医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


患者中心の標準的医療の実践をめざす医療従事者に必携

医師とクリニカルパス
臨床各科の実際例
 小西敏郎,他 編集

《書 評》高橋俊雄(都立駒込病院長)

臨床現場にクリニカルパスを導入した医師たちの記録

 これまでクリニカルパスに関する参考書はいくつかあったが,本書はこれまでのものと異なり,実際にわが国の実情に応じてクリニカルパスを作成し,これを臨床の現場に導入・実践してきた医師たちの苦労と成果を記載した実際的な書である。
 本書でも述べられているように,クリニカルパスは,医療の質の向上,治療・看護の標準化,医療経営の効率化,医療費の適正化,チーム医療の推進,患者満足度の向上など多くの利点がある。しかし,わが国のクリニカルパスの導入は,看護・コメディカルは積極的であるが,全体的には必ずしも十分進んでいない。これは医師の協力が得られないのが最も大きな理由である。医師の多くは,クリニカルパスは経営効率をあげるための一手法にすぎないなどと,本来の意義を誤解しているためである。
 本書では,実際クリニカルパスを各疾患に導入・実践した医師の立場から,クリニカルパスの利点,欠点について分析を行なっている。その結果,クリニカルパスは患者中心の医療を行なう上で,必須であると結論している。医師の視点から豊富な具体例を通して作成されたpatient orientedなクリニカルパスが示されており,ただちに臨床の現場に応用できる好著である。

病院管理・運営にも大きな示唆

 激動する医療情勢の中で,21世紀の医療はInformed Consent(IC),Evidence-based Medicine(EBM),情報開示などが強く求められ,また,DRG/PPSも近く導入されることになるものと思われる。そして,これまでのような個々の医師の裁量権に基づいた医療ではなく,医師・看護婦・薬剤師・栄養士・検査技師などが協調して,患者中心の標準的医療が求められるであろう。このような医療を実践するに当たって,クリニカルパスがきわめて有用であることが,本書を一読すれば理解することができる。
 また,クリニカルパスの導入は在院日数短縮や医療費の削減はもとより,病院の機能評価や医師の評価判定にも応用が可能であり,病院管理・運営の上でも大きな示唆を与えるものと編者らは期待している。
 このような意味から,本書は実際の臨床に携わる医師,院長をはじめとする病院管理にあたられる先生方などにとって,ぜひ目を通していただきたい,21世紀の最新書である。
A4・頁160 定価(本体3,000円+税) 医学書院


日進月歩の医学に対応する治療年鑑-眼科版の登場

今日の眼疾患治療指針
田野保雄,樋田哲夫 編集/大路正人,他 編集協力

《書 評》林 文彦(林眼科病院理事長)

 実地医家の日常診療に際して,必要に応じて全科に関する情報を手っ取り早く得るためには,医学書院から毎年刊行されている『今日の治療指針』が大いに役立つ。私自身もここ10数年来同書を愛用してきた。単なる教科書的な記述ではなく,日進月歩の医学に対応する治療年鑑的な内容のために,診察室の机上に置いて,折りに触れて繙くには格好の良著だったのである。
 しかし,以前に私もその眼科部門の一部を担当したことがあるが,眼科医療に関しては,他の科の医師を意識した案内書の域を出ることができなかった。その折,年々専門化の進んでいる眼科医療に的を絞りながら,しかも『今日の治療指針』の精神を受け継いだ専門書の発刊を夢見たものである。すなわち,開業医,勤務医,研修医の日常診療の現場に必須な最新情報を提供するのはもちろんのこと,眼科関連の看護婦や検査員の質向上に役立つ内容をも織り込んだ成書を考えたりした。
 ところが,今回発刊された『今日の眼疾患治療指針』を手に取ってみると,まさにそれらの希求を十分に満足させられるものと言えそうで,まことに有意義な発想と嬉しく思っている。

