医学界新聞

 

【特別インタビュー】

インターネットによる看護学博士課程を開講

米・ウィスコンシン大ミルウォーキー校の試み

Sally Lundeen氏(ウィスコンシン大学看護学部長)に聞く


 先ごろ,米・ウィスコンシン大ミルウォーキー校のSally Lundeen氏(同大看護学部長)とMary E. Wierenga氏(同副学部長)が来日し,弊社を訪れた。両氏は,同大が明年から開講する,インターネットによる看護学博士課程の宣伝を兼ね,アジア諸国を訪問中であったが,キャンパスでの通学課程と同様に,インターネットを通して博士課程を修得できるという,興味ある話をうかがうことができた。本号では,この新しいプログラムについて,両氏の話をLundeen氏によるものとしてまとめ,報告する。

 


●2002年1月に,15名程度で開講

キャンパスでの博士課程と質は同じ

Lundeen ウィスコンシン大学ミルウォーキー校(UWM)では,インターネットによる看護の博士課程のプログラムを2002年1月から提供することにしました。紹介する博士課程は,現在キャンパスで行なわれている博士課程とまったく質を同じくするもので,教授陣も一緒で,入学基準も同じガイドラインを使います。実際に,私どもの博士課程には海外からの学生が大勢いますが,博士課程を修了するには3-4年の間自国を離れ,アメリカに住まなければなりません。ホームシックや経済的な問題もあり,大変な思いをしているのが実情です。
 私どもは,オンラインによって世界中の学生に質の高い,便利で柔軟な教育プログラムを提供しているGUA(Global University Alliance)という組織に加盟しています。GUAには,オーストラリア,アメリカ,カナダ,イギリス,デンマーク,オランダなどから10-12大学が参加しています。しかし,これまで看護に関するプログラムはなく,私どもの大学が,今回初めて取り組むことになりました。
 このインターネットによる博士課程は,現在のところ約15名の入学者を予定しています。ただ,アジアや北米からの問合せもかなりありますし,できるだけ多くの人たちに参加していただきたいと考えていますので,入学者の数はもっと増えるかもしれません。また,もう1つの利点として,カリキュラムも入学基準もキャンパスの学生とまったく同じですから,キャンパスで学ぼうと考えが変わった時には,容易に変更することもできます。
 オンラインで博士課程を取りますと,学生は博士論文を自分の国で書くことができます。アメリカで博士課程に在籍している人の中には,自国に帰って博士論文を書く人もいますが,やはりアメリカのデータを使い,アメリカのことについて論文を書く人が多いのです。そうしますと,その論文は自国に戻った時に,必ずしも適用できるものとはなりません。その点で,自分の国のデータや土壤を基本に博士論文が書けるというのは非常に大きなメリットがあると思っています。そのために,博士論文を審査する5人の委員の中には,必ず自国の人を1人は入れることを考えています。

既存にない新しいプログラム

―― アメリカの看護学博士課程もそうですが,他の学部でインターネットを使い博士課程が取得できるコースというものはあるのでしょうか。
Lundeen 看護学博士課程でインターネットを使った授業は非常に増えていますが,ある部分のコースだけを行なうものであり,インターネットだけで学位が取れるものはありません。UWMでは,学士・修士・博士どのコースも部分的にはインターネットを使っていますが,それはクラスルームでの授業にプラスアルファしたものです。その意味で,このプログラムは既存にない,まったく新しいものです。
 他の学部では,例えば教育や経営学,それから図書館学やエンジニアの領域では,インターネットだけで学位の取れるコースが増えてきています。

●留学することなく自国で学べるメリット

自分の興味を明らかにすることから

―― 日本では専門分野ごとに博士号の修得があるわけですが,UWMではどのような専門分野を用意されているのでしょう。
Lundeen アメリカでは,日本のように精神看護学,地域看護学というような専門分野を用意しません。まず,個人の興味を明らかにして,それに沿って授業を取るようにしています。選択科目同様で,もし自分が精神看護を専門にしたいと思うのなら,その領域の教授と一緒に勉強していくことが多くなりますが,それに関連した施策はどうか,理論はどうか,他の学問では精神の領域がどのように研究されているかというように広がっていきます。ですから,もともと専門領域が準備されていて,そこを選ぶということではなくて,個人が自分のやりたいことを明らかにしていくというのが一般的です。
 実際にインターネットを使ってのコースでは,教師,あるいは他の学生と1対1でのEメールの交換もできますし,チャットでの意見交換も可能です。また,資料や文献などはすべて家でダウンロードが可能ですので,プリントアウトしてみることもできます。また,CD-ROMを利用しますと教師の声を聞くことができますし,姿をみることもできますので,交流もしやすいだろうと考えています。

