医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


循環器疾患の超音波医学の教科書はこれ1冊で

新超音波医学
第3巻 循環器
 日本超音波医学会 編集

《書 評》山口 徹(東邦大大橋病院教授・内科学)

超音波医学の潮流を21世紀を見据えてまとめた書

 通常,教科書は2-3人の編者を中心に編纂され,学会が編纂する教科書はめずらしい。本書は学会あげての取り組みがきわめて高いレベルで結実した成書である。日本超音波医学会は,1966年に『超音波医学』を,1988年に『超音波診断』を刊行し,今回が第3回目の大改訂である。最初の『超音波医学』は,副題に「基礎から臨床まで」とあるように,超音波医学の基礎と臨床応用を網羅した,医学者と工学者がまだ同等の比重で活躍していた時代の記念碑的な名著である。その後の臨床応用の進歩はめざましく,超音波診断はX線診断と並んで医学の進歩に大きく貢献した。その時期に刊行されたのが『超音波診断』である。
 本書は,1990年代後半から再び活気づいてきた超音波医学の潮流を,21世紀を見据えてまとめられたもので,「新」の一文字に編集委員会の意気込みが感じられる。読者の利便性を優先して分冊化され,ハンディで使いやすくなった点も大いに歓迎される。本書は4分冊の1つで,循環器領域の臨床応用に関する分冊である。

心エコー図からみた循環器病学

 循環器領域での超音波検査法は,心エコー法と呼ばれることが多いが,わが国の研究者がその発展に大きく貢献してきた。その意味で本邦を代表するエキスパートによるこの成書の完成度は高い。1990年代後半に登場したディジタル化画像処理,3次元エコー,ハーモニックイメージング,新しいコントラスト剤,血管内エコーなど,新しい手法と技術が網羅されているのは無論のこと,入門的な基礎知識に関しても漏れがない。馴染みのある模式図が多い点も,心エコー図が循環器病学の中で不可欠な分野であることを示している。本書を通読すれば,心エコー図からみた循環器病学を学ぶことも可能である。
 本書の構成は,各種の超音波検査法の解説に始まり,虚血性心疾患,弁膜症などの各論が続く。ほとんどすべての心血管病について記載があり,これは,心エコー図が広い分野で有用かつ必要な証拠である。本書は368頁,厚さ1.5cmと使い勝手のよい分量であり,研修医が辞書的に活用するのにも,循環器内科あるいは外科の専門医をめざす若手や検査技師が通読するのにも適している。執筆者間のエコー所見の記述順序は必ずしも統一されていないが,疾患に応じて有効なアプローチが異なるとも言えるので,豊富な図と対比して読み進めるのがよい。優れた著書が内外にあるが,循環器疾患の超音波医学の教科書はこれ1冊でよい。
B5・頁368 定価(本体8,000円+税) 医学書院


精神科臨床の現場に即した柔軟な評価を

米国精神医学会治療ガイドライン
精神医学的評価法

日本精神神経学会 監訳/岡崎伸郎,佐藤光源 責任訳者

《書 評》千葉 茂(旭川医大教授・精神医学)

