医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


がん患者と向き合う医療従事者に

がん告知
患者の尊厳と医師の義務
 竜 崇正,寺本龍生 編集

《書 評》末舛惠一(済生会中央病院長)

がんをどこまで告げるか

 がんの臨床,がん末期の臨床に長く携わってきた私でも,この本を読み始めると,引き入れられて全部読んでしまうような所があります。たくさんの大切なことが書いてあります。
 私よりはるかに若い昭和43年卒の“四三会”の医師たちが,パッションとエネルギーを注入して本書を書いているからだと思うのです。読み始めて最後まで,それこそ一気呵成に読了しました。
 人が重い病を得て,医療者,家族に囲まれて,そこで苦しみ,悩み,考える魂がリアルに描かれます。
 あの世に行ってから“皆さんありがとう”と思っているか,“でもやはり…”と思っているか,です。
 読みながら,書評を書くのを忘れてしまうほど,心を打たれ,自分として苦吟する所もありました。
 がんの診断をして,そこでどこまで本当のことを告げるか。がんの種類によって経過の違うことがあるし,早期がんはその通りに告げることが多いようですが,でも患者さん当人の心の反応は,人さまざまです。私の知人の哲学の先生が,それでも頭の中が真っ白になって,早期という説明も頭に入ってこなかったという経験を語ってくれました(幸い後で誤診と知れ,笑いながら話してくれたのですが)。
 心が落ち着くよう時間を取り,ゆっくり落ち着いて医師の話を聞けるような場所で…,何回も会って段々に…という心配りとともに病名や病状は説明されなければならないのです。ちなみにこの友人は,数か月の後に“誤診”。当人は半ば怒りながら笑顔を見せましたが。

告知後に人を支える努力と経験

 “がん”という言葉が,このような知識人でもこれだけ仰天させるのですから,私たち医師もこのような仕事についている以上は,並の勉強(修行といったほうがよいかもしれませんが)ではだめだと思います。告げた後の心と身体のケアを通してその人を支える努力と経験が絶対に必要です。この本は,この点についても貴重な示唆に富んでいます。
 1998(平成10)年に,末期医療に関する意識調査が,健康政策研究事業として行なわれています(主任研究者 橋本修二氏)。一般人2,300人,病院,診療所,緩和ケアの医師2,300人,これらの施設に訪問看護ステーションを加えたナース3,100人のアンケート調査です。
 一般人では,病名告知を望む人が女性70%,男性77%。本人に告知するという医師はわずか40%,家族に告知する人は35%,本人の状況をよくみて告げるという答えが50%で,緩和ケア施設(ホスピスのこと)でも高率とは言えないのが現実です。
 私の勤めていた国立がんセンターでは,ほとんどの患者さんに告知していましたが,どうもこれは“がん”センターに来た患者さんだからできたとも考えられます。患者さんはそのつもりで来院しているからです。今いる済生会中央病院では,もっと告知率は低いのです。
 しかし,WHOの疼痛治療法は,医師もナースも熟知し,実行しています。先のアンケートでは,この疼痛治療の中味も知っているのは,一般には50-60%程度にすぎませんでした。

臨床家に参考になるがん告知の法的な考え方

 もう1つ,この本には法律家によるがん告知の法的な考え方と裁判事例が記載されています。これもわれわれ臨床医の頭では想像しにくいような発想であり,参考になります。
 患者の尊厳を守るためには病名や病状は告知すべきであるという理念の実現に向けて,読者も,著者たちとともにそれぞれの現場で苦闘しつつ学んでください。
A5・頁216 定価(本体3,500円+税) 医学書院


循環器診療に従事するすべての人の必読書

Grossman's Cardiac Catheterization,
Angiography and Intervention

第6版
 D. S. Baim,W. Grossman 編集

《書 評》高橋利之(東大・循環器内科学)

古典の地位を確立した心カテ教科書

 本書は,Baim教授,Grossman教授の共編著による心臓カテーテル法(心カテ)教科書の最新第6版である。本書の第1版が世に出たのは1974年であり,すでに四半世紀が経過している。今回の版より書名の先頭に“Grossman's”という称号が付けられており,本書が他の英文教科書(Cecil,Harrison,Hurstなど)と並んで,ある意味で「古典」としての地位を確立したことを示している。
 本書の歴史は,同時に心カテ発展の歴史でもある。心カテの目的は,かつては血行動態の評価を中心とした診断であったが,現在では冠動脈インターベンションを中心とした治療になっている。本版の序文にも述べられているように,若手の心カテ従事者は本法に対して,「すでに完成された技術体系」というイメージを抱いているかもしれない。
 しかし,心カテにおけるこの25年間の技術的発展は,まさに爆発的と言ってよいものであり,本書を熟読することによりその過程を追体験することができる。

