医学界新聞

 

【新春インタビュー】第15回日本がん看護学会学術集会長に聞く

がんサバイバーシップ:新しい看護の創造を!

小島恭子(北里大学病院看護部長,第15回日本がん看護学会学術集会長)


 本年2月10-11日に,第15回日本がん看護学会が,「がんサバイバーシップ:新しい看護の創造を!」をメインテーマに,横浜市のパシフィコ横浜で開催される。同学会の開催は,看護系の学術登録団体として21世紀最初の学術集会となる。
 本紙では,同学会の学術集会長を務める小島恭子氏(北里大学病院看護部長)に,学会のメインテーマである「がんサバイバーシップ」に関して,また,新世紀を迎えての看護のビジョンをうかがった。

(文責:本紙編集室)


多様化・複雑化する患者ニーズにどう応えるか

 21世紀が到来いたしましたが,今世紀におけるがんの診断・治療は20世紀に飛躍的に伸びました。これからはそれにも増して遺伝子治療などの要素が加わり,ますます進歩発展すると思われます。また,がん医療はこれまで以上に高度,専門,細分化されるでしょうし,それに伴いましてがん患者さんのニーズも多様化,複雑化するだろうと予測されます。その中にあって,がん看護の役割として考えられることは,まずがんの予防と早期発見のための活動であり,そして患者さんの自己決定と権利の擁護,チームアプローチの推進,がんとともに生きる人への教育・情緒的サポート,さらに医療制度の変革とともにますます拡大していくことになるでしょう在宅の問題として,そこにいる患者さんやご家族への支援などがあげられます。
 なお,それに対する私たちの責務としましては,がん看護に対する看護観・死生観・倫理観の醸成とともに,ケア能力の向上,倫理的問題の調整能力の向上が必須となるでしょうし,がん看護研究の推進もさらに重要となります。それから,すでに数名ながら誕生し,これからも増えていくでしょうがん看護専門看護師(以下,OCNS)・認定看護師の役割拡大と定着も大きな課題です。特に専門看護師については,夜勤がある3交替の看護職として数に含めるのか,といった規制の問題もあって,導入に難色を示す施設もあり,難しい要素でもあります。しかし,これからの看護を考えていく場合には,やはり役割を拡大させ,定着させていくことが重要となります。そういった意味からも,がん看護に携わる看護職は,「グローバルな視点に立った新たな看護の道」を見出していかなければならないと考えています。
 今回,第15回日本がん看護学会の学術集会長を引き受けるにあたっては,グローバルな視点に立った上で,メインテーマを「がんサバイバーシップ:新しい看護の創造を!」としました。

「がんサバイバーシップ」とは

 このがんサバイバーシップとは,アメリカのがん患者で組織される「がんサバイバーシップ連合」が示した考えで,「長期生存を意味するだけのものではなく,がんという疾患や治療効果の有無ということを越えて,がんと診断された時から人生の最期までがん生存者であり続ける」,という新しいがん生存の概念です。この連合は1986年に組織されたのですが,彼らの主張するところは,がんと診断されたら「余命は何年」というように規定してしまうのではなく,「その人らしく最期まで」がん生存者であり続ける,「その人らしく生を全うする」ということなのですね。高い生命の質の確保,家族を含めた地域支援,偏見のない社会,がん研究と教育の普及などを視野に入れた主張をしています。
 がんが慢性疾患として位置づけられ,医学的見地から5年生存率や治療効果を評価した生存期間を重視するものではなく,発病し,がんと診断された時からその生を全うするまでの過程を,いかにその人らしく生き抜いたかを重視した考え方とも言えます。不治の病に侵され,社会的な偏見にさらされてきたがん患者さんが,人権やQOLを問い,受身の姿勢から自らがその復権に立ちあがったわけです。がんと共存し,意味ある人生を生き抜くという,能動的な姿勢がそこにあります。
 一方で日本の看護界でも「その人らしさ」を尊重した看護展開が模索されてきていますし,その重要性も認識しているところです。そう言ったことから,本学術集会ではメインテーマとして「がんサバイバーシップ」を据えたわけです。この新しいキーワードはまだ市民権を得ているとは言い難いのですが,学会として新しい指標を設けることも意義あることと考えました。「死ぬために生きる」ととらえるのではなく,がんを「慢性疾患」ととらえていく。そしてそれを示していくことが重要と考え,本病院,そして看護学部と東病院の委員たちが集まり決めたテーマです。「がん=死」ではない,とのことで,がん患者さんの生き方を中心テーマに,変貌する医療を見据えた新しい看護の創造を語り合いたいとの思いで,全体のプログラムを構成しました。
 この「がんサバイバーシップ」は,シンポジウム「がんサバイバーシップを支える看護」として,患者さん,ご家族,医師,OCNSというそれぞれの立場の方にご発言いただくとともに,会場を含めてディスカッションができればと考えています。また,これからはOCNSの役割に期待することが大になるとの考えで,パネルディスカッションでは「OCNSの活動と効果」をテーマに企画いたしました。本学会では,がん患者さんが受けている心理的,身体的,社会的,スピリチュアル的なものから自分らしさを取り戻す看護について,ともに考える機会となることを期待しております。

