医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


摂食障害の問題に苦しむ関係者から医療者まで役立つ1冊

摂食障害
食べない,食べられない,食べたら止まらない
 切池信夫 著

《書 評》野添新一(鹿児島大教授・心身医療科学)

食をめぐる己との闘い

 「人類の歴史は闘争の歴史である」とは,よく耳にする言葉である。近年の摂食障害患者の急増ぶりをみて,人間はわずか100余年前まで飢餓への不安を回避するため外部と闘ってきたが,今では食べ過ぎの不安を回避するため内部(己)と闘っていると思う。食をめぐる己との闘いに挫折した状態は摂食障害と言えるが,その持続は同時に自立への失敗につながる重大な問題を秘めている。それだけにこの新しき文明病に対しては,従来とはまったく異なる診断や治療の方法が必須とされている。
 これまで本症について信頼できる治療指針など存在しないのであるから,試行錯誤がくり返されるのは日常茶飯事である。それだけに教室をあげてこの難病に敢然と立ち向かっておられる切池信夫教授をはじめ教室の方々にまず敬意を表したい。すでにわが国において本症の存在が指摘されるようになって約半世紀を迎えるが,患者数増加はもとより,30年前の摂食問題を未解決のまま今に引きずっている50歳前後の母親をみるたびに,改めて問題の根深さを思い知らされている。

患者と格闘した貴重な記録

 本書の発刊は,現在摂食問題が社会的にもクローズアップされていることから時宜を得たものであり大変喜ばしい。推薦の辞にもあるように「しっかりした基礎的知識に立脚して,鋭い考察を加えながら,多数の患者と格闘した貴重な記録であり,かつ本格的な研究書といえる」内容である。
 第 I - II 章は摂食障害の概念・歴史について解説され,わが国を含む疫学調査の結果が紹介されている。第 III 章「病因と発症機序は複雑である」では,さまざまな発症要因とともに現在国際的にもほぼ認められている多元的モデルが詳しく解説され,臨床家のみならず研究者にとっても役に立つ内容である。第 IV 章「さまざまな臨床像」は著者の教室ならではの興味ある症例が呈示されている。第 V 章「診断は難しくない」と第 VII 章「治療は難しい」のタイトルは,臨床での体験がそのまま表現されており興味深い。特に治療では患者への動機づけから家族への説明を含む治療の実際が網羅されてあり,素人の方々にもわかりやすいように漫画入りで解説されている。第 VI 章「さまざまな合併症とcomorbidity」は本症が身体的,精神的合併症を持つ典型的心身症の病態を有している点でこれから心身医学を学ぶ者にとっても参考となり,さらに,comorbidityは今後の研究テーマとしても重要である。第 VIII 章「予後」については死亡率,死因などについて最近の知見が紹介されている。
 いずれにしても,現在摂食障害の問題に苦しんでいるか,なんらかの形で関わっておられる方々,さらには今,治療法で悩んでおられる臨床家の方々の一読をぜひお薦めしたい。
A5・頁240 定価(本体3,000円+税) 医学書院


血液学を広く理解するのに最適な教科書

標準血液病学
池田康夫,押味和夫 編集

《書 評》三輪史朗(冲中記念成人病研所長・東大名誉教授)

 このたび,医学書院が企画している標準教科書シリーズの1つとして,慶應義塾大学池田康夫,順天堂大学押味和夫両教授の編集になる320頁の本書が刊行された。一読して見事な出来に感心した。

治療計画や患者マネジメントに的確な判断ができる能力を養う

 序文にあるように,医学生を対象として,血液病学の基本的事項に最新の知識を積極的に盛り込み,病気の診断のために医師に必要とされる知識のみならず,患者に最良と考えられる治療計画を立て得る能力や,臨床現場でどのような状況の患者を診ても,そのマネジメントに関して的確な判断を下し得る能力を養う教科書として,このシリーズは企画されていると聞く。『標準血液病学』は池田・押味両編集者がこの意図を汲んできわめて綿密でバランスのよい企画をされ,分担執筆者の選定に大変な注意を払い,現在全国の大学で血液学の教育を担当し,血液病の診療に活躍して高い評価を得ている方々を16名選び,執筆者間の文章・重複・脱落がないように編集に努力され,一貫して読んで有益な好著となっている。両教授の編集に払われた並々ならぬ情熱とご努力に敬意を表したい。
 血球は体外に取り出して調べやすいゆえに,生化学,基礎生物学,分子生物学,遺伝学などの基礎科学と血液病学があいたずさえて進歩したことは特筆される。こうして得られた最近の知見が,現在血液病の診断上,治療上必要な手技として取り入れられているさまが本書には的確に書かれていて,教科書として斬新である。
 口絵のカラー写真の色もよい。あえて言えば,骨髄生検像の2枚はいずれも低形成,他の1枚は過形成なので,正常として示せるものが1枚あるとよいと思った。ついでに言わせていただければ,20頁の表2-3「貧血の成因による分類」中の2-2)「赤血球自身に原因がある場合」の部分は改善が望まれる。
 改善を望みたい点として,どの部分が誰の分担かがわかりにくい点である。目次の項でも少しはっきりさせていただければ大変ありがたいし,必要なことなのではなかろうか。
 随所に検査法が囲みとして具体的に記載されていて親切である。図表もわかりやすく工夫されていて役立つものになっている。
 私自身一読して新しく得るところ多く,ありがたかった。

