医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


大腸内視鏡治療の新しいパラダイム

大腸内視鏡治療
New diagnosis and new treatment
 工藤進英 著

《書 評》丸山雅一(早期胃癌検診協会理事長)

 世に俊才,俊英と言われる人は少なからずいる。しかし,1つのことにかかり,飽くことなく真理の探求に情熱を燃やし続けることは,単に才能に秀でているだけの人間には決して成就できない業である。そして,工藤の一連の仕事を見続けてきた筆者は,今,ある種の興奮と戦慄を覚えながら,自分の心を震撼させているものはいったい何なのかを探りたい,と念じながら,この小文を書き始めている。

「発育形態分類」と「pit pattern分類」

 工藤が,この本の中で読者をその気にならせたいと思いつめていることが2つある。1つは,大腸腫瘍の「発育形態分類」であり,もう1つは,「pit pattern分類」である。
 前者について言えば,工藤は少数派であり,論争がなされるたびに,肉眼分類の基本的な思想とは何かという1点において,その考え方は理解されるものの,認知されるにはいたっていない。これは,雑誌「胃と腸」35巻12号(2000年)の座談会「早期大腸癌の肉眼分類-統一をめざして」の内容を見ても明らかである。
 後者は,前者のような純粋に思想的な問題ではなく,新しい分類法の提唱であるから,これを手段として活用する若い世代の内視鏡医はこぞって,その有用なることを強調するであろう。また,何よりも,患者が受ける恩恵という点においても,工藤の主張には妥当性がある。
 筆者は,前者を語る工藤の姿勢の中に,その本質を視る。この人は,確信に満ち,葛藤から自由な人格をその主張の前面に押し出して堂々としている。この姿勢は,三部作の最後というこの著書において簡潔だが鮮明に浮き出ている。そして,自分の思想を込めた内容が多く含まれている。
 筆者を震撼させているものを具体的に言うならば,それは,工藤が,「普通の研究者」に「創造的な闘い」を挑んでいるのだという確信である。筆者は,「普通の研究者」という言葉を先に書いたが,それは,「パラダイムを創造する科学者」(トーマス・クーン)として工藤を位置づけたいがためである。そして,われわれ,「普通の研究者」は,不世出とも言うべきこの創造的な研究者と同時代に生きていることの興奮を大事にすると同時に,批判的な立場を忘れてはならない。

大腸癌のパラダイムを変える

 大腸に陥凹型腫瘍が存在することを証明したことのみを取りあげても,工藤の業績は世界に冠たるものである。そこで,次なることは,これを武器にして,日本が工藤を前面に押し出し,西欧的な大腸癌のパラダイムをどのように変えていくか,ということである。武藤徹一郎氏が「推薦の序」で強調するように,今後は,欧米と渡り合うための戦略・戦術を考える時である。
 この本には,工藤の思想が多く含まれている,と書いたが,思想を多く語ることは,それだけ誤謬を犯す危険につながることも歴史に見る通りである。創造的な仕事の中で,ある種の考え方が確信に変わる時には,そこにいたる過程の中に,どれだけの証拠が存在したかを検証しなければならない。その意味において,例えば,「早期大腸癌の発育進展様式」は控えめに「早期大腸癌の発育進展様式の仮説」とすべきであろう。生物学における客観的事実とは,合理的で単純明快なものでなければならないものではなく,そこには,多くの紆余曲折が存在するものではないか。工藤の内なるものの中に,そのように考える余裕が生まれた時に,その思想は揺るぎないものになるはずである。それまでは,試行錯誤を繰り返しつつ思い滾る思想を熟成させ,戦略と戦術を練りあげてほしいものである。
 それまで,筆者は,工藤の思想に共鳴しながらも,あえて,批判的な立場を随所でとり続けるであろう。「パラダイムを創造する科学者」としての工藤を愛するがゆえである。
B5・頁176 定価(本体15,000円+税) 医学書院


日本の臨床の場にECT治療の導入を

ECTマニュアル
科学的精神医学をめざして
 本橋伸高 著

《書 評》樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院長)

