医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


ケアへのエネルギーが湧いてくる

<看護QOL BOOKS>
緩和ケア
 東原正明,近藤まゆみ 編

《書 評》野村明美(横浜市立大看護短大講師)

 看護QOL BOOKSシリーズから,『緩和ケア』が発刊された。がん患者の苦痛・苦悩に影響を及ぼす諸因子に焦点をあてQOLを高めるための取り組みが全篇を貫くよう構成されており,まさに「緩和ケア」のタイトルにふさわしい内容である。
 本書は,緩和医療を実践している方々が,患者や家族のQOLを高めることを根幹に,終末期の緩和ケアが多角的,包括的に述べられている。多角的,包括的記述は,5部構成で次のように展開する。第1部「生命の質と緩和ケア」,第2部「緩和ケアと患者の意思決定」,第3部「緩和ケア実施の場とその援助」,第4部「緩和ケアをめぐる看護の役割と機能」,第5部「QOLを基本にした緩和ケアの実際」である。

看護の本質としての緩和ケア

 このプロセスで,緩和ケアの背景が歴史的,世界的視野で述べられ,さらにわが国の現況と課題および展望がわかりやすく整理されている。例えば,第1部第2章「苦痛のコントロールの歴史と進歩」では,がん疼痛の治療法の確立がごく最近のことであること,そしてがん疼痛治療の歴史がWHO方式の確立前と後に分けられること,さらに歴史的考察とともに日本のがん疼痛緩和についての医療者の知識が十分ではないことをモルヒネ消費量の国際比較から指摘して,今後の課題と展望が述べられている。
 また,患者や家族の意思決定に医療者がどう関わるか,ホスピス,緩和ケア病棟,在宅での緩和ケアの実際,チーム医療の重要性と看護職の役割,諸症状へのケア等が具体的に記されている。そして何より緩和ケアにおいて最も重要なこと,患者との「真の出会い」,「患者の真の命を発見すること」が本書の根底に流れており,緩和ケアは看護の本質であることを確認できる。
 V.E. フランクルは人間の苦悩に光をあて,その価値を高く評価した。苦悩は人間を,無感動に対して,すなわち心理的凝固に対して,護ってくれる。苦悩する限り,心理的に生き生きしているとフランクルは言う。このことは,緩和医療に新たな視点を示し,患者とともに未解決の課題に立ち向かえる示唆を与えてくれる。
 「緩和ケア」を読み終えた時,これからの課題が確認でき,私自身緩和ケアを追求していくエネルギーが湧いてくる思いがした。緩和ケアに関心のある方にぜひ読んでいただきたい1冊である。
B5・頁312 定価(本体3,400円+税) 医学書院


リハ関係者が待っていた1冊

リハビリテーション患者の心理とケア
渡辺俊之,本田哲三 編集

《書 評》落合芙美子(日本リハビリテーション看護学会長)

 格別に暑かった2000年の夏に,熱い想いの本が届いた。『リハビリテーション患者の心理とケア』は,渡辺俊之,本田哲三両先生の編集による重厚な内容の本である(260頁)。
 リハビリテーション患者は,生活の場である病棟で,さまざまな心理的,精神的な面からの反応を表現している。感性豊かに反応に気づき心の交流を通して問題点や悩みやニーズに対応できれば,望ましいケアの展開とも言えるが,何も気づかなければケアの進展はなく問題や悩みやニーズに対しての問題解決は期待できないものとなる。

