医学界新聞

 

ACLSの実践的トレーニングに最適の1冊

不整脈判読トレーニング
Ken Grauer,Daniel Cavallaro 著/高尾信廣 訳

《書 評》大野博司(飯塚病院研修医1年・千葉大卒)

 昨年から,『ACLSマニュアル』(青木重憲著,医学書院刊)をテキストにして,同級生や下級生と一緒に学生主体のACLS勉強会を続けてきた。そして,ACLSを学んでいく中で,心停止や救急時においては,心臓の状態を適切に把握することが適切な治療につなげるために必須であることに気づいていった。その中でも心電図の解釈は重要な位置を占めている。
 そのようなACLSを学ぶ学生や,将来循環器を必ずしも専門としないであろう学生のために,救命救急の現場での心電図の評価や不整脈の判読について,実践的にトレーニングできる適切な本をずっと探していた。
 しかし,今まで出版されている書籍の中で,心電図・不整脈といえば,循環器専門医のために書かれた詳解な本か,学生向きの基本的な本が大多数だったように思う。そしてそれらの本は実践向きというよりも,むしろ調べるための本という性格のものが多かったのではないだろうか。そのため,少しでも実践的な不整脈のトレーニングができるよう,ACLSをともに学んでいた学生有志で,自分たちなりの不整脈判読のトレーニングテキストなどをまとめたりしながら,少しでも救命救急における不整脈トレーニングができるように工夫していた。

日常臨床に活かすことを目的とした実践的な書

 そのような中,今回出版された『不整脈判読トレーニング』は,日常臨床の現場でよく直面する不整脈に対して,すばやく認識・解釈し,対処する方法を,短期間でマスターできるように意図されている本である。
 原著タイトルである“ARRYTHMIA INTERPRETATION-ACLS Preparation and Clinical Approach”の名前が示すように,この本は米国でのACLSコースに携わる著者によるものであり,不整脈判読を日常臨床・救命救急に生かすことを目的とした実践的な本である。
 本書は,以下の2点でとても優れた本であることがわかる。まず,心電図が示す「心臓の電気的活動」は,バイタルサインが示す「心臓のポンプとしての機械的活動」を評価してはじめて臨床の現場では意味がある,ということをきちんと教えてくれる。また,不整脈理解のための,簡潔でありかつ系統的な4段階のアプローチ方法((1)リズムは整か?,(2)P波はあるか?,(3)QRS幅は広いか狭いか?,(4)P波とQRS群に関係はあるか?)を用いることで,一見すると難解そうにみえる不整脈に対しても,判読を十分可能にしてくれる点である。

どのようなレベルの読者にも有用

 系統的にアプローチでき,どのようなレベルの読者にとっても有用で,そして何よりも日常臨床・救命救急の現場での実践的な不整脈判断に対処することを可能にしてくれる,非常に有用な1冊であることを,読んでいく中で何度となく実感した。本書を用いて不整脈判読をトレーニングし,致死的な不整脈や危険な不整脈をすばやく認識して,適切な治療につなげることで,今後患者の利益につながっていく助けになればと感じている。
 最後に,この本を読むにあたって,ディバイダー(キャリパー)を常にもつことを奨めたい。
B5・頁216 定価(本体3,500円+税) 医学書院