日本におけるガイドライン作成をめざす

 米国精神医学会は,1995年から1996年にかけて精神障害に関する実践的ガイドライン・シリーズ(practice guidelines)を発表している。日本精神神経学会(理事長=佐藤光源)はわが国における実践的ガイドラインの作成をめざし,その前段階として,米国精神医学会によるこのシリーズの公式翻訳を行なってきた。本書は,このシリーズの中の1つの巻『精神医学的評価法(Practice guideline for psychiatric evaluation of adults)』を訳出したものである。このシリーズの他の巻が,例えば精神分裂病やアルツハイマー病といった個々の精神障害の治療ガイドラインについて各論的立場から書かれているのに対して,本書は精神症状をどのように評価するかという総論的立場から書かれている点に特徴がある。
 本書はこれまでの研究成果に基づいて書かれており,その内容は統合的かつ実践的である。精神医学的評価の目的と実施方法は,評価を求めている人の立場や評価の理由,そして精神科医に期待されている役割によって異なる。そこで,評価のパターンを,患者との1対1の面接,救急,臨床的コンサルテーション,法律的・行政的コンサルテーションという4種類に分けて,各々の評価の基本姿勢について概説している。また,具体的な評価の実施場所として,精神科病棟,精神科外来,一般科病棟,および医療施設以外の4つをあげ,それぞれの場所での評価における具体的要領が述べられている。例えば,一般科病棟の診療録に精神医学的評価を記載する際には,一般科との守秘義務の基準の違いや,精神医学にあまり詳しくない医療スタッフが読むことを考慮し,記載する情報を一般科スタッフが必要とする範囲にとどめ,また,専門用語をできるだけ少なくして表現するべきであるとの記述がある。このような実践的・具体的記述は,本書の随所に認められる。
 評価項目としては,評価の理由,現病歴,精神医学的・身体医学的既往歴,職歴,家族歴,身体症状のチェック,身体的検査,精神症状の把握,そして面接過程で得られる情報(例えば,患者の対人的な態度についての情報)などについて論じられている。評価に際しては,面接を基本においた上で,構造化面接,質問表,評価尺度を利用して情報を収集したり,多くの職種からなるチームメンバーの意見も併せて評価することが重要である。さらに,初期治療や法律的・行政的側面,ケアシステムの問題,あるいは社会・文化的多様性を視野に入れながら,最新のDSM多軸診断や患者に固有な情報(心理社会的因子,対人関係における能力,民族,性的嗜好,宗教的ないしスピリチュアルな信条,など)を基に初期の評価を絶えず検証していくことが強調されている。その他,特殊な問題として,第三者支払い機関に情報提供する際の注意点や,精神医学的評価の結果を取り扱う時の秘密保持の基準(米国精神医学会)の遵守,高齢者の精神医学的評価をする場合の要領などが記載されている。

精神科臨床における患者の見立て

 訳者らも指摘するように,本書は精神科臨床における患者の「見立て」の作業構成について述べたものである。しかし,その視点は,米国の精神科臨床を反映するように統合的かつ実践的であり,臨床の現場に即した柔軟な評価をめざしている。その内容においても,医学・医療・保健・福祉を統合している。当然のことながら,本書は,わが国の実践的ガイドラインを作成する際にも重要な参考資料になると思われる。
 本書が,佐藤光源先生と岡崎伸郎先生の卓越した訳出によって医学書院から出版されたことにより,わが国の精神科医は米国の精神医学的評価法を日本語で容易に理解できることになった。精神医学的評価法は精神医学の基本概念に深くかかわるものであり,精神医療に関係する多くの人々に,ぜひ本書をご一読いただきたい。
B6・頁72 定価(本体1,400円+税) 医学書院


老人診療の達人をめざして

老人診療実践ガイド
北原光夫 監訳

《書 評》中谷矩章(都国民健康保険団体連合会 福生病院長)

 本書は,米国のブラウン大学医学部の医師を中心に執筆された「Practical Guide to the Care of the Geriatric Patient」(第2版)を,東京都済生会中央病院内科の医師たちが分担して翻訳したものである。
 本書の特徴は,加齢の生理学,高齢者の評価方法,精神的機能障害,身体的機能障害など高齢者を管理,治療する上で重要な全般的な問題がわかりやすく述べられていること,各臓器ごとの疾患と異常については簡潔に要領よく記述が行なわれているとともに,図表を多く用いて理解しやすいように工夫がなされていること,高齢者の薬物療法における注意点がよく述べられていることである。また,高齢者の健康維持に対してもかなりの頁が割かれており,褥瘡の予防と治療に20頁以上を費やしていることと併せて,QOLを重視している姿勢がよくうかがえる。
 A5変型判,394頁からなる本書は携帯に便利であり,外来および病棟における診療の場で随時利用できるようになっているが,加齢の生理学,高齢者の評価方法,精神的および身体的機能障害,薬理学的知識の章は,ぜひ熟読していただきたい部分である。
 翻訳は完璧で読みやすく,翻訳書であることを感じさせないくらいよくできている。

