医学界新聞

 

「がん看護のアートとサイエンス」をテーマに

第38回日本癌治療学会(看護部門)開催


 さる10月22-24日の3日間,第38回日本癌治療学会が,金丸龍之介会長(東北大加齢医学研教授)のもと,仙台市の仙台国際センター,仙台市民会館,他で開催された(次号2414号に同学会の詳報を掲載予定)。
 「Innovative Cancer Treatment in the Future」をメインテーマに掲げた今学会では,きたるべき21世紀の新しい癌治療の方向性を展望すべく,シンポジウムが,(1)術後補助化学療法の功罪,(2)拡大か縮小か-癌手術の新たなる方向性と展開など5題,ワークショップは,(1)遺伝子診断の新しい展開,(2)放射線療法とIVR:癌治療における新しい可能性,(3)最新の緩和医療・在宅医療など8セッションが企画。さらに,会長講演「癌化学療法の現況と21世紀への展望」や,特別講演(1)21世紀の科学教育(岩手県立大学長 西澤潤一氏),(2)倫理的・社会的側面からみた高度先進医療(自治医科大学長 高久史麿氏)をはじめ,招請講演は(1)21世紀のがん研究とがん対策-第52回日本癌学会総会の討論から(昭和大教授・第52回日本癌学会長 黒木登志夫氏),(2)ヒトゲノム研究と癌化学療法:オーダーメイドの治療に向けて(東大医科研教授 中村祐輔氏)など全6題が行なわれた。


 本学会の看護部門では,「がん看護のアートとサイエンス」をテーマに,講演「看護職だからできること」(聖路加国際病院・がん看護専門看護師 中村めぐみ氏),シンポジウム「がん看護のアートとサイエンス」(司会=東北大病院 瀧島美紀氏)が行なわれた。

看護職としての腕のみせどころを

 「看護職だからできること」を講演した中村氏は,多岐にわたるケアが必要ながん患者とのかかわりについて,「大丈夫ですよ」と言い切らないことが必要と述べた。また,がん患者とのかかわりにおいて避けることのできない告知に関する問題として,「Truth tellingに向けた心構え」を提示。(1)事実を告げることの目的やメリットを念頭におく,(2)患者が必要としている情報を提供する,(3)医療者側の一方的な説明・説得にならないようにする,(4)患者が自分の意思を表明できるように配慮する,(5)見放したり希望をうばいとってしまうような言動は慎む,(6)サポートシステムを整えておく,などを強調した。
 さらに中村氏は,「インフォームドコンセントにおける看護職の役割」として,(1)情報提供の場面への同席,(2)患者・家族の理解度や受容度の確認,(3)看護職の立場からの説明の補充,(4)患者の意思の確認,(5)医療者間や患者-家族間の意見の調整,(6)情報の取りまとめと医療者間での共有,を指摘。そして,看護職は「中立であること」が重要であるとした上で,「個別的なケア計画は患者・家族の求めに応じ,相談の上で立案すること。患者本人の意思を尊重し,その人らしいQOLを維持できるようにサポートをすることこそが,看護職としての腕のみせどころでもある」と述べるとともに,がん患者のために積極的な緩和医療をめざすこと,基本的ニーズ充足のためのケアに重点をおくことを強調した。
 加えて,「家族もケアの対象者という認識を持つことが重要」とした家族ケアに関しては,(1)家族が患者のそばにいられるよう環境を整える,(2)患者のためになることができたという体験を促す,(3)身体症状の観察だけでなく家族とともに闘病へのねぎらいの言葉をかける,(4)家族が心の準備をできるように余裕を持って臨終の時期を知らせ,最期を迎えられるようにタイミングを見計らうこと,などを示唆した。

