医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


アイデア賞を与えたくなる本の誕生!

眼科 まぎらわしい病気
田野保雄,大橋裕一 編集

《書 評》三宅養三(名大教授・眼科学)

臨床の幅を広げるのに役立つ  世の中に眼の病気の説明書は山ほどある。しかし,「まぎらわしい病気」に焦点をあてた本はほとんどない。典型例の病態に関して十分すぎる情報が得られるが,少し典型からはずれたり,似て非なる疾患のほうが実はよほど多く,よくよく考えると「まぎらわしい病気」の勉強のほうがよほど大切なことに気づく。
 近年多くの検査器具が開発され,なんでもかんでも検査につぐ検査である。多くの検査により得られた所見をどのように全体として評価し,診断するかがますます重要となってきた。「木を見て森を見ず」とならないようにしたい。そのためには,典型からはずれた所見をどう評価するか,本質的にはどの所見が最も病態の把握に重要なのか,等々を考えて診療にあたらねばならず,十分な経験とよい指導者が必要となってくる。この本を読めば,経験が十分にない人や,よい相談相手(指導者)に恵まれない人でも臨床の幅を広げるのに役立つであろう。
 内容は主要な病態所見がまず提示され,その所見に関するアウトライン,鑑別診断リスト,診断の手がかりをつかむ方法,基本病変の説明が詳しくなされた後,「まぎらわしい症例」が数例提示され,その説明が付されている。大阪大学の関係者が中心となり書きあげられた大変役に立つ教科書である。ある程度臨床経験を積んだ人が最も興味深く読めるであろうが,これから臨床をはじめる若い人,経験を積みすぎて退屈している人にも読みごたえは十分である。
B5・頁232 定価(本体18,000円+税) 医学書院


より実用的でよりupdateな内容の胸部画像診断書

必修 胸部の画像診断
Theresa C. McLoud 著/蜂屋順一 監訳

《書 評》池添潤平(愛媛大教授・放射線科学)

 ハーバード大医学部教授で,マサチューセッツ総合病院の胸部放射線部門の部長であるTheresa C. McLoud教授が,放射線科のレジデント向けに著した『Thoracic Radiology:The Requisites』は,初版が1998年に上梓された。このたび,蜂屋順一教授監訳で,日本語版としてメディカル・サイエンス・インターナショナル社から出版された。

競合書に対抗した内容

 McLoud教授は,現代米国の胸部放射線医学領域の第一人者で,北米放射線学会,米国胸部放射線学会のリーダーとして活躍中である。米国の胸部放射線診断の研究,教育,診療などのすべてで精力的に活躍されている。米国の胸部放射線領域では,Felsonの教科書,Fraserの教科書が,きわめて有名でかつ名著であるが,彼女自身が謝辞の中で述べているように,これらの教科書を十分に意識し,より実用的で,よりupdateな内容をめざしたものである。構成も実際的,実用的で,それぞれがコンパクトにまとめられている。特に,肺感染症,重症患者のX線診断,胸部の外傷,じん肺症,免疫活性の変化による疾患などは充実している。写真(特に胸部単純写真)は大きく,異常が理解しやすい。
 各章にみられる多数の表と囲み(Box)は,知識の整理と記憶すべき重要事項が,まとめられていて使いやすい。日常臨床で必要な事項を網羅し,なおかつコンパクトにまとめたきわめて使いやすい本である。通常の翻訳書は,翻訳された時点で最新情報から遅れてしまっていたり,米国と本邦での事情が異なっていたりして,問題のある場合もあるが,本書には,そのような問題はまったくない。適切で簡潔で,著者の真意が十分に伝わってくる。米国放射線専門医制度は,そのトレーニングプログラムがきわめてハードで,4-5年間のレジデント期間に,放射線科のすべての領域をローテートする。本書は,そのレジデント期間に修得すべき胸部領域の到達目標とも言える。このように考えると,わが国でも,本書は放射線科レジデントはもとより,呼吸器内科医,呼吸器外科医,さらには初期研修医,一線の内科医,内科開業医など,多くの読者に役立つ成書であると確信する。久々に,よい本に出会ったと思う。
A4変・頁552 定価(本体14,000円+税) MEDSi


消化管領域の画像診断の奥義を開陳

フィルムリーディング・シリーズ(全10冊)
5 消化管
 齋田幸久 編集

《書 評》大友 邦(東大教授・放射線診断学)

