医学界新聞

 

患者をまるごとみられる医師になる

――家庭医療学研究会学生・研修医部会の活動から


 家庭医療学研究会学生・研修医部会は,医学部の卒前・卒後教育では,ほとんど取り上げられていない家庭医療学を自主的に学ぶ場として,また自分たちの将来の医師像を考える場として,1999年11月に発足しました。昨年はメーリングリストが開設され,活発な情報・意見交換がされるようになり,家庭医療学に関心を持つ学生・研修医の輪も広がってきているように思われます。代表としての僕の仕事は,学生,研修医が家庭医療学について何を学び,知りたがっているのかを取りまとめ,会の運営に反映させていくことだと考えています。その中で一番のメインの仕事は,家庭医療学研究会夏期セミナーの企画です。
 夏期セミナーとは,毎年8月に,家庭医療学研究会が主催する学生・研修医により家庭医療学に関心を持ってもらうことを目的としたセミナーです。昨年の第12回夏期セミナー(2000年8月4-6日,筑波)では,全国から約80名の学生や研修医が集まり,昼は密度の濃いセッション,夜は寝る間を惜しんでの懇親会と,とても充実した3日間のセミナーでした。
 そして今年の第13回夏期セミナーでは,学生・研修医が自主的に,夏期セミナーを企画していくことになりました。昨年以上に学生・研修医の声を反映させた,有意義なセミナーにしたいと考えています。今年は,きたる8月3-5日に,筑波国際会議場で行なわれます。みなさんのご参加をお待ちしております。

門松拓哉(東邦大5年/家庭医療学研究会学生・研修医部会代表)


夏期セミナー参加者の声から

■家庭医に必要な臨床能力
小外科実習(豚足実習)

●ただ「傷を縫う」のではなく,そこまでの過程が非常に重要なことがわかった
●処置の手順で,麻酔が最初というのに驚きだった。すぐ消毒と思っていたが,処置される身になったら,痛みを少なくすることを考えるべきと納得。また創傷の種類や状態で,縫合しなくてもよいもの・してはいけないものもあることも知らなかったので,勉強になった
●実際に縫合してみるとスムーズにいかず,持針器の扱い方から練習しないといけないし,縫う感覚が違うのも驚きだった
家族志向のケア
●家族カンファレンスの実践方法についてロールプレイを交えての実習。医師役をやった時,自分ではやんわりと言えたと思っていたことが,患者役から「責められている気分だった」と言われ,実際にやってみることは非常に大事だと実感した
●なかなかしゃべらない患者さんとその家族に対してどのようにアプローチしていったらよいか,ベテラン医師の具体的な方法をうかがうことができた
症例へのアプローチ
●病院実習にも,患者さんのためにも,必要なのはこのような勉強法。症例から考えることで,今まで授業や試験前にかじったことと実際の症例がつながった感じがする
●自分の当面の到達点,これから何を勉強すればよいのかを,部分的ながらも知ることができた。学部の1-2年で専門の勉強を始めたいが何をやったらよいかわからないという人は,このような勉強に参加してみるのはプラスになると思う
医療面接
●今まで,授業での医療面接は一般的な初診外来という設定だけ。ここではbad newsを伝えるなど,患者の悲しみや怒り,戸惑いにどう対応し一緒にやっていくか,という内容で難しかった。医者役では,患者さんにどう共感していくのかがわからずに戸惑った。しかしかなりおもしろく勉強になった
●「患者の気持ちになって考えられる医者」というのはよく使うフレーズだが,こんなに難しいものだとは思わなかった。ぜひ医学教育にとり入れてほしい
●入院患者さんのケースのロールプレイを経験し,患者さんと接するすべての時間にコミュニケーションスキルが求められ,逆に誤解を生じる機会も無限にあることを感じ,身の引き締まる思いがした
EBMの基礎
●EBMって何?という,基礎的な部分がよくわかった
●臨床疫学についてまったく知らなかったが,先輩医師などに頼らなくても自らの手で最適な治療法を見いだす術を得る環境があるとわかった

■家庭医の現在と未来
●「家庭医療はT字ではなく櫛型で,深さと広さが必要」という話と,アメリカにおける家庭医療のビデオを見て,「家庭医療とは1つの専門」と実感した
●開業を夢には見ても到底無理と視野に入れていなかったが,信頼できる病院と提携すれば可能なことを知り,将来の選択の幅が広がった。「病診連携」の中身を多少わかるようになった。診療所ならではの醍醐味も知ることができたように思う
●大学勤務と開業の両立という,今までにないタイプの医師の姿をみることができた
●「いまは大きく変動している時期だから,不安がらずにやりたい事をやってみよう」という言葉が心強かった。また年齢の近い先生が,実際にどのようにして進路を選び,またどこでどのような勉強をしてきたのかを知ることができてよかった
●ある医師が開業(家庭医)と研究の両方を行なっていると聞き,「こんな道もあるのか!」と新鮮に思えた


第12回家庭医療学夏期セミナープログラム(敬称略)

〈1日目〉
開会挨拶(三重大 津田司)
オリエンテーション〔筑波メディカルセンター病院(以下,筑波セ病院) 前野哲博〕
アイスブレイク(筑波セ病院 木澤義之)
ワークショップ 家庭医療とは(日鋼記念病院 葛西龍樹)
■家庭医の現在と未来
(1)津田司,(2)佐野潔(ミシガン州立大),(3)前沢政次(北大),(4)内山富士雄(内山クリニック),(5)松村真司(東大)

〈2日目〉
■家庭医に必要な臨床能力
小外科実習(豚足実習)(北大 大滝純司)
家族志向のケア(川崎医大 松下明)
症例へのアプローチ(木澤義之)
在宅ケアの視点からのケアマネジメント (前野哲博)
身体診察法(聖マリアンナ医大 亀谷学)
医療面接(奈良医大 藤崎和彦)

〈3日目〉
EBMの基礎(札幌医大 山本和利)
医療倫理(医療生協浮間診療所 藤沼康樹)

◆医学生・研修医部会および
第13回夏期セミナー問合せ先

代表=門松拓哉
E-mail:family-med@umin.ac.jp
URL:http://family-s.umin.ac.jp
◆家庭医療学研究会医学生・研修医部会メーリングリスト申込み先
登録希望の方は,(1)氏名,(2)所属,(3)メールアドレスを明記の上,上記アドレスまでメールを送ること(登録は同部会が行なう)