がん疼痛緩和に向けて

 看護セッションのテーマに沿ったシンポジウムでは,「がん疼痛緩和チーム」の立場から木村理恵子氏(慶大病院),「がん看護における補完療法として」を手島恵氏(東札幌病院),また「家族看護」の立場で鈴木志津枝氏(高知女子大),さらに訪問看護の実際から堀尾とみゑ氏(岡部病院)が「在宅でここまでできる」を口演するなど,4人が意見を述べた。
 まず木村氏は,「慶大病院のがん疼痛緩和ケアと疼痛緩和ケアナースの役割」を紹介。同病院の全病棟・外来を対象に横断的活動を行なう「がん疼痛ケアチーム」は,麻酔科外来,包括看護部,病棟の各1名からなる疼痛・緩和ケアナースと,ペインクリニック医(麻酔科医師),精神科・放射線科・薬剤部が連携しつつ,病棟訪問やカンファレンスを実施している。氏は,チームの役割について,鎮痛薬の投与・神経ブロック・放射線治療などによる早期の疼痛緩和達成および担当医療者へのサポートとした。また,疼痛緩和ケアナースの役割としては,医師との協働,情報提供などによる「患者,家族へのがん疼痛緩和ケア」,コーディネーター役割や包括的看護実践が目的の「担当医療者へのリソース機能」,疼痛緩和関連の情報発信を行なう「がん疼痛緩和に関連した教育・研究」をあげた。
 続いて手島氏は,がん患者の終末期に多く見られる症状について,倦怠感(90%),食欲不振(85%),疼痛(75%),嘔気(68%)をはじめ便秘,混乱,呼吸困難などを提示。その上で,セラピューティックタッチ,リラクゼーション,マッサージなどに代表される補完療法に関して,「化学療法などを行なう際に,不安や緊張によって増強される嘔気,嘔吐などの薬物の副作用を,リラクゼーションを促すことによって緩和させ,最小限の薬物使用で治療効果を高めることをめざすもの」と解説した。しかしながら,これらの療法は科学的に効果が証明されていないことに触れ,氏は「人体にとって害のない療法であり,患者の自律性を発揮し,自らコントロールできることで,患者の満足感につながるとの報告もある」と示唆。また,自院におけるピクニック療法や「装ってみま専科」などの実施を紹介し,「あなたは患者,私は看護婦,彼は医者,という関係ではなく,一緒になったケアが必要とされている」と結んだ。

家族・在宅ケアに向けた実践

 鈴木氏は「がん患者の看護と緩和ケア」と題して口演。がん患者の家族が直面する心理・社会的問題として,(1)患者の状況により家族が直面するストレス(患者に苦痛を伴う治療が行なわれている,患者が苦痛・苦悩を体験している,患者の精神状態の変化によりコミュニケーションが保てない,等),(2)死期が近づいていることへの情緒的ストレス(不安・恐れ,罪責感・無力感・孤立感,怒り,悲しみ,抑うつ,等),(3)家族関係の変化に伴って生じるストレス,(4)自分自身の状況から生じるストレス(自分の時間のなさ,健康に対する不安,患者との依存的関係・否定的感情,等)を提示した。その上で,「終末期がん患者の家族への援助」に関し,その目標を「家族の心理的,社会的苦痛を和らげ,別離への準備過程が円滑に進んでいくよう援助すること。これらの援助を通して,患者と家族が残された日々をともに過ごすことの意味を見出せるようにしていくこと」とした。また具体的援助として,(1)患者への緩和ケアに参加できるように支援する,(2)家族への情緒的サポートを提供する,(3)家族関係の調整を行なう,をあげた。
 一方,1997年の開院からこれまでに200名の患者を看取った堀尾氏は,がん患者および家族が「残された人生を在宅で療養する」と選択した在宅ホスピスケアの実践を報告。訪問看護をする上では,「医師の同行がない場合,その場で医療判断が求められることもある」とした上で,訪問看護婦の役割は,「症状からの判断(医師への情報提供),気づき,傾聴,家族とのかかわりである」と述べた。
 フロアを交えた総合討論では,疼痛緩和のためのモルヒネ使用に関して,医師の認識がまだ低く適量使用がされていないとの意見が出され,その解決に向けた方策が論じ合われた。また,疼痛緩和にあたっては医師との摩擦を避ける意味でも,「1対1のケアではなく,チームとしてのアプローチを考えるべき」との意見もあった。