医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


リハ患者の心理的・情緒的ケアを記載した画期的な書

リハビリテーション患者の心理とケア
渡辺俊之,本田哲三 編集

《書 評》丸田俊彦(メイヨー・クリニック・精神科教授/慶大客員教授)

学際的な内容

 この本はいくつかの意味で画期的な本である。
 第1に,本書は,リハビリテーション(リハ)患者の心理だけでなく,そのケアの実際についてかなりの頁を割き,臨床に即した具体的な方針を示している。
 第2に,精神科医とリハ医により編集された本書は,臨床心理,看護,理学療法,作業療法,ソーシャルワークなどの分野からも執筆者を得て,文字どおり学際的な内容となっている。もっと言えば本書は,精神医学の側から見ると,リエゾン精神医学の見事な実践(と展開)の記録であり,リハ医学の側から見れば,かなり高度な『リハビリテーション患者の心理とケア』のガイドブックである。
 第3に,本書の執筆者のほとんどが第一線の臨床家であり,その執筆内容は,「リハ患者に向けられた優しいまなざし」を随所に感じさせる。
 第4に,本書の編集者と執筆者の多くが(東海大精神科教室の力動的精神医学の伝統の下で)非常に力動的な臨床的感性を持っており,それが,患者へのアプローチにはっきりと生かされている。

解決策を模索していく際のハンドブック

 本書は,8章に分かれている。「リハビリテーション医療の歴史と問題」,「障害受容」に続き,脳卒中,脊髄損傷,切断,頭部外傷,慢性疼痛,ヒステリー,痴呆,小児疾患など,「リハビリテーション患者の心理とケア」が具体的な症例とともに論じられ(第3章),「QOL」,「治療関係」,「家族への関わり」へと続いている。第7章では,看護,理学療法,作業療法,言語治療などの「治療場面における心理的問題」が臨場感をもって語られ,最終章「技法」では,チームワーク,精神症状への対処,心理療法,認知リハに加え,「リエゾン精神医学活用(法)」という,これまたユニークで実践的な項目が加えられている。
 介護保険制度の運用が始まり,障害者介護に向けて物理的環境が急速に充実し始めた今,臨床的実践としての「リハビリテーション患者の心理的・情緒的ケア」も,すぐそこまで迫っている。その課題に取り組む過程で,学際的な同僚・有志が問題を共有し,カンファレンスを開き,話合い,解決策を模索していく際のハンドブックとして,本書はその真価を発揮するに違いない。
A5・頁260 定価(本体2,800円+税) 医学書院


脳外傷患者の機能回復を一層効果的にするための座右書

脳外傷リハビリテーションマニュアル
神奈川リハビリテーション病院脳外傷マニュアル編集委員会(代表:大橋正洋) 著

《書 評》中村紀夫(慈恵医大名誉教授)

 ヨーロッパのある国で観光旅行を楽しんでいた親友のご夫人が暴漢に引き倒され,頭を石畳に強打して昏睡状態になった。3回開頭手術を受けて脳の内外にたまった血液を取り除いてもらった後,その国の医師に付き添ってもらって1か月後に日本に帰国し,施設も人員も優秀なリハ病院に入院した。
 ただちに駆けつけて夫人を診た私は,いささかサジを投げる思いであった。「64歳の高齢者が,脳外傷の開頭術後1か月たっても痛みや呼び声にわずかに反応する程度の深い昏睡状態にあり,しかもCTで激しい脳損傷が確認される」という悪条件では,私の40年余の経験からすると,仮に命が助かってもせいぜい植物状態に近い程度までであろう。担当医に最大限のご尽力をお願いして帰宅した。
 夫人のその後の経過は,私の悲観的診断とはうって変わって実にめざましく,徐々に四肢の動きが現われ,2週間後から声を出し,やがて片言をしゃべるようになった。ほぼ3年たった今,自宅にあって1人で歩いて部屋を移動するし,歌手の名も覚えて一家の団欒の場に加わり家族を楽しませてくれるというすばらしい回復ぶりである。人はこれを「奇跡の回復」と言うであろう。私は家族・関係者も参加した現在の神経リハ・プログラムの大成功と称賛し評価している。