看護が主体性を持つことの意義

 私は,昨(2000)年4月から看護部長に就任しました。それまでは部長補佐としまして,看護部が一体となって医療・看護を進めるための病院のシステム作りや戦略的なアプローチをしてきました。例えば専門看護師の育成・導入がそうですが,実際にアメリカへ行きまして,大学病院のCNSとともに行動することで学びを得てきました。そして,アメリカの業務規定を参考にCNSの育成を始めたのですが,病院運営会議で「CNSを作りたい」と提案した時には,医師の側から「もう遅いくらいだよ」と理解を示してくれた,という経緯もあります。現在は,OCNSだけですが,当初は感染看護専門看護師,リエゾンナースの導入も考え,育成をしていました。
 そのような戦略とともに,患者さん中心の医療・看護の実現をめざして,行動するリーダーの1人としてさまざまなことに挑戦をしてきましたし,結果的に病院を動かしてきました。看護がリーダーシップを発揮しやすいという開院当時からの組織風土があったことも大きな利点かもしれません。つまり,病院設立当時から,医師も「理想的な医療を作ろう」という熱意があり,看護は主体的に活動することを基盤としてきました。そういう土壤の中で,実際に主体的に動くことによって医療のシステムを変えることができましたし,それを現場に反映させてきました。「手に入れることができる」という信念を持って実践で示すことで,手応えを感じてきました。
 現在は,トップマネジメントの1人として経営にも参画するようになりました。構造改革や経営政策の中に,「患者中心の医療」という考え方を組み入れるように調整すること,それが私の責務の1つと思ってもいます。「患者中心……」と言いましても,規制も多くなかなか難しい点もあるのですが,日々拡大していく医療の中で,看護が担う部分は大きいと実感しています。

21世紀を迎えてのビジョン

 今世紀のビジョンとしましては,次の6点を掲げることができます。
 まず「今こそ看護の力を社会に示す絶好の機会である」ととらえたいこと。つまり,21世紀は高齢化の加速,医療はキュアからケアへ,施設内から地域へと拡大していきますし,看護の役割も拡大していきます。そこでは,それに対応した看護実践が求められるはずです。そう言った意味で,看護職は自分の免許の重みを再確認する必要があると同時に,その持っている力を社会へ示すことも重要となります。
 それから,「看護必要度による算定も認められるように努力をしていきたい」こと。当院は特定機能病院であり,病院の機能分類は一層進み,平均在院日数は短縮されるでしょう。そこで,それにともなうシステムの再整備,再構築が急務となります。診療報酬は包括化され,医療費抑制策はますます進むことも予測できることです。そこにあっては,看護も診療報酬単価に乗せるべきです。次いで,「専門看護師の育成と専門領域の拡大を図る」こと。高度先進医療技術の発展は,病院から在宅へと広がってきていますが,看護においても役割としての緊迫感がともないます。そこでは,より専門的に活躍できる看護職が必要とされるはずです。
 また,「看護管理研究の推進を図る」こと。看護管理の研究は,まだ確立されているとは言い難い部分があります。そこで,経験知から一般化できる理論を導き出したいと思いますし,そのための人材育成を含めて問題解決を図りたいですね。そして,「連続した看護サービス提供のためのチーム医療推進」です。拡大する医療・看護の中では連続体サービスが求められます。他の医療従事者との協働,チーム医療はますます重要となるでしょう。また,必要に応じて看護管理者は,自分の守備範囲にこだわることなく,医療サービスの中核を担うためのチャレンジも必要になるでしょう。
 最後は「第三者評価の導入」です。良質の医療を提供するためには,やはり第三者からの評価を受けての質の改善・保証の確保をすること。倫理的な問題,リスクマネジメント,医療をシステムとしてとらえることなどが,評価対象になるでしょう。
 ゲノム解析が最終段階に入り,それに反映されて医療はますます進化していくでしょう。その時に,看護も新たな道を見出していく必要性があるのではないかとも思うのですが,なによりも看護に必要なことは「人の心との触れ合い」なのかもしれません。第15回日本がん看護学会では,生きること,そして支えあうことをテーマとした基調講演も予定しています。当日の参加も受けつけておりますので,多くの方が参加されますことを期待いたしております。


●第15回日本がん看護学会 プログラム
 2月10-11日/パシフィコ横浜

【会長】小島恭子(北里大学病院看護部長)
【メインテーマ】がんサバイバーシップ:新しい看護の創造を!
◆基調講演:生きることを支える看護(前北里大病院看護部長 古庄冨美子)
◆特別講演:人の生き方と医療の変化(北里大医学部 養老孟司)
◆シンポジウム:がんサバイバーシップを支える看護(司会=北里大看護学部 遠藤恵美子,北里大東病院 青柳明子 シンポジスト=(1)患者の立場から/ファッションジャーナリスト ピーコ,NPO法人「ももの会」 田中美智子,(2)家族の立場から/全社協中央福祉学院 生川玲子,(3)医師の立場から/栃木県立がんセンター 種村健二朗,(4)看護婦・士の立場から/北里大病院 近藤まゆみ
◆パネルディスカッション:がん看護専門看護師(OCNS)の活動と効果(司会=日本看護協会 岡谷恵子 パネリスト=(1)現場に働くOCNS/神戸大附属病院 吉田智美,(2)OCNSを活用する看護スタッフ/淀川キリスト教病院 和田栄子,(3)OCNSを雇用する看護部長/日本看護協会 國井治子,(4)OCNSと協働する医師/北里大病院 的場元弘
◆連絡先:〒228-8555 相模原市北里1-15-1 北里大学病院看護部内 第15回日本がん看護学会事務局
 FAX(042)778-8419