医学界新聞

 

 第25回国際内科学会議に参加して

 吉田 聡(ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院呼吸器内科)
 佐藤喜一(財団法人仁泉会医学研究所理事長)

発展途上にあるメキシコでの国際学会

世界有数のリゾート地での国際学会

 2年に1回,世界各国で開催されてきた国際内科学会議(ISIM; International Society of Internal Medicine)の第25回大会が,さる6月4-9日の6日間にわたり,南米でもっとも人気のあるリゾート地,メキシコのカンクーンで開催された。カンクーンは,カリブ海に面した美しい珊瑚礁の白い砂浜と遠浅のエメラルド色の海で知られ,日本からも新婚旅行客などが多く訪れている。古代の宇宙文明とも言われるマヤ文明にアステカ文明,安価な銀細工など,観光スポットも周辺にたくさんあるため,数日間しばし日常を忘れて楽しむのに最適な観光地の1つである。

国際内科学会ISIMとは

 ISIMは,米国内科専門医会・米国内科学会(ACP-ASIM),英国王立内科専門医会(RCP),そして日本内科学会をはじめとする世界53か国の内科学会の連合学会であり,参加国の中で最も大きなリーダーシップをとっているのはACP-ASIMである。本学会の概要は,以下のインターネットサイトで閲覧することができるが,その所在もACP-ASIMのホームページの中にある(http://www.acponline.org/isim/)。
 ISIMは単に研究発表会として開催されているのではなく,世界各国の内科学会の交流の場であり,大会を通して各国の特色を広く世界に知らしめること,そして教育や啓蒙など先進諸国の内科学会が協調して発展途上国に対する支援を行なうことなども目的としたものである。1998年より今大会までのISIMの会長は,ハンガリーのRudolf de Chatel博士(写真)であり,2000-2002年の会長は現在ACP-ASIMの上級副会長を務められておられるJoseph E. Johnson III 博士である。

今回の大会について

 1998年の前大会はペルーのリマで開催され,キャッツクローなどペルー政府が世界中に売り出したい“薬草”,そして伝統医学を1つのテーマとして大きくうち出したことで話題を呼んだ。アメリカでは,国立衛生研究所(NIH)とアメリカ医師会(AMA)がイニシアチブをとって代替医療の医学的解明と正しい普及に莫大な予算と人員を注ぎ込んでいるが,それとは違った意味で,発展途上国ではいまだ医療における伝統医学の占める割合が大きいという事情を反映したものである。参加国の多くは発展途上国という事情もあるため,開催国による学術水準の差は避けられない。一方,逆に開催国ごとの特色を海外に対してアピールする機会でもあり,欧米で開催される国際学会とは趣を異にしている。
 今大会は,ACP-ASIMからの支援を前面にうち出し,メキシコ内科学会との半ば共同開催の形で行なわれた学会であった。わが国からは,全国から約50名もの参加者があり,内科学におけるさまざまな分野で講演や発表を行なった。
 メキシコ政府は今大会に対して,国を挙げて全面的な協力を行なうことを申し出るとともに,マスコミも新聞の第1面を飾るトップ記事として大きく報道した。メキシコにとって,今大会の開催は非常に大きな栄誉として認識されていたのである。今大会のテーマは,「The Awakening of a New World」であり,メキシコ内科学会が1日も早く先進諸国に追いつき,その仲間入りをしたいという願いを込めたものであった。
 プログラムはACP-ASIMの影響を色濃く感じさせる内容となっており,発展途上国であるメキシコの医師たちを啓蒙する色彩が非常に強かった。日常の医療業務におけるコンピュータの導入や,慢性疾患管理における患者教育の方法など,ACP-ASIMのannual meetingと類似するプログラムも多数みられた。今大会の参加者の60%はメキシコをはじめとする南米各国からであったが,欧米あるいは日本への渡航費がなかなか出せない南米諸国の医師たちが,先進諸国の教育プログラムを身近に受講できる貴重な機会であったと言えよう。
 発表演題の学術的な水準は玉石混合で,発展途上国からの報告には,欧米の英文学術雑誌で発表された研究の後追い実験を行ない,その国の所見として発表するようなものが多くみられた。今回メキシコ側が用意したプログラムには,スペイン語のみで英語の同時通訳がつかないものも散見され,海外からの参加者には,国際学会として不満感が残るものだったかもしれない。
 もっとも閉口したのは,今大会の事務処理が非常にいい加減なことであった。事務処理が極端に遅く,事務局に問合せをしても英語は通じない,部署間での連絡が悪い,公表されたファックス番号が間違っている,事務処理のミスも多い等々,果たしてきちんと発表抄録が届いているのか,事前登録は行なわれているのか,日本からの参加者はみな心配になったものである。しかしながら,語学に関しては,わが国の英会話もかなり怪しいものがあることは否めない。読み書きはアメリカ人にも負けないのに,会話となると途端に尻込みしてしまうのが日本人である。国際学会を開催した時に,果たして事務局スタッフのどれだけが英語の問合せに応えられるかというと,決してメキシコを笑えないものがあるのではないだろうか。