実践的手段が手際よく

 それだけに今回,当時の主任担当医が編集した『脳外傷リハビリテーションマニュアル』を手にした時,どのように輝かしいこの領域の進歩・発展がこの1冊に盛りこめられているか,ワクワクしながら頁をめくった。
 「目次」を開いた第1印象としての特徴,それはこの書が脳外傷を理解するために不可欠な神経学的学識と,失われた神経機能をどのように回復させるかの実践的手段とが,章別に手際よく配置されていること,加うるに,この両者の連携を臨床においていかに円滑に組み立てるかをわかりやすくするために,11症例が事例として1章にまとめられていること,そして最後に文章を理解しやすくするために10頁の用語集があることで,編集者の思慮深く巧みな編集方法が,この本の理解しやすさ読みやすさを目次の頁にすでに表現している。
 ところで本書に関心を持ち読む人の職種は,医師・看護婦・理学療法士・ソーシャルワーカー・その他のコメディカルなど多彩であろう。それらの人々が持つ知識・学識・用語には,ある程度の異同があるであろう。本書を読んでみると文章がよくこなれていて,難解な用語・文面がほとんどない。これは上記の多彩な職域の方々が編集委員会の委員に多数参加しているためであろう。

痛感したリハビリテーションの精髄

 本書の各章について,第2章は,リハプログラムで,14種類のプログラムが紹介されており,第3章は,リハスタッフ11職種の紹介である。この2章は文面,頁としては少ないが本書の白眉であり,私はこれが現在のリハの精髄なのだと痛感した。リハに携わるこれだけ多くの人々が,患者の家族とも一緒になって,目的とする機能の回復に最適なプログラムを組み立て,全力を注いで最善の成果をあげているのである。
 実際のプログラム運営方法とそれに対する評価は,第4章の11症例から知ることができる。ここでは例えば重度記憶障害を持つ患者に対して,就労に向けた援助のプログラムを作り,さまざま実行し,本人の作業自立に成功した症例が細かく記載されている。
 私は脳外傷の臨床について急性期・慢性期とも十分な経験と知識を持っているつもりであったが,この1冊からそのリハについて啓蒙された知識がきわめて多かった。
 この領域に深くも浅くも関与するリハ担当者が,脳外傷患者の機能回復を一層効果的にするために,本書を座右に置いてその知識を広め,常時役立てられることを切望してやまない。
B5・頁184 定価(本体4,500円+税) 医学書院


バランスよく編集されている腹部CT画像診断書

腹部のCT
平松京一 編集

《書 評》多田信平(慈恵医大教授・放射線科学)

 新しく上梓された『腹部のCT』は全464頁からなり,B5判軟表紙の体裁は見た目には軽そうであるが,持ってみるとずしりと重い。
 CTも診断器として颯爽と登場してきてすでに4半世紀が過ぎた。その間の技術的な進歩と相まって,CTは多彩な画像診断の中にあって欠かすことができないまでに定着している。そもそも画像診断という用語自体,CTがそれまでのX線診断とは異なる分解能を示すことから生まれた。最初は脳神経の診断にのみ供されたCTは,胸部で従来のボケ断層を駆逐してしまったし,腹部でも今やもっとも信頼性の高い画像診断法となっている。今までと比べて格段に優れた組織分解能は,体内の解剖と病変を高い精度で描出し,望めば横断像のみならず,冠状断像もほぼ同じ空間分解能で得られる。加えて,骨が白く,空気が黒く映し出されるというX線診断学の伝統に立脚していることもあって,臨床医にも親しみをもって理解できる画像を作り出す。

ずっしりと重い内容

 本書は,斬新さをねらうユニークな本ではなく,ここまで普及した「腹部のCT」のクラシックな教科書と言える。書いてある内容もずしりと重いのである。
 章立ては,「CTの基礎と解剖」から始まって,「肝」,「胆」,「膵」,「脾」,「消化管」,「副腎」,「腎」,「尿管・膀胱」,「前立腺・陰嚢」,「子宮・卵巣」,「腹膜腔」,「後腹膜・血管」,最後に「新しいCTの応用」,となる。各章末には,内外の文献が載せてある。全腹部を網羅し,的確に配分する,このバランスのよさは編集にあたられた平松京一教授特有のバランス感覚を如実に反映している。平松教授は,わが国の血管造影法の濫觴となった東京大学放射線医学教室に学び,遷られた慶應義塾大学放射線診断科では血管造影・interventional radiologyのみならず,一般放射線診断学の発展に意をつくされた。
 日常の臨床の場で,あるいはさらに腹部の画像診断学を学ぼうとされる時,読者は安心して本書を参照できるに違いない。放射線科医のみならず,広く腹部の臨床に携わる医師に本書を推薦するゆえんである。
B5・頁464 定価(本体12,000円+税) MEDSi


日本でも芽生えはじめた遺伝医療の包括的取組みの本

〈Ladies Medicine Todayシリーズ〉
周産期遺伝相談

神崎秀陽,玉置知子 編集

《書 評》工藤隆一(札幌医大教授・産婦人科学)

