医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床能力のステップアップに役立つテキスト

レジデントのための感染症診療マニュアル
青木 眞 著

《書 評》萩原將太郎(北里大・血液内科学)

 感染症は,臨床医学の中のすべての領域において大きなウエイトを占める問題である。しかし,感染症の診断理論と治療理念を本当に熟知して診療にあたっている医師は,かなり少ないのではないだろうか?
 「想定された起炎菌に対して,とりあえず広域の抗生剤を処方し,効果があればよし,効果がなければ別の薬を使ってみる」といった漠然とした経験的な治療で,何となく日常の臨床をこなしてはいないだろうか?
 さて日本の医学教育の枠組みで育ったわれわれは,以下にあげる質問にどれだけ答えられるだろう?
(1)CRPにどれだけの特異的な意義があるのか説明せよ
(2)血液培養の正しい採取法と適応を正しく説明せよ
(3)グラム染色法とその解釈について述べよ
(4)市中肺炎と院内感染肺炎の起炎菌の違いを述べよ
(5)急性腎盂腎炎の適切な抗菌薬使用期間は何日か?

感染症臨床医学の理念を解説

 これらの初歩的な知識は,感染症臨床に携わる者には必須のものである。もしも,上の質問に全問答えられなかった人には,本書を読むことをお勧めする。本書は,著者の米国における感染症臨床の豊富な経験と臨床医学全般に及ぶ深い造詣が込められた力作である。感染症臨床医学の基本理念がわかりやすく解説されており,今まで曖昧にしてきたことが明快に理解できる。各論では,臨床各科,各臓器の感染症について実践的に書かれており,日々の診療に活用できる。また,各章の要所要所に散りばめられたMemoや表は,臨床知識の宝庫である。以下に一部を紹介する。

「Memo」
CRPや体温が正常な重症感染症
 実際,発熱のない感染症も実に多い(集中治療室における低体温の最大原因は敗血症だと言われる)。CRP,赤沈の正常な心内膜炎もよくみられる。治療が成功したために,かえって体温が上がり,CRPが上昇する高齢者の肺炎もよく経験する。

有用な情報をコンパクトに

 この他,「見逃せない不明熱の原因」や「全身性感染症と皮診の表」「エイズ検査とカウンセリング」など非常に多数の有用な情報がコンパクトにまとめてあり,医学生,研修医のみならず実地医家にとって貴重な資料である。本書は,読者の臨床能力のステップアップのために必ず役に立つはずである。
A5・頁576 定価(本体6,000円+税) 医学書院


閉経周辺期からの女性の心疾患に対応する好著

女性における虚血性心疾患
成り立ちからホルモン補充療法まで
 村山正博 監修/天野恵子,大川真一郎 編集

《書 評》本庄英雄(京府医大教授・婦人科学)

 本年度厚生省の発表で,日本女性の平均寿命は83.99歳とわずかに下がったものの,1985年以来世界一の長寿を得ていることに変わりはない。一方,閉経は約50歳とわずかずつしか伸びず,この閉経周辺期である更年期から30数年以上,女性はエストロゲン低下,欠乏状態によるさまざまな疾病に悩まされることになる。このことは世界的な潮流でもあり,すでに本年から毎年10月18日を「World Menopause Day」とし,それらに関する知識,技能を医療関係者,一般の女性,人々に普及する日と定められ,活発なプロパガンダがスタートされている。これらの症状・疾病のうち,虚血性心疾患は最も大きな問題の1つである。
 女性は成熟期,すなわち更年期までは卵巣由来の女性ホルモン(特にエストロゲン)等の存在により虚血性心疾患から防御され,その低下により,男性と同様,虚血性疾患が増加し,悩まされることになる。更年期では昔から胸の圧迫感,痛み,脈の乱れ,息苦しさ等を不定愁訴として取り扱ってきた。それらの多くはある時期をすぎると消えていく。シンドロームXとの関係はいかに?……これらに対する対応・治療は……?