学生・研修医から実地医家まで役立つ書

 本書は医学生・研修医に大変役立つ教科書であるばかりでなく,広く血液学の新しい知識を身につけたいと望む実地医家を含む医師の方々に一読されることを奨めたい。血液学を理解するのに最適な教科書であるし,国家試験受験者にも役立つ教科書である。
B5・頁320 定価(本体4,500円+税) 医学書院


歴史ある甲状腺病学のテキスト 待望の改訂版

Werner & Ingbar's The Thyroid
A Fundamental and Clinical Text 第8版

L.E.Braverman,R.D.Utiger 編集

《書 評》飯野史郎(昭和大特別顧問)

初版から約半世紀の年月を経て8版を重ねる

 Sydney C. Wernerが本書の第1版を上梓したのは1955年のことであるが,その後4-5年ごとに改訂が行なわれ,今年,西暦2000年には第8版を重ねるに至った。
 この間,Wernerは第3版から第5版までのco-editorとして甲状腺病学の泰斗Sydney H, Ingbarを選び,本書の内容をより濃いものとすると同時に,本書の名声をいやが上にも高いものとしたのであった。
 Ingbarの死後,co-editorの役割はLewis E. BravermanとRobert D. Utigerに委ねられ今日に至っているが,彼らはWernerとIngbarの名誉と功績を称えて本書の名称を「Werner and Ingbar's The Thyroid」としたのである。

改訂のポイント

 本書第8版の内容は,随所で取捨選択の跡が見受けられるものの,大綱においては第7版のそれと異なるものではない。しかし,次のような点では,かなり大きな改訂が行なわれているのがわかる。すなわち,基礎的な事項としては,甲状腺ホルモンの生合成におけるNaIsymporter学説の導入,TSH receptorの構造ならびに機能についての新設の導入,甲状腺癌における分子遺伝学的アプローチの導入などがそれであり,反対に甲状腺機能の自己調節ならびに自律神経性調節の項は第8版から削除されている。臨床面においては,大きな改訂はなされようもないが,「postpartum thyroiditis」が「silent thyroiditis」と列記されたこと,「acute thyroiditis」が「infectious thyroiditis」と変わったこと,「NIT」を「thyroid hormone adaptation syndromeと呼称すべし」,との提案が加わったこと,甲状腺機能に影響を与える薬剤の一覧表が加わったことなどが目新しい点である。なお,バセドウ病に対する治療法が,依然として原因療法でなく,対症療法にとどまっているのはさびしい限りである。
 ちなみに,本書の重量は2.5kgと第7版に比べれば1kgほど軽くなったが,日ごろ携行するにはいささか重きに失するとの謗りを免れ得ない。読者には文字通り,本書を座右の書として熟読玩味されることを切望するものである。
A5変・頁1081 \34,820(本体価格)
Lippincott Williams & Wilkins社


救急現場で頻繁に遭遇する20の場面を取り上げて

〈総合診療ブックス〉
救急総合診療Basic20問
最初の1時間にすること・考えること
 箕輪良行,林 寛之 編集

《書 評》渡辺 武(日本プライマリ・ケア学会長)

緊急時にあわてず適切な対応を

 なるほど!これだ!という企画が世の中にはあるものだと感銘した。読み手の立場にたって,ポイントはこれだ,落とし穴pitfallsには気をつけて,さらにTelephone Adviceも用意してある。実例をあげて教訓になることを示している。緊急時にあわてないために重要項目を順序よく,また暗記しやすいように記号化し解説してある。最後のツメとして常時携帯できるようにアンチョコとしてラミネートカード「心肺停止におけるACLS薬剤の使い方,Primary care Trauma Life Supportの実際メモ」が付録として差し込まれている。
 著者らは毎日,救命救急の現場(船橋市立医療センター救急救命部)で指揮をとりながら,一方でドクターカーに搭乗する医師,看護婦,救急救命士らの教育にあたっている。もう少し早かったら救命できるのにと市と医師会に呼びかけて,市民ぐるみの心肺蘇生術・救急講座を毎年開催し,今ではアメリカなみの救命率となっている。

