医学界新聞

 

【特別編集】

日本糖尿病療養指導士に求められるもの
看護との連携において

座談会

嶋森 好子
(日本看護協会
常任理事)
北村 信一
(済生会
向島病院長)
河口てる子
(司会/日本赤十字
看護大学教授)
野口美和子
(千葉大学
看護学部長)



 本年2月末に,日本糖尿病学会,日本病態栄養学会,日本糖尿病教育・看護学会が合同で設立準備を進めてきた「日本糖尿病療養指導士」認定機構が設立された。全国で700万人と推定される糖尿病患者の健康と福祉の向上のために,糖尿病療養指導についての豊かな知識と経験を持ち,療養指導チームの一員として,保証された療養指導を行なうことができるスタッフの育成をめざし,研修を行なうとともに資格試験を実施する。
 本紙では,明年にも誕生予定の「日本糖尿病療養指導士」について,認定機構設立にかかわってきた方々にお集まりいただき,その役割などについて語っていただいた。


糖尿病患者の療養指導

5%の効果

河口 それでは早速ですが,糖尿病患者さんの療養指導につきまして,北村先生から概略をお話しいただけますか。
北村 糖尿病の治療は,適正な方法を長く毎日実施しなければなりませんから,患者さんに医師の指示する適正な治療方法を教え,正しく毎日自己管理できるように指導することが,治療の中できわめて重要な分野になるわけです。この分野のパイオニアであるE. P. Joslin先生は,すでに19世紀の終り頃から「患者教育」という名称で仕事を始めておられます。
 日本では,1961年に患者団体である「日本糖尿病協会」(以下,協会)が設立されて,ここに加入した患者さん方の教育・指導を「日本糖尿病学会」(以下,学会)が担当することになりまして,学会の中に協会指導委員会を作りました。日本の患者教育の向上と発展をめざして活動を始めてから,いつのまにか,「患者教育」のことを「療養指導」と言うようになったんですね。
 そして,その後この分野の向上普及のためにいろいろな企画が行なわれたのですが,なかなか指導水準が上がらない。今日の糖尿病合併症の著しい増加の一因も,そのあたりにあるのではないかと考えられるようになったということです。だから,療養指導についての今日の問題は,どのようにレベルアップさせるかということなんですね。私の考えでは,糖尿病治療には学問体系がありますが,患者さんにどう理解してもらい,どのように自己管理をしてもらうかの療養指導には学問体系がほとんどなく,経験で行なわれています。ここが問題なんですね。これから先,療養指導は経験の積み重ねの上に学問体系への試みがされていくと,向上,普及すると思うのですが。
野口 看護では相当早い時期から,糖尿病の患者さんに自己管理をどう指導していくか,という研究課題を学会発表してきました。1990年代に看護系の大学が一挙に増えてきましたが,看護大学の教官の研究課題としても多いテーマでしたね。厚生科学研究費による研究も1980年代から相当されてきましたが,看護の世界にはそれを教育に生かせる基盤がまだありませんでした。その原因には,研究に取り組むナースが外来に配置されてこなかったことがあげられます。せいぜい病院の中で,「退院指導」として行なわれるくらいでした。
河口 臨床の現場ではいかがでしたか。
嶋森 糖尿病の療養指導は医師の仕事であって,外来の看護婦が少なく,30人に1人置けばいいという状況でしたから,教育指導ができるナースを配置する,ということはありませんでした。
北村 実際には,1人ひとりの患者さんに個人指導の形で行なうのが最もよい方法なのですが,患者さんが増える一方で指導者不足ということから,「教育入院」や「糖尿病教室」という形式の効率を考えた上での指導方式がはやりました。しかしこの形式は,知識を一方的に教え込んでいたのです。だからバックグラウンドミュージック(BGM)的な効果しかない。理解力のすばらしくよい集団には有効ですけれどもね。
河口 BGMですか……(笑)。
北村 私はそう思ってるんです。糖尿病教室で聞かされる講義は心地よく耳に入るものの,なんとなく聞いていて,理解するには達していない。それだけで本当に理解する人はそのうちの5%でしょう。ですから,指導担当者と患者さんが1対1で話し合うこと,指導者がチームを組んで多くの患者情報を集めて,それを持って患者さんの指導をしていくことが絶対に必要です。教育入院や糖尿病教室のような集団指導だけでは,対象にもよるでしょうが十分な効果が期待できないと思います。
河口 看護界で行なわれていた研究も,患者さんの生活に根ざした指導ではなく,医学的な知識を与えるというものではなかったでしょうか。
野口 そうですね。「患者教育」の研究はたくさんされてきたのだけれど,それが看護の現場で生かされてきませんでした。

守れないのは患者のせい?

