医学界新聞

Vol.15 No.12 for Students & Residents

医学生・研修医版 2000. Dec

医学教育改革の切り札となるか?

モデル・コア・カリキュラム(試案)が発表される

―臨床実習前に全国共用進級試験も実施


 約2年前より検討されてきた「医学教育モデル・コア・カリキュラム」(以下,コアカリ)の試案がこのほど明らかになった。このコアカリはすべての学生が履修すべき必須の教育内容を精選したもので,最終的には従来のカリキュラム全体の6割程度にまで絞り込まれる予定である。また,コアカリの作成を受けて,臨床実習に入る前のバリア試験として全国共用進級試験(以下,共用試験。この他「総合試験」,「日本版USMLE step1」とも呼ばれる)も実施に向けて検討が進められている。コアカリは来年度より,共用試験も早ければ2002年の実施をめざしている。
 本号では,医学教育界に大きな影響を与えることが予想されるコアカリの概要,その狙い,影響などについて,発表の場となった「医学における教育プログラム研究・開発シンポジウム」(11月17日,東京・明治記念館)での議論から紹介する。


 本シンポジウムを主催したのは,コアカリ(試案)を作成した「医学における教育プログラム研究・開発事業委員会」であるが,同委員会委員長を務める佐藤達夫氏(東医歯大医学部長)による講演「コア・カリキュラムの概要」が,事実上コアカリのお披露目の場となった。

コア・カリキュラムの狙い

 講演を行なった佐藤氏はまず,「基礎医学,社会医学,臨床医学という区分と,相互連携の欠如」,「講座単位による縦割り」,「膨大で未整理な教育内容」,「講義中心の一方的な知識伝授」など,従来型医学教育カリキュラムの問題点を指摘し,教員が「教えたい内容」から学生が「学ぶべき内容」への転換が必要だと主張した。
 そのためには,「基礎医学や社会医学における臨床との有機的な連携」による医学教育全体の視点から教育内容の再編成が必要であり,「学生や社会のニーズの多様化に応えるためにも(コアカリを絞りこむことにより)広く選択科目を提供すること,特色のある教育を行なうことが求められる」と,コアカリ作成の狙いを述べた。

コア・カリキュラムでどう変わるのか

基礎と臨床の有機的連携

 作成されたコアカリの大項目を下表に記す。この下にさらに細かく項目が存在し,それぞれに「一般目標」,そしてかなり具体的な「到達目標」が記されている。各項目の詳細は割愛するが,B,C,Dなどでは,特に基礎と臨床の有機的連携が意識された項目作りとなっており,また,いわゆる「――ology(――学)」を排除している。佐藤氏は「基礎医学,社会医学,臨床医学の連携は,ある程度成功したものが作れたのではないか」と自信を見せた。
 また,本コアカリでは,Aについては6年間継続して学び,B-Fを臨床実習前に学ぶことになるが,佐藤氏はFまでの内容で,全国共用進級試験が実施される計画であることを示唆した(共用試験については後述)。

臨床実習はどうなる?

 一方,臨床実習についても,これまで多くの大学で取られていた「臨床20数科を均等に回る方法」ではなく,「内科,外科,産婦人科,小児科,神経内科(内科に含んでもよい),精神科での病棟および外来実習」に絞り,「救急実習で補完」することを提言。目安として,現在各大学で行なわれている40-50週の臨床実習期間の内の70%程度にあたる28-35週をコアカリにあて,残りを選択実習とするとしている。なお,実習形態としては,これまでの「見学型」や「模擬診療型」ではなく,「指導医と研修医などによって構成される診療チームの一員として学生が実習する診療参加型実習(クリニカル・クラークシップ)によることを求めている。

国家試験との整合性

 ところで,医師国家試験との整合性については,「『国試の出題基準に載っていることはすべてコアになるのでは?』という疑問があるが,国試に出題されている症例等はやや詳しすぎ,それを加えるとコアカリとしては多くなりすぎてしまう。むしろ,数年後の国試改定の際にコアカリの内容を尊重してもらえるのではないかと」と述べ,国試の出題基準に厳密に合わせる考えはないことを示した。

各大学による検討経て年度内にまとめる見通し

 現段階でコアカリは従来カリキュラムの7-8割の時間数相当にしか項目を絞りこめておらず,コアカリの作成委員会は,12月初めまでに全国各大学で同試案を検討するよう協力を要請。各大学からの意見を元に目標の6割相当にまで項目を精選する作業を行なう予定だ。参加した教員の中には「項目は減るどころか,増える可能性もある」との声も少なくなく,作業の難航も予想されるが,同委員会は「今年度内には最終的なモデル・コア・カリキュラムとしてまとめたい」としている。
 なお,本コアカリを活用するかしないかは各大学の自主性に任されるが,「どの大学も置いてきぼりにはされたくないだろう」という声も大学関係者にあり,何らかの形で導入する大学が多いものと予想されている。一方,コアカリの教育ばかりが重視され,選択科目の拡充や特色のある教育など,コアカリ作成の本来の趣旨が忘れられてしまうことを懸念する声もある。また,同シンポジウムでも指摘されていたが,コアカリが導入されたとしても,「ファカルティ・デベロップメント」や「大学の中で『教育』が評価される仕組み作り」,「カリキュラム改革への学生の参加」などを積極的に進めなくては,よい改革にはつながらない。今後の展開が注目される。

全国共用の進級試験

 同シンポジウムで大きな注目を集めたもう1つの話題が,臨床実習に入る前に導入されるという全国共用進級試験だ。本テーマについて口演した福井次矢氏(京大教授)は,文部省研究班などでの調査結果を報告。それによれば,すでに49%の医科大学で臨床実習進級試験の実施が行なわれており,多肢選択試験と実技試験の組み合せで行なっている大学も22%あるという。さらに,94%もの大学が臨床実習前に行なう「全国共用試験システム」設立を求めているとの数値を示し,大学側からのニーズも高いことをうかがわせた。
 福井氏によれば,本年11月には「臨床実習開始前の学生評価のための共用試験システムに関する研究班」が立ち上がり,今後システムについての本格的な検討がなされるという。同シンポジウムで口演した布村幸之氏(文部省医学教育課長)は「早ければ2002年から実施したい」と述べており,今後,米国の共通試験として実施されているUSMLE step1などを参考にしながら,準備作業を急ピッチで進めていく構えだ。
 会場は全国の医科大学から参集した教員・学生たちで大変な盛況ぶりでコアカリ,共用試験への関心の高さを見せつけた。

モデル・コア・カリキュラム大項目

A.基本事項
 1 医の原則
 2 安全性への配慮と危機管理
 3 コミュニケーションとチーム医療
 4 課題探求・解決と論理的思考
B.医学一般
 1 個体の構成と機能
 2 個体の反応
 3 病因と病態
C.人体各器官の正常構造,病態,診断,治療
D.全身におよぶ生理的変化,病態,診断,治療
E.診療の基本
 1 症候からのアプローチ
 2 基本的診療知識
 3 基本的診療技能
 4 基本的な医師としての態度
F.医学・医療と社会
G.臨床実習
 1 臨床実習全期間を通じて身に付けるべき事項
 2 内科系コア臨床実習
 3 外科系コア臨床実習
 4 救急医療コア臨床実習