ビジュアルの面で大きな進歩

 本版には,前版と比べて,内容があまり変化していない部分と大きく変化した部分がある。かねてから定評のある心カテ検査法の原理や心機能に関する記述は,前版より多少量を減らしたが,その詳細かつ論理的な説明は,現状でも類書を圧倒している。他方,冠動脈インターベンションに関する記述は最新なものに修正されており,また,末梢血管疾患の造影,インターベンション,プロフィルについての章がそれぞれ新設された。その反面,心電図専門家が主に従事する電気生理学的検査やカテーテルアブレーションについての章は廃止された。他方,本版より付録となったCD-ROMには,手技や造影所見のビデオが収められており,これはビジュアル面での大きな進歩である。
 以上述べたように,本書は,「古典」ないしは「理論書」としての一面と,最新の「技術書」としての一面を併せもっており,本版ではその性格ないしは志向がより明確となっている。したがって,循環器疾患の診療に従事するすべての者の必読書として,本書の重要性はますます高まったと言えよう。
頁943 21,870円 Lippincott Williams & Wilkins社


皮膚科スペシャリストとしてのあるべき姿を問う

皮膚科専門医Clinical Exercises
宮地良樹,橋本 隆 編集

《書 評》窪田泰夫(香川医大教授・皮膚科学)

 本書は2部構成からなり,第1部は皮膚科教科書に準拠した基礎的な内容からup to dateな最新の情報までを選択形式の問題とし,これに解説を加えて,各自の知識の確認や理解をめざすものである。また第2部はいわゆる用語解説集として皮膚科領域のトピックス的なキーワードを平易にまとめているものである。しかも近年注目されている内容が多岐にわたり,抜かりなく紙面を割いている点は編者に敬意を表したい。

知識や診断力のpolish upに

 本書のように問題形式で問われ,それに答える方式も知識の理解,習得,さらにその自在な活用にあたっては有益な方法の1つであろう。単に〇,×というのではなく,どの点が不備であったのかなどについても検討することが可能である。これまでも欧米の皮膚科雑誌では毎号テーマを設けて教育講座的な総説とそれに関連した選択式の問題が記載してあったり,現病歴とともに臨床や組織の写真を提示しての診断名クイズなどもあって,知識や診断力のpolish upに役立っている。月刊誌『臨床皮膚科』においても1994年より毎号,いわゆる“Clinical Exercises”として選択形式問題とその解説があり,皮膚科専門医試験をめざす医師のみならず,既皮膚科専門医の生涯教育にも大いに有用であった。第1部の問題と解説はこの内容の再編収録にさらに補強を加えたもので,第2部との上手な併用により現時点で皮膚科専門医に求められる皮膚科領域の最新知識の習得が可能となっている。
 編者がその序文で述べている内容も月並みではなく,皮膚のスペシャリストとしての皮膚科医のこれからのあるべき姿にも言及している。特に文中にある“皮膚科医の気概”とは,まさにプロとしての仕事は生涯が修業であり,卒業はありえないということかもしれない。その意味では本書は皮膚科専門医試験対策のみならず,日常診療に携わるすべての皮膚科医にとっても役立つ情報が数多く取り入れられており,利用価値の高い1冊である。
B5・頁176 定価(本体5,800円+税) 医学書院


花粉症診療に必読のテキスト

〈総合診療ブックス〉
花粉症診療の質を高める
内科医への20の診療ナビゲーション
 榎本雅夫,福井次矢,藤村 聡 編集

《書 評》吉田 修(日赤和歌山医療センター院長・京大名誉教授)

増加著しい「第2の国民病」

 近年,花粉症(スギ花粉症)や鼻アレルギー患者の増加は著しく,日本人の17%にみられ,「第2の国民病」とさえ言われている。また先頃開かれた国際シンポジウムにおいても,アレルギー性鼻炎患者の4割に気管支喘息のあることが,世界保健機構と関連研究組織(ARIA)の協同研究で明らかにされ,世界的な注目を集めている。
 花粉症の治療には,いろいろな問題がある。患者はどの診療科で治療を受けたらよいのか迷う場合が多く,耳鼻科,内科,時には眼科などを訪れる。また,それぞれの診療科での治療もさまざまである。さらに,Evidenceに基づいた治療が行なわれているかは,はなはだ疑問である。
 本書は花粉症に対する診療の質を高めるために,専門家のためではなく,一般医や看護職のための実践書として書かれている。