欧米で常識となるECT

 電気けいれん療法(ECT)はわが国では長い間表舞台に立つことはなかった。だからといって,まったく過去の治療法になってしまったわけではない。一方,欧米では早い時期からECTの有効性,適応,安全性に関して学会を中心に検討が重ねられ,エビデンスをもとにしっかりした指針が作成されてきた。米国精神医学会(APA)のTask Force Reportが1990年に作成され,最近改訂版が発行されたと聞く。英国においてもRoyal College of Psychiatristsが1995年にsecond reportとしてECTハンドブックを出版している。
 この間の欧米の努力は指針の作成にとどまらず,より安全性の高い装置と方法を開発してきたのである。すでに1970年代には短パルス矩形波の治療器が開発され,欧米では今やこの装置を用いることが常識になっているのである。また,筋弛緩剤を用いた無けいれんECTが単科の精神病院においても行なわれている。なぜ,このような欧米との落差ができてしまったのであろうか。
 このたび,医学書院より出版された本橋伸高著の『ECTマニュアル-科学的精神医学をめざして』は,わが国ではじめてのECTに関するまとまったマニュアルである。著者はわが国のECT治療の遅れを最も嘆いている医師の1人である。しかし,著者はただ嘆くのではなく,自ら短パルス矩形波の治療器を輸入し,率先して臨床の場への導入に努力している。本書では第1章においてECTの歴史と現況,特に欧米とわが国のECTに対する姿勢の違いを述べている。先に述べた欧米での科学的態度がいかに大切かが理解される。第2章では具体的な症例をあげ,適応と禁忌,副作用が著者の経験と文献をもとに明確にされている。第3章はECTの基礎と題して,ECTの作用機序について総説している。
 第4章と第5章が本書のマニュアルの部分であり,最も著者が力を入れて執筆した部分と思われる。第4章はECTの実際が詳しく書かれており,臨床の現場で大いに役立つものである。第5章はECTの大前提であるインフォームド・コンセントを扱っている。著者の所属する施設における説明文書や同意文書が示されており大いに参考になる。また,入院形態と同意の取り方の問題についても言及されている。第6章は「ECTの新たな展開」と題して,著者自身がパルス波治療器を用いた経験が述べられている。

治療抵抗性の患者に対する責任

 本書を通読して,日本におけるECT治療の未発達を早期に克服することが,薬物療法や精神療法で改善の得られない治療抵抗性の精神疾患患者に対する精神科医の責任であるという,著者のメッセージが伝わってくる。同時に,1日も早くパルス波治療器が医療機器として認められ,現在使用されている原始的なECT治療器に置き換わることを切に願う著者の姿が浮かびあがる。
A5・頁112 定価(本体3,000円+税) 医学書院


学会が精力的に編集・刊行した超音波医学レファレンスブック

新超音波医学
第2巻 消化器
 日本超音波医学会 編集

《書 評》北島政樹(慶大教授・外科学)

 近年,画像診断に関する出版物および論文が実に多く刊行されていることは周知の通りである。とりわけ超音波に関するものが多く,いわゆる初学者にとってはどれを選択するか迷うところだろう。そのような状況下でこのたび,日本超音波医学会が編んだ本書は,種々の選択条件を満たし,その成り立ちからして大いに注目に値する。

臨床の第一線で活躍する医師らの手による

 まず,「序」の中で松尾裕英前学会理事長が記しておられるように,この企画は学会が主体となって刊行された1966年以来3冊目の成書であることがわかる。学会自体が世に問う形で精力的に編集し刊行を行なうことは過去に例をみず,大変なエネルギーと協力が必要であったと推察され,敬意に値する。加えて新世紀の要請に合わせて内容の大改訂をはかり,書名も『超音波医学』から『超音波診断』へ,さらに今回『新超音波医学』へと変遷をたどった経緯も興味深い。
 その第2巻「消化器」を読んでみて最も印象的であったのは,その執筆陣の新鮮さと熱意がひしひしと伝わってくることである。一般に学会主導の書物では通例として高名な大家が筆頭著者に並びがちであることは否めない事実である。しかし,本書においては筆者はいずれも現在一線の臨床の場で超音波診療に携わり,しかも学識・経験も豊かな医師で占められていることが見てとれ,このことは学会の自信の表われと言っても過言ではない。
 徒に冗長な説明を避け,要領よく項目別に解説が行なわれている点は容易に読め,しかもすんなりと理解できることは評価に値する。血流情報など必要な箇所にはカラー印刷がなされ,腹部消化器領域におけるこの種の情報がいかに臨床上有用かが示されている点も本書の工夫とうかがえる。必要最小限に止めた引用文献も特徴の1つである。

内科・外科など専門領域を越えて

 全般的な検査の進め方から始まり,各臓器に対する超音波検査の臨床的意義,局所解剖と正常超音波所見および正常におけるvariant,続いて代表的疾患の超音波所見という構成は,読者の気持ちを考えた企画・構成である。さらに急性腹症,外傷,術中超音波といった外科的な内容も豊富であり,最新のharmonic imagingなど造影超音波検査で締めくくっている点はさすがである。
 今回4分冊となった点が,読者にとって便利になったか不便になったかは判断の分かれるところであるが,本書が内科・外科等の専門領域を越えて横断的に消化器診療に携わるすべての医師にとって座右の書となることは確信している。
全4巻 B5・頁320 定価(本体8,000円+税) 医学書院