教育における質の保証

―― キャンパスで常に指導する先生がいる状況と,インターネットによる指導では,やはり質的な維持が難しいと思われるのですが,そのためにどのようなことを考えておられますか。
Lundeen GUAにはテクノロジーのスペシャリストがおり,彼らが教授方略についてのシステムを開発しています。教育プログラムのデザインは教師がしますが,それを助けるスペシャリストは,GUAという組織であり,私どもの大学にも既にスペシャリストがいますので,それらの人たちの助けを借ります。また,アメリカの教員は「オフィスアワー」といって,学生に「いつでも来ていいですよ」という時間を必ず持っています。それをインターネット上でどうやって設定するかということについても,アドバイスを受けています。さらに,始める前にどのくらいのペースで,どのくらいの交流を持てればよいのかということについても,事前に担当教員と十分話ができるよう,考えています。

入学の条件と費用

―― インターネットを使うことのメリットは多くあると思いますが,コストも重要な要素かと思います。どれくらいの費用がかかるのでしょう。
Lundeen 1単位が600ドルで,キャンパスに通うのに比べて安いということはないのですが,リーズナブルではあると思います。また,修得単位は48単位です。入学時のTOEFLは550点が必要となります。私たちは日本の学生さんに,インターネットのプログラムだけでなくキャンパスのプログラムにもぜひ参加してほしいと思っています。また,ビジティング・プロフェッサーとして日本人の先生をお迎えしたいとも思っています。北米からももちろんですが,さまざまな国の人を受け入れることでプログラムが豊かなものになっていくと考えているからです。
 面接については,電話で話したりということはありますが,必ず面接を受けなければいけないということにはしていません。最も大切なのは,その学生が研究したいと思うことについて,よい教員がいるか,マッチするか,やりたいことが本当にできるのかという点だと思います。
 インターネットのコースならば,家族を国に置いてきたり,仕事を辞めて渡米するということをしなくてもよいので,それは最大のメリットだと思っています。ホームページ,Eメールにいつでもアクセスしてください。

●ウィスコンシン大学ミルウォーキー校看護学部

 ウィスコンシン大学ミルウォーキー校は,米・ウィスコンシン州最大都市の中心部近くに位置し,その敷地面積は約38.8万m2である。2万3000人の学部学生と学士課程の学生がいる。看護学部(URL=www.uwm.edu/Dept/Nursing)は1965年に設立。看護制度や専門性におけるリーダーシップを推進し,地域のさまざまな施設と協働し,地域に住む個人,家族,集団の健康ニーズに応えること,大学の都市化に向けた研究や教育,出先機関のプログラムを計画,実行している。
看護学部博士課程の育成目的
・自主的な研究や共同研究を行なうことができる
・系統的に看護理論を展開し検証できる
・看護の知識体系を広げることによりケアの質を高めることができる
学習課程
 各学生は教科アドバイザーに相談し,学習課程を計画し,プログラムを1つにまとめる。博士課程の必要単位と学生の研究目的および職業目標によって,プログラムを計画する。
インターネット(オンライン)による博士課程プログラムの主な概要
コア課程 8単位
 必須のコア課程(看護基礎,看護の科学,看護科学と公共政策)の中で,学生は看護分野の知識を分析したり,構築するスキルを身につける。
専門課程 コア教科5単位,選択科目15単位
 必須の看護専門課程(看護現象の分析 I =看護科学に関連した特定の現象について理論的に展開する。看護現象の分析 II =特定の患者の特性における現象に関する理論と技術を統合し,応用,評価する)によって,学生は特定の看護現象とその現象が生じている社会の背景に専門的な視点を向けるようになる。
 専門選択科目は,看護学課程の卒業レベルによって,あるいは理論や方法論の看護知識を発展させる学術分野によって選定する。 研究方法・教育課程の計画 18単位
 看護研究の必須課程(看護研究の測定法の他,質的・量的手法による看護研究)で,学生は独自に看護研究を行なうために必要な知識とスキルを習得する。
論文 3単位
博士課程修得までに
・履修単位=48時間
・授業料=履修単位時間につき600ドル
・博士課程終了までにかかる時間=およそ2年半(+研究論文)
・入学時に必要なTOEFLスコア=550点