豊富なイラストとフローチャートを使って解説

 さて本書は救急の現場でよく遭遇する20の場面をとりあげて,最初の1時間にすること・考えることを豊富なイラストとフローチャートをふんだんに使って解説している。
 まず救急への対応として総論的な初期症状への10か条と救急総合診療ベストプラクティスが目を引く。
 つづくBasic20問とは,一過性の意識消失,発熱,腹痛,腹痛と循環器,息ぎれ,めまい,痙攣,心停止,不穏患者,外傷性ショック,小児頭部打撲,頸髄損傷,気管内挿管できない時,脱臼骨折,熱傷などなどの200頁。ところどころには珠玉のような知恵(Clinical Pearls)コーナーも用意されている。一方では救急総合診療のために体験実習の講習会メニューのサンプルが示されている。筆者も救急隊員,看護婦と一緒に10時間研修を受けて,これまでの漠然とした知識の整理に大変有益であった。
 本書は救急現場からの啓蒙の書であり,広くプライマリ・ケアに従事する医師,看護婦,また救急隊員必携の書として推薦する。
A5・頁200 定価(本体4,000円+税) 医学書院


臨床感染症学の方法論を丁寧に記述したテキスト

レジデントのための感染症診療マニュアル 青木 眞 著

《書 評》藤田芳郎(中部労災病院・内科)

 すばらしい本である。いま目の前の患者が感染症を患っている,と感じた医師がどう振舞うべきかが,実に見事に具体的に書かれている。CRPが上昇していて,発熱しているので抗菌薬を投与する,あるいはCRP20以上発熱40℃以上だから重症感染症なのでカルバペネムを,CRP10以下発熱38.0℃以下だから第1世代セフェムを投与する,というのではない!!

実地体験から得た感染症治療

 「いったいどこの臓器が感染症にかかっているのだろうと考え,その感染臓器を(頭なのか,目なのか,耳なのか,副鼻腔なのか……)決定しつつ,その起炎菌をできるだけ具体的菌名で想定する。その上で適切な抗菌薬を適切に使用する」作業の過程が見事に書かれている。そのためにこそ患者の話を聞く,いや聞き出し,また患者の臓器に触れたり聴診したりという作業が必要なのであった。単に本書は「きちんと病歴をとり,ちゃんと身体所見をとるべき」などという「べき」論が書かれているのではない。北米医学の実地体験で鍛えられた著者が,受身的に教育を受けたのではなく,実地体験で患者の命のことを考えて多くの証拠文献をどう目の前の患者に応用するかを悩み整理した結果が,「青木の臨床感染症学」ともいうべき境地として,本書に展開されておりすばらしい。すなわち本書はぬくもりのある書物でもあり,したがって読んでいるうちに思わずひき込まれてしまう迫力を持っているのである。
 1,2例をあげれば,87頁「アムホテリシンB」の項「治療効果は投与期間が決定するという意見と投与量が決定するという意見双方がある。筆者自身の感触は後者であるが,必ずしもこれは血中濃度が重要ということよりも,全投与量が重要といった感じ(あくまでも感じ)である(至適投与方法,投与量,投与期間についてこれほど一致した意見の少ない感染症治療薬も少ない)」。あるいは,289頁「アメーバ赤痢」の項「筆者自身はゴミとアメーバとの鑑別ができないので病原体の同定は熟練した技師に依存している」等々。
 さて,感染臓器を決定したら,その感染微生物を想定し決定せねばならないが,その時に「知識」とともに「グラム染色」がいかに有効であるか,さらに臨床感染症を自分のものとするために「グラム染色」がいかに大きな存在であるかが本書で思い知らされる(11-14頁にその具体的方法が実に丁寧にかつ簡潔に述べられているので,研修医の方はまずそこを読んでいただきたい)。なお,感染臓器をどうしても捜し出せなかった時にどうするかということも,もちろん本書に述べられている。