北村 20年,いや,もっと前だったかもしれませんが,教育学の先生から「教えるというのは単に材料提供にすぎない。問題は教育される人がそれをどう生かすかというところにある」と学んだことがあります。つまり,その生かし方をよい方向に導くのが療養指導者の役割だと言うんです。
河口 その頃医療者は,患者さんに知識を与えるだけで,どう生活に取り入れるかは患者さん自身に任されていたわけですね。
北村 そうです。教えてしまえばそれでおしまい,「守れないのは患者のせい」という感覚がありました。
野口 看護の研究でも,患者さんに知識を与えて,それを患者さんがどれだけ覚えたかという,学校の試験と同じような評価研究がありました。
北村 「この人は入った時に52点,出た時は64点。少しよくなったけど80点なければだめ」というようなことをやっていましたね(笑)。
嶋森 確かに,知識の量を測っているにすぎませんでした。
野口 家に帰った患者さんは,やはりできなくて……(笑)。
河口 知識の量は患者さんの行動と一致しない,ということが言われるようになったのはその頃,約20年前からでしょうか。
北村 そうですね。「行動の変容」という言葉が使われるようになったのは20年近く前のことです。
河口 でも,それは特別に糖尿病指導に熱心な病院で言われただけでしたね。
野口 1980年代には,意識的な部分では研究もしていたし,実行しようと努力はしていました。だけど,一般の病院では忙しくて,退院指導で触れてはいましたが,重症者がいると,それどころではなくなります。外来は「呼び出し」以外はほとんどありませんでした。
 1980年代といいますと,看護系大学がどんどんできるより前の時期ですが,「看護とは何か」を考え始めていた大学や,一部の糖尿病をメインにして良心的にがんばっていた施設では,相当なところまで考えられていたと思います。
 千葉大学病院で,私たちが糖尿病外来を始めたのは1979年です。失明する患者さんが増えてきて,専門の医師から「手伝ってほしい」ということもあったのです。
河口 そういうことが,糖尿病療養指導士育成の基盤にあるのですか。
北村 そうですね……日本糖尿病学会が開業医の先生方を対象にして,「糖尿病の進歩」という新しい糖尿病の診断と治療の普及事業を始めたのは1960年代の終りの頃です。それに「療養指導」の部門が加わって,コメディカルの方たちも参加したのが1977年のことです。これを継続すれば,次第に療養指導のレベルは上がると当時は考えていました。
河口 では,糖尿病療養指導士育成の話が出てくるまでには,ちょっとギャップがありますね。

糖尿病療養指導士育成の動き

河口 高齢者の人口が増えて,糖尿病が増えたということが最大の要因でしょうか。
北村 それだけではないと思います。合併症,特に進行増悪して臓器不全となる患者数が著しく増えていることが,厚生省の実態調査でわかったのが一番の要因でしょう。最初に療養指導のレベルアップのために「療養指導士」を養成しようと言い出したのは協会です。協会は元来は患者団体でしたが,法人化の際に医師をはじめとする医療職者が加入できるようになりました。特に栄養士さんがたくさん入会しました。そして,協会の定款の中に「療養指導育成事業」という一項が加えられ,付随して療養指導育成委員会を作ったのです。当初は内部だけの研修会でしたが,1993年に「糖尿病療養指導士の養成」の方向が決定し,この委員会が担当することとなり,学会に対して人的応援の要請がきました。そこで学会は,独自に検討委員会を作って協会とは別個に活動を始めたのです。その後,この問題をめぐっては,学会と協会が別々に検討していたのでは埒があかないということから,両会で少人数のワーキンググループを作りました。その時に初めて野口先生と出会ったのです。
野口 そうでしたね。協会が療養指導士を養成するが,資格者はナースと栄養士が多くなるだろうということから,日本看護協会の推薦もあって私が委員の1人として入りました。
北村 ワーキンググループでは,協会は「早期育成」,学会は,これは非常に重要なことだから「拙速は望まない」という姿勢で意見が分かれました。
野口 でも,本当に必要な状況になっていましたから。
河口 その頃から高齢者人口が増え出し,糖尿病患者も増えると言われ始め,あちらこちらからデータが発表されました。
北村 厚生省のデータは1989年から1994年ぐらいまで毎年出され,実態が明らかとなり,それがあらゆるところで取り上げられて,マスコミも関心を持ち始めました。また,学会の糖尿病認定医は約2400人ですが,それにもかかわらず700万人の患者さんにどう対応するのかも問題でした。認定医の能力をフルに生かすためには,医師を中心とした療養指導チームを作り,より多くの人により効率よく,よりよい療養指導ができれば,という考えになりました。そうすれば,合併症の進行を多少は食い止める力になるだろう,と思ったわけです。
河口 現実に,これだけたくさんの患者さんさんがいたら,少数の認定医だけでは処理しきれないことは明らかです。
野口 糖尿病治療の性質からいって,医師だけではできないということは明らかですので,必然的にナースや栄養士の能力が不可欠,ということですね。
北村 それで,医師を含めた療養指導スタッフたちが,お互いに協力し勉強し合ってレベルを高め,なんの隔てもなく討論できるようにしよう。そして治療方針を共有し,指導の実務はそれぞれの医療職別に行なえばよい,と思ったわけです。それが日本糖尿病療養指導士(以下,療養指導士)の基本的な考え方です。
 糖尿病の患者さんを専門的に扱っている医師には理解されますが,一般の開業医の先生方は理解されにくかったように思います。でも,病診連携の波の中で,今その考えが少しずつ浸透し,糖尿病専門医と一般医の勉強会が各地で進みつつあります。本当は,そういう土壌が整備されたところに療養指導士が生まれるのが,最も望ましいのですが,残念ながら若干早まったことになりました。
嶋森 でも,種が蒔かれたのですから,新たに療養指導士となる人たちに期待したいですね。

