医学界新聞

 

厚生省が「リスクマネジメントマニュアル作成指針」を取りまとめる


 厚生省は,本年3月より「リスクマネジメントスタンダードマニュアル作成委員会」において,「今後の国立病院・療養所および国立高度専門医療センターにおける医療事故の発生防止および医療事故発生時の対応方法に関する標準的マニュアル」についての検討を行なってきた。同委員会(委員名簿別