学生や研修医が困った時にちょっと開いてみる

 第1に,サイズがB6判となったため,机上に置いても鞄に入れてもかさ張らない。学生や研修医が困った時にちょっと開いてみる気安さがある。そのための項目の整理や行の隙間,色使いも適切であり,見やすい。座右の書としての体裁は上々である。
 800頁を越える内容を詳細に紹介することは難しいが,特に関心をもって読んだ角膜疾患,網膜疾患,緑内障など,的確に分類・記述されていて,前記の目的からして過不足のない内容である。涙器などの外眼部疾患や眼球運動などの神経疾患の項も,実地に面した研修医にとって大いに頼りになることであろう。
 年鑑的書籍の有難味は,特に諸種検査や使用薬剤編などにあると思われるが,本書はその点,まことに新鮮で有用である。しかし,今後の眼科学進展のスピードを考えると,元祖『今日の治療指針』のように,年々歳々の改訂,筆者の総交代などは無理としても,できるだけ早期の情報の入れ替えを期待したいところである。

中学時代の英和辞典のように愛用したい

 本書の序に書かれているように,「羊の皮を着た狼をめざした」という若い眼科医には響きやすい比喩に感心したが,私自身は,中学生時代にすり切れるまで愛用したコンサイス英和辞典の簡便と凝縮を連想した次第である。
B6・頁824 定価(本体18,000円+税) 医学書院


造血幹細胞移植に関する最新の情報を盛り込んだ1冊

造血幹細胞移植ガイド
H.j. Deeg,他 著/笠倉新平 監訳

《書 評》浅野茂隆(東大医科研・先端医療研究センター長,同附属病院長)

 本書の執筆者の1人H.J. Deeg氏と監訳者の笠倉新平氏は,骨髄移植の確立と業績により1990年度のノーベル医学生理学賞を受賞したE.D. Thomas氏の下で研究に従事した方々である。Thomas氏が骨髄移植の臨床応用に成功してから30年あまりが経過した現在,さまざまな医療技術の進歩や医薬品の開発により,移植の成功率は飛躍的に上がり,当初は実験的治療法であった骨髄移植も標準的治療法として認められてからは,医療に大いに貢献するようになっている。

新しい局面を迎えた造血管細胞移植

 最近における骨髄移植数の増加は,主に末梢血幹細胞移植や骨髄バンクを介する非血縁者間移植が増えたことによるが,わが国においても日本骨髄バンクが設立されてから非血縁者間骨髄移植は2000年11月16日で3,000例に達し,さらに臍帯血バンクもいくつか設立されるようになり,骨髄移植に代わる臍帯血移植も実際の医療として注目されるようになってきた。
 一方,ごく最近になって,フランスにおける造血幹細胞を用いた遺伝子治療の世界で初めての成功や,ミニトランスプラント(骨髄非破壊的治療法)といった移植法の試みが報告されるなど,新たな展開もみられつつある。このように「造血幹細胞移植」は,今まさに新しい局面を迎えていると言える。

移植に関心を持つすべての人に活用してもらいたい入門書

 本版は,10年ほど前に「骨髄移植」の入門書として出版された初版とは異なり,造血幹細胞ソースとして骨髄移植だけでなく末梢血や臍帯血についても,さらに多彩となった適応についても,漏れるところなく記載されている。
 その内容も,移植前の検討事項,ドナーの選択方法,幹細胞の採取法,移植の手技,移植後の長期にわたる問題点など,移植に関するすべてに最新の情報が十分盛り込まれている。また,訳者の先生方もわが国において造血幹細胞移植のリーダーとしてずっと活躍されているので,その記述は明確で,内容的にも非常にわかりやすいものになっている。造血幹細胞移植に携わっている血液専門医や癌治療に携わる医師,ナース,臨床検査技師などはもちろん,移植には直接関わりのない方たちにとっても,移植に関する全般的な知識を得ようとしている多くの方々が本書を活用されることを切に願っている。
A5・頁272 定価(本体4,600円+税) MEDSi


ホームケアスタッフの「バイブル」

〈総合診療ブックス〉
ホームケア・リハビリテーション基本技能

石田 暉,前沢政次 編集

《書 評》神津 仁(神津内科クリニック)

