACLS:新しい救急蘇生法」について,その考え方から実践までを,朝から夕方までの時間を通してプログラムを組んでみました。これは事前登録をする必要がありますが,特に救急に携わる看護職にはマスターしてほしい技術だと思っています。
 その他にも,教育講演では新しい話題を取りあげています。盛りだくさんの企画ではありますが,どうぞご参加いただき,これからの救急看護の発展に役立てていってほしいと願ってやみません。

第3回日本救急看護学会プログラム

【学会長】中村恵子(青森県立保健大)
【メインテーマ】21世紀に躍動する救急看護-救急看護の連携・協働の成果に向けて
【開催日】10月19-20日
【会場】青森市・青森市文化会館
【プログラム】
◆会長講演:救急看護の連携・協働のストラテジー(中村恵子)
◆教育講演:(1)移植コーディネータの役割とナースの連携(日本臓器移植ネットワーク 河野優子),(2)地域救急医療とヘリコプター救急(弘前大 滝口雅博),(3)SIRSの新しい知識(岩手医大 遠藤重厚),(4)救急医療とヒューマンエラー(常磐大大学院 上見孝司)
◆招聘講演:アメリカの医療と高齢者救急(ビバリーエンタープライズ スーディ・K・和代)
◆対論:救急医の教育と救急ナースの教育-基礎教育から臨床教育まで(日本救急看護学会理事長 高橋章子,日本救急医学会理事長 島崎修次)
◆シンポジウム:救急看護の連携・協働の成果を探る
◆パネルディスカッション:プレホスピタルケアの連携
◆ワークショップ:新しい救急蘇生法の考え方と実際(コーディネーター=ACLS研究会 田中行夫)
◆交流集会:(1)初期・2次救急看護婦の卒後教育,(2)救急処置室の看護記録,(3)災害救急時のシミュレーション,(4)吸引と感染防止
※他に,認定看護師による公開セミナー「フィジカルアセスメントとトリアージ」を企画している
◆連絡先:〒030-8505 青森市浜館字間瀬58-1 青森県立保健大学内 第3回日本救急看護学会事務局
 TEL(017)765-2058/FAX(017)765-2059
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