医学界新聞

 

Vol.16 No.7 for Students & Residents

医学生・研修医版 2001. Jul

卒後臨床研修の改善は「待ったなし」


 「研修医」に関する報道が,マスコミをにぎわせている。「研修医による医療過誤」,「過労死寸前の研修医」,「不安を持ちながらの単独診療」,「貧弱な研修内容」……。診療の最前線に立つ研修医たちの生々しい現実が,一般市民を驚かせている。6月1日には,2004年に必修化される卒後臨床研修の具体的な枠組みを決める厚生労働省の審議会(医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会)も立ちあがった。臨床研修の質の確保が,いま,大きな社会的関心事となりつつある。
 臨床研修の抜本的な改革は全国的な取り組みが必要だが,各研修施設は,自前で研修の質を確保するための取り組みを進めつつある。本紙では,高知医科大学附属病院の場合(9面)を取材するとともに,米国トーマス・ジェファーソン大学医学部長のトーマス・J・ナスカ氏らによる座談会「卒後臨床研修の質を確保する」を企画し,研修の質を確保するための道筋を探っていただいた(10-11面)。


全研修医に共通のプログラム

 高知医大病院(池田久夫学長,相良祐輔病院長)では2000年より,すべての研修医が医師としての幅広い視野と基本的な能力を身につけられるように,全診療科が総合診療方式によるローテイト研修を開始するとともに,全研修医に共通の1年間にわたる研修プログラムを用意した。
 医師として最低限身につけておくべき臨床知識・技能・態度をすべての研修医に習得させることを目的とする,この共通プログラムでは,異なる臨床科で研修する研修医がともに学ぶ。
 「研修医が『やってよかった』と思える研修プログラムを作りたかった」
 共通プログラムづくりの中心となってきた倉本秋氏(高知医大教授・総合診療部,別掲インタビュー参照)はこう話す。医師国家試験用の知識は,必ずしも,臨床現場で役立つものではなく,現場に出たばかりの研修医たちは,不安にさいなまれることも少なくない。そこで,このプログラムは「臨床で使えること」を重視しており,さらに,世の中の求める医師像,すなわち「すぐれた患者-医師関係を築ける医師」,「専門性の追求だけでなく,人をトータルに診ることができる医師」の育成を強く意識したものとなっている。

診療科を超えて皆で学び合う

 この共通プログラムでは,新入研修医たちは,8日間にわたる研修オリエンテーションを受ける。その内容は,例えば,
<第2日午後>
(1)オーダリング(外来予約,レントゲン,処方,注射処置,給食,病名入力等)
(2)BLS(Basic Life Support; マスク保持・気管内挿管を含む)
(3)医療面接・プライバシー
(4)ストレッチャー,救急患者(心筋梗塞・頚椎損傷)の入院,吸引瓶,酸素設定,ベッドの移動,手袋(感染対策)
(5)ショックの見方ポイント
<第6日午前>
(1)病院ボランティア体験
(2)看護婦指示書の書き方
(3)血液型判定と交差適合試験
(4)Blood accessの基本
(5)処方せんの書き方
(6)心電図の取り方
 というようなもので,実技は小人数のグループに分かれて演習を行なう。最終日にはOSCE(客観的臨床能力試験)も実施され,到達度が評価される。
 通常の研修がスタートしてからも,週に1度(水曜日の午後),プライマリケアの習得を主な目的とするミニレクチャー(実習もある)が行なわれる他,医療倫理などについて講演を聴き,「医療と人間」について考える機会や「研修医のための基礎医学講座」,「ACLS(advanced cardiac life support)」などのコースが1年間を通して用意され,原則として全研修医が参加する。
 「単に研修医に『勉強してほしい』というのではなく,所属科を超えて誰でも学び合う場を作りたかった」と,同大の瀬尾宏美氏(総合診療部助教授)は,本プログラムのもう1つのねらいを話してくれた。
 「病院の中の風通しをよくすることが,よい研修を生み,よい医療を生むでしょう」
 関係者は,今後の成果に期待を寄せている。


BLSの実習
今年からコードブルー(急変時の全館放送)を始め,研修医の救命処置体験数を増やす
   
SPを用いた医療面接実習
この実習はビデオ撮影され,研修医同士および,SPと講師によるフィードバックを受ける。この日も「『点眼』や『頻度的』というような言葉は患者さんにはわかりにくいよね」,「初対面の時の笑顔がいいね」など,具体的なアドバイスが行なわれた
 
看護婦から吸引の指導を受ける研修医
共通プログラムには看護部も全面的に協力。「医療はチームワーク。医師だけではよい研修はできない。病院全体で取り組むことが大切だ」と倉本氏は話す
(以上,写真はすべて研修医オリエンテーションで)