医学界新聞

 

ACLSワークショップ参加体験記


大きな収穫があった「春休みACLS」

金子 芳(東女医大5年)

 東京で今世紀はじめの桜が満開になった日,春休みACLSワークショップが無事終了した。あっという間の3日間。参加者,開催者双方のモチベーションが高まりあって,予想以上,期待以上の大盛況だったように思う。

学生同士で教え教わる

 通常では全4回4日間で構成されている勉強会を2日間に凝縮し,さらに3日目にはMega-Codeまでやってしまおう,という計画を知った時には,正直,「大丈夫かなあ」,と心配した。当日の混乱をできるだけ防ごうと,スタッフ各々が慎重に準備を進めていった。担当講義の内容整理,再確認,実技のフォーメーションの検討,全体の構成や物品の借用・入手・搬送,会場の手配,多くの資料作成や管理等々……それぞれが国家試験や学校のプレゼン,定期テスト,あるいは人生の一大イベントを控えた中で,確かに楽なことではなかった。
 しかし,だからなおさら,参加者の真剣な表情や,会場の熱気,何気ない優しい一言に充実感を覚え,最終日の懇親会にはおいしいお酒を飲むことができたのではないだろうか。
 現場での実際。学生だからこそしっかり押さえておきたい病態生理。目からウロコの心電図判読のコツ。参加者,開催者の枠を越え,教え教わったことは数え切れない。
 本当にさまざまな収穫があった。
 遠方より,あるいは近隣より来られた方々の地で,この収穫が種となり,美しい花が咲くことを疑わない。
 最後になりましたが,元気いっぱいの学生を温かく見守り,快く機材を貸してくださった関係各所各位,そして,このワークショップを開くことのできた環境に感謝します。
 またの再会,そしてこれからの新しい出会いを楽しみに。


大切だと信ずることを自分たちで学ぶ

八藤英典(名市大6年生)

 僕が,ACLSと出会ったのは,5年生の夏でした。ある研修指定病院で,研修医の先生方が人形を使って,ACLSを練習されていたのです。ACLSという言葉は4年生の時に講義で聴いて知ってはいたのですが,具体的な内容までは詳しく知りませんでした。

初めてACLSを見て愕然

 5年生の春から病院実習が始まり,僕も,心肺蘇生をする機会はあったのですが,その時には,心臓マッサージをしただけでした。その患者さんには,心電図がつけられることもなく,ただ,アンビュバックによる人工呼吸と心臓マッサージが行なわれただけでした。結局,1時間近く心肺蘇生をし,ご家族の「もういいです」という言葉で,心肺蘇生は終わりました。
 その時は,「できるだけのことはやったんだ」という気持ちがありました。しかし,研修医の先生がACLSを練習されているのを見て,僕は愕然としました。1時間心臓マッサージをして,ご家族が納得されたから,「できるだけのことをした」とは言えないと痛感したからです。つまり,現時点で,その患者さんの病態に対して,最も有効であると認められていることを行なって初めて,「できるだけのことをした」と言えるのだと気づいたのです。それが,まさにACLSでした。

ACLSをできずに後悔したくない

 心肺停止の患者さんに,いつ遭遇するかもしれないし,また,一生遭遇しないかもしれません。しかし,僕は,そのような患者さんに出会った時に,ACLSができずに終わってしまったら,絶対に後悔すると思いました。また,患者さんのご家族にも顔向けできない,と思ったのです。それが,ACLSを勉強したいと思ったきっかけでした。
 ところが,大学では教えられていないし,医者になってからどこかで学ぶ機会があるのかというと,そういう機会も,ACLSを意識していないと得られません。アメリカでは,医師も看護婦も,3年に1度,ACLSの試験があるというのに,不思議だと思いました。
 「それなら,自分で勉強するしかない」と思い,研修医の先生が使っていた本を購入し,読み始めました。読み始めて気づいたのは,勉強会やワークショップという形で,多くの人間が集まって勉強することが,とても効率がよいということでした。
 本を読んでいるだけでは,刻々と変化する心電図をチェックしなくてはいけないという緊張感もありませんし,間違ったことをしても,指摘してくれる人もいません。1人で本を読んでいても,学べることに限界があると感じていたちょうどその頃,このACLSワークショップを知りました。

ともに学ぶことがいかに楽しいか

 ワークショップに参加して,最も強く感じたのは,大切だと感じていることを自分たちで学ぶことの楽しさです。大学で教えられていなくても,大切なことはあると思います。そういうことは,大切だと信じて,自分で勉強するしかないのですが,この勉強会のようにACLSが大切だと思っている人間が集まり,一緒に勉強するのは,1人で勉強するよりも,ずっと効率がよいし,何より,心強いのです。また,違う大学の学生と将来について,勉強について語るのも,すごく刺激的でした。
 「大切だと信ずることを自分たちで学ぶ」その楽しさを実感できたワークショップでした。


明日,緊急事態に遭遇するかもしれない

永井恒志(金沢医大5年)

 救急医療を必要とする事態は,いつやってくるかわかりません。しかし一度その事態が発生すればそこはまさに戦場。状況に応じて即席の蘇生チームが編成されます。そして要求されるのは秒単位での適切な治療法。だからこそ必要なのが統一された心肺蘇生法-ACLSなのです。
 私が救急医療の必要な事態に偶然遭遇する機会は一生ないかもしれません。しかし一方で明日あるかもしれないのです。そして後者の可能性に居合わせた時に私がBLS,ACLSを知っているかどうかで目の前で苦しむ人の明日が決まってくるでしょう。だとすれば,医師になる自分が知らないわけにはいかない。私はそんな気持ちから今回,ACLSワークショップに参加しました。

チームプレイで行なうことの意味

 ワークショップでは,心肺蘇生のアルゴリズムが確実に身につくように口頭試問や実技試験が目白押しで,正直何回も頭がハングアップしながらの悪戦苦闘の3日間でした。しかし,基本から高度なレベルまでACLSを着実に身につけられるように精巧に組まれたカリキュラムのおかげで,とても楽しく充実したものとなりました。
 カリキュラムの最後には,Mega-Codeと呼ばれる救急シミュレーションがあり,さまざまな状況でさまざまに変化する患者さんの状態に応じた適切な治療法がとれるかどうかが試されました。ある時はライン確保係,ある時は人工呼吸・挿管係そしてある時はチームリーダーとして状況を適切に判断し,適切な指示を素早く出さなければなりません。私も含めて多くの方はチームリーダーの時に,判断や指示を間違えては患者さんの命に関わるという緊張から狼狽し汗びっしょりになります。一方,それ以外の時はやるべき仕事が決まっていて指示はしないので,意外に冷静でリーダーの指示の間違いなども容易にわかったりします。私はその冷静でいられた間にふと思いました。「これは医療ミスを防ぐことそのものではないか」
 そうなのです。リーダーだけではなく,各スタッフが統一のアルゴリズムを理解しているので,リーダーが不適切な指示を出してもそれを指摘することができるのです。治療に携わるすべての人がACLSを理解していることは,どのようなスタッフのチームであっても,一定の治療法を効率よく行なうことができるのと同時に,医療ミスを防ぐことをも達成しているのです。だからこそメディカル,コメディカル,一般の方までできるだけ多くの方にBLSやACLSを知ってほしいと思います。
 明日の蘇生率UPをめざして皆さんぜひACLSを学んでみてください。