信頼できる小児心臓病学の教科書

Moss and Adams' Heart Disease in Infants, Children and Adolescents
第6版
 H.D. Allen,他 編集

《書 評》柳川幸重(帝京大教授・小児科学)

 Moss and Adamsの2001年版である第6版を入手した。第1版が出版されたのが1968年であり,以来,版を重ね,前版の第5版の発行は1995年なので,6年ぶりの改訂ということになる。表・裏表紙の色は,旧版を知っている読者には懐かしい朱色である。まだ2冊に分冊されていないころの旧版の表紙の色を思い出される読者がおられるであろう。もちろん旧版と異なり,第6版の表紙の下部は染色体と断層心エコーの図が掲載されていて,懐かしさの中に新しさも十分感じられる。もともと,小児循環器学の教科書としては定評のある教科書の新版であるうえに,このような懐かしい表紙を使われては,どうしても本棚に手が伸びてしまうわけである。
 前版の編集者であった,G.C. Emmanouilides,H.D. Allen,T.A. Riemenschneider,H.P. Gutgesellのうちお2人が退き,第6版ではH.D. Allen,H.P. Gutgesellに加えてE.A. Clark,D.J. Driscollが新編集者となっている。この第6版より,1冊の厚さが前版よりも薄くなった。また,目次が読みやすくなっているのに気づく。第5版では,大項目の活字が細字であり,逆に最小項目の活字に太字が使われていたため,大項目ごとにまとまりがわかりにくいものであったが,新版の目次には大項目に太字を用い,小項目には細字を用いるスタンダードな体裁であり,読みやすく,目標の事柄を探しやすい。また,前版では,できるだけ頁数を削減するためか,各項目の開始が頁の途中から始まる,いわゆる追い込みになっていて,これも項目ごとに分けられていない印象を与えていた。しかし,この第6版では,各項目がきちんと頁の最初から開始しているので,整理されている印象があり,これも読みやすさに一役買っている。

最先端の情報を盛り込む

 目次を見ると,まずBasic Conceptの最初の項に,新たにMolecular Determinants of Cardiac Developmentの項が設けられていることに気づく。心臓病学の教科書の最初にMolecularの概念が入ってきたことを実感し,この分野には疎く,その方面の知識を短時間にup-to-dateなものとする必要を感じている読者には,大変ありがたい。心臓病学において最も速い速度で進んでいる画像診断の分野は,Radionuclide Methods,Echocardiographyに加えて,Advanced Imaging Techniquesが設けられた。
 本を開いてみると,大変ビジュアルで,コンピュータ画像と思われるカラーの図表が多いのが目につき,本作りにコンピュータが本格的に使われ始めたなと感じさせる。これも読者に親切な変更であり,目に優しい。
 第5版では,バラバラに収められていた心電図関係の項目は,この第6版ではElectrophysiologyとして,Section Iの最後にまとめられている。Aの心臓刺激伝導系の発達の項目から,Gの突然死までに分けられ,電気生理的学検査・治療も含まれ,この分野の小児科領域での広がりを感じさせる。従来バラバラに読んでいた電気生理学の内容が1か所にまとまったことで,再興しつつある分野と言ってよい電気生理学に興味を持つ小児科医師には,まず,最初に読むべきものができたようである。
 各心疾患の項目に関しては,前版と比べて大きな変化はないが,Other Special Problemsの中の1項目であったPulmonary Vascular Diseaseが,新たにSpection Vとしてまとめられるようになり,肺血管,肺高血圧の部門に関する知見も多くなってきたことを感じさせる。

適切に情報を取捨選択したテキスト

 版を重ねている定評のある外国の教科書は4,5年ごとに改訂され,その内容は毎版驚くほど新しい。自分で一生懸命インターネットで検索して読んでみた論文の内容が,教科書にはもうまとめられていて,虚しい思いをしたという経験を持つ先生方も多いだろう。この第6版のMoss and Adamsもまったくそのとおりであり,いろいろ探し回る前に,まず,心臓関係の最新知識を調べるのに最も適している。心臓の専門医の仕事場は無論のこと,心臓を専門としない小児科医のオフィスにもぜひ,そろえておきたい心臓の教科書だろう。いくらインターネットで検索しても,検索結果である論文の重要性,信頼度の重みづけがわからないということは,日常経験するところである。情報の洪水となっている今こそ,適切に取捨選択された信頼できる内容の心臓の教科書として,この第6版Moss and Adamsの購入をぜひ勧めたい。
全2巻 1468頁 本体39,370円+税
Lippincott Williams & Wilkins社