これから花咲く糖尿病療養指導士

糖尿病療養指導士のメリット

河口 療養指導士のメリットに触れていきたいと思います。野口先生,いかがでしょう。
野口 第1に糖尿病療養の状況をよくしていくことでしょうね。ただ,看護においても糖尿病指導が大事だということはわかっていても,多くのナースが本当にそれをわかっているかというと,それも疑問です。
嶋森 療養指導は,やはり特別な施設でしかしてこなかったのだと思います。一般の病院では,ナースはただの伝達屋のような役割で,スケジュールに則るということだけで精いっぱいでした。しかし少しずつですが,糖尿病を専門にしている中小の病院や開業医では,かなりナースが中心的に仕事をするようになってきています。ここ数年,医師の勉強会に,済生会向島病院の糖尿病教育指導婦長である金木恵子さんが講師として呼ばれるようになりました。
北村 向島医師会の会員と私どもの病院の糖尿病勉強会でも,金木婦長や管理栄養士の方に,それぞれの立場からの指導方法を話してもらったり,ロールプレイをしてもらっています。一般医の方々が,栄養士やナースはどう生活指導しているのかを知りたい,と言うようになってきています。
河口 そういう要求はけっこう多いようですね。朝日生命糖尿病研究所では,キャラバンを組織して地方を廻っています。
野口 いいことですね。現場を見ないと,知識を伝えることはできてもイメージがつかめませんから。
北村 アメリカ・ミネソタ大学の療養指導研修クラスでは,実際に指導をしているところをマジックミラー越し見せ,解説を加えるということもしています。
野口 そういうことが必要ですね。療養指導士の認定制度ができる過程では,ナースのローテーションのことが相当言われました。内科外来でようやく糖尿病のことがわかったと思ったら,ローテーションのために他科へ替わってしまい,次にまた糖尿病を何も知らないナースが来てしまう。内科病棟でも,専門看護婦職を一生懸命作ろうとしても,ローテーションがあるのでは専門家は育たないのではないか,と言われました。
河口 患者教育の手法をいう以前に,糖尿病の知識を持っていない。それなのに,技術とか,指導とか言われても困ってしまいますね。
野口 その点,熱心な栄養士さんがいれば,食事指導についてはやってもらえます。でも,患者さんに最も接する機会が多いのはナースですから,ナースを育てなければいけないというのが,専門医からの要求でした。この療養指導士制度を作ることによって,糖尿病の基礎的な知識を持った人たちと一緒にやろうという,専門の先生たちの思いもありました。
河口 アメリカの糖尿病専門看護婦の中には,自分でオフィスを持ち,患者さんの予約を取って指導をしている方もいます。インスリン投与から食事のこと,後のフォローも全部任されています。それだけ信頼されているのでしょうが,ローテーションなんかとんでもない話ですね。
北村 先日,アメリカのCDE(認定糖尿病教育士;療養指導士と同様の役割があるが,より高度であり広範囲な資格者)の方が来日された折に,今のことを聞きましたところ,「最初に医師の依頼は必要」とのこでした。
野口 限度はありますね。それでも,あとは任されています。
河口 最初の診断のところでは医師が必ず関与しなければいけないですが,その範囲内の融通性については,かなり広範囲に認められているようです。