総人口の4分の1が高齢者に

 わが国は,2015年には総人口の4分の1が高齢者となる道を歩んでおり,今後高齢者の増加とともに,老人の管理および治療は重要な問題となっていくことが考えられる。本書には老人診療に必要な事項がすべて網羅されており,これ1冊を読めば老人診療の達人になれるといっても過言ではない。
 内科医のみでなく,すべての医師が老人診療に精通していなければならない今日,本書はうってつけのものであり,1人でも多くの医師に読んでいただきたい本である。
A5変・頁394 定価(本体5,600円+税) MEDSi


最新のCAPD治療を容易に学べる待望のテキスト

CAPD実践マニュアル
石崎 允 監修/今井裕一 編集

《書 評》下条文武(新潟大教授・内科学)

 末期腎不全に陥った患者に対する治療の選択肢の1つとして,CAPD(持続携帯式腹膜透析)がわが国に導入されて20年が経過した。しかし,その普及率は,全透析患者の5%を超える程度にとどまっており,わが国では血液透析が依然として優位にある。その理由はいくつかあるが,1つには,長期CAPD患者にみられる腹膜機能の劣化や硬化性被嚢性腹膜炎が発症するという問題がある。しかし,一方ではCAPD治療の経験を積んでいるスタッフが多くないことや,ここ数年で機器・腹膜機能検査法・治療法が大きく変化したことが広く理解されていない側面があることも事実と言える。本書は「実践マニュアル」と題されているように,簡潔な記述と写真やシェーマにより最近のCAPD治療を容易に学ぶことができる待望の最新テキストである。

21世紀の腎不全医療の従事者に

 CAPDの導入期から外来での管理・指導までの実際,合併症対策と治療,社会保障制度の最新情報,患者教育の方法,患者・医療者のメンタルケアなどが理解しやすく述べられている。腎不全医療に従事する者,またこれから従事しようとする者にとって必要不可欠な知識がまとめられている。図や写真を多用し,各章ごとにQ&Aを入れるなどの工夫を凝らし,大変わかりやすい。関連した参考文献も収録されており,より詳細な情報も得ることができるように配慮されている。
 そして,CAPD導入にマイナス思考になっている重篤な合併症である硬化性被嚢性腹膜炎についても,本書では第13章にこの合併症の病態解明と,発生予防に向けた治療方針を明確に打ち出し,その治療戦略について詳しく書かれている。

患者さんや家族にもお勧め

 また本書は,CAPDの導入から長期治療にわたっての患者のメンタルケアや医療者側からの交流分析法についても適切なアドバイスが示されている。21世紀の腎不全医療に従事する者にとってCAPD治療の必要不可欠な知識と技術を学ぶことができる書である。
 CAPD治療に関心ある患者さんや家族の方にもお勧めしたい1冊である。
B5・頁128 定価(本体2,400円+税) 医学書院


治療者のための実践的な指南書

摂食障害
食べない,食べられない,食べたら止まらない
 切池信夫 著

《書 評》神庭重信(山梨医大教授・精神科学)

唯一特効的な治療法はない

 この度,摂食障害の第一人者である切池信夫氏が,『摂食障害』と題された本をまとめられた。その歴史,疫学,病因論,診断,治療にわたり摂食障害をひろく取り扱った本である。しかしよく見ると3分の1は治療に充てられている。本書は治療者のための実践的な指南書として書かれたものである。
 第 VII 章「治療は難しい」では,まず,「治療に唯一特効的な治療法はない」と切り出す。「精神療法,行動療法,身体療法に広く通じ,適宜組み合わせて,患者の状態に対応せよ……」と氏は述べる。「もっとも重要なことは何かと言えば,治療以前の問題,すなわちいかに治療への動機づけをして,これを強化,維持するためのプロセスである」と歯切れのよい文章がつづく。さらに読むと,親のみ診察に来た時に患者を受診させる方法,初診時における患者への接し方,重症度の評価と入院・外来治療の決定,食事指導などについて,経験に裏打ちされたひと味違う実践的で具体的な解説が現れてくる。最後には各種治療法の紹介と家族への接し方が加わる。