 周産期遺伝相談の専門家ではない私が一気に本書を読んだ。神崎秀陽,玉置知子編集の『周産期遺伝相談』である。読了してこれが,「目から鱗が落ちた」ということなのかなと思った。
 日本の周産期遺伝相談のシステムや専門医の数は,欧米から比較するとかなり遅れていることは,従来から指摘されてきたが,本書の中に掲載されている信州大学遺伝子診療部のように,軌道にのっている例を取りあげ,遺伝医療の包括的取り組みが,日本でも芽生えはじめたことはうれしく思う。現在,一般の産婦人科医の大部分は「高齢妊婦におけるダウン症の年齢別の発生率を知っている」あるいは,「出産時に奇形があれば小児科等の他科へ紹介すればよい」と見られがちである。しかし,日常臨床の場で,現在の周産期遺伝相談は,出生前診断も含め,的確に患者へ情報を提供しなくてはならないことが認識させられた。

「やる気が出る」遺伝相談

 当教室においても,近年の情報化社会の変化や高齢妊婦の増加に対応すべく,希望する妊婦に対して,羊水細胞や絨毛による胎児染色体検査や筋ジストロフィーの遺伝子診断を十分なインフォームド・コンセント後に行なっているが,今やWilliams症候群のように,それほど稀ではない疾患をはじめとした心血管系構造異常やQT延長症候群等の心筋伝導障害など,これほど多くの遺伝子診断ができるとは正直驚いた。倫理的側面を十分配慮し,今後当科で取り入れていかなくてはならないものは取り入れていく考えである。
 本書はわずか200頁強の本で,すでに発行済みの同様な内容の書物からみると,内容的には現在の情報化社会では,クライアントの多様なニーズに対応するには,不十分ではないかと思われがちだが,一般の産婦人科医が日常臨床にあたる際,本書は出生前診断における超音波診断も取り入れ,多様な遺伝カウンセリングに必要な知識が十二分に提示されている。しかし,妊娠20週までの出生前診断で,triple markerを取り入れ評価することが,より効果的であるとされている反面,昨年の「母体血清マーカー検査に関する見解」についての報告書の見解を具体的にどのように判断して診療にあたるのかが問題点である。
 最後に,執筆者の諸氏は,みな周産期の遺伝関連の第一人者であると同時に,日常多くの患者を診療されている方々である。本書は,各執筆者が,自分の考えを優先させて,評論されることなく,あくまで客観的立場にたって執筆されている。出生前診断やそれに伴う遺伝相談は,常に倫理的側面を背負って診療にあたっている産婦人科が,このような医療技術の進歩を「模範」とするか「警鐘」と判断するかは自由である。だが,少なくともこの本を読んで「やる気が出る」ことは間違いない。また,興味ある人間には購読を勧めたいと思う。
B5・頁208 定価(本体6,000円+税) 医学書院


明日の理学療法研究発展のための指導書

標準理学療法学〈専門分野 全8巻〉
理学療法研究法

奈良 勲,鎌倉矩子 監修/内山 靖 編集

《書 評》武富由雄(愛仁会リハビリテーション病院)

 1991(平成3)年11月に開催された第31回近畿理学療法士学会のシンポジウム「PTの明日を考える Part II」で,「研究」がテーマとして取りあげられた。私はこの学会で明日の理学療法の研究の進展に否定的な発言をした。当時,理学療法の研究を行なうための土壌が十分に備わっていなかったからであった。理学療法士が誕生して25年,全国の理学療法士が9200名余,日本理学療法士学会での学会発表演題数が400題にも満たない数であった。
 2000(平成12)年,日本理学療法士協会の会員数が2万名を超え,第35回の学会(鹿児島市)での発表演題数は,800題と倍増するに至った。理学療法士の研究発表は専門領域だけにとどまらず,自然科学,基礎医学にと,学際領域に踏み込んだ研究へと広がりを見せてきた。
 1999(平成11)年,横浜で開催された世界理学療法連盟学会は,日本の理学療法士にとって大きな国際舞台へのステップ・アップであった。理学療法を“理学療法学”にまで高める向上心と理学療法の社会性を認識し始めた。また,大学と大学院の制度化も研究発展への大きな起爆剤になっている。明日の理学療法研究に対して否定論を論じた者にとって,ようやく肯定論に修正しなければならない時期にきた。しかし臨床の現場に働く多くの理学療法士は,未だ研究などとても手のつけようのない難しい,高等な学識を持たなくてはできないものだと考えているようである。

