医学界新聞

 

看護職は現代社会・家族をどうみているのか

聖路加看護学会平成12年度学術交流会開催


 さる9月30日,東京・築地の聖路加看護大学において,聖路加看護学会平成12年度学術交流会が,「看護職が現代の若者と家族を語る」をテーマに開催された。同交流会では,堤邦彦氏(北里大病院救命救急センター・精神科)による基調講演「注目の17歳」の他,シンポジウム「看護職が現代の若者と家族を語る」(司会=聖路加国際病院副院長 井部俊子氏)が行なわれた。

教育論ではなく,医療サイドから探る若者像

 堤氏は,近年凶悪化する一方で,法改正も検討されている少年犯罪について,「1990年代に入って増加傾向にあり(1990年122件,1998年284件,1999年207件),動機が判然としない犯行が目立つ」と指摘。しかしながら,非行少年(12-18歳)と一般少年(都内中高生)の意識調査をしたところ,凶器の所持,薬物使用,援助交際などについては一般少年のほうが「いいじゃないか」と思っている傾向が見られた。これを受けて堤氏は,「心理面で非行の子と普通の子の境目がわかりにくくなっており,これまで以上に広範な指導が必要」と強調した。また,「非行は青少年が種々の危機に陥り,心の葛藤を持った際に,そのイライラを攻撃によって発散する行動化の1つ」と定義。これらは(1)基本的危機による,(2)個人的危機による,(3)青年期危機によるものの3パターンに分類できるとし,それぞれに教育論からではなく,医療サイドからの解説を加えた。
 さらに,「情動発達遅滞」を提唱するとともに「トラウマは感染する」とし,阪神・淡路大震災と「酒鬼薔薇聖斗事件」の関連性やペルー日本大使公邸占拠事件とその人質であった自衛官が引き起こした拘束,暴行事件の関連性を説き,「ストレス障害は長いスパーンで考える必要がある」と述べた。その上で,「危機介入は,何かが起こってからではダメ。事前のサポートシステムが未熟。その裏にはカウンセリングへの過剰な期待と誤解がある。適切な心の管理はできているのか」と指摘し,今後は,サポートシステムとしての「ライフケアセンター(心のケアセンター)の設置と普及が重要」と述べた。

臨床看護婦「45歳定年」説も

 一方,シンポジウムでは,石渡エツコ氏(立教池袋中・高校養護教諭)が「保健室の世界」を口演。保健室を利用する生徒の実状や健康診断表から,中・高校生が抱える問題を語った。
 また,太田喜久子氏(宮城大)は「看護系大学の学生たち」と題し,学内以上の学びとなる,実習の場における学生の心の動きを解説。「現場での患者および看護職者との人間関係がうまくいった時に,学生は大きく飛躍する」と述べた他,「4年間の学びの保障として,自己および他者からの自信を持たせる支えが必要」と指摘した。
 「新卒看護婦の病院勤務」を口演した佐藤エキ子氏(聖路加国際病院副看護部長教育担当)は,現代の若者の特徴として,「偏差値教育や多様な価値の中で,また核家族の中で育った,やさしさを持ちながらも傷つきやすい性格」をあげた。新卒看護婦にも同様の要素があり,「緊張感と,多くのマスターしなければならないことへの不安や時間との葛藤がつきまとっている」と指摘した。その上で,プリセプターシップからの新人看護婦の気持ちおよびプリセプターによる評価を公表。そこから見える新卒看護婦像は,「何をしたらよいかが自分自身で考えられず,他のスタッフに振り回され,何がなんだかわからず頭の中が真っ白になることがある。また,毎日の仕事の忙しさにビックリし,仕事のできない現実に悩んでいる」というものであった。
 新人訪問看護婦を訪問看護の場で受け入れる立場から秋山正子氏(白十字訪問看護ステーション)は,現場で受け入れる実習生・研修生・新人看護婦の最近の傾向や特徴を語った。また,家族との関係や他職種との関係が重要な在宅看護が担う現場の特徴として,(1)情報量の多さ,解釈の複雑さ,調整の難しさ,(2)原則として1人で判断し実践しなければならない,責任の重さ,(3)自分自身の看護観,死生観,生活観が問い直される心理的な重圧,の3点をあげ,「これらを魅力的と感じる看護婦が在宅の場で活躍をしてきているが,新人には魅力とは映らず,就職は控えたいという気持ちがある」と指摘した。
 また,自分では在宅を希望しているものの,思い入れが強く家族とトラブルを起こした研修生の実例をあげ,在宅看護に適応できない看護学生もいることを明らかとした。さらに,「在宅の場はよろず相談所とも言える。看護職自身の個別性を認めなければ,患者の個別性も理解できない」と強調した。
 なお,その後のディスカッションでは秋山氏の言から,「看護職はなんでも屋か」の論議や,堤氏が「45歳を過ぎた看護職が夜勤を含めた3交替制(特に急性期病棟)の中にあるのは前近代的に思える。看護職が市民権を得るためにも,給料保障をした上での45歳定年制を考慮すべきではないか」と発言。この発言をめぐって活発な議論が交わされた。
 まとめにあたり井部氏は,「昔はよかったではすまされない時代となっている。生産性は50歳で確かに低下する。現実を捉えていく必要が看護職にも切実にある」と述べた。