中高年女性と胸痛の問題

 本書『女性における虚血性心疾患』は真に時機を得た好著である。特に女性科医,婦人科医にとって待望の書である。村山学長,天野教授,大川教授をはじめとする循環器内科を中心とした多くの執筆陣の先生方のご熱意,ご尽力に,まず深甚の敬意を払い,かつ感謝申し上げる。
 口絵では多くのカラー写真が掲載され,大いに参考となる。欲を言わせてもらえば女性と男性の(例えば年齢をあわせれば出てくるような)違いの口絵もあればより興味深くなると思われる。
 天野教授による,中高年女性における胸痛アンケート成績では822名中,胸痛既往は322名にあり,かつ虚血によると思われる胸痛は253名にものぼるとのデータ,あるいは胸痛の回数が多かった時の年齢が46-55歳であると,大変重要な問題の提起が示されている。これらのうち,microvascular angina(微小血管狭心症),シンドロームXがどのように関連しているのか大変興味ある問題である。本書の随所に(例えば42頁のまとめに,68頁の解説図をはじめ多くの箇所に)これらに対する考え方,有意義な示唆が示されている。天野教授自身のお考えの論説をイントロダクション以外にも載せていただきたかったと思うのは,小生のみの屋上屋の願いかも知れない。

ホルモン補充療法の解説へと続く

 さらに虚血性心疾患の最新情報がやさしく解説され,ホルモン補充療法の解説へと続き,大変秀れた著書と拝見させていただいた。
B5・頁168 定価(本体5,000円+税) 医学書院


臨床医学を学ぶ若い医師の傍らに

画像診断シークレット
Douglas S. Katz,他/大友 邦,南 学 監訳

《書 評》板井悠二(筑波大教授・放射線医学)

 日本の臨床医は一般に幅広い知識を欠き,大学病院には細分化された専門家が少なくないとの批判がある。医学に求められる知識は増加の一途をたどり,医学生・研修医は暗記に走るが,生きた臨床医学に使われる前に忘れ去られることのほうがはるかに多い。

画像診断はすべての専門分野に応用できる唯一の分野

 原著は「画像診断は医学のすべての専門分野に応用できる唯一の分野」という認識の著者により,画像診断において最も役立ち,かつ実際的な事項や原理にまつわる,代々放射線科医の間で日常診療を通して引き継がれてきた秘訣や考え方を伝えるべく,質疑応答形式を使って定評のあるSecrets Seriesの1冊として出版された。84の領域にまとめられた2500余の質問と700枚あまりの写真と少数のシェーマから成り立つ。
 日本人の放射線診断医として幅広い知識とカバーする画像診断領域の広汎さで知られる監訳者が本書にほれ込み,いくつかの工夫を凝らして日本の読者に本書が供された。訳者のお勧めに従って,自分の気に入った領域からパラパラとめくって読んでみる。画像診断そのものに役立つ各種の知識が,気の利いた質問と手際よくまとめた解答の形で現れる。

画像を通して臨床医学を学ぶ

 まず画像診断の前提となる疾患の背景,病態生理に関する知識が問われ,次いで画像を通して臨床医学が学べるように配慮され,画像所見が現れ,検査の適応や限界,訓練された画像診断医の役割も示される。 設問の難易度を監訳者が3段階に分類しているが,中にはなかなかの難問も入っている。米国と日本では遭遇する疾患も他の医療環境も異なるが,このための訳注が必要に応じ加えられている。これは日米の違いを認識するにも役立つ。
 訳は若手教室員が分担し,監訳者が全文1行1行チェックしたとあるが,ほとんど違和感なくスムーズに読める。写真の質がもう少し良好で,さらに多くのシェーマを用いたほうが,正確に画像診断のエッセンスが伝授されるのではないかと惜しまれる。
 本書は画像診断を志す若手医師に有用なばかりか,臨床医学に進む学生,研修医にも臨床医学を学び,自分の知識を確かめ整理しつつ,画像にもより精通できる書として広くおすすめしたい。
A5変・頁700 定価(本体8,400円+税) MEDSi


幅広い層の臨床医のための実践ガイド

〈米国精神医学会治療ガイドライン〉
物質使用障害 アルコール,コカインとオピオイド

日本精神神経学会 監訳/和田 清 責任訳者

《書 評》齋藤利和(札幌医大教授・神経精神医学)

