医学界新聞

 

【学会長インタビュー】

「人によりそう」をキーワードとして

日本看護科学学会 第4回国際看護学術集会長

前原澄子氏(三重県立看護大学長)に聞く


  日本看護科学学会(Japan Academy of Nursing Science;JANS)が,1992年より3年ごとに開催している「国際看護学術集会」が,本年8月29-31日の3日間,三重県津市の三重県総合文化センターで開催される。4回目を迎えた今集会のテーマは,「人によりそう看護-21世紀に原点をみすえる」。
 本紙では,学術集会長を務める前原澄子氏(三重県立看護大学長)に,「看護の国際化」や学術集会のプログラムなどについて話をうかがった。

●海外の看護研究者との交流をめざして

これまでの経緯

前原 日本看護科学学会(以下,JANS)は,看護系大学が増えてきた1981年に,看護系大学協議会を基盤にして立ち上げられました。本学会は,日本学術会議に看護の分野としては最も早く参画し,登録された学会です。それから10年後の1992年に,第1回の国際学術集会(会長=日赤看護大学長 樋口康子氏)を開催しています。それがとても高い評価を得たために,同じ年のJANSの総会で会則を改正し,学会の事業として3年に1回,国際学術集会を開催しようと決めました。
 第2回目は,阪神淡路大震災が起きた1995年に,被災地である神戸市で開催(会長=兵庫県立看護大学長 南裕子氏)。そして,前回は1998年に,東京(有楽町・東京国際フォーラム)で開催(会長=聖路加看護大教授,現大阪府立看護大学長 小島操子)しています。
 第1回開催時には,海外18か国からの参加があり,全参加者は611名でした。そして2回目の時は大震災の後でしたが,20か国から1117名が参加をしています。前回の第3回は,30か国と参加国は増えましたけれど,参加者は838名でした。
 今回は,三重県津市での開催です。交通が至便という地でもありませんが,20を超える国からの参加があると思います。

看護の国際化

――21世紀になり,初めて国内で開催される看護系の国際学会です。今後,日本でも看護系の国際学会がいくつか予定されていますし,さまざまな形で学術交流も盛んになってきています。こうした看護の国際化についてのお考えをお聞かせください。
前原 日本の看護は,長い期間にわたり米国の看護学に学んできました。その経緯は無視できないものの,これからは国の内外を問わない研究者の交流がますます必要となってくると思います。しかしながら,海外の研究者との交流というと,もう一歩進んでいません。「活発に行なわれている」とは言えない状況です。やはり,学術研究の質というのは,世界の学者と勝負できる,ということが保証されないといけません。そういうことからも,看護もどんどん国際化が進んでいけばよいと思っています。
 JANSの国際学術集会というのは,公用語は英語としており,演題発表も英語で行ないますが,日本の学会が世界の方々をお招きして開催するもので,純粋な国際学会とはちょっと違います。本来の国際学会というのは,日本ならばJANS,米国ならばどこかのアカデミーというように,質を同じくするさまざまな国の学会が参画して1つの国際学会を組織し,しっかりとした本部を置いた上で,学術集会を持ち回りで開催する,というものだと思います。そしてそこできちんと研究が評価され,必然的に質を問われる研究が生まれるとなればすばらしいことです。早くそういう学会ができればよいなとは思っています。
 実は,JANSの将来構想委員会の席で,私たちは「少なくともアジアの国々の方たちと同じような学会組織が作れないかしら」ということを提言しました。それぞれの国にはさまざまな文化があり,その文化に根ざした看護があります。アジアでしたら文化圏は近いものがありますし,その中で行なわれている看護を,もう一度見直してみたらけっこうおもしろいのではないかと考えたわけです。JANSの国際交流委員会では,現在アジアの人たちのネットワーク強化を前提として活動を始めています。
 しかし,中国や東南アジアの方たちは,まだまだ欧米に目が向いています。かつての日本の認識と同じですね。それはそれで意味があるのでしょうけれど,同じ文化の中で語り合うというのも,また1つ意味があるのではないかと思っています。
 具体的な動きとしては,ハワイ大がイニシアチブをとり「アジアカンファレンス」を開いています。これは学会という位置づけではありませんが,アジアの人たちで実践・教育・研究について交流をしていこうというもので,1999年にハワイ大で第1回目を行ない,昨年第2回を三重県立看護大で開催,第3回目は千葉大が担当します。これからどのように交流をしていこうかと,まだ模索している段階ですが,1つの足がかりとして成長していけばよいと思っています。

