医学界新聞

 

生活の質(QOL)の向上をめざして

市民公開シンポジウム「難病とQOL」開催


 さる4月15日,難病医学研究財団の主催(後援:厚生労働省)による市民公開シンポジウム「難病とQOL」(実行委員長=京大 福原俊一氏)が,「生活の質(QOL)の向上をめざして」をテーマに,東京・平河町の日本都市センター会館で開催された。
 難病医学研究財団(会長=日赤名誉社長 山本正淑氏,理事長=厚生年金事業振興財団理事長 吉原健二氏)は,「難治性疾患等に関する調査研究の積極的な推進,学術団体との連絡協調の促進,情報の収集および知識の普及啓発等,医学研究の積極的な振興を図ることにより,国民の健康と福祉の向上に寄与すること」を目的に設立された(1978年に「医学研究振興財団」として設立。1984年に「難病医学研究財団」と改称)。また,難治性疾患等に関する調査研究の実施およびその助成,難治性疾患等に関する情報の収集および知識の普及啓発などの事業を行なうとし,1979年より毎年国内および国際シンポジウムを開催している。さらに,「地域保健婦に対して難病患者の介護および生活指導等に必要な知識と基礎技術を,実際に難病患者の訪問看護,および難病の症例を通じて修得するための研修会」を「保健婦等研修事業」として開催している他,「難病情報センター事業」も展開している。


 今シンポジウムは,「難病医療の最終的な目標は,病気の原因を解明し,根源的な治療法を開発することだが,根本的な治療法がない状況では,患者本人および介護をする人のQOLを少しでも向上させることが重要な目標となる。難病患者のQOLの問題は,他の加齢性疾患や慢性疾患患者の問題と多くの共通点を有しており,これらの研究にあたっては,従来の生命医学の研究モデルのみでは不十分。社会学,行動科学,経済学,疫学,統計学など多岐にわたる分野の専門家が協同して研究を行なう必要がある」として企画された。
 なおシンポジウムでは,池田俊也氏(慶大)の司会のもと,(1)心と体を開いてQOLを高める-パーキンソン病の看護音楽療法から(健和会臨床看護学研 川島みどり氏),(2)睡眠時無呼吸症候群-肥満低換気症候群の合併症とQOL(奈良医大 木村弘氏),(3)動物が人にもたらすもの-医療・福祉への応用と課題(日本介助犬アカデミー専務理事 高柳友子氏)の3題が口演された。また,その後には会場を含めての総合討論(司会=慶大 武藤香織氏,写真)も行なわれた。

QOL向上のためのユニークな療法

 川島氏は,「難病という疾患を抱えながらも,生き生きと楽しく日々が暮らせれば」との思いから,パーキンソン病の患者に,ピアノによる生演奏の中でのトランポリンを利用した軽い運動と看護ケアを取り入れた「看護音楽療法」の試みを紹介。「即治療につながるものではないが,1人ひとりと向き合うセッションの中から効果はみられた」として,「なぜ有効なのかの根拠を示していく必要があると考え,生理的実証は難しいが,現在研究を進めている」と述べた。また,生演奏に関しては,「百人百様の患者像があり,その患者1人ひとりの動きに合わせるためには,その場での生の演奏が必要」と強調。看護音楽療法は,「安全性に基づいた上で身体と心を開くことにより,楽しさ,心地よさを味わい,身体がゆるみ楽になることから,セルフ能力の維持・促進につながり,QOLの向上に結びつく」とした。さらに氏は,今後の課題として,高齢者の自立(律)支援とともに,「これらの療法が診療報酬の評価対象になること」をあげた。
 木村氏は,「睡眠・覚醒リズムの障害は,国民における社会的問題」として,睡眠時に認められる呼吸障害がQOLの低下にいかに結びつくかを解説。氏は,「睡眠薬は,本当の意味での睡眠を促すのではなく,人工的に睡眠を作るにすぎない。睡眠障害は,他の原因を探る必要がある」と述べるともに,いびき症から睡眠時無呼吸症候群,肥満低換気症候群の診断や,低酸素血症との関連性についても概説し,「QOLの向上を念頭においた治療体系の整備が望まれる」と結んだ。
 高柳氏は,「動物介在療法(AAT;Animal Assisted Therapy)」の有効性について解説。AATとは,「基準に合致した動物が,目標が設定された治療過程の重要な役割を担う治療行為を指し,医療従事者により専門的治療行為として行なわれる。身体的,社会的,情緒的,そして認知能力の改善をもたらすために,またあらゆる場面で個々の,もしくはグループでのプログラムとして行なわれ,治療過程は記録と評価を必要とする」と定義づけられている。氏は,欧米ではAATが理学・作業・言語療法とならんでリハビリテーションに位置づけられていることを,スライドを多用しその実際を紹介。また,動物にも適性があることや,動物を介在することでの徹底したリスク管理の必要性を述べるとともに,「医療現場での補助療法の普及は,患者の自立,社会復帰の可能性につながる」ことを強調した。
 なお,総合討論の場では,「看護音楽療法」が話題となり,会場からは,利用料金,開催場所などの問合せが集中した。また,「いびきは何科にかかればよいのか」「睡眠障害の予防は」などの質問に対し木村氏は,「総合病院の内科(循環器科)に相談するとよいだろう」と回答するとともに,生活習慣病の改善が予防につながることを示唆。一方AATに関しては,人工動物(ロボット)の効果についての質問が出され,高柳氏は,「動物に感心・興味のない人には不向き。触れ合いを通じての感情が主となる療法のため効果は不明」と回答した。