医学界新聞

 

「21世紀へのかけ橋」をメインテーマに

第24回日本死の臨床研究会開催


 さる11月11-12日の両日,第24回日本死の臨床研究会が,本家好文氏(国立呉病院)・鈴木正子氏(広島大)の両会長のもと,広島市の広島国際会議場で開催された。今研究会では,市民公開講座としてアルフォンス・デーケン氏(上智大)と柏木哲夫氏(阪大)による,トーク「死の臨床とユーモア」が企画。2500名を超える学会および一般市民参加者,ボランティアは,「――にもかかわらず笑うことがユーモア」とする2人のトークショーを存分に楽しんだ。
 なお本トークでは,「ジョークは人を傷つけることもあるが,ユーモアは緊張を解くものであり,心の癒しとなる」など,ジョークとユーモアは違うこと,また,「本来ユーモアは医学的概念であり,健康のためでもあった」など,ユーモアの定義に関しても解説された。さらに,「人生の最期に期待したいのは,ユーモアを持った心温かい医療」「相手に対する思いやりと慈しみ心を,医師・看護職はぜひ持ってほしい」「ユーモア教育が必要なのは教員」などと示唆する言葉も2人のユーモアある会話の中で語られた。


事例検討では熱い討論が

 本研究会では特別講演(1)「日本人の死生観」(京都造形芸術大 山折哲雄氏),(2)「宇宙の誕生と未来」(東大・物理 佐藤勝彦氏)の2題。また,教育講演が(1)「症状緩和のためのエッセンシャルドラッグ」(淀川キリスト教病院 恒藤暁氏),(2)「緩和ケアにおける音楽療法について」(北海道医療大 栗林文雄氏),(3)「地域における在宅緩和ケアの進め方」(広島YMCA訪問看護ステーションピース 馬庭恭子氏),(4)「ホスピスボランティア」(聖ヨハネ桜町病院ホスピス 山崎章郎氏),(5)「緩和ケアにおけるがん専門看護師の役割」(東札幌病院 濱口恵子氏)の5題の他,シンポジウム「自己決定のプロセスを支える」(司会=三重大 柿川房子氏,シンポジスト=国立がんセンター東病院 志真泰夫氏,広島日赤病院 高橋文子氏,上尾甦生病院 磯崎千枝子氏,鹿児島短大 種村エイ子氏)が行なわれた。
 さらに,毎年の研究会で多くの参加者とともに熱い討論が交わされる事例検討には,今回,20題の応募の中から(1)モルヒネ大量使用患者へのケア(話題提供=昭和大病院 加納光子氏),(2)セデーションと希死念慮(同=愛和病院 山田祐司氏),(3)在宅での看取りを可能にする要因を考える(同=癌研病院 原みどり氏),(4)ターミナル期における性問題について(同=聖マリアンナ医大 西田茂史氏),など10事例が採用,報告された。なお,一般演題は患者ケア,一般病棟における緩和ケア,インフォームドコンセント,QOL,症状コントロール,スピリチュアルケア,遺族ケアなどの分野から143題が発表された。

在宅緩和ケアを進める方略とは

 教育講演「地域における在宅緩和ケアの進め方」を行なった馬庭氏は,講演に先立ち参加者へ向け,自身が癌患者となり,現在抗癌剤による治療が可能なため,入院中であること,また本講演には「外泊」で参加していることを告げた。
 その後馬庭氏は,スライドを多用し講演を行なったが,「訪問看護ステーションピース」は質の高い在宅緩和ケアを専門に提供する訪問看護ステーションをめざし,5年前に全国に先駆け設立されたこと,また,「畳の上で死にたい,と望む患者さんの希望を叶えたいとの思いから在宅にこだわり,看護職のみで運営してきた」ことを報告。そして,在宅緩和ケアを推進している類型として,(1)岩手県北上市が住民の合意により行なっている「行政指導型」,(2)淀川キリスト教病院にみられる緩和ケア病棟と訪問看護ステーションとの連携など,緩和ケアに一貫性が保たれる「病院指導型」,(3)尾道市医師会のように地域医師会が中心となり連携を進める「医師会主導型」,(4)地域に密着し連携運動が進められる廿日市総合病院を例とした「基幹病院主導型」,(5)千葉県・花の谷クリニックが実践している地元密着,生活重視の「医院・診療所主導型」,(6)訪問看護ステーションピースに代表される「訪問看護ステーション主導型」の6つの型を提示した。
 また氏は,在宅緩和ケアの取り組みに関するアンケート調査を263病院に依頼したところ,148病院から回答(56.3%)があったことを報告。結果として,「取り組んでいない」は65施設,「医師によっては取り組んでいる」が49施設,「積極的に取り組んでいる」は26施設。「在宅緩和ケアに取り組みにくい理由(複数回答)」としては,「医師に時間的な余裕がない」(80施設)や「経営上の採算性」があげられた他,「医師に関係ない」(19施設)とする意見もあった。さらに,医師に対する「癌末期在宅医療を行なう上で問題となったことは」の問いには,(1)夜間対応等の時間不足(358),(2)緊急時対応等の設備不足(338),との理由が圧倒的に多く,次いで(3)末期患者の治療経験不足(163),(4)専門外等の知識不足(142),(5)診療報酬などの保険点数上の問題(119),(6)連携して診療する新制病院が不在(114)と続いた。
 一方,訪問看護ステーション123施設に「緩和ケアの取り組み」に関するアンケート調査を行なったところ,75施設が回答(61%)。「将来的に在宅緩和ケアを予定しているか」の質問に,27施設が「将来的には考えている」と回答し,以下「現状では困難だが,条件によっては考えたい」(22施設),「すでに準備を開始している」(14施設),「早急に検討する予定である」(5施設)と続き,「実施する予定はない」との回答は3施設であった。
 馬庭氏は,在宅緩和ケアの実践をめざして1996年4月に設立された「ピース」は,これまで(2000年10月)に270人の利用者を抱え,そのうち癌患者は47%であったことを報告するとともに,小児患者を専門とする訪問看護ステーションの必要性を説いた。その上で,「在宅緩和ケアを進める方略」について,(1)かかわる職種が専門知識,技術を習得するためのシステム開発(「人才」を育てる),(2)市町村レベルでの保健・医療・福祉の有機的な連携(小回りのきく実働,実現可能なチーム作り),(3)在宅支援のための後方支援病院作り,(4)療養環境を選択するための情報提供,(5)かかわる私たちの「Change agent」としての意識変革の自覚をあげ,「自分たちが変わらなければ」と訴えた。
 なお,次回は明年11月17-18日の両日,山室誠氏(東北大)・清水千代氏(坪井病院)の両会長のもと,仙台市の仙台市民会館において,「ともに生きる- 新しい世紀の生と死の儀式」をメインテーマに開催される。