医学界新聞

 

OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室
 編集:松岡 健(東京医科大学第5内科教授)


第9回 心肺蘇生法(CPR)

執筆:東京医科大学 救急医学 太田祥一,神山知子,行岡哲男
協力:東京医科大学病院救命救急センター 東京消防庁委託研修生(救急救命士)
   綾部好一,三橋啓一,田中 武


《はじめに》

 心肺蘇生法(Cardio-Pulmonary Resuscitation:CPR)は,一般市民が行なうことのできる1次救命処置Basic Life Support(BLS)と,高度の医療処置を含む2次救命処置Advanced Life Support(ALS)から成り立っています。本稿ではOSCEに向けて,1人法の1次救命処置についてを解説します。

■手順

 心肺蘇生法の開始条件は
(1)意識なし(JCSIII-300)
(2)呼吸なし(5秒間呼吸が感じられない)
(3)脈拍なし(総頸動脈にて5秒間脈が触れない)の3つで,心肺蘇生法はこの3つを確認することから始まる。 

(1)意識の確認
  ↓
(2)応援を求める(周囲の人に救急車を呼ぶように指示する)
  ↓
(3)口腔内異物確認
  ↓
(4)呼吸の確認
  ↓
(5)呼吸がなければ人工呼吸
  ↓
(6)脈拍の確認
  ↓
(7)脈拍がなければ心臓マッサージ
  ↓
(8)人工呼吸と心臓マッサージを繰り返して行なう

心肺蘇生法の要点

1)1次救命処置
 (A)気道確保 (B)人工呼吸 (C)心臓マッ サージからなる
2)手順(上記「手順」の項を参照)
3)手技
(1)気道確保
首を愛護的に扱う。頭部後屈顎先挙上法を確実に行なう
(2)人工呼吸
気道確保を確実に行なった上で口と口をしっかり密着させ,鼻をつまんで空気が漏れないようにする。吹き込みに合わせて患者の胸が挙上しているかを目で確認しながら行なう
(3)心臓マッサージ
肋骨と胸骨の切痕から二横指上に,指が胸壁につかないように手のひらの付け根を置く。両肩を中心線上まで来るように乗り出し,手首や肘を伸ばして上半身の体重を乗せてスムーズに,傷病者がバウンドしないように圧迫する。手を置く位置と圧迫時の姿勢に注意する。
(4)組み合せ
1人法:人工呼吸2回,心臓マッサージ15回

■解説

《意識の確認の実際》 (写真1
患者(OSCEでは蘇生法教育用人形)の脇に座り,肩をたたきながら,耳もとで「もしもし,大丈夫ですか?」と大きな声で呼びかける。(反応がなければ周囲に助けを呼び救急車を呼ぶように指示する)。

《口腔内異物の確認》
指交差法(写真1,2),右手第1指と2指を交差させて,上下の門歯に当て十分に開き,口腔内の観察を行なう(異物があれば除去する)。

《気道確保》
1人法の1次救命処置の気道確保は,頭部後屈顎先挙上法(とうぶこうくつあごさききょじょうほう)で行なう。
頭部後屈顎先挙上法
頭部側の手を前額部に置き,頭部を後方に反らせるとともに,もう一方の手を顎先に置き,顎先を上に引き上げる(写真3)。 頸は愛護的にやさしく扱う。

《呼吸の確認》
患者の近くで側方に屈んだ観察体位で,呼吸の有無を5秒間確認する(写真4)。聞いて,頬で感じ,目で胸郭の動きを見る。このため視線は患者の胸部に向ける。呼吸の確認は気道が確保されていることが大前提である。

《人工呼吸法》
口腔内に異物がなく,無呼吸の状態であれば,ただちに人工呼吸(口対口,マウストゥーマウス)を開始する。
口対口人工呼吸
(a)患者の側面に位置し,しゃがみ込む。
(b)気道確保した後,頭側の手の第1指と2指で鼻腔をつまみ吹き込んだ空気が漏れ出ていくのを避ける。反対の手で下顎を挙上させ,頭部後屈顎先挙上法にて気道確保を行なう。そして,下顎を下方向に開きながら口を大きく開く。
(c)患者の口を救助者の口でしっかり覆い,塞ぐようにして密着させる。
(d)気道が確実に確保されているかを確認するためにまず,静かに1回吹き込む。その後続けて大きく吹き込む。1回当りの吹き込み時間は1.5から2秒とする。
(e)吹き込んだ時には,気道の抵抗の有無,胸郭が挙上するか(写真5),口を離した時(気道確保は行なったまま離す)に胸郭が下がっていくかどうかを注意する。そのため,吹き込む時も離した時も視線は人形の胸部に向ける。
(f)吹き込んだ時に抵抗が大きく胸郭の動きがなければ,気道が十分に確保されていないと判断し,再度確実に気道確保を行なう。