時宜を得た発刊

 今般,標準理学療法学専門分野全8巻シリーズの1つに『理学療法研究法』が,時宜を得て発刊された。編集,内山靖氏は本書の序の中で,研究を実践しようとする者に対して,「得られた成果を固有の領域に応用する側面とともに,研究を通して身につけられた問題解決能力や論理性・表現能力の向上によって,日頃の臨床や教育に貢献するため」と述べ,本書がその道しるべとなることを希望している。
 本書の内容は,第1章の「理学療法と研究」からはじまり,第8章の「発言・論文作成の指導」まで24名の執筆者によって論じられている。研究の動機づけや論文の書き方など,これまで種々の学術誌に断片的に述べられていたものを,系統立てた1つの書としてまとめられた。
 理学療法の原点と目標は対象者,すなわち患者さまに対する効果的なサービスである。そのためにはまず理学療法の研究に対する基本姿勢が問題となる。研究の範囲,流れ,推進要因など研究の過程が第1章「理学療法と研究」に論じられている。第2章の「研究の展開」では,テーマを探し出す方法,広域・複数の領域の研究,特別な機器を用いた研究,特別な機器を用いない研究,研究の実際の事例など種々の研究方法を考える場合のヒントが述べられている。

卒業間近な学生にも有用

 第3章では,必要最小限の統計の知識と解析・分析の実践的な手法が解説されている。第4章では,研究のアイデアの源泉である文献について述べてある。研究の独自性を出すためには先人の研究からその研究法について大いに学ぶことができる。その文献の検索から整理までがわかりやすく解説されている。卒業を控えた学生や研究を教える側の教員に向けて,第5章の卒業研究の進め方では,研究テーマの選択の仕方の具体例が示されている。卒業間近い学生にとっては特に参考となろう。
 また,研究発表の機会を得ても,口頭発表とポスター発表の提示の難しさは終わった後でも反省することが多い。第6章では,口頭発表の原稿の書き方から発表時の服装まで懇切に書かれている。ポスターの作成については,タイトル,構成,本文,図表,その他工夫の仕方の要点が記述されている。第7章では,特に症例研究の論文の書き方について執筆者の経験を踏まえて述べられ理解しやすい。最後の第8章の発表・論文作成の指導方法では,ダンロップ,ライト兄弟,本田宗一郎など医療界でない有名な研究者たちのひたむきな研究への背景を理解させることが,よき研究の指導方法となるとしている。付録の中の「査読者の目」の項では,いかなる論文が受け入れやすいかを示唆している。
 本書はこれから研究を始める理学療法士にとって,また現在研究論文を書き続けている医療従事者にとっても,基本的,標準的な研究法について,どの章からも引き出しやすくなっいる。本書の読者が,理学療法の研究を発展の方向へ導いてくれることを期待している。
B5・頁288 定価(本体4,700円+税) 医学書院


願いが実現,こどもの皮疹・口内咽頭所見の本

〈総合診療ブックス〉
こどもの皮疹・口内咽頭所見チェックガイド

絹巻 宏,横田俊一郎 編集

《書 評》崎山 弘(崎山小児科)

 子どもを診療する際に,皮疹や口内咽頭所見を診断の手がかりにする機会は非常に多い。特に皮疹は,親の目の前に見えている病変なので保護者の関心も高く,「これは何ですか」と説明を求められることもしばしばである。口内炎や扁桃腺炎の所見は専門的知識のない親の目にも明らかに認識できる。子どもを診察する医師ならば,「これは,手足口病です」などときっぱりと告げてみたいものである。
 子どもの皮疹や口内咽頭所見はさまざまであるような気もするが,実際の疾患の種類はそれほど多いものではない。教科書にも出てこないような病気にそうざらにお目にかかるはずもない。しかし,いまさら教科書を読むのも難儀なことである。できれば誰か,重症度の高いものと頻度の大きいものだけでもまとめてほしい。この本はそんな願いを実現した。おそらくこの本1冊で,見落としてはならないものと,頻繁に見かける皮膚粘膜病変を網羅していると思われる。

百聞は一見に如かず-特記すべき臨床カラー写真

 本書の内容として,特記すべきは豊富なカラー写真である。皮膚や粘膜の病変は触覚も大事ではあるが,五感の中でも特に視覚に訴える力が大きい。一度見ておけば忘れない。「百聞は一見に如かず」の言葉どおりに,皮膚の所見や咽頭,扁桃の特徴をうまく捕らえている123枚ものカラー写真がそれを物語っている。
 各疾患を説明している本文は,診察所見の特徴や治療のポイント,アドバイスなど臨床上の核心に的を絞った簡潔で短い文章表現が使われているので理解しやすい。病理組織などの基礎的なことは思い切って省かれたのであろうが,臨床的知識の整理であればこれで必要十分である。
 巻末の「皮疹の鑑別のヒント」では,21枚の表と3つの図が,鑑別診断の提示とその区別を助けてくれる。皮疹を見て,ただちに必要な鑑別診断が頭に思い浮かばない私には重宝する。皮膚科が専門である方からみれば常識的なことばかりであろうが,子どもを診察する可能性がある皮膚科以外に医師には,必携の書である。
A5・頁192 定価(本体4,700円+税) 医学書院