世界の内科学発展を導く日本の内科医たち

活躍する日本の内科医

 今大会では,日本内科学会にとって,2つの大きな栄誉を受けることとなった。1つは,前ISIM会長を務められた井形昭弘先生(前鹿児島大学長)が,ISIMより「名誉会員」の称号を授与されたことである(写真)。「ドクターイガタは,ISIMにとって忘れることのできない功労者である」と,総会の場においてChatel会長より祝福の言葉が述べられた。もう1つは,東海大学医学部長の黒川清先生(写真)が,ISIMの理事に選出されたことである。黒川先生は,総会でのスピーチの中で,「インターネットなどを活用してglobal physicians networkを創ることによって,先進国間の情報交換を促進するとともに,発展途上国への援助をより緊密に行なうことが可能になるであろう」と述べられ,世界の若い内科医たちが中心になってこのネットワーク創りに取り組むべきであることを強調された。
 会期3日目の6月6日,筆者の吉田(認定内科専門医会国際フェローシップ委員会委員長)を司会進行役として,ACP-ASIMおよび日本内科学会認定内科専門医会の両内科専門医会役員による,史上初のミーティングが開催された。認定内科専門医会は,従来からACP-ASIMとの交流を進めてきており,これまでに30名を超えるACPのフェロー(FACP)を輩出している。ACP-ASIM側として,前述のJohnson上級副会長,Credential subcommitteeの委員長であるSara E. Walker博士,Membership and International ActivityのSwiacki部長らが,認定内科専門医会からは黒川清顧問,小林祥泰会長(島根医大)をはじめとする役員9名が出席して親睦を深めるとともに,今後の協力関係について活発な議論が行なわれた。私たち認定内科専門医会では,国際フェローシップ委員会を中心として,global physicians network創りに着実に取り組んでいるのである。

“A Challenge for the New Century: The Global Physicians Network”

 次回第26回国際内科学会議は,黒川清先生を会頭として2002年5月26日から30日の5日間にわたって国立京都国際会館にて開催されることとなった。現段階での案内は,ホームページにて閲覧することができる(http://www.icim2002.org/)。
 次大会は,「A Challenge for the New Century: The Global Physicians Network」を理念として掲げ,日本内科学会100周年記念事業として開催されるが,会場が京都であること,閉会の翌日からワールドカップ・サッカーが開幕されること,そしてアメリカとイギリスの医師免許更新に必要なCMEクレジットが発行されることなどから,世界中から多くの内科医,家庭医,一般診療医の参加が見込まれる。
 単に次大会の準備をするという意味のみならず,これを機に私たち自身の手で,新しい時代に向けたglobal physicians networkを創っていけたらと思う。


今大会長のChatel会長と次大会長の黒川氏(上)
名誉会員に選ばれた井形昭弘氏と認定証(下)
〔写真提供:(株)じほう〕