 欧米など先進諸国におけるホームケア(在宅医療)は,従来,行なわれている外来診療,入院治療に続く「第3の医療」と位置づけられて久しい。一昔前のように,住環境が整わず,衛生面での管理が患者の居宅では難しかった時代にあっては,病院という箱型医療が国民にもたらした利益は大きなものであった。しかし,最近のように住環境が整い,個人のニードも多様化して,かつそれを充足することが可能な現状にあっては,より自由度の高い在宅医療へとシフトしつつある。その意味では,こうしたホームケア・リハビリテーションの入門書をタイムリーに出版した著者らの見識に敬意を表したい。

在宅リハの望ましい姿

 本書はまずホームケア・リハビリテーションの最も望ましい姿をイラストで見せて,読者に全体のイメージ作りを促す。しかし,簡単そうに描かれているこの社会復帰のプロセスには,実に多くの知識とノウハウが必要であることは言うまでもない。そのために本書は,基本技能として必要な「褥瘡」「排尿障害」「関節拘縮」から「コミュニケーション障害」「在宅福祉用具」まで,12の項目をあげて丁寧に説明を加えている。また,頁のあちこちに「Note」,「Clinical Pearls」といった用語解説やミニレクチャーが散りばめられていて,在宅医療やリハビリテーションに馴染みが薄かった読者でも,より深い理解を得られるように工夫されている。

スタッフ同士の共通の知識基盤に

 在宅医療に携わる各々のスタッフ同士がコミュニケートするためには,共通の知識基盤が必要で,そのために本書が果たす役割は大変大きいと言える。病棟で働く医師や看護婦は,ポケットに厚手のマニュアル本を入れて常に自分の知識を確認しながら診療を行なっているのだが,今後は本書のようなコンパクトで使いよいマニュアルが,ホームケアスタッフのポケットに入れられて,「バイブル」として活躍するだろうことは間違いない。ぜひ訪問の際には携帯したい1冊である。
A5・頁204 定価(本体3,700円+税) 医学書院


治療の裏づけとなる正確な診断を盛り込む

大腸内視鏡治療
Endoscopic Treatment of Neoplasms in Colon and Rectum-New Diagnosis and New Treatment

工藤進英 著

《書 評》安富正幸(近畿大教授・外科学)

大腸内視鏡は重要な治療手段

 工藤進英氏による『大腸内視鏡治療』が上梓された。今日では大腸内視鏡は単なる検査手段ではなく,重要な治療手段である。本書は『早期大腸癌』,『大腸内視鏡挿入法』(いずれも医学書院刊)とともに工藤氏の三部作である。その中でも本書は治療に主眼を置いているが,治療の裏づけとなる正確な診断が十分に盛り込まれている。工藤氏は1993年『早期大腸癌』を出版し,当時は“幻の癌”であった平坦・陥凹型の癌が存在すること,さらに摘出標本の実体顕微鏡的観察から,腫瘍の組織型や癌深達度とpit patternが深く関係することを証明された。この研究は拡大電子内視鏡の開発に進み,今日の拡大電子内視鏡診断による病変の質的・量的な診断が可能になったのである。
 わが国においては癌をはじめとする大腸疾病の増加が大きな社会問題となっており,近い将来に大腸癌が癌死亡の第1位になるだろうと予想されている。大腸癌に対する検診の重要性,特に内視鏡検査による精密検査の必要性が叫ばれている。内視鏡技術の向上と内視鏡医の増員こそは,現在の日本にとって最大の急務であるといっても過言ではない。
 工藤氏が今から8年前に大腸の平坦・陥凹型の癌の存在を強調された意義は大きい。この平坦・陥凹型の早期癌は早期胃癌に馴染んできた日本の医師には違和感なく受け入れられたが,欧米の内視鏡医や病理学者にとっては青天の霹靂とも言うべき新事実であった。今でもその傾向がある。さらに工藤氏はこれらの病変の長期間にわたる観察と詳細な病理学的な診断から,今回の『大腸内視鏡治療』を執筆された。
 最初に述べたように,内視鏡は単なる検査手段ではなく早期の診断・治療,それも最も低侵襲性の期待できる治療手段である。内視鏡治療は最も望まれている治療であるし,一般診療医の必須の知識と技能でもある。本書では「安全な治療の基礎となる内視鏡挿入法」に始まり,一人法による軸保持短縮法の有用性と手技を中心に平易に説明されている。長年にわたる経験から実に安全で簡便な挿入法が示してある。
 次の「大腸腫瘍に対する最近の考え方」では,今までの工藤氏の理論が美しいカラー図をふんだんに使って示されている。これまた理解しやすい。「早期大腸癌の内視鏡診断」では,大腸病変の隆起型や平坦・陥凹型の大腸病変の存在診断から質的診断,さらには量的診断,つまり深達度診断の理論と実際が平易に説明されている。この質的・量的診断は治療の根幹をなす所見である。さらに,多数の症例の長期にわたる観察データは病変の将来予測を示しており,治療指針として不可欠のものである。

