医学界新聞

 

新世紀に重要な役割を担う病態生理学

第11回日本病態生理学会開催される

松尾 理(近畿大学医学部教授・第2生理)


基礎と臨床を中継する

 第11回日本病態生理学会が1月27-28日の2日間,今永一成会長(福岡大教授)のもと,福岡大学医学部で開催された。この学会は名前のごとく病態生理学的見地からアプローチする研究手法が主体であって,純然たる「基礎医学」と医療の第一線にある「臨床医学」を中継するきわめてユニークな学会である。
 例えばシンポジウムとして,「脂質と細胞機能障害」,「神経細胞のイオンチャネルの機能と病態生理」,「糖尿病の病態生理」および「微小循環の病態生理」の4つが組まれていた。それらの演者は基礎から臨床まで幅広く,そのため講演を聴くほうも基本的なことから臨床のことまで1つのテーマについて総合的に理解できる。昨今,多くの専門学会ができ,それらが専門性を深めていく状況はそれなりに世界の研究の流れに沿って最先端を走るために必要かと思われる。
 しかし,その分野以外の人々にとっては専門性の故に内容がまったく理解できない事態になっている。これら専門分野だけの学会にはこの問題は避けて通れないことである。これら専門性の高い分野を横断的に眺めて,全体を通して個体の調節機構とその破綻という立場から統合的に見直してみようとするのがこの病態生理学会である。
 例えば,「神経細胞のイオンチャネルの機能と病態生理」のシンポジウムは,(1)in vivoパッチクランプ法によるセロトニン受容体発現の病態解析・卵巣摘出ラット脊髄における痛覚伝達の可塑性,(2)神経障害に伴う伝達物質受容体応答の変化,(3)細胞レベルでみたin vitro脳虚血と新しい治療手段,(4)脳・神経疾患病態モデルにおける神経細胞Cl-ホメオスタシスの変化,(5)イオンチャネルと全身麻酔という5演題があり,基礎から臨床まで幅広い内容である。その中味を病態生理という立場で貫き通しているので,基礎的な立場の人が臨床的内容を容易に理解でき,また臨床的な立場の人が基礎的内容を理解しやすいのである。

医学教育改革と病態生理学

 このような基礎医学と臨床医学を中継している病態生理学は,わが国ではまだ十分に認識されていない言葉であるが,内容を理解していただくと,新しいカリキュラムに最適の分野であることがわかる。
 即ち,文部省(現・文部科学省)の委員会は昨年11月にコアカリキュラムの試案を全国の医科大学に呈示した。その骨子は臓器・器官系別の基礎から臨床までの一貫したスタイルである。これは従前の講座に依存した「○○学」という名称の講義が並んでいたカリキュラムと大きく異なっている。臓器・器官系別のカリキュラムでは,病態生理学が一端の基礎医学から他端の臨床医学の治療・予後を有機的に結びつける重要な役割を占めることになる。
 大会ではそのような意味を踏まえて教育講演「病態生理学的研究と教育の試み-虚血心筋をモデルに」が企画されていた。非常にタイムリーな企画であり,また講演内容も学生にも理解しやすいように工夫が施されていた。事実,学生も聴講していたのには驚いた。
 昨今の医学教育カリキュラムの改革から病態生理学が医学教育の中心になるように,また医学部における基礎研究としては他学部では研究できない病態生理学的研究が主流となろう。このようなことから日本病態生理学会にさらなる関心が注がれることを希望する。