医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児診療に携わる医療従事者必携の書

今日の小児治療指針 第12版
矢田純一,柳澤正義,山口規容子,大関武彦 編集

《書 評》柳川幸重(帝京大教授・小児科学)

 『今日の小児治療指針 第12版』が刊行された。すでに12版と版を重ねていることからもわかるように,初版から小児科の実地医家に熱烈に支持されてきた書籍である。

外来で質問の多い項目を増やす

 改版の度に新たな治療方針の変更などが取り上げられてきているが,今回は,編集者に浜松医大の大関武彦先生が加わられた影響もあるのか,「生活習慣病の予防と生活」という一章が新たに増えている。少子化社会においての子どもの育児支援が大切になっている現在,「生活習慣病の予防と生活」に関する保護者の関心も高い。外来などで質問されることの多いこのような項を新たに増やした本書は,現場の小児科医だけでなく,さらに小児も診ざるを得ないような環境にある内科医にとっても,大変頼りになり,役立つものになっていると言えるだろう。
 また,治療方針の転換が最近めざましい,例えば循環器などの分野では,項目が大幅に増えているのが目につく。たとえ自分の所属する医療機関では現在行なわれていない治療であっても,知っておくべきスタンダードになりつつある治療方針を学べるのも,本書ならではの大切なポイントとなるであろう。

見やすくなった項目立て

 今回の第12版では「目次」の親切さが目につく。臓器別に分けている関係から,必ずしも読者にとっては読みやすく,探しやすいとは言えなかった項目立てが,今回は,一新されている。
 つまり,目次の各章の最後に,その章でも取り上げられるはずであるが,実際は他の章に入れられている話題が「○○→何頁」と記載されているのである。例えば,『11.呼吸器疾患・胸部疾患』の章の最後に,「結核→236頁」,「心因性咳嗽→460頁」,「副鼻腔炎→580頁」,「耳鼻科からみた喘鳴→581頁」などのように,付記してある。従来,索引でばらばらに探していた項目がこのように整理されているのは,実地医家にとっては便利なだけでなく,鑑別診断が自然に頭に整理されてくるはずで,特にありがたいように思われる。
 そんなわけで,以前の『今日の小児治療指針』を持っていても,この第12版はやはり買っておいたほうがよい1冊と言えそうである。
B5・頁700 定価(本体15,500円+税) 医学書院


21世紀の脳神経科学に興味を持つすべての人に

〈神経心理学コレクション〉
神経心理学の挑戦

山鳥 重,河村 満 著

《書 評》岩田 誠(東女医大教授・神経学)

 少々懐古的な話になって恐縮だが,私の中の神経心理学の歴史を振り返らせていただきたい。わが国に「神経心理学会」という名の学会ができたのは,1978年のことであった。その年の秋に山中温泉で開かれた最初の本格的な集会に集まったのは,100人に満たない会員であり,しかもその大半はまだ30歳から40歳台の新進気鋭の研究者たちであった。
 当時,米国から帰国したばかりの私も,この若々しい仲間たちの活動に加えてもらうことができたが,それはその後の私の進路を大きく変えてしまうことになった。その頃のわが国では,神経心理学という言葉そのものがまだ新しい用語であり,そんな聞いたこともないような研究分野に足を踏み入れようというような研究者は本当に少なかった。私たちと同世代の機を見るに敏な若者たちは,もっと日当たりのよい研究分野に惹かれてゆき,未だ海のものとも山のものとも知れぬ研究分野に足を踏み入れようというような者は,ほとんどいなかったのである。
 しかし今,その神経心理学会は,発足後20年ほどで1700名以上の会員を持つ大きな学会に育った。発足当時は1会場1日で済んだ総会の発表が,今では3会場で丸々2日を要するほどにまでなっている。そして,この学会の現在の指導者,すなわち日本神経心理学会の第5代目の理事長である山鳥重先生は,山中温泉での旗揚げの会で主役を演じられたお1人であった。
 その山鳥先生が,今日の日本の神経心理学を担う最もアクティヴな研究者のお1人である河村満先生と2人で,神経心理学のおもしろさについてとことん語るという企画は,それ自体が1つの歴史となるほど重大な出来事である。ここで書評として取り上げたのは,かくも画期的な歴史的対話の記録なのだ。

