医学界新聞

 

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学生自身の企画・運営による
ACLSに基づく心肺蘇生法の勉強会

大野博司(千葉大学医学部6年)
 E-mail:QWI03166@nifty.ne.jp  


 今年5-7月の間,「講義+実技」という内容でACLS勉強会を開催した。開始当初には,学生自身による企画・運営によるものであったため,「果たしてうまくいくのか?」という不安もあったが,実際に勉強会が動き出すと,ACLSを学ぶことの楽しみや,学生自らの手で運営していくことによる充実感が感じられた。
 最近の救急医療に対する一般の方からの期待はとても大きいように思う。そのような期待に応えるためにも,医師になる前段階でACLSを身につける勉強会を行なっていく意義はあると思う。
 今回,実施したわれわれのACLS勉強会について紹介したい。


ACLSとの出会い

 春休みに,青木重憲先生(茅ヶ崎徳洲会病院)が主催されたACLS講習会に参加する機会があった。講習会に参加し,「学生でもこのような学習法は有用ではないか?」と思い,青木先生に相談したところ,(1)学生の時から心肺蘇生に精通することの重要性,(2)実際に学生主体で心肺蘇生法について勉強していく注意点,(3)自学自習のためのテキストである『ACLSマニュアル』(医学書院刊)が出版されること,等を教えていただいた。
 そこで,4月に親しい同級生数名に勉強会の企画を持ち掛けると同時に,実技に必要な心肺蘇生の道具の貸出について千葉大学附属病院の救急部・麻酔科にお願いした。そして,救急部・麻酔科がバックアップしてくださるということに決まり,同級生6名で5月より勉強会を開始することになった。

ACLS勉強会とは?

 これは「ACLS(Advanced Cardiac Life Support)」と称される標準的な心肺蘇生法を学ぶもので,具体的には,
●町中・病院で突然人が倒れ,心停止になったときにどのように対応するか?
●BLS(Basic Life Support:一次蘇生)を行なっていて,どのようにして迅速にACLSにつないでいくか?
●心停止をきたす心電図所見をみたときに,どのように鑑別し,どのように治療を行なっていくか?
●危険な不整脈をみたときに,どのように鑑別し,どのように治療を行なっていくか?
●ACLSチームリーダーとしてどのようにチームを運営していくか? などを学ぶと同時に,人工呼吸,心臓マッサージ,気管内挿管,静脈ライン確保などの手技の取得などについて,実際にさまざまなシナリオを作り出し,それを用いたシミュレーションにより練習を行なった。

 

医師になるということの原点

 医師をめざす動機として,「誰かが目の前で倒れ,助けを必要としている時に適切な処置を行なうことができること」と考えている方は,私も含めかなり多いと思う。卒業し,研修医として医療現場に出ると,すぐさま心肺蘇生の手技が必要であることを,救急病院での実習や研修医との会話の中で何度となく実感した。そのため,大学教育での救急処置の講義・実習に加え,学生が進んでこのような勉強会を行なっていくことはとても有用だと考えられた。

学生用のプログラム作成

 私が春休みに参加したACLS講習会は,2日間にわたり,朝から晩まで行なうというスケジュールであった。
 できるだけこの講習会と同じようなレベル・形式(講義・実技両方を重視)で,さらに学生同士で無理なく学習できるようにといろいろと考えた結果,1回2時間(講義1時間,実技1時間),2週間に1回,全6回のプログラムを作った。
第1回 ACLSの概略
第2回 一次救命処置,気道確保,換気,循環,輸液路,薬剤投与方法
第3回 不整脈,除細動,薬物
第4回 ユニバーサルアルゴリズム,心停止時のアルゴリズム
第5回 徐脈性不整脈と頻脈性不整脈のアルゴリズム
第6回 Mega Code試験,まとめ

実際の勉強会

 次に実際の勉強会の運営について述べたいと思う。1回の勉強会は,集中して学べるように2時間を目安とした。
I.講義について
 毎回メンバーの中から担当者を決め,事前に準備を行ない,それ以外のメンバーに教えるという形式を大切にした。担当者は,他のメンバーからのさまざまな質問に答える必要があるため,何を聞かれても答えられるように準備した。
II.実技について
 講義で学んだことについて,実技を行なった。救急部・麻酔科から心肺蘇生のさまざまな道具を借りてきて練習した。担当者が,実技としてやってみたいことを大切にしたため,口頭試問・気管内挿管実習・シミュレーション・不整脈判読などバラエティに富んだ内容となって,とても楽しく,みんなで和気あいあいとした雰囲気の中で勉強会が進んでいった。
III.Mega Code試験について
 最終回にまとめとして,各メンバーで役割分担して,実際に救急部ドクターや他の学生が見守る中で,症例シナリオに基づいて,対応の仕方によってさまざまに変化していく患者の状態・不整脈に対処していくという,シミュレーション試験を行なった。 どれも救急疾患を想定したシナリオのため,迅速な診察・治療の判断を迫られ,チームリーダー役は緊張感をもって対処していく。もちろん中には,間違った判断によって,シミュレーションが中断することもある。
 参加者に感想を求めると,実際のACLS講習会で私が感じたのと同じように,「最後に試験があることで,自分の中でわかっていたように思えて,まだ十分には理解し,吸収していなかった知識・技術に気づくことができ,有効だった」との意見が多かった。

知識・技術を維持するプログラム

 『ACLSマニュアル』にも書かれていることであるが,心肺蘇生法の教育には,科学的根拠に基づいて,実際の場面を想定したシミュレーションを継続して行なっていくことが必要である。そこで,われわれは勉強会の参加メンバーの中からさらに有志数名で,定期的なシミュレーションのプログラムを開催していこうと考えている。

ACLS勉強会を学生主体で行なうために

 ちょうど9月から新たなメンバーが参加し,第2期のACLS勉強会を開催することになっている。今度は6年生と5年生で構成されている。第1期の勉強会メンバーが指導し,楽しく・お互いで教え合うスタイルを大切にしていこうとみんなで考えている。そして第1期ACLS勉強会の良かった点・反省点を踏まえて,さらに洗練されたものを作っていこうとも考えている。
 最後に,学生主体でこのような救急医療の勉強会を行なおうと考えている方にアドバイスをしたい。
 われわれは『ACLSマニュアル』(医学書院)を用いて勉強会を開始したが,それと同時に,勉強会予定表,勉強会に必要な器具のリスト,時間割,シナリオ,必要薬物マニュアルなどを作ってきた。そのため,『ACLSマニュアル』を使って勉強会を行なっていこうと考えている方は,これらの資料に関して上記のアドレスに問い合わせて,ぜひ活用していただきたい。
 「将来どの科に進んでも最低限必要な」心肺蘇生の知識・技術を身につけたい,という気持ちでこの勉強会をみんなで続けてきた。毎回の勉強会はとてもエキサイティングなものであり,知的好奇心と実践的手技の取得にとても充実感があった。学生の時からACLSを学習することによって,最終的には,救急処置が必要な患者さんに少しでも役に立てるようになりたいと考えている。