医学界新聞

 

腎不全看護の質の向上をめざして

第3回日本腎不全看護学会開催


 さる11月16-17日の両日,第3回日本腎不全看護学会が,春木谷マキ子会長(大阪府立病院)のもと,大阪府・豊中市の千里ライフサイエンスセンターで開催された。
 「これからの腎不全看護の視点-看ると鑑る」をメインテーマに据えた今学会では,会長講演「腎不全看護-現状と展望」(春木谷氏)をはじめ,特別講演「医療におけるQuality of Life」(国立循環器病センター 萬代隆氏)の他,教育講演 I「透析療法限界と展望-日本における透析中止の現状とあり方」(日鋼記念病院長 大平整爾氏),同 II「家族支援における家庭看護の役割-家族システム看護を例として」(東大 杉下知子氏)が企画された。


腎不全専門看護婦(士)の育成に向けて

 「腎不全看護の標準化,腎不全看護研究の質的・量的拡大をもって人々の健康と福祉に貢献するとともに,世界における学術の発展に寄与する」ことを目的に,1997年に「日本腎不全看護研究会」より学会へと発展した本学会は,現在会員が約750名と拡大。今学会の参加者も約400名となり,これからも会員の増加が見込まれるが,宇田有希理事長は,「組織率は人工透析全施設の2.5%にすぎない」(全国2948施設,患者数19万7000人,推定選任・兼任ナース2万9384人)とし,「腎不全看護の質の向上を図るためには,さらなる拡大が必要」と述べた。また宇田理事長は,2003年にはWCRC(腎ケア世界会議)が,腎不全看護「国際スタンダードマニュアル」を作成することも報告。一方で,同学会は設立当初より「腎不全専門看護婦(士)」の育成に向けた活動を行なっているが,教育委員会では日本看護協会の「認定看護師カリキュラム」に匹敵するカリキュラムを検討中。全国各地で開催している学会主催の「教育セミナー」など,WCRC認定エキスパートナースを意識した教育活動を実施している(セミナー開催などの詳細は,下記同学会事務局に問合せのこと)。

維持透析患者の人工授精による出産ケアを報告

 なお,今学会の一般演題発表は昨年(19題)に比較し,倍の40題と増えた。社会的な注目を集めている医療事故関連の演題として,透析室でのニアミス・ヒューマンエラーなど3題の他,「保存期・導入期」から「QOL」や「在宅支援・CAPD」「セルフケア・ターミナル期」の分野まで,透析室だけではない,腎不全・透析看護の拡大を物語る発表が相ついだ。
 その中で,中田貴史氏(埼玉医大総合医療センター)は,「人工授精にて妊娠し,生児を得た維持透析患者の一例」を発表。37歳の挙児希望が強い透析患者の,人工授精による妊娠から出産までの看護上の注意点を報告した。患者は経腟分娩にて2280gの健常女児を出産,胎児期,新生児期ともに正常に成長してきたことを述べた。氏は,第42回日本透析医学会コンセンサスカンファレンス(1997年)で示された「透析患者の妊娠を成功させるためのガイドライン」を参考に,頻回な透析(5-7回/週)の実施や厳重な胎児監視とともに,透析中の血圧低下の早期発見,自宅での尿量・飲水量・食事量などの「自己管理シート」の作成,透析回数の増加にともなう精神的・身体的苦痛の緩和,シャント血管の保護などの実施を看護上の注意点にあげた。その上で,自己管理シートの正確な記録により,医師・スタッフが患者の状態を容易に把握できたこと,また腎臓内科,透析室,産婦人科など,他部門との密な連携により,患者および胎児の異常所見を早期に発見できるよう努め,カンファレンスの励行で適切な治療方針が立てられ,看護に活かすことができたとまとめた。

家族システムからみた家族看護

 教育講演Ⅱを行なった杉下氏は,まず日本の家族の特徴について,(1)65歳以上の人口が16.7%(1999年)であり,1997年には65歳以上の人口が15歳未満の割合を上回ったこと,(2)合計特殊出生率が1.34(1998年)となった,(3)未婚・非婚成人の増加,(4)高齢者世帯が579万1000世帯(1999年)となり,そのうちの単独世帯は46.7%となること,(5)団塊の世代(第1次ベビーブーマー)の核家族化が進み,彼らの親の高齢世帯化などをあげた。その上で,家族の定義やシステム,概念などについて解説。家族特性については,「社会との密接な関係を持ち,集団として常に変化し,発達し続ける。また,役割や責任を分担し,不断の相互作用によって家族間に人間関係を育成。さらに,健康問題における重要な集団であり,1つの援助の対象である」と述べた。
 一方,家族システムについては,「家族を1つのまとまりを持つ生命,または生活システムとしてとらえた見かた」とし,家族員1人の変化は家族全体に影響を与える,家族員の行動の関連は,直線的な因果関係よりも円環的視点からのほうがよく理解できる,などの概念を提示した。なお家族アセスメントに関しては,家族を1つのケアユニットとしてとらえる「カルガリー家族システム看護介入モデル」を中心に解説。「家族の関係性が悪い時には,どこを修正すべきかを気づかせるようなインタビューを行ない介入する」などを紹介した。
 なお,次回は明年11月17-18日の両日,宇田有希会長のもと,横浜市の神奈川県民ホール(予定)で開催される。
◆連絡先:日本腎不全看護学会事務局
 〒231-0064 横浜市中区野毛町3-131-1-101
 TEL&FAX(045)253-1532