第一人者による治療の技

 ここで切池氏の技法をいくつか拾ってみよう。初回面接では,治療者がこの病気をよく知っており,患者に対して温かい関心を持っていることが伝わりさえすればよいと言う。大切なことは,医師と親が共謀している印象を与えないこと。まず患者から面接を始め,親の同席について患者の意向を確かめること。最初から症状や嘔吐や下剤の乱用を追及せず,患者の語るところを真剣に聞き入ることであるという。一方,罪の意識や後ろめたさを抱きがちな親に対しては,「この病気は誰の責任でもない」,「子どもをこの病気になるように育てることなど到底できない」と語りかけることを奨める。
 切池氏は患者に,病気について図説したパンフレット(本書に掲載)を用いて,身体症状や精神症状をわかりやすく説明する。治療者はとかく体重の話をしがちなものであるが,治療の目標は,正常な食事パターンの回復と日常生活に支障をきたさない体力を得ることであると強調する。
 食事指導の項では,家族と同じ内容の食事を家族とは別にとらせる,料理の内容は母親に任せ,食べることや体重を指示するのは治療者に限り,家族にはさせないようにする,食事量については食生活日誌をつけさせ,1週間のパターンを観察し,1週間の平均摂取量を20%ずつ増量するのがよい,と教えてくれる。
 摂食障害は私たちの文化の持つ何かが動因となっている障害である。しかしそれが一体何なのか,どのように私たちの遺伝子や心理とかかわり合うのか。いまはわからないことばかりであり,その謎は魅力に溢れている。しかし一方で,摂食障害ほどに治療が困難で時間がかかり,治療者の力量が試される障害もないだろう。私たちは随所に工夫が凝らされた本書を通じて,切池氏の治療の実際を手に取るように知ることができる。否,こうした本でなければ治療を身につけることができないのが摂食障害なのだろうと思う。
A5・頁240 定価(本体3,000円+税) 医学書院


運動負荷心電図のバイブル

運動負荷心電図
その方法と読み方
 川久保清 著

《書 評》齋藤宗靖(自治医大大宮医療センター教授・循環器科)

「運動負荷試験は必須である」

 最近さる雑誌に「運動負荷心電図は今でも有効か」というテーマで書かされる機会があった。その序文の中に怒りをこめて次のように書いた。「近年,診断機器の発達,生化学検査の迅速化によって,日常診療の中で病歴・身体所見や基本的検査がおろそかにされるようになったことに危機感を感じている。詳細な病歴や身体所見の前に心エコーや冠動脈造影検査が行なわれているように思われる。確かに冠動脈造影は虚血性心疾患のgolden standardであるが,だからといって運動負荷試験のような基本的な検査がおろそかにされるべきではない。心疾患は単に形態的な異常のみならず機能的な異常を伴う疾患であり,循環系に何らかの侵襲を加えて初めてその異常が検出できることが多い。生体に対する侵襲の中では運動がもっとも生理的であり,その意味でも運動負荷試験は必須である」
 近年,循環器負荷試験の中に核医学的な手法や呼気ガス分析が取り入れられ,また虚血性心疾患のみならず心不全を含むあらゆる心疾患が検査の対象となりつつあるが,そのもっとも基本は虚血性心疾患の診断を目的とする運動負荷心電図である。しかしながら,わが国において運動負荷試験に関する書物の出版がきわめて少ないのが実情である。

1万例を超える経験に基づいて

 今回本書を書かれた川久保清先生はわが国のこの分野の最高権威であり,その序文にもあるように1万例を超える運動負荷心電図の判読の経験に基づき,さらにそこに自分の臨床研究や文献的考察を加えて完成した運動負荷心電図のバイブルである。本書は大きく2つの部分からなっており,前半では運動負荷試験の方法論が,また後半では運動負荷心電図判読のための理論と要点,日頃疑問に思っている心電図判読上のコツを要領よくまとめている。ルーチン検査として運動負荷試験をマスターしなければならない循環器志望の研修医には大変参考になる教科書である。
 一読してあえて気づいた点をあげさせていただければ,せっかくの心電図が小さくて見づらいこと,随所に出てくるサイドメモが少々うるさく感じられることなどであるが,内容をみればそのような点も気にならないくらいであり,長年の蘊蓄を傾けた運動負荷心電図学の完成品になっている。心エコーや冠動脈造影も重要な検査であるが,運動負荷試験にはそれらにない機能検査としての重要性があることを本書は教えている。
B5・頁160 定価(本体4,700円+税) 医学書院