いま,めざめる時

河口 療養指導士の認定についてですが,1000時間以上の療養指導経験あり,その指導例10例を記入,提出するという条件があります(下記資料参照)。かなり厳しい制約のようにも思えますが,一方では5年間に限り准看護婦・士,栄養士にも受験資格を与え間口を広げています。ことに大きな病院で,糖尿病を中心にしているセッションでは,いろいろな職種がすでにチームを組んで実行しています。
嶋森 施設によっては,ナース以外の方が実際に患者指導をしたり,薬剤師さんが薬の指導をしたり,検査技師の方が血糖測定をしているところもあるようです。
北村 それぞれの病院で特徴があるのですね。それだけの教養と経験を積まれている人がいればよいのですが……。でも,一般開業医の施設にいるナースがレベルアップをしなければ,全体のレベルは上がらないと思います。そのためにも,糖尿病の療養指導が,現状ではだめだと思っている人,そして資格を得ることにメリットがあるから受ける,というのではなくて,糖尿病患者さんの福祉向上のために,自分が継続してかかわりながらがんばっていこうという人たちに受験してほしいですね。アメリカでは,資格試験の受験・更新の第1ポイントは「現職であること」です。私は,開業医の施設に従事する看護婦・士,それが准看護婦・士の方々が,そういう意識にめざめてほしいと思っています。
 医師を対象とした勉強会でしたが,3回目に「うちの看護婦を連れてきてもいいですか」と言った医師がいました。
野口 それはすばらしいことです。いいことですよ。
河口 ともかくナースは絶対数が多く,患者さんのそばにいることは確実ですし,ナースの専門分野とも言えますが,その芽は大きくなって花が咲くのかしら(笑)。

必要となるアウトカム

河口 現状でも,ナースが指導の点数を取るには決められた部屋がなければいけないという規制がありますが,それを踏まえた上で,療養指導士が治療方針を立て,診療報酬を取ることできますでしょうか。
嶋森 プライバシーが保てる個室を確保する必要がありますね。
北村 アメリカのある病院では,糖尿病の外来にいくつも診療室があって,そこを医師はもちろんですが,栄養士でも,ナースでも空いていれば使えるようになっていました。済生会向島病院には糖尿病外来の診療室は2つしかありませんが,そのうちの1つを週2-3回,半日をナースの療養指導外来にして,医師の依頼により1人に30分以上の時間をかけて指導をしています。1日にせいぜい4人か5人までですが,効果はあります。
嶋森 亀田総合病院のように,ナースによる糖尿病支援外来を実施している病院もあります。ですから,指導料を取れるようになってからは,ある程度環境も整ってきたのではないでしょうか。
北村 療養指導士の指導に診療報酬の点数加算がつくとよいのですが,今はむりでしょう。
野口 それがあると,この制度はもっと広がりますね。
河口 それにはアウトカムが必要ですし,アメリカのように時間がかかるということですね。
北村 アメリカでは,第1回目のCDEの試験が行なわれたのは1986年です。当時はその指導料は医療保険の対象になりませんでした。しかし,今年,対象になったと聞いています。ここに至るまでに14年かかっているわけです。ミネソタ州では,CDEがかかわることになってから糖尿病壊疽で足を切断する患者さんが半減したというデータが出ています。そのようなアウトカムが出てこないと社会的評価はされません。しかし,認められるといろいろなところが手を差し伸べてくれるようになります。ですから,それまでは療養指導士というパイオニアががんばらなくてはならないと思います。
河口 考えてみますと,アメリカでも糖尿病教育者協会(AADE)が誕生して25年,CDEができてから14年で,ようやく実を結んできた感じですね。
北村 しかし,わずかの指導料で時間を拘束されるわけですから,実際の運営上は,多少マイナスになるかもしれません。それでも,質を上げる方向に少しでもやっていこうという施設が増えていくことが大事でしょうね。
河口 金銭面のメリットよりも,「あそこに行くといいコントロールができる」とか,「足を切らなくてもすむ」という評判のほうが先になるのではないでしょうか。
嶋森 患者さんは,尋ねたいことがたくさんあるのですが,ナースは忙しそうだから声がかけづらい。相談室があるだけでもずいぶん違うと思います。質を上げること,サービスを上げるということは,これからの病院の生き残り条件になりますね。
北村 糖尿病専門の医師が1人しかいない病院でも,療養指導士の資格を持っているコメディカルスタッフが5-6人いれば,診療方法をマニュアル化して,そのオーダーが出せるわけです。
野口 低血糖の時はどうする,インスリンは,ということぐらいはやれるということですね。患者さんの生活に合わせたディスカッションをして,その結果を共有できれば本当によいですね。