保険診療のもとに医療の質も考慮

 また本書は,20の診療ナビゲーションからなるが,まず診断について,鼻粘膜の観察,問診のコツ,鑑別診断,特異的IgE抗体検査,皮膚検査,抗原の検査,副鼻腔のX線検査,鼻症状以外症状などの項目につき詳しく述べられている。特に,鼻粘膜の観察の重要性が強調されているが,内科医も花粉症の検査には鼻鏡を用いるべきであろう。
 治療については,経口薬処方,点鼻薬処方,点眼薬処方,初期治療それぞれのポイント,また妊婦,授乳婦,妊娠が疑われる人の治療,乳児・小児の治療,めがね・マスクの効用,ダニ・ハウスダスト対策などについて述べ,さらにトピックスとして増加の原因,遺伝そしてQOLにも言及している。
 全体を通じて,新しい電子メディア時代に相応しい,インターネット感覚の構成である。また保険診療のもとにいかに質のよい医療を行なうかを考慮しており,血清中特異的IgE検出の保険点数になどにも及んでいる。一般医にとってこれ以上懇切丁寧な実践書はあるまい。
 内容も豊富であり,花粉症診療の必読の書として推薦するにやぶさかではない。
 ただ,重複,説明不足,専門的すぎて難解な箇所などもある。次回の改訂時に修正することにより,さらに高い評価を得,また長く読まれる良書となることを信じている。
A5・頁184 定価(本体3,700円+税) 医学書院


大改訂された小児外科学教科書の決定版

標準小児外科学
第4版
 鈴木宏志,横山穣太郎 監修/岡田 正,他 編集

《書 評》池田惠一(九大名誉教授)

 医学部学生および研修医に広く愛用されている『標準小児外科学』が大改訂されて,21世紀の初頭を飾って上梓された。

新しい世代の執筆陣が多数参加

 わが国で近代小児外科がスタートして約40年,その間に第一線で活躍した人々が次の世代に代わりつつある今日であるが,初版からの執筆者が大半勇退され,このたびの第4版では新進気鋭の方々が多数加わり,総勢約50名に及ぶ執筆陣である。まさに日本における小児外科の変遷と発展をみる思いである。
 本書は,医学生に対する小児外科の基礎的知識から,研修医に対する実地臨床のマニュアル的必要事項に至るまで網羅しており,最新の知見を随所に取り入れながら,適切明瞭な画像や図表を多用して理解しやすいように編集されている。医学生の必須学習事項と,研修医のためのさらに深い知識とは,大小の活字を使って区別する気配りもみられる。

各項目を新たな観点から見直し

 このたびの改訂では,各項目ごとに新たな観点から見直しが行なわれている。小児外科の基本となる総論的項目では,最新の知見を加えて内容の充実や項目の新設がはかられている。
 小児外科における最近の進歩と治療成績向上は,小児麻痺,人工呼吸器を駆使した人工換気法,呼吸補助療法などの呼吸管理,院内感染や周術期の感染の予防と治療,小児の特性に基づく水分,電解質,栄養などの輸液管理など,小児の基本的管理法の進歩に負うところがきわめて大きい。本書ではこれら基本的項目について,実際に選択して実施できるよう具体的に要点が解説されており,医学生,研修医のみならず小児外科スタッフも一読して益するところが大きい。
 また,出生前診断が小児外科に与えた影響は計りしれないものがある。本項では,出生前診断が可能な疾患が系統的に記述され,典型的な胎児超音波像が図示解説されている。重症の横隔膜ヘルニアや尿路系閉塞などは,出生後の治療では救命困難のため,さらに早期の治療として胎児治療が試みられつつあり,その要点が紹介されている。将来の発展が期待される分野である。
 新たな項目として内視鏡下手術が設けられている。本項では,小児のための器具や適応疾患別の手術手技が鮮明な図表を用いてわかりやすく解説されている。
 小児腫瘍も進歩の著しい分野であるが,総論では,小児がんの特性をよく理解して,診断手順をすすめ,腫瘍マーカーを選択して,治療法を決定すべきことが述べられている。治療法としては,手術とともに最近の多剤併用化学療法を適切に併用し,症例に応じて造血幹細胞移植や放射線療法を用いるよう,その要点が余すところなく説明されている。各論の神経芽腫,Wilms腫瘍(腎芽腫),肝悪性腫瘍,奇形腫群腫瘍などにおいては,わが国で研究開発された病理分類,病期分類や治療グループスタディなどがいたるところに取り入れられ,その成果が記述されている。飛躍的な治療成績の向上は明るい希望を与えてくれる。
 移植も最近進歩の著しい分野である。移植免疫の機構,免疫抑制剤から感染対策,免疫寛容,拒絶反応に触れ,肝,小腸,腎の移植について系統的に述べている。生体肝移植はわが国で特に発達した分野であり,ドナー選択の問題点,手術,免疫抑制,合併症,予後について詳述されている。20年前に当方で手術した胆道閉鎖症の女子が,その後に京大で生体肝移植を受け,術後9年の今日健在で,免疫抑制剤から離脱して不用となり,青春を謳歌しているとの年賀状を今春いただいた。この免疫寛容についても本項に詳述されており,教えられるところが多い。
 医学生,研修医の教科書として,また小児外科医やコメディカルの方々にとっても有益な参考書として,お薦めする次第である。
B5・頁312 定価(本体6,800円+税) 医学書院