「個人-薬物-環境」の絡みの中で

 アルコール・薬物依存の治療に長年関わってきた者として,感慨深く読んだ。それは,責任訳者である和田清先生にとっても同じだったに違いない。彼は「物質使用障害の治療ガイドラインの出版にあたって」と題した巻頭文の中でこう述べている。
 「物質使用障害は『個人-薬物-環境』の絡みの中で発生する。したがって,その治療のためには,まず,適切な治療環境が要求され,薬物療法,心理社会的治療が施されると同時に,自助グループ等の力も必要となってくる。……中略……それにしても,米国における各種社会資源,心理社会的治療の豊かさには驚かされる。翻って,それはわが国における物質使用障害治療に関する社会資源,専門職種の貧困さを浮き彫りにしてくれる」
 責任訳者の指摘するとおり,本書では心理社会的治療形式として,認知行動療法,行動療法,精神力動的/対人関係療法,集団療法,自助グループへの参加等が一般的治療原則と選択肢(III 章)で詳細に語られており,各論(IV 章:アルコール関連障害,V 章:コカイン関連障害,VI 章:オピオイド関連障害)においてもその有効性についての詳しい記述がある。

当事者集団と医療との統合

 中でも私は「治療ガイドライン」の中で,本来医療の外にある当事者集団である自助グループの治療・回復に対する役割とその重要性が示され,従来型の医療の中にある外来治療との統合の必要性が強調されていることに注目したい。従来医療のワクの外にあった当事者集団と医療とは反目する関係ですらあった不幸な歴史を考えると感慨深い。こうした,当事者集団と医療との統合,協調関係は最近,物質使用障害のみならず,他の精神障害の分野においてもみられるようになった。さらには,癌治療の分野においても年々活発になりつつある。こうした観点から考えると,21世紀に望まれる医療の原点を物質使用障害の治療にみる思いがする。
 さて,薬物療法の個所には,乱用薬物の強化効果を低減させるための薬物であるアヘン系麻薬拮抗薬(ナルトレキソン)についての記述がみられる。この種の薬物は精神療法との併用により,高い効果が期待されるが,まだわが国には導入されていない。この点についても取り組みの遅れを感じさせられる。
 本書の中に登場する推奨事項は,臨床的確かさの程度によって以下の3カテゴリーに分けられている。すなわち,(1)確かな臨床的裏づけをもって推奨される事項,(2)中程度の臨床的裏づけをもって推奨される事項,(3)個々の状況によっては,推奨されることもある事項である。こうしたことによって,本書はより幅広い層の臨床的実践のガイドとして耐えうるものとなっている。物質使用障害の専門家だけではなく研修医や一般臨床家に広く読まれることを期待する。
B6・頁216 定価(本体3,400円+税) 医学書院


リハビリテーション医療における心理的問題の解決の実際

リハビリテーション患者の心理とケア
渡辺俊之,本田哲三 編集

《書 評》川上昌子(淑徳大社会学部教授)

現場で理論化された知見

 本書の特徴は,序文に書かれているように,従来の類書が,リハビリテーション医療における心理問題の提示にとどまっていたのに対して,本書は心理問題を解決するために実際に行なわれるべきことに踏み込んで詳述されている点にある。そのために,各章の執筆はそれぞれの領域の専門家や長期間リハビリテーション医療に関わって来ている人々によって担当されており,現場で気づかれ,積み上げられ,理論化されてきている知見が述べられているものである。
 本書の構成は,I・II の総論,III の病類別患者の心理問題とケア,「IV.リハビリテーション医療におけるQOL」,「V.リハビリテーション医療における治療関係」,「VI.障害者家族への関わり」,「VII.治療場面における心理的問題」,「VIII.技法」という章立てである。
 全8章のうち,III,VII,VIII 章が心理問題とケアの実際を述べている章であることから,この3章に多くの紙数が当てられており,実際にいかにすべきかという現実的課題にできるだけ具体的に答えようとするものとなっている。このことは,心理的問題解決の実際を示すという上記の目的に添うものであり,加えて,治療者あるいは援助者としての体験を踏まえて平明に,かつ,リハビリテーションに関わる専門家としての患者へのいたわりが伝わってくる文章で綴られている。さらに,形式の点でも,各章の後尾にそれぞれ「まとめ」が付されていること,そして各所において重要な内容が図として表現されているなどの工夫も,読者の理解を助けることだろう。これらによって実にわかりやすく読みやすい本に仕上がっていると言える。