ケアは心の補装具になり得るか

 身体的な機能障害を有する障害者には,種々の評価の結果,片麻痺等では下肢装具を,あるいは脊損の方の車いす,聴覚障害者の方の補聴器,視覚障害者の方の眼鏡等いろいろな補装具が考えられている。しかし,心理,精神面の障害がある場合の心の補装具は装着できないのである。そのため看護婦はもちろんのこと医療従事者は,障害を受けてから障害受容そして社会復帰までの障害過程における心理的な変化,悩み,苦しみを十分理解しておかなければならない。本書は,系統的に各障害についてのリハビリテーション患者の心理とそのケアについて親切に解説してくれる。リハビリテーション医療に関与する者にとって待っていた1冊と言える。
 本書は,5章で構成されている。タイトル通り各障害別に心理の特徴を出し,各単元ごとに,ポイントの枠を作りまとめている点も理解しやすい。
 第 I 章の「リハビリテーション医療と心理」では,患者・治療・家族の側面から心理・社会的問題を提起している。さらに,リハビリテーション心理学の歴史も興味深いものがある。
 第 II 章は,障害者の心理的プロセスを理解する上で重要な「障害受容」である。
 第 III 章は,疾患,障害別に心理の特徴を記し,ケアとアプローチの事例を提示していて理解しやすい。
 第 IV 章は,QOLについて臨床研究を中心に述べられている。
 第 V 章,第 VI 章は,リハビリテーション医療現場での治療関係と障害者家族への関わりでの心理的な問題とケアについて説明している。
 第 VII 章では,治療場面での各専門職の立場から各々の心理社会的問題とそのケアについて書かれ参考になることが多い。
 第 VIII 章は,リハビリテーションの特徴であるチーム医療であるが,各専門職の力を最大限に発揮するためにチームワークが大切であることを強調している。
 リハビリテーション患者の心理に迫っていくことは大変困難なことが多く,そのケアも同様である。心の補装具になり得るか否かは,十分な知識の獲得と感性の豊かさと行動が求められる。本書は,医療者が本書に向き合えばその期待を裏切らない十分かつ重厚な内容である。高齢者,障害者の増加に圧倒される前にこのような本から栄養素をとっておきたい。
A5・頁260 定価(本体2,800円+税) 医学書院


医療事故防止へ元気を与えてくれる

ヘルスケア リスクマネジメント
医療事故防止から診療記録開示まで
 中島和江,児玉安司 著

《書 評》福岡富子(阪大附属病院看護部長)

 今や社会的な問題であり,すべての人々の関心事である医療事故防止は,医療現場における最大の課題である。各々の医療機関では,独自の方策で事故防止に最大の努力を払っているところであろうが,これは,医療事故に関する科学的な知識を得たり,医療事故を取り巻くさまざまな問題を理解する手立てが十分でない状況下での,手探りの努力であると感じていた。つまり,医療事故防止には,もっと科学的でもっとアカデミックな要素が不可欠であると感じていたのである。
 このような時,前述の要素を満たしてくれる書籍『ヘルスケア リスクマネジメント』が出版された。この書の魅力は,まず著者が中島和江氏だということである。氏は当院のジェネラルリスクマネジャーであり,現場でのつき合いの中から思うのは,米国の公衆衛生大学院で,医療事故を取り巻く諸問題を理解するためのさまざまな学問を修められたことはいうまでもないが,なによりも臨床現場をよく理解している人間性豊かな優秀な医師であり,魅力的な女性であるということである。わが国の医療事故防止の中心的役割を果たしておられるのは周知の事実である。この著者の実力と魅力が見事に統合された本書は,当然のことながら他に類を見ない。これが本書のもう1つの大きな魅力である。
 本書の特徴は,全体を通して,医療事故を取り巻く諸問題に対する米国での取り組みが詳細かつ明快に紹介され,併せてわが国の実態や取り組みの方向性および今後の課題が述べられている点である。加えて,法律,倫理,経済といった側面からもアプローチされていて,米国のエネルギーを端々で感じながら,興味深く読み続けることができる。とにかく,医療事故防止から診療録開示まで,知識,情報,方策などが満載されている。他方,充実した内容とともに,編集の方法も卓越している。表や図の挿入,MEMOの活用は,読者の理解を促し,読者を飽きさせない効力がある。
 臨床現場では,医療事故防止を推進する上で,焦りやジレンマを感じる場面も少なくない。本書を読み終わった後の充実感は,そんなマイナスのイメージを払拭し,元気を与えてくれること間違いなしである。

現実の問題点を解決するために

 以上述べたように,本書は,いわゆる医療事故防止の方法論のみを述べたものではない。とかく看護の世界は,「how to」ものが好まれる傾向にあることは否めないが,リスクマネジメントの概念や具体策,病院内での位置づけなどが確立されているとはいえない現状だからこそ,医療事故というものの本質を理解することが重要であろう。各々の医療機関で現状の問題点や課題を整理し,解決方法を検討する時,本書はかけがえのないテキストになると確信する。
B5・頁224 定価(本体2,800円+税) 医学書院