ヒトの心の不思議を知る

 21世紀は「脳の世紀」と名づけられることになるが,ヒトの脳が実現しているさまざまな精神活動と,それによって具現されていくヒトの心の不思議を知ることこそは,21世紀に脳神経科学に携わる者たちの究極の目標である。そしてその答えは,ヒトの脳と,それが紡ぎ出す実に多彩な現象の中に見出すことができるはずである。
 本書の中で語り続けるお2人は,誰もそのことに気づかなかった頃から,その目標に向けてずっと歩み続けてきた,そして今なお歩み続けているリーダーたちである。そして,本書の中で語り合われているさまざまな事柄は,21世紀における神経心理学研究において,私たちが直面しなければならない最重要項目ばかりなのである。
 神経心理学という研究分野を好むと好まざるとにかかわらず,そして神経心理学を難しいと思うと思わざるとにかかわらず,21世紀の脳神経科学に興味を持つ人は,必ず神経心理学の研究方法論と,それにより得られた知識を必要とするに違いない。私は,そのことをはっきりと世に示してくださったお2人の著者に強く共感すると同時に,この魅力的な対談の企画そのものに心からの拍手を送りたいと思う。
A5・頁200 定価(本体3,000円+税) 医学書院


臨床麻酔に関する包括的ガイド

臨床麻酔学レキシコン
John C.Goldstone, Braian J.Pollard 著/落合亮一,木山秀哉 監訳

《書 評》高橋成輔(九大教授・麻酔・蘇生学)

 『臨床麻酔学レキシコン』という本書の題名を見て,「おや,何だろう?」と思って手に取ってみた。中を見て,英国で出版されている"Handbook of Clinical Aneasthesia"の翻訳本であることがわかった。翻訳者のお1人は,小生が日ごろから親しくご交誼を願っている慶應義塾大学の落合亮一氏である。この類の書籍は数多く出回っているのに,あの彼がなぜこの本の翻訳を買って出て,出版する気になったのかに興味をひかれて読んでみることにした。

臨床麻酔の要点を学べる

 原著者の序文(訳)の引用も加えて恐縮だが,本書の特徴は,麻酔を担当する臨床医にとって重要な情報を速やかに手に入れることができるところにある。そのための工夫として,本書は3つの部分によって構成されている。まず,「I.患者の状態」の項では,合併疾患について概説し,それぞれについての麻酔科的意義が述べられている。次に,「II.外科的処置」では,麻酔法に直接影響を及ぼす可能性のある手技が述べられている。最後の「III.麻酔科的問題点」では,患者の評価に始まり,予後についても考慮して,麻酔をどのように行なうかが述べられている。このような切り口で麻酔に関する包括的ガイドを作るという本書のアプローチは新鮮であり,また存在する価値のある,魅力ある本として仕上がっている。これが日本語に翻訳されたことで,わが国の麻酔科医はもちろんのこと,他分野の臨床医や医学生,さらには看護職や臨床工学技師など,コメディカルスタッフの方々も言語的な抵抗もなく本書を読むことによって,臨床麻酔の要点を学ぶことができるようになっているところがありがたい。
 まず,医学生やコメディカルスタッフにとっては,麻酔の概念を整理し,かつ理解する上で,本書は大いに役立つであろう。研修医クラスや他の専門分野の医師にとっては,自分の麻酔に対する理解度や臨床能力を知る,簡便な指標として利用できる。また,標榜医(認定医)クラスであれば,自分に不足している部分の発見が容易であろう。そして,指導医(専門医)クラスにとっては,本書の内容をチェック,吟味する視点を持ちながら,さらに自分の実力を再確認する時に便利である。

日本の麻酔の問題点

 さて,わが国では医師の資格があれば誰でも麻酔を担当することができる。現代麻酔が導入されて半世紀が経った現在,厚生大臣認可の麻酔科標榜資格医が約1万2000名,日本麻酔科学会認定の麻酔指導医が約5000名育っている。いわゆる「手術のための麻酔」に関しては,麻酔専門医の不足はいまだに解決されないながらも改善の方向に向かっているが,内視鏡検査をはじめ,その行為の侵襲性が理解されない現代医療の中で,検査や診断の場で実践される「麻酔もどき」の医療水準はきわめて低く,専門医の目から見れば,まさに「目を覆いたくなるような無法地帯」の感がある。どのような場面においても,医師として自分が麻酔を担当するかもしれない時,取りあえず本書を開いて読んでみてほしい。そして,本書に3方向から記述されている内容から自分の実力を冷静に評価した上で事に臨んでほしい。そんな時に本書は実力を発揮する本である。
 最後に,落合氏と木山氏を中心に本書の翻訳に携わり,ややもすると不自然な表現になりがちな翻訳本を,自然で読みやすい日本語として完成させた慶應義塾大学麻酔学教室の諸氏に心からの敬意を表したい。
B5・頁790 定価(本体12,000円+税) MEDSi