一般の身体医療とは異なる患者の心理的問題

 心理問題の解決の実際という点に本書の特徴があることを述べてきたが,それほど多くない紙数で述べられている諸章も重要である。総論とも言える「I.リハビリテーション医療と心理」および「II.障害受容」において,リハビリテーション医療は家族関係やその他の社会関係の心理問題まで含む広汎な領域を視野に納める必要があること,そして,その際,2つの心理的変化の重要性の認識が核になることが指摘されている。1つは障害の認知と回復の断念,もう1つはそういう障害の受容を踏まえた上での社会適応である。患者にこの2つの心的態度が獲得されなければ,リハビリ訓練前およびADL自立後にスタッフとの間にトラブルが生じるという。このように一般の身体医療とは異なる患者の心理的問題を,リハビリテーション医療過程自体にも影響を与える重要なファクターと捉え,本書の基本的視点としているのである。
 IV 章のQOLの思想で述べられている自己決定,人権尊重の思想,そしてあくまで個人の幸福に目標を定める視点は,社会福祉を専門とする評者にとっても共感を覚える。同時に,本書を読んであらためて障害を負った人々の,つまり生命の喪失は免れたとしても「回復を断念した人々」の生きることの困難を直視することの上に成り立つリハビリテーション医療の重大さを強く感じたことであった。
A5・頁260 定価(本体2,800円+税) 医学書院


小児のプライマリ・ケアに携わるすべての医療従事者に

〈総合診療ブックス〉 見逃してはならないこどもの病気20
山中 龍宏,原 朋邦 編集

《書 評》五十嵐隆(東大教授・小児科学)

医療の最前線でこどもを診療する時

 日本小児科学会には2000(平成12)年7月31日現在約1万7千人の小児科医が登録されている。しかし,わが国の小児医療は,これらの小児科医だけでは十分にカバーできていないのが現状である。本書は小児科医だけでなく,小児のプライマリ・ケアに従事するすべての医師が,医療の最前線でこどもを診療する時に見逃しを防ぐために,どんなことに気をつけて診察したらよいかについて丁寧に書かれた基本技能書である。
 本書に選ばれている項目は,成長・発達に関すること,新生児・乳児の疾患,小児に特有の整形外科・皮膚科・眼科・耳鼻科の各疾患,緊急性の高い消化器・泌尿器疾患,keyとなる症状を呈する疾患,隠れた感染症,心臓・血液・発疹性・痙攣性疾患など,いずれも臨床の現場で遭遇することのある重要な問題である。これらの問題に対して,本書ではイラスト,写真,チェックリスト,クイズ,教育的な症例の提示などをふんだんに駆使することで,総合的にこどもを診,対応していく上での重要な要点を読者はわかりやすく読みとることができる。どの項目を読んでも,見逃してはならないこどもの病気を,読者に何とかしてわからせようとする著者と編者の熱意を感じた。特に,著者らの失敗の経験を示すことはきわめて教育的であり,読者の印象を深めさせている。また,用語の解説や診療のコツが随所に散りばめられており,理解の助けとなっている。

明日からの小児科臨床に必ず役立つ

 本書はコンパクトでありながら,そこに書かれている内容は真珠のように輝く叡智の結晶の連続である。小児科研修医にはもちろんのこと,経験豊かな小児科医にとっても自分の知識を広め理解を深め,明日からの診療に必ず役立つ本と思われる。また,小児科医だけでなく小児のプライマリ・ケアに従事するすべての医師とチーム医療に携わる看護婦のためにも有益な情報を与えると思われる。本書は近年にまれな良書と思われ,ぜひ多くの方に読んでいただきたいと考え推薦する。
A5・頁248 定価(本体3,700円+税) 医学書院