医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


「がん」とは何かを包括的に解説する

がんの細胞生物学
Robert G.McKinnell,他 著/阿部達生,三澤信一 訳

《書 評》小川道雄(熊本大教授・外科学)

学生が「がん」を学ぶ時

 医学部学生に「がん」の講義をする時,「日本人の3分の1は『がん』で死亡している。しかも現在は『がん』の半数は治癒している。だから今日出席している学生の内の3分の2近くは,将来『がん』にかかるはずだ」とまず話している。
 本書はもともと大学の一般教養課程の学生のための講義をまとめたものという。気まぐれな現代学生(?)を相手にするからだろうか,本書は患者自身,家族,友人,そして医師の書いた手紙で,「がん」を知ること,身近に感じさせることから始まっている。「がん」が決して自分と程遠い存在ではないことを教えている本書の導入から,ふと自分の講義を連想してしまった。

「がん」のすべてを最新の,高度な内容でまとめて

 それにしても,この『がんの細胞生物学』は実にわかりやすい,おもしろい,そして知識を整理するのに役立つ本である。といっても大学生向けの講義なのだから,決して家庭医学書のレベルというわけではない。「がん」のすべてについての,分子生物学,細胞生物学,病理学,遺伝学,疫学から臨床診断と治療までについての,最新の,しかも高度の内容をまとめたもので,これまでにこのような書籍を目にしたことがない。
 この平易な語り口(これは訳者によるところも大きいのだろう)と,取り上げられるテーマ,トピックスから,私は特に,「がん」研究をこれから始めようとする大学院生に,本書を一読することをおすすめしたい。「がん」とは何かを包括的に知っておくことは,その後の「がん」診療に,あるいは「がん」研究にきっと役立つと考えるからである。
 なお本書では本文293頁に加えて,巻末に参考文献が60頁にわたってぎっしりと記載されている。これを見ると,本書がいかに最新の「がん」研究の成果を,コンパクトにまとめたものであるかがわかる。それとともに,アメリカの大学生が毎回これらの文献のいくつかを,次の講義までに読んでおくよう指示されていることを考えると,あらためて彼我の差を感じてしまう。
B5変・頁384 定価(本体5,000円+税) 医学書院


医療の変革期を迎えてタイムリーに「医療を科学する」

医療科学 第2版
江川 寛 監修/鈴木 信,信川益明 編集

《書 評》黒川 清(東海大医学部長)

増す医学教育における「医療科学」の重要性

 急速な少子高齢化,公衆衛生と生活パターンの変化,さらに疾病構造の変化とともに,医療の重点とあり方は変わった。さらに輪をかけて経済成長の低迷は,昭和36年(1961年)に導入されて以来,経済成長とともに機能してきた国民皆医療保険制度のあり方にも大きな課題を投げかけている。さらにヒトゲノムの解析に代表されるような生命科学の急速な進歩は,医学と医療の見方,方向,あり方に大きな方向性を示唆していると言えよう。医療は「cure」から「care」へ,そして生活習慣への対策導入による疾病の予防対策が医療費削減への重点課題の1つになってくる。交通と情報手段の急速な発展は,グローバル,ボーダーレスの情報公開の流れをもたらし,社会の医療に対する期待と医療人の倫理の社会的価値判断が国際化してくることが予測される。このような多次元に渡る変化の時代背景から,医学教育の現場での医療科学の重要性が増している。

複雑になりがちな医療への理解を助ける

 江川寛 監修,鈴木信と信川益明編集になる『医療科学』第2版が初版以来5年ぶりに出版された。上に述べたような医療の変革期を迎えて「医療を科学する」タイムリーな企画と言える。社会構造と医療の需要,医療関係法規,医療と行政,社会保障,医療資源と供給体制,ヒューマンリレーション,医療情報,医療管理,医療における意思決定,医療評価等の広い範囲にわたる解説と話題が丁寧にされていて,事典のような使いやすさがありそうである。さらに医療関連の行政と法規の記載は,年々変化していく,複雑になりがちな医療の現状への理解の手助けになると思われる。また,いくつかの外国での制度の解説,また日本の医療の歴史の解説も,普段は考えないかもしれないが,現在の日本の医療制度のあり方への背景を理解させよう。
 本書は「医療科学」とはいえ,「病院管理学」教育を背景にして出発したものであるが,その枠を越えて,現代の常に変化する医療のあり方を見据えて,「医療科学」としたいきさつがあると,編者の解説にある。もっともなことである。本書の著者もこのような背景と分野を代表する専門家からなっている。
 このようなトビックスは医師のみならず,すべての医療人が日常的に理解していなくてはならないことである。将来の臨床診療にも必要な事項が数多く含まれており,これらの話題の少なくとも一部は,医学総論の一部として,医学教育でも一定の時間が割かれることも必要であろう。本書にあらわされている「医療科学」の分野は,医師に限ったことではないが,臨床研修の現場で実践的な研修を通じて習得していきたいものである。
 著者,編者のご努力に敬意を表したい。
B5・頁384 定価(本体5,200円+税) 医学書院


