医学界新聞

 

「在宅看護の源流と未来」をテーマに

第5回聖路加看護学会学術大会開催


 さる10月7日,第5回聖路加看護学会学術大会が,氏家幸子大会長(阪大名誉教授)のもと,大阪市の大阪府看護協会会館「ナーシングアート大阪」で開催された。なお,聖路加看護大出身者は全国各地の教育・実践現場で活躍をしており,「全国的な活躍も期待されているところであり,地方における開催は意義深い」(聖路加看護大学長 常葉惠子同学会理事長)として,今大会は学会初の地方開催となった。
 「在宅看護の源流と未来」をメインテーマに据えた今大会では,一般口演発表19題および事例検討3題,また話題提供として(1)大学院修士課程CNS教育における実習の展開-精神看護学(聖路加看護大 羽山由美子氏),(2)ナイチンゲールの考える看護婦像(聖路加看護大 小澤道子氏)の2題の他,メインテーマに沿ったプログラムとして,会長講演「在宅看護の変遷とその原点への思索」(氏家氏),シンポジウム「在宅看護の実践と課題」(写真,司会=小澤道子氏,大阪府立看護大 上原ます子氏)が企画された。


在宅看護は看護の原点

 氏家大会長は,講演の中で在宅看護について,「医療や福祉とともに,在宅ケアの1分野として機能し,看護職者が,看護の対象となる人に住み慣れたところで,QOLに視点をおいて看護ケアを実施しているもの」と定義づけ,その現状については「医療の専門化や入院日数短縮,介護保険の実施など,看護内容の種類・量ともに多岐にわたるようになり,その対応としての看護の質が問われている」と述べた。
 また地域での看護活動に関しては,「施設内看護」と「施設外看護」に大別。「施設外看護は,公衆衛生看護として,主に保健婦が行なうものであり,社会福祉的側面を持った看護・公衆衛生の1分野である」とした上で,第2次世界大戦後の日本における公衆衛生業務行政をはじめとする,地域における看護活動の流れを概説した。氏は,「Public Health Nursing」は,保健と医療を統合する「Comprehensive Nursing Care(総合看護)」の概念に移行し,さらに「Community Health Nursing」から「Nursing on District & Community」となっていると明言した。
 一方,医療の高度化に伴い退院後ケアも変化してきたものの,地域差が大きくなってきたことも指摘。まとめとして「在宅看護は,在宅療養者の個々の状態を把握し,熟練した適切な看護の実践が求められる場であることから,看護の原点でもある」とした上で,「原点である在宅看護を見直してほしい」と述べた。

実践を重視した体系化をめざして

 「介護保険の実施に伴い,高齢者ケアの枠組みが大きく変わりつつあり,看護の役割もさらに重要性を増している。このような時期に在宅看護の実践を伝えあい,議論を深めることは有意義」との趣旨で開かれたシンポジウムには,小児看護の立場から押川真喜子氏(聖路加国際病院),母性看護の立場で柳吉桂子氏(京大医療短大),また成人看護の立場から馬庭恭子氏(広島YMCA訪問看護ステーションピース),老年看護の立場で麻原きよみ氏(信州大医療短大)の4人が登壇した。
 押川氏は,聖路加国際病院では1992年より医療依存度の高い患者を中心とした訪問看護を実践していることを報告するとともに,小児専門医とともに在宅ターミナルケア・障害児の在宅ケアに取り組んでいる実態に関して,実例をあげて紹介。小児の在宅ターミナルケアについては,20例にかかわり,13例が在宅死,5例が病院死,現在2例が継続中であることを報告した。その上で,小児における在宅ターミナルケアのポイントとしては,(1)患児自身の在宅への強い希望,(2)患児のペインコントロール,(3)家族の受容・覚悟,(4)習熟した主治医によるターミナルの判断,(5)医師・看護職による24時間体制の確立,(6)医療チーム内の連携・調整,(7)患児,家族との緊密なコミュニケーション,などをあげた。
 また柳吉氏は,分娩の場所が家庭から施設に移ったことで,助産婦は助産ケアのすべてを行なうことから,施設内医療チームの一員としてケアに加わるようになった背景とともに,「少子化,核家族化により,伝承されてきた母性の知識,方法が崩壊し,家族としての機能を果たせない現状にある」と述べた。その上で,助産ケアの質の向上,職業倫理や地域における援助機能の必要性を指摘するとともに,新しく開業する助産婦が増えてきている実態も報告した。
 馬庭氏は,政令都市で在宅ホスピスを特化した訪問看護ステーションを開設して10年が経過したこと,また,難病,事故後遺症,先天性重度障害,末期がんが主な成人領域の対象者が抱える疾患であることを報告。在宅における成人看護の問題点として,がん,難病,その他の3領域に分け,それぞれに精神的,身体的,社会的要因をあげた。それによると,難病では先の見えない闘病によるストレス(精神的),ハイテク機器への対応,進行する症状と対応できない医療(身体的),介護者の高齢化・経済的負担(社会的)などを指摘した。
 また,在宅における看護婦の役割として(1)患者・家族へのケア,教育,擁護,(2)専門職としての最新の知識・技術の習得,(3)他職種との迅速な情報収集・提供・交換,(4)地域における有用なシステム開発と構築,(5)患者・家族のコスト軽減をあげた。
 麻原氏は,介護保険と高齢者の在宅ケアに言及。介護保険開始後の訪問看護研修会参加者より得たアンケートから,「介護者と本人・家族が最も困っていること」に,訪問回数,時間,ケア内容を変更せざるを得なくなったことや,十分なケアができないことなどをあげた。また,「高齢者が困っていること」としては,高い利用料を支払わなければならない,手続きが面倒,ショートステイ利用の制限があるなどを指摘。さらに,「制度上解決すべき重要な課題」としては,利用サービスの制限,介護認定の見直し・不公平の是正,利用者の経済的負担,ケアマネジャーの質の向上などをあげ,「ケアマネジャーに最も適しているのは看護職である」とまとめた。