医学界新聞

 

「グローバルネットワーク時代の看護」

第5回日本看護サミット2000 in みえ開催


 さる9月13-14日の両日,第5回日本看護サミット2000 in みえ(実行委員長=三重県看護協会長 楠美智子氏)が,津市の三重県総合文化センターで開催された。
 日本看護サミットは,1996年に岐阜県で第1回を開催。その後,石川県,神奈川県,滋賀県と引き継がれ,5回目となる今サミットでは,グローバルな視点で保健医療を展望し,新世紀に看護が果たす役割とその方法を探るべく,「グローバルネットワーク時代の看護-新ミレニアムの幕開け」をメインテーマに据えた。
 なお,今サミットでは,基調フォーラム I「新しい時代を担う看護の人づくり」(座長=フジテレビ 黒岩祐治氏)をはじめ,フォーラム II「介護保険における看護職の役割」(座長=北海道医療大 中島紀恵子氏),III「国際協力に果たす看護の役割」(同=新潟大 戸塚規子氏),IV「情報技術を利用した看護の教育と実践」(同=三重県立看護大 前原澄子氏),V「医療事故防止対策-リスクマネジメントの実際」(同=日本看護協会 岡谷恵子氏),VI 講演「世界の看護の将来展望」〔同=楠美智子氏,講師=ICN(国際看護婦協会)事務局長 ジュディス A.オルトン氏〕が企画された。なお,フォーラム V,VI はICNとの共同企画として実施された。

看護が国際貢献を進めていくために

 フォーラム III では,「国際協力の対象となる開発途上国では,今なお人口増加,貧困などさまざまな問題が社会の安定に影響を与えており,人々の生活基盤や医療などの基本的必要が充足されていない状況にある。こうした状況を解決するためには保健医療分野における国際協力が必要」との主旨で開催。座長を務めた戸塚氏は,青年海外協力隊(JOCV)の35年間の活動実績を報告。それによるとJOCVはこれまで69か国に,全職種2万984人を派遣しているが,そのうち保健衛生分野は2780名(13.3%),看護職だけで1279名(6.0%)にのぼる。また,現在活動中なのは全職種2668名(69か国,うち女性1354名),なお看護職は188名(38か国,同185名)で全体の7.0%にあたる。派遣地域はアジアを筆頭に,中南米,アフリカが多く,地域住民の健康教育,母子保健活動にあたっている。
 なお,パネリストとして登壇した柳沢理子氏(三重県立看護大)は,1989年から6年間カンボジアに在留していた経験(NGO)をもとに,看護職の活動の実態を紹介。その上で,国際協力に携わる看護職の悩みとして,(1)語学力の不足,(2)予想していた業務と現実のギャップ,(3)看護の概念,領域の違い,(4)業務内容が明確でないこと,(5)文化,宗教の違い,(6)利用できる社会資源の不足,(7)人道的悩み,などをあげた。さらに,看護の国際協力における課題として,(1)国際看護という専門性,(2)多様性への対応,(3)早期体験,(4)協力のフレームワーク作り,(5)新しいパラダイム(みんなが答えを探している,途上国から学ぶ,看護からの提言),などを指摘した。

医療事故問題を解決するために

 ICNアジア・ワークフォースフォーラムと銘打たれたフォーラム V(写真右)は,各国における医療分野のリスクマネジメント上の現状や課題を語るとともに,共通の課題を明らかにし,グローバルな視点から問題解決の一助とすべく,ICNとの共同企画として開催された。壇上には,日本側から井部俊子氏(日本看護協会)をはじめ,ヤム・イム・キム氏(韓国産業看護婦協会),ジンタナ・ユニバンド氏(タイ看護婦協会),トム・ボルジャー氏(イギリス看護協会),メアリー・フォーリー氏(アメリカ看護婦協会)ら,各国を代表する演者がそれぞれに意見を述べた。なお,メアリー・フォーリー氏は今年からアメリカ看護婦協会長を務めている。
 この中で井部氏は,医療事故の原因に「医療現場の変化」や「医療現場での錯覚」をあげた。前者では,診断・治療技術の進歩が複雑性を増していること,夜間や日中も同様の治療が継続されるなど業務密度が高くなっていること,業務形態が一貫作業から分業形態にシフトしていること,などを指摘。また後者では,高度化・複雑化への対応は個人のがんばりでやり遂げることができると思っていた,医療者は完全でミスなどありえないと信じてきた,安全対策には「注意」が大切で「費用」はかからないと思っていた,などをあげた。その上で,「医療の最先端で患者に直接サービスを提供する役割を担い,24時間患者のそばにいる看護職は,医療事故の当事者になることが多い」と述べた。さらに,医療事故防止対策としては,医療の密室の払拭や安全管理指導者の育成と安全管理対策の実施などを指摘した。
 なお,韓国からは「健康増進プロジェクト」や「ヘルスプロモーションのための9つのプログラム」が紹介された。また,イギリスからは,現在問題になっている「ラテックスアレルギー」の対策や,ロビー活動,メディアを利用した職場の健康対策キャンペーンの内容が紹介された。さらにアメリカからは,1996年以降現場勤務の看護職が減少したことから,事故の発生が増加した実態が報告され,今秋にも法案化を含めた国家的医療事故防止対策案が明示されることを明らかにした。なお総合討論では,看護職の疲労度と医療事故,看護職数と医療事故の関連性などが議論された。
 今サミットの閉会にあたり,楠氏は「看護サミット宣言」を発表(下表)。また,次回の看護サミットは,千葉県が担当し,明年7月26-27日の両日に,千葉市の幕張メッセで開催される。

●第5回日本看護サミット宣言
2000年9月14日  

 新ミレニアムの幕開けを記念し,今回の看護サミットは「グローバルネットワーク時代の看護」をメインテーマに開催した。閉会にあたり,各国の看護職が集い議論された成果が,間もなく到来する21世紀の看護の新たな構築に貢献することを願い,三重県から日本全国はもとより,今回参加された各国に第5回日本看護サミット宣言をする。
○私たちは,新しい時代を担う看護の人づくりのため,看護系大学や大学院の教育成果を還元できるように,看護現場での受入体制を整備していきます。
○私たちは,介護保険制度が住民本位のものとなるため,必要な政策提言を積極的に行ない,利用者の立場に立った専門的な技術支援を確保します。
○私たちは,各国の今日的課題や役割を共有し,今までに培ってきた看護の経験を活かして,積極的に国際協力や国際交流に携わるよう努めます。
○情報技術を利用した看護の教育と実践は,IT導入による「看護革命」とも言えます。私たちは,今後さらに発展していく高度情報化社会に対応できる看護職をめざします。
○医療事故を個人の問題から離れて,システムおよび組織上の問題としてとらえ,事故防止対策に取り組みます。

第5回日本看護サミット2000 in みえ実行委員会