循環器領域の臨床医学を学ぶのに最適

一目でわかる心血管系
Philip I .Aaronson,Jeremy P.T.Ward 著/村松 準 監訳

《書 評》石川欽司(近畿大教授・内科学)

 ある日,村松教授から1冊の本が贈られてきた。あずき色に紺色と白色が入った何となくハイカラな感じのする表紙で,中を開くと見やすいシェーマと説明文が組み合わさっており,これはよくできた本であると思った。そこで私どもの第1内科で,第5-6年のクリニカルクラークシップの学生がたむろする部屋に,この本を置くことにした。
 その後,この本の書評を依頼された。村松先生とは20年以上の付き合いで,彼の豊富な臨床経験と深遠な知識は私にとって,畏敬する存在であった。この本を村松教授が監訳をしたのは,わかりやすいシェーマと小冊子にしては内容が豊富で,斬新な内容が彼をそう駆り立てたのだろう。
 内容は,解剖,血液,生化学,機能,調節などの基礎部分が前半を占め,続いて臨床部門として,各種疾病の病理,病態生理,治療があり,合計51の章で構成されており,さらに最後に4つの症例検討がある。

見開き左右2頁で構成

 どの章も見開き左右2頁で構成されているので,まとまった感じがする。左頁の上には「心周期」などの題名が太字で書かれ,わかりやすいシェーマがその下に示されている。このシェーマはかなり細かいところまで書かれている。続いて本文があり,最も大切なポイントが詳しく,しかも簡潔に記載され,重要な語句はゴシック体で印刷されており見やすい。

知識の吸収・整理に役立つ

 記載されている内容は基本的な事項から,例えば「高血圧の診断と治療」のところではロサルタンやvalsartanなどの最新の知識まで包含されている。
 この本は学生や研修医あるいは循環器以外の領域を専門とする医師が,この領域を学ぶときに能率よく知識を吸収し,整理するのに役立つ。
A4変・頁132 定価(本体3,200円+税) MEDSi


第一線の臨床現場で活躍する医師に

〈総合診療ブックス〉 救急総合診療Basic20問
最初の1時間にすること・考えること
 箕輪良行,林 寛之 編集

《書 評》真栄城優夫(沖縄県立中部病院・ハワイ大卒後研修事業団)

 この度,医学書院から『救急総合診療Basic20問-最初の1時間にすること・考えること』が「総合診療ブックス」シリーズの6冊目として上梓された。一読してわかることは,編集者,執筆者からも明白なように,本書が油の乗り切った若手の実務者により書かれた実務書であることである。しかも,この種の書籍に多く見られるノウハウのマニュアル本の域を大きく凌駕している。

市中病院でよく見る急病から,外傷のプライマリ・ケアまで

 前半の部分では,市中病院でごくありふれて見られる急病の初診時の症状や症候を中心に,後半部では外傷のプライマリ・ケアで構成されている。第一線の救急室で,これらの疾病や外傷に遭遇したときの最初の1時間で何を考え,何をなすべきかが,箇条書きされ,さらに現代風のイラストにより一目で理解できるように示されている。
 次いで実際に経験された症例が提示され,その時に考えたことと,その理論的裏づけとなった病態生理学的変化が説明され,何をなすべきかは,アルゴリズムにより示されている。そして,症例の経験から得られた教訓と,陥りやすいピットフォールと続き,最後が電話相談として,プライマリ・ケア医に対する専門医の助言で締めくくられている。アルゴリズムの中には,多少とも簡略化が望ましいもの,あるいは腹腔内出血の超音波診断では米国よりは10年の長のある日本のデータも加えてほしいとの希望もあるが,それらはいささかでも本書の価値を損なうものではない。

若い医師の好伴侶に

 本書は,第一線で急病や外傷に遭遇する機会のあるプライマリ・ケア医のみならず,救急を専門にしている医師にも,知識の整理とノウハウの見直し,今まで気づかなかったピットフォールを思い起こすためにも,お薦めしたい良書である。特に若手の実務者レベルの医師にとっては好伴侶となると思われるので,ぜひご一読をお薦めしたい。
A5・頁200 定価(本体4,000円+税) 医学書院


臨床脳波学を学ぶ人のための完璧な教科書

臨床脳波学 第5版
大熊輝雄 著

《書 評》小島卓也(日大教授・精神神経科学)

初版以来37年間,愛読されてきたテキストの改訂

 臨床脳波学の第1版が出版されたのは1963年であり,その後第2版1970年,第3版1983年,第4版1991年,第5版1999年という具合に第3版を除きおおよそ7-8年の割合で改訂されている。どこの脳波検査室にも,研修医が集まる場所にも,指導医の手元にも,必ずと言っていいほど置かれている本がこの『臨床脳波学』である。
 初版以来37年間,臨床脳波学を学ぼうとする人たちの教科書であり続けている,という本書に圧倒される。その理由は臨床脳波に関する幅広い内容が網羅されていて,しかも常に新しい情報が盛り込まれており,脳波学を勉強したいと思う者にとって欠かせないからである。もう1つの理由は著者が1人で書いており,本全体が統一され,すみずみまで著者の考えがいきわたり,高度な内容の割にはそれぞれの内容がわかりやすく,要領よくまとめられていて親しみやすいということが言えよう。著者の臨床脳波学に対する変わらぬ興味と愛情を感じる本である。