可動性に富み多層構造を有する消化管こそ腹部画像診断の原点

 毎年シカゴで開催されている北米放射線学会(Radiologic Society of North America: RSNA)は,8万人が参加するビッグイベントである。そのRSNAの最大の呼び物として,日曜日夕方にArie Crown Theaterで開催されるimage interpretation sessionの面白さを誌上に再現することを目的に企画されたシリーズの8冊目として,『フィルムリーディング-消化管』が出版された。
 本書は,消化管の解剖と最近の話題をまとめた総論と,79例の症例(食道9,胃18,十二指腸11,小腸12,大腸15,直腸6,腸間膜・腹膜8)から構成されている。
 1症例につき表裏2頁で,表側に部位と異常所見を組み合わせたタイトル(例:表面平滑な球部隆起性病変),年齢,性別,主訴,現病歴とともに消化管造影を中心とした各種の画像が提示されている。そして裏側に所見,鑑別診断,鑑別診断の進め方,診断,診断のポイントという項目立てで,診断のプロセスが詳細かつ丁寧にまとめられている。さらに疾患についての一般的知識をまとめた囲み記事として,「病気の豆知識」と1-3点の参考文献が記載され,最後に☆から☆☆☆までの3段階に分けられた難易度マークが示されている。

消化管読影の超エキスパートが執筆

 執筆者は,あくまでもオーソドックスな消化管二重造影を中心にすえる八巻悟郎氏(食道担当)と松井敏幸氏,綿密な所見の拾い上げと分析で病態にせまる森山紀之氏(胃担当)と黒田知純氏(大腸担当),内視鏡/超音波内視鏡を駆使して病理像にせまる川元健二氏(十二指腸/大腸担当),基本に忠実な一方でひねりをきかせた読影に定評のある齋田幸久氏(編集/腸間膜・腹膜担当)など消化管の超エキスパートぞろいである。
 読者は,これらの症例を読み進むことにより,例えば同じ悪性腫瘍でも癌と悪性リンパ腫そして平滑筋肉腫による粘膜面の変化,狭小化,潰瘍形成がどのように異なるかが理解できる。そして消化管の感触や光沢を実感しながら,たんに診断の当たりはずれには留まらない,消化管領域の画像診断の奥義に1歩ずつ近づくことができる。消化管をはじめとする腹部領域の臨床に携わる放射線科,消化器内/外科の若手の方には何度も読み返す教科書として,ベテランの方にはリフレッシュに最適な1冊として本書を強く推薦する。
B5・頁184 定価(本体6,500円+税) 医学書院


医療事故防止から「医療の質」向上への課題を集成

別冊 看護管理
リスクマネジメント読本

「看護管理」編集室 編

《書 評》石原美和(厚生労働省医政局総務課・医療安全推進室)