類まれな臨床のテキスト

 さらにあと2点,本書の大きな特徴と,書評子が考えることを述べたい。感染臓器が判明したら(血管内という「臓器」の感染もある!),できるだけ臓器特異的な指標を追って治療効果を見ていくこと(CRPや白血球や熱ではなくて)が強調されている点である。この方法論は患者に応用してみればわかることだが,特にさまざまな合併症を抱えた患者にきわめて有効,いやその方法論なしでは治療不可能と言い得る。ますます複雑化している患者の治療効果を判定しつつ原因検索をしていく時に,その複雑さを解体していくために,なくてはならない方法論なのである。この方法論を常に頭に置きながら治療および診療を行なう時,われわれは病因となる微生物1つひとつに迫っていく(まるで複数の犯人に迫っていく刑事のような)興奮さえ覚えるかもしれない。2つ以上の病因を抱えた患者に対した時,病因それぞれの指標を持とうという姿勢は,現代臨床内科学の重要な方法論と思われ,それを強調している本書は,最先端の臨床の教科書とも言い得る。
 「感染臓器を決定しその原因微生物を想定する。その上で抗菌薬の知識を活用し,できるだけ耐性菌を増やさずに,効果的に起炎菌をたたいてしまう」という流れを本書の縦糸とすれば,横糸とも言うべき,「重要な微生物とその臨床像」が第15章に述べられていることも,本書の大きな特徴ではなかろうか。32頁のMemoの項に「同じ血液培養でも黄色ブドウ球菌が同定されれば心内膜炎,骨髄炎,髄膜炎の合併が心配されるが,大腸菌や緑膿菌ではこのような心配は通常不要である」とあり,さらに第15章で,治療に対する反応のしかたも微生物によって異なることを教えられる。この横糸により,ますますわれわれの臨床感染症学の知識が深められていく。

著者の経験がにじみ出る記述

 書評子の研修医の1年目に,やはり北米医学で鍛えられた患者の名著『感染症マニュアル』(北原光夫著)が出版され,それで必死に勉強した。その後『熱病』(SANFORD GUIDE)を白衣のポケットに入れ常に参照し,Reese, Bettsの『A Practical Approach to Infectious Diseases』を読み込み,Mandellらの『Principles and Practice of Infectious Diseases』を座右に置き臨床感染症学を学んできた書評子にとって,このようなすばらしい,著者の経験までもが滲み出している本が,まず日本語で出版されたことが,何よりもありがたい。
 本書よりやや大部の定評のある『A Practical Approach to Infectious Diseases』に比しても,同書にない上記のようなすばらしい特徴が本書にあり,伍して劣ることのない書と言い得ると思われる。このまま英訳できる稀な日本語の臨床の教科書と同僚に勧めている。研修医の方々をはじめとして若い気持ちを持った臨床医の方々に,科を問わずに,お勧めしたい。
A5・頁576 定価(本体6,000円+税) 医学書院


産婦人科診療の現場で久しく待望されていたマニュアル

産婦人科外来処方マニュアル
青野敏博 編集

《書 評》武谷雄二(東大教授・産婦人科学)

日常遭遇する産婦人科疾患への最適な処方を一目で理解できる

 evidence-based medicineを例に出すまでもなく,おしなべて薬物療法は臨床効果が確立されたものに限定されるべきものである。一方,近年の医学研究の進歩や情報量の急増により,一般医家が最新の正しい知識を常に熟知した状態に保つことは著しく困難となっている。また種々の疾患の病態解明が進み,病態に応じた薬のきめ細かい使い分けが要求されている。このような状況に対処するために,本マニュアルは企画されたものであり,日常遭遇する代表的な産婦人科疾患に関し,簡潔に最適な処方が一目で理解できるようになっており,産婦人科診療の現場で久しく待望されていたマニュアルと言える。

インフォームドコンセントを助ける

 従来のこの手のマニュアルと異なり,単に疾患ごとに処方例を羅列したものでなく,症状や治療目的に応じて処方例を例示していることが,本マニュアルを実用的かつ利用性の高いものとしている。さらに処方例の解説の項目は各疾患の薬物療法の基本的知識を提供するものであり,通読しても味わい深いものがある。また,薬剤の解説として,各薬剤の分類,適応,副作用,禁忌が簡明に紹介されており,処方に際しての薬剤情報を過不足なく説明するという意味でも大いに手助けになるものである。
 巻末には各薬剤の形,色,識別コードなどをまとめており,おそらく編者はインフォームドコンセントの取得の際における便宜に意を尽くされたのであろう。
 このように,処方マニュアルとして一般に想像される内容とは大きく異なり,実地診療の場で実際に活用できることを意図した編集者のアイデアが随所に生かされている。産婦人科医,助産婦,看護婦はもちろんのこと,卒後研修医にとっても欠かせないマニュアルになるものと考える。
B6変・頁184 定価(本体3,000円+税) 医学書院