  

《脈拍の観察》
人工呼吸を2回行なったら次に脈があるかないかを確認する。患者の側方に位置し,示指(第2指)と中指(第3指)で前頸部の中央で甲状軟骨を確認する(写真6)。次いで,2本の指(写真では右手第2・3指)を横(自分側)に少しずらし,うなじに向かい軽く指を気管と筋肉(胸鎖乳突筋)の間に置き,5秒間拍動を確認する(写真7)。

  

《胸骨圧迫心臓マッサージ》
脈が触れない場合には心臓マッサージを行なう(蘇生法教育用人形では脈は触れない)。
(a)圧迫する位置は,まず剣状突起と肋骨の縁で形成される切痕を指で確認し(写真8),そこから約指1-2本上の部位である(写真9)。
(b)頭側の指(ここでは左手の示指)に接するように,きっちりと手掌基部(ここでは右手)を重ねて置き(写真10),両肩を患者の胸郭の中央に位置するように乗り出す(写真11)。
(c)両肘をまっすぐに伸ばしたまま,指を反らせて胸骨を垂直に圧迫する(写真13)。圧迫の強さは胸壁が3.5cmから5cm押し下がる程度とし,圧迫する時間と圧迫を解除する時間の比は1:1とする。上半身の体重を利用して,できるだけ滑らかで弾力的な動きで,毎分80-100回の速さで行なう。
(d)手首をひねったり,指先で胸壁を強く圧迫しないように心がける。手を置く位置がずれた場合には再度正しい位置を確認する。

 
 

《人工呼吸と心臓マッサージの組み合わせ》
2回の人工呼吸の後,脈拍確認で脈がなければ15回心臓マッサージを行なう。以後,人工呼吸を2回(写真12),心臓マッサージを15回のサイクルで行なう(写真13)。

心肺蘇生法の注意点

1)全体の処置をスムーズに行なう
特に確認→手技の実施と流れるように行なう
2)声を出して行なう
確認の際には,例えば意識の確認の際には「意識の確認」,「もしもし,大丈夫ですか」,「意識なし」など,呼吸確認では「呼吸確認」,「1,2,3,4,5呼吸なし」,「人工呼吸」,脈拍確認では,「脈拍確認」,指を置いたあとに,「1,2,3,4,5脈なし」「心臓マッサージ」等,何をしようとしているのか,どのように確認しているのかを実際に声を出しながら行なう(心臓マッサージの際にも15回,数〔かず〕を数えながら行なったほうがよい)
3)人工呼吸がうまくいかない(胸郭が挙上しない)原因は,気道確保が確実にできていない,吹き込んだ空気が漏れている(=口と口が完全に密着していない,口が覆えていない),吹き込む量が足りないの順に多く見られる
4)心臓マッサージがうまくいかない原因は,手を置く位置をしっかりと確認していない,上半身を十分に乗り出して垂直に圧迫していない,肘や手首の関節を曲げて圧迫している,圧迫の強さが足りない等が多く見られる
5)心臓マッサージの圧迫を解除する時は腕の力は完全に脱力するが,圧迫位置から手がずれないように注意する

先輩からのアドバイス

 実際に心肺停止状態の傷病者に遭遇した時には,ここで学んだ心肺蘇生法の手技ができることはもちろんですが,周囲の助けを呼ぶことや種々の観察,口腔内異物の確認等がさらに重要になってきます。心肺蘇生法は一般の人々にも広く啓蒙されていますので,医学生として十分な知識や技術を身につけておきたいものです。

●調べておこう
 -今回のチェック項目

□心肺蘇生法に必要な胸腹部の解剖
□Japan Coma Scale(JCS)(3-3-9度方式)
□CPAOA
□バイスタンダーCPR
□乳幼児,小児に対する心肺蘇生法
□口腔内異物の除去方法
□合併症
□Survival of chain
□救急救命士ができること
□2次救命処置