最新の情報を盛り込む

 臨床脳波学の記述では,老年期の患者の脳波について詳しく書き加えられ,さらにポケモンのテレビを見ていて異常がおきた全国的な事件があったが,「テレビゲームてんかん」についての記載が新たに加えられている。種々の薬物を投与した時の脳波の変化を分析した定量薬物脳波学,各種の誘発電位,事象関連電位などの記載が増え,脳磁図,双極子法などについても詳しく言及されている。
 脳波の発生についても,α波,β波,紡錘波などの発生機序について最新の考え方が紹介されており,脳波の基礎に関する学問的な興味にも対応してくれる。また日本脳波・筋電図学会が決めた臨床脳波検査基準がのっており,脳死判定に関する脳波検査の手順なども実際の記録の仕方,臨床的意義について述べられていて勉強しやすい。文献も巻末に関連項目ごとに一括されており,用語集もついていて他の本を見る必要がまったくない。ますます完璧な臨床脳波学の教科書になっている。
 種々の画像診断がめざましい進歩をとげているが,脳波は瞬間瞬間に変化する脳機能を敏感に反映するという魅力をもっている。このことを若い人々に知ってもらい,ぜひ自分のものにしてもらいたいと思う。本書はそのための恰好の本である。
B5・頁736 定価(本体18,000円+税) 医学書院


第一人者がまとめた黄斑疾患のテキスト 待望の刊行

黄斑疾患 テキスト&アトラス
宇山昌延,西村哲哉,高橋寛二 編集

《書 評》猪俣 孟(九大教授・眼科学)

 関西医科大学眼科宇山昌延教授の定年ご退職を記念して『黄斑疾患-テキスト&アトラス』が医学書院から出版された。これは,宇山教授のご指導のもとに,関西医科大学の皆さんが多数例の黄斑疾患の診療経験をまとめられたものである。
 本書は総論と各論を合わせて40項目から成り,分担執筆の形成がとられている。各種黄斑疾患の典型的でしかも美しい眼底写真に,フルフォレスセイン螢光眼底造影,インドシアニン・グリーン螢光眼底造影,さらに光干渉断層計Optical Coherence Tomography(OCT)などの写真を対比させ,大変わかりやすい解説である。文章は簡潔で読みやすい。要点がきちんと押さえられているので,黄斑疾患の知識の整理にきわめてよい。本文もさることながら,37項目のショートノートも面白い。
 周知のように,宇山教授は臨床像の詳細な観察に基づいて,非常に多くの眼疾患の分類や病期の基準を作ってこられた。いわば,黄斑疾患の世界的第一人者であるアメリカ合衆国のJ Donald M Gass教授にも比肩される。本書には多発性後極部網膜色素上皮症Multifocal Posterior Pigment Epitheliopathy(MPPE)などのように,宇山教授によって命名された疾患も含まれている。

黄斑は「眼の中の眼」

 黄斑は網膜の中で視覚機能にもっとも大切な部位であり,「眼の中の眼」とも言える。眼球は網膜とくに黄斑が主役で,その機能を最高に発揮させるために構築されていて,その他の組織は黄斑機能を維持するための脇役にすぎない。
 脊椎動物の眼は神経外胚葉に由来して形成されている。そのために,視細胞が網膜の奥深い部位に位置して,光の進行方向と光受容後の視覚刺激伝達の方向が逆になっている。この組織構築を倒立網膜という。倒立網膜では,視覚の機能を高めるために視細胞の数を増やせば増やすほど,視細胞に到達する光は網膜内の細胞や神経線維および血管によって妨げられるという矛盾点をもっている。その解決策として,中心小窩が形成されている。中心小窩が存在する黄斑は高度視機能獲得のためのきわめて巧妙な組織構築であるが,そのためにかえって損傷されやすく,精巧さと脆弱さという二面を包含している。黄斑に疾患が起こりやすい理由については本書に詳しい。

眼科医必携の書

 かつて黄斑は,治療で手をつけることのできない聖域であった。しかし最近,多くの黄斑疾患の病態が明らかにされ,また手術手技が発達して,治療が可能になってきている。今眼科医には,黄斑に関するより深い知識が求められている。隅からすみまで読むにふさわしい眼科医必携の書として,すべての眼科医に本書を推薦する。
 眼科診療でもっとも大切な黄斑疾患をライフワークの対象に選ばれた宇山教授の慧眼と,それを『黄斑疾患-テキスト&アトラス』として見事にまとめられた,宇山教授はじめ関西医科大学眼科学教室の皆さんのご努力に深く敬意を表したい。
B5・頁296 定価(本体18,000円+税) 医学書院