病院として医療事故を防ぐために

実例に学ぶ医療事故
押田茂實,児玉安司,鈴木利廣 著

《書 評》紀伊國献三(国際医療福祉大・医療福祉学部長)

病院の第1の目的は

 Y市立大学病院での患者取り違え手術が大きく報じられ,特定機能病院の取消しにまで発展した。その後毎日と言っていいほど医療機関での医療事故が報道され,「果たして医療は安全か」の疑念が国民の間で大きくなっている。果たして医療事故は報道されているように増加しているのか,あるいは氷山の一角がたまたま報じられているのかはよくわからない。しかし人々が医療に求めることは安全な医療であり,ナイチンゲールが「病院の第1の目的は患者に害を与えないことである」と言ったことは,医療関係者の行動の基本であろう。

起こしやすい医療事故の具体的な対応策を考える

 日本大学医学部法医学教室の押田茂實教授は長年この問題を追求され,すでに『実例に学ぶ医療事故対策』としてのビデオも発行されており,その内容を輸血,予約,手術,検査,管理,医療記録,救急の面から実例を中心にわかりやすくまとめたのが本書である。2人の法律家の意見も入れた共著であり,主として病院の看護管理者を対象としたものであるが,言うまでもなく医療事故は病院内のチームによって対応しなければならず,病院として医療事故を防ぐためには,過去の実例を十分に検討した多面的な対応策が取られなければならない。医療事故を起こす背景には医療チームの組織,人員,勤務体制,労働条件などリスクマネジメントのさまざまな要素があるが,起こしやすい医療事故を中心に具体的な対応策を考える意味のある入門書と言えるであろう。
A5・頁130 定価(本体2,000円+税) 医学書院


臨床の現場で求められていた1冊

終末期の諸症状からの解放
WHO 編集/武田文和 訳

《書 評》垣添忠生(国立がんセンター中央病院長)

 がんやエイズといった病気の終末期にあって,さまざまな症状で苦しんでいる人が,毎年,全世界で数千万人いる。この終末期の諸症状からの解放が達成できれば,患者さん自身はもちろん,家族も,医療者にとっても,その意義ははかりしれない。
 世界保健機関(WHO)が,『がんの痛みからの解放』を出版してから,WHOの三段階除痛ラダーという考え方は世界に広まり,この本は20以上の言語に翻訳され,50万部以上が購読されてきた。この本が出版されるとすぐ,その姉妹書に相当する,本書『終末期の諸症状からの解放』が強く求められてきた。1989年,WHOの専門委員会が発足し,訳者の武田先生もその一員であった。この委員会は,日本を含む18か所から約50名の専門家に意見書の提出を求め,WHO方式のがん疼痛の臨床における緩和ケアの実践を勧告する報告書をまとめた。WHOはさらに,イギリス,イタリア,カナダの3名の委員に草案のさらなる編集を委ねた。これら専門家の協力と,多年にわたる国際協議の積み重ねの結果として,1998年に,この指針が公表された。

終末期の患者さんの苦痛を網羅

 本書は終末期の諸症状をアルファベット順に解説している。すなわち,食欲不振と悪液質,不安,全身衰弱,便秘,咳,せん妄と痴呆,抑うつ,呼吸困難感,しゃっくり,腸閉塞,口腔内ケア,嘔気と嘔吐,皮膚のトラブル,排尿トラブルの14項目である。しかも使われる薬剤は一般名に加えて商品名の1つがカッコで付されている。投与量も60kg体重の患者さんの場合に換算されており,親切で便利だ。この項目を見ただけで,医療者が日々に接する終末期の患者さんの苦痛が網羅されており,しかも記述は簡潔を旨としていて明快である。まさに臨床の現場で求められてきた書物だと思う。大きさは掌におさまる程度で軽く,白衣のポケットにも楽に入れられるように工夫されている。
 こうした指針が真に力を発揮するためには,医療者が,患者さんの訴えに耳を傾けること,しかもその言を信ずることがすべての出発点である。私たちがこの態度を持ち,本書を携行すれば,終末期の諸症状で苦しむ患者さんへの対応も自ずと異なったものになるだろう。
B6変・頁134 定価(本体1,800円+税) 医学書院