報道されない日常

 2年半前の手術患者の取り違え事故は,大学病院という医学的権威と信頼の場で,「患者の取り違え」という一見単純なミスが発生したことが公になり,全国の人々やマスコミは衝撃を受けた。しかし,多くの医療従事者には,「遂に起きたか……」という感覚が走ったのではないだろうか。そして,その感覚を裏づけるかのように,「なぜ,こんな事故が?」といった報道が続いた。
 この4月,国として医療に対する国民の信頼を回復すべく厚生労働省に医療安全推進室が新設され,私は看護専門官として,医療安全行政に携わることになった。数冊の参考書でまず手にとったのが,『別冊看護管理リスクマネジメント読本』であった。
 本書は,1999年から2000年にかけて「看護管理」(医学書院)に掲載された論文に新たな書き下ろしを加えてまとめたユニークな構成であり,読み進んでいくと,リスクマネジメントの歩みを追うことができる。つまり,当初,リスクマネジメントは訴訟に対する組織防衛の意味あいが強かったが,「Patient Safety」の概念に変遷していった経緯である。具体的には,看護部門における取り組みに関する内容や,他分野からの視点で書かれたリスクマネジメント,米国の状況も紹介されている。全編を貫いていることは,リスクマネジメントを医療事故の予防という狭義の思想でなく,「医療の質」向上の取り組むべき課題の1つとして扱われている点である。事故予防は入り口であり,向かう先は,安全な良質な医療である。ここで,1つだけ苦いコメントをするならば,組織的視点だけでなく,専門職者個人に焦点を当てた免許制度や法的責任についてサマリーされたものがほしかったことである。また,安全管理に関する医療界の課題について提言されてもよかったのではないかと思う。
 ところで,看護職向けの専門書では,マニュアルものが人気と聞いているが,マニュアルに至るまでのプロセスや考え方の変遷を踏まえることは,病院管理者として看護管理者には大変重要と思う。時には,読み物として文献を読み砕いていくと,その思想にも触れることができるであろう。その意味で,マニュアルも紹介されているが,考え方や作ったプロセスが示され興味深く読める。
 本書の最後は,「患者アドボカシーをめぐって-対談:患者の権利と医療者の役割」,で締めくくられている。医療事故防止の向かう先が「医療の質」向上であり,その中で医療者として,看護婦にも患者のアドボケイトが期待されていることが強調されている。であるならば,これは現在,看護婦が病棟などで取り組んでいる事故防止活動と併行?して,看護界全体の課題,医療の課題として明確に位置づけられるべきである。そして,それらの日常的長期的取り組みを,看護界から患者へ向けて発信する意義は大きい。
 私の手元には,シワシワになった1枚の新聞コピーがある。1997年8月3日付読売新聞メディア時評に解剖学者の養老孟司氏が「報道されない日常」について書いた記事だ。この中で,養老氏は犯罪を例に取り,「……犯罪が起こればそれは記録される,起こらなければ記録されない」と述べ,「しかし,日常生活の多くの努力が,なにかが“起こらないように”ささげられている。……“起こったこと”ばかり見ていると,“起こらなかったこと”を忘れる」と書かれている。まさに看護の仕事の大半は「なにかが起こらないように」ささげられている。看護の仕事が見えにくい所以でもある。
 インシデントレポートとは,「起こらなかったこと」を顕在化し,「起こってしまった」不幸な事例に経験として加え,「起こらないために」安全対策に資するものである。
 蛇足ながら,厚生労働省では,5月より医療安全対策検討会議をスタートさせ,月1度のペースで医療安全に関する幅広い内容について議論を始めた。また,6月にはヒューマンエラー部会,7月からは医薬品・医療用具部会も発足させており,より具体的な内容に関して検討を行なうこととしている。いずれも,原則公開で行なうので,多くの関係者の参加を期待したい。
B5・頁160 定価(本体2,000円+税) 医学書院


皮膚科専門医試験のための参考書

皮膚科専門医 Clinical Exercises
宮地良樹,橋本 隆 編集

《書 評》小澤 明(東海大教授・皮膚科学)

 「皮膚科専門医として,生涯教育を通じて基礎から先端医療までの知識と技量を日々アップデイトなものとし,社会の付託に応えることが求められている」と編者が序文で記しているように,本書はその目的を果たし得る企画と編集になっている。

皮膚科生涯教育書としても工夫

 日々進歩し,より専門性が追求されているのは皮膚科も例外ではなく,それに対応していくのはなかなか容易ではない。いくら文献を読んでも,講演を聴いても,そうは簡単に新しい知識として自分のものにするのは,年齢とともに辛いものもある。本書は,単に皮膚科専門医試験を受験する若い皮膚科医に対しての問題集という域を脱して,まさに生涯教育としての皮膚科学を勉強する上での工夫も凝らされている。すなわち,本書は2部構成として企画され,その内容,特徴は以下のごとくである。
[問題編]
・雑誌「臨床皮膚科」(医学書院刊)に1994年から連載されている「Clinical Exercises」からの128題を収載。
・問題にはすべて,解説,文献を付記,しかも内容は追記,増補されている。
・構成は,『標準皮膚科学』(医学書院刊)の構成に準拠し,さらに詳しい,あるいは周辺領域の事項の確認などのために,問題ごとに,その対応章が付記されている。
[用語編]
・271用語について,63名のそれぞれの分野のエキスパートが解説している。
・解説用語のすべてに,さらに理解を深めるための関連用語があげられている。
 以上のような企画と特徴から,本書は,編者が言うように,「全体を読了することで,現時点で皮膚科専門医に求められる皮膚科学の最近の進歩を有機的に修得できる」ものと言える。
 「臨床皮膚科」では,今なお「Clinical Exercises」は連載されており,今後も1-2年ごとに本書がシリーズ化されていくことを期待する。
B5・頁176 定価(本体5,800円+税) 医学書院