豊富な症例と長期にわたる観察から記述

 「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」は本書の核心部分であって,内視鏡治療の適応では単に内視鏡診断に基づいた治療だけではなく,肉眼形態と大きさから見た適応,深達度診断から見た適応,EMRの手技と続く。基本的な手技や器具からコツに至るまでわかりやすく書かれている。大腸内視鏡治療で最も嫌われるものに合併症がある。「内視鏡治療の合併症」の章では,いかにして合併症がなく安全に,しかも完全に病変を切除することができるかが7万例の経験の中から述べられている。
 多数のカラー写真と膨大な症例を使って技術と理論の根拠が明快で平易に説明されている本書は,大腸内視鏡に関係する医師や看護婦が一度は読む価値のある必携の書であると言うことができる。
B5・頁176 定価(本体15,000円+税) 医学書院


今,まさに主役となる公衆衛生学

ヘルスケア リスクマネジメント
医療事故防止から診療記録開示まで
 中島和江,児玉安司 著

《書 評》中島 伸(中河内救命救急センター)

 「渡米してまず驚かされたことは,日本では医学部の中の一講座である公衆衛生学が,米国では公衆衛生大学院として医学部に匹敵する規模と影響力を持っていることでした」これは本書の「はじめに」にある著者の言葉である。

米国のエネルギーの一端を感じる

 わが国の基礎医学や臨床医学が世界にひけをとらないばかりか,リードさえしているのに対し,社会医学である公衆衛生学の分野では,残念ながら米国のパワーに圧倒されてしまっているのが現実であろう。
 本書『ヘルスケアリスクマネジメント』は,その米国のエネルギーの一端を感じさせるものである。
 著者の中島和江氏は,研修医時代にわが国の医療現場が抱えるさまざまな矛盾に直面し,これらの問題に正面から取り組むべく米国に留学した。ハーバード公衆衛生大学院で待ち受けていたのは,法律学や倫理学はもとより,統計学,経済学,そして医療政策にいたる厳しい授業と実習であったという。もちろんこの中に医療事故や医事紛争に関する講義も含まれていたことは想像に難くない(何といっても医療事故/医事紛争研究の第一人者,ブレナン教授を擁するハーバードである!)。
 再び著者の言葉を借りよう。
 「医療は医学であるとともに統計であり倫理でもあります。そしてまぎれもなく法律に規制されながら行なうビジネスなのです。これら多くの分野を学ばなければ医療の全体像を理解し,その本質的な問題に迫ることはできません」

米国流公衆衛生学の方法論を学ぶよいお手本

 医療の問題を理解するには単に医学を応用させるだけでは不十分であり,法律や経済など多くの分野を関連づけて学ぶことが必要であるという,言われてみればあたり前の著者の言である。
 本書は医療事故や医事紛争を理解するためのテキストであるが,それと同時に米国流公衆衛生学の方法論を学ぶよいお手本でもある。医療が巨大ビジネスであるがゆえに,また医療が訴訟のターゲットであるがゆえに,進化せざるを得なかった米国の公衆衛生学ではあるが,今まさに旬であることは間違いない。
 専門を問わず,わが国の公衆衛生学を担う研究者たちに,ぜひ読んでもらいたい教科書である。
B5・頁224 定価(本体2,800円+税) 医学書院