療養指導士と認定看護師

療養指導士は何人必要か

河口 アメリカには,現在1万5000人のCDEがいます。人口比から考えますと,日本では1万人ぐらいの療養指導士が必要と思われますが,どの程度の数が必要とお考えでしょうか。
北村 現在日本の糖尿病患者は約700万,実際に保険で医療を受けている人は250万人と言われています。ある先生のお話ですと,1人の専門医が診られる限度は500人ということです。診るというのは,その人のバックグラウンドを含めて把握しているということです。糖尿病の認定医は2400人ですが,実力のある人はその半分程度というところでしょう。その人たちが250万人を診るとなると,1人あたり2000人近い数字になってしまい,これは絶対できないことです。そう考えますと,専門医1人につき療養指導士6人ぐらいが必要になると思います。
野口 今,運営がうまくいっている糖尿病センターで,1000人の患者さんに対して3人のナースですね。
嶋森 すると,やはり概算で1万人弱の療養指導士が出てこないと間に合わない。
北村 そうですね。でも,療養指導士の認定水準は療養指導の質の向上を考えると,もう落とせませんから,何年かかっても,そのくらいになるのがよいと思いますが。
河口 合格率は,5割くらいですか?
北村 どうでしょうか。まあ,第1回は相当にレベルが高い人が受けると思っていますので,よい成績になるよう期待していますがね。
野口 興味を持っている人は,今一生懸命勉強しています。日本糖尿病教育・看護学会(以下,看護学会)員は2割が教員ですし,教員は現場にいないので受験資格がありません。ですから教員は立場を変えて,教育の中で慢性疾患患者の教育をどうしていくかに力を入れるべきでしょう。何%かのナースがまず受験し,その中で意識の高い人が日本看護協会の糖尿病認定看護師として教育を受ける,ということになるとよいのですが。
嶋森 日本看護協会が実施している認定看護師制度の中に,明年から「糖尿病看護」が加わります。これは看護学会の協力を得てコースが実施されるのですが,糖尿病領域として定員20人で始めます。認定看護師には,「(1)実践:特定の分野において,個人・家族または集団に対して,熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護を実践する,(2)指導:特定の看護分野において,看護実践を通して他の看護職者に対し指導を行なう,(3)相談:特定の看護分野において,看護職者に対してコンサルテーションを行なう」という3つの役割がありますので,認定看護師と療養指導士がチームを組めばより強力となりますね。
河口 ただ,認定看護師はともかく人数が少ない。なんといっても定員が20名ですから。
野口 その人たちが,療養指導士を指導していくという感じでしょう?
北村 療養指導士だけではなく,チーム全体,お医者さんも指導するのでは。
河口 そこまでは言えません(笑)。