●地球規模で考えたい「よりよい看護」の実践

「人によりそう看護」とは

――メインテーマを「人によりそう看護」としたのはどのような理由からでしょう。
前原 プログラム委員会の中で,「21世紀となった今,改めてもう一度看護の原点を見つめ直したい」という意見がありました。看護をする人と受け手が心を通わせていなければ,本当の意味での「よい看護」はできないという,言ってみれば当たり前のことなのですが,そのためには原点にかえり,当たり前のことが実際にはどれだけ実現されているのかを話し合うことも必要だということになりました。そこで,キーワードに「よりそう」をあげたのです。
 この「よりそう」という言葉は,日本語としてはとても温かい響きがあります。あまりアカデミックな言葉ではないかもしれませんが,いろいろと深い意味があるのではないかと私たちは考えています。ただ,「よりそう」という言葉を英語に訳すのはとても難しく,ローマ字で「yorisou」としようかという話も出ました。しかし,それでは通じないということから,「holistic approach」となり,英文のテーマは「A Holistic Approach:A Better Quality of Life for All-In Search of Core Principles for Nursing in the 21st Century」としました。
 この「よりそう」ということの意味を,学術集会の中で討論できればと,プログラムを企画しました。具体的には,基調講演や駅伝シンポジウムで,それを実践していこうと考えています。まずは人間と人間,個と個との間で「よりそう」ことによって生じてくる現象を1つのテーマとして取りあげ,そこから看護を受ける人間とは,家族の一員であり,さまざまな環境の中で生活している地域の一員でもあり,国の一員,最終的には地球規模にまで広げて,どのようによりそっていけば,よりよい看護ができるのかを考えてみたいと思っています。
 基調講演としては,ジーン・ワトソン先生(コロラド大)が「個と個との間で生じる『人によりそう看護』」をテーマに,またバーバラ・ボワーズ先生(ウィスコンシン大)が「集団や地域で生じる『人によりそう看護』」を,さらにダルニー・ルトゥコラカーン先生(タイ・コンケン大,現三重県立看護大)が「地球レベルで『人によりそう看護』」をテーマに話されます。
 そして,これらの基調講演を受けて,駅伝シンポジウムを2つ企画しています。その1つは,個と個の間で生じる「人によりそう看護」を,もう1つは,人と環境と社会との調和を生み出す「人によりそう看護」を討議していきたいと考えています。
 また,会長講演,基調講演,駅伝シンポジウムの成果のまとめとして,最終日にパネルディスカッションを行ないます。ここでは,会場の参加者とともに,メインテーマについて論じ合いたいと思っていますが,「よりそう」という言葉を,どこまで違う言葉で討論できるか,ディスカッションをまとめるのも難しいですね。
 その他に,公募の形でのワークショップやインフォメーション・エクスチェンジ,また市民公開講座も企画しています。

国際的な力を養うために

前原 日本人は「国際化」に弱いと思います。東南アジアの方たちをみていますと,本当に国際的に活躍していらっしゃる。言語の問題もあるかもしれませんが,そう考えますと「日本人というのは狭かったのかな」と感じます。ですから,本当にどんどん国際化を進め,「日本の看護はここまで進んでいる」と,訴えたいという思いがあります。そういう意味でも,本学会が,厳密には本当の意味の国際学会とは言えないのかもしれませんが,1つの土台となれればと思っています。日本人ばかりがいるところで,なぜ通訳をつけて英語で発表をしなければいけないか,と考えると,「おかしいなあ」と思うこともあります。でも,そういうことから慣れていって,どんどん外へ出て行けるように力をつける。そのようなことを,本学会に参加し学んでいただければと思います。
――どうもありがとうございました。

●日本看護科学学会第4回国際看護学術集会プログラム

【メインテーマ】人によりそう看護-21世紀に原点をみすえる 「A Holistic Approach:A Better Quality of Life for All-In Search of Core Principles for Nursing in the 21st Century」
◆開催日:8月29-31日
◆会場:津市・三重県総合文化センター
【プログラム】
◆会長講演:人によりそう看護(前原)
◆基調講演 I:個と個の間で生じる「人によりそう看護」(米・コロラド大健康科学センター ジーン・ワトソン),同 II:集団や地域で生じる「人によりそう看護」(米・ウィスコンシン・マディソン大バーバラ・ボワーズ),同 III:地域レベルで「人によりそう看護」(三重県立看護大 ダルニー・ルトゥコラカーン)
◆駅伝シンポジウム I:「Partnership with Dignity-Human and human relationship」,同 II:「Nurses' Collaboration for Health Promotion in Cities & Rural Communities」
◆パネルディスカッション:「人によりそう看護」
◆一般演題発表
(1)Physiological nursing,(2)Critical care,(3)Trauma nursing,(4)Oncology nursing/Palliative care他,30テーマ
※他に,インフォメーション・エクスチェンジ,ワークショップ,市民公開講座,等
◆連絡先:〒460-0008 名古屋市中区栄4-2-7 栄イーストビル
 (株)インターグループ内「JANS」係
 TEL(052)243-2404/FAX(052)263-6298
 E-mail:jans-mie@intergroup.co.jp