差別化の時代におけるリハビリテーションスタッフの模索

精神障害リハビリテーション
21世紀における課題と展望
 村田信男,川関和俊,伊勢田堯 編集

《書 評》井上新平(高知医大教授・神経精神医学)

量から質,質から差別化へ

 20世紀におけるわが国の精神医療は,その後半に入ってはじめてシステムと呼べるものが出てきた。1950年の精神衛生法と,その後の精神病院を中心とした体制である。今でこそ精神病院批判が盛んだが,当時は病院の治療を受けられることが幸せという時代であった。その後,医療は福祉をとりこみ,保健をとりこみ,あるいはそれらと協力・並存,そして時に対立しながら現在を迎えている。保健や福祉が本格的に参入してきたのは,ほんの10年あまりである。要するに,精神医療の歴史はまだまだ浅い。
 とはいえ,精神科ケアは前進しなければならない。利用者が納得するようなサービスが提供されねばならない。しかも50年の疲労があちこちにたまり改善が求められている。精神病院の建築に造詣の深い友人の話では,精神病院は量的拡大が終わって質の向上へと向い,さらに今では質の向上から次の段階である差別化へと動いているらしい。
 精神科リハビリテーションの本格的なはじまりは,ごく最近である。確かに,本書の分担執筆者の臺が書くように1960年代の生活臨床などの活動はあったが,本格的なとりくみは精神保健法の施行や蜂矢の障害論を待たねばならなかった。しかし,遅れて出発しただけに,その発展はさほどギクシャクしたものではなかった。建築のたとえでいくと,差別化がもっとも進めやすい領域であると言える。

来世紀に持ち越された課題

 本書を読むと,その副題にあるように来世紀にもち越された課題がよくわかる。例えば,リハビリテーション関係者の間で共通の認識が持てていないという現実を,多くの執筆者が指摘している。歴史が浅くやむを得ない面もある。しかし,職種によってサービス受給者の呼び方が違うといったような点は,縦割り社会やセクショナリズムの弊害であり,何とかしなくてはという気にさせられる。サービス提供側の透明性を高め,受給側と共有できる部分を拡大していくというのも,何人もの執筆者が主張している。そもそも地域ケアの全体的プランを誰がたてるのか,制度的メニューは他の障害並みに出そろったが,量的拡大と運営費の差別的低さをどうやって克服していくのかといった原則的な問題提起もある。多くの分担執筆者は精神科リハビリテーションのベテランであり,それぞれ納得のいく主張である。
 本書は,活動に悩める関係者にとってよいヒントを多々提供してくれている。領域が違う部分はやや難しいかもしれないが,それを補って余りある内容があり,読みごたえのある一書である。
A5・頁248 定価(本体4,000円+税) 医学書院


外来診療時の白衣のポケットに忍ばせたい1冊

産婦人科外来処方マニュアル
青野敏博 編集

《書 評》村田雄二(阪大教授・産婦人科学)

 産婦人科一般外来で用いられる投薬の種類は比較的少数であるが,それでも症状に適した薬剤の選択に悩むことは多い。本書は同じ執筆陣によりすでに出版されている『産婦人科ベッドサイドマニュアル』の姉妹編に相当するもので,産婦人科外来診療に必要かつ十分な薬剤の情報が掲載されている。

患者に薬の説明をするのに役立つ

 本書の中には,外来でよく遭遇する周産期20項目,内分泌・不妊20項目,感染症9項目,腫瘍6項目の合計60項目の疾患が網羅されている。特に編集者青野敏博博士のご専門である内分泌・不妊症の項では,長年の研究,臨床の成果に基づいた最新の処方例が示されている。
 本書の特徴の第1は,ポケットに入るようなコンパクトな大きさに仕上がっていることである。さらなる特徴は,疾患ごとに(1)治療の概説,(2)処方例,(3)処方の解説,(4)薬剤の解説,(5)ワンポイントアドバイスの5項目に分かれ,しかも2色刷りでわかりやすい工夫がなされている点である。薬剤の解説の項では保険収載の価格が掲載され,巻末には薬剤の形,色,識別コードが一覧表にまとめられており,外来で患者に説明する際に便利である。
 本書は産婦人科医はもちろん,薬剤師,看護婦,助産婦などの皆様に役立つマニュアルで,外来診察時の白衣のポケットに忍ばせておきたい1冊である。
B6変・頁184 定価(本体3,000円+税) 医学書院