それぞれが担う役割とは

野口 そこで,問題になるのが,やはり役割の分担だと思います。療養指導士ではできないケース,難しい患者さんのケアについては認定看護師がスペシャリストとして仕事をする。その時には,医師に助言をしたり,治療方針についてのすり合わせも必要になるでしょう。
河口 糖尿病の知識については,療養指導士はベースを持っているけれども,どのように教えるか,つまり患者さんへの教育方法の部分に関しては,そこまでやれるというのが療養指導士にはないですよね。そこがアメリカのCDEとの違いかもしれません。多くの人たちから,知識の伝達ならできるけれど,どう教えたらよいかを見せてくださいと言われるんですね。その部分を認定看護師は,理論的な部分からロールプレイなどを使って技術的な部分までを研修で習得しますから,ちゃんと押さえることができると思います。そこが認定看護師と療養指導士の大きな違いになります。
北村 これまで,私たちは療養指導をほとんど経験的にやってきたわけですが,今後,向上,普及していくためには,学問的な理論体系が作られることが必要でしょう。例えば情報の取り方,その意味,そして分析,それに対する具体的な療養指導業務展開のあり方など,そういうことをぜひ教えてもらいたいですね。
野口 看護学会がそういう理論的なバックボーンや研究を担っているのでしょうが,その成果を活用して認定看護師の教育に私たちは協力していくわけです。そして認定看護師が現場に出たら,今度は現場の問題を必ず学会に反映させてくれるだろうと思っています。そういう意味で,認定看護師という,より高度な専門教育を受けた人と学会の場とが連動していくわけです。そして,この人たちに実際の療養指導士の指導もしていってもらいたいと思っています。
北村 第一線で活動する療養指導士とのコミュニケーションができてこないと,単なる学者の集団になってしまいます。そうならないようにしてほしいですね。学者になる人もあるのかもしれませんが,自分の持っているノウハウを療養指導士の方々に伝えてほしいと思います。実は,私もそれを聞きたいと思いましたので,看護学会の会員になりました。
野口 看護学会の成果は,大学教育を通して基礎教育に反映されています。
河口 学会では実践の知をめざし,それがまた実践の場にフィードバックされるわけです。それが大事ですね。
北村 私は,糖尿病の地域基幹病院には認定看護師が1人ぐらいはいて,その病院の関係する勉強会のオピニオンリーダーのようになっていってくれれば,その地域のそれぞれの施設チームの指導レベルが上がるのではないかと期待をしています。
河口 でも不安な面もあるんですよね。ナースや栄養士が,下手に疾患の知識だけをもって患者さんに押しつけることにならないか,と。
野口 それは,認定機構が正しい患者指導,教育のあり方をきちんと示し,これを看護学会が目配りしていくしかないでしょう。
河口 目配りですか(笑)。それでは,療養指導士の最大のメリットは「患者のため」ということで,今日の座談会をしめさせていただきます。ありがとうございました。

資料1 日本糖尿病療養指導士認定機構細則
第1章 日本糖尿病療養指導士の資格と業務
第1条 日本糖尿病療養指導士とは,糖尿病とその療養指導全般に関する新しい知識を有し,医師の指示の下で患者に熟練した療養指導を行なうことのできるコメディカルスタッフに対し,本機構が与える資格である
第2条 糖尿病患者の療養指導は糖尿病の治療そのものであるとする立場から,患者に対する療養指導業務は,わが国の医療法で定められているそれぞれの医療職の業務に則って行なうものとする
第2章 第3章(略)
第4章 認定試験の受験資格
第5条 認定試験の受験資格は次の各項の条件をすべて満たすものとする
 (1) 看護婦・士,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士,視能訓練士の資格を有する者および准看護婦・士,栄養士の資格を有する者。ただし,准看護婦・士,栄養士の受験資格附与は第1回の試験施行時より5年間とする
 (2) 下記の条件を備えた医療施設において,連続2年以上勤務し,この間に通算1000時間以上糖尿病患者の療養指導業務に従事しているか,または,過去に従事していたことがあるとする施設長の証明書を得た者
 (i)糖尿病学会認定教育施設
 (ii)(i)に該当しない場合は下記の各条項の条件をすべて満たしている施設
  (1)(イ)常勤または非常勤の学会認定医がいること
   (ロ)学会の認定医以外でも,日本糖尿病学会の会員で糖尿病の診療と患者教育に熟知した常勤の医師がいること
  (2)外来で糖尿病患者の診療が恒常的に行なわれていること
  (3)糖尿病の患者教育,食事指導が常時行なわれていること
 (3) 受験者が当該施設で携わった糖尿病療養指導の自験例が10症例以上あること
 (4) 本認定機構が開催する講習会を受講し,受講終了証を取得していること。その詳細は実施規則に示す(以下の章,略)

資料2 日本糖尿病療養指導士の認定更新規定(案)
第1条 糖尿病療養指導士の認定更新に必要な条件は以下の項目に示す
 1. 認定から更新までの5年間に通算3年以上糖尿病患者の療養指導に従事していること。ただし,従事していた施設の条件は問わない
 2. 認定から更新までの5年間に認定機構主催の講習会に1回以上出席していること
 3. 認定から更新までの5年間に別表に示す研修20単位以上を取得していること
 4. 新たな糖尿病療養指導の活動記録を10症例以上有していること
第2条 糖尿病療養指導士の認定更新を希望する者は次項1-4に定める申請書類に認定更新の審査料を添えて認定委員会に提出するものとする(以下略)
第3条 研究のための海外留学や長期病気療養など特別な事情があり更新が不可能となった場合,その事情を記した書類を添付して,更新期間の延長を申請することができる
第4条 糖尿病療養指導士認定委員会は,毎年1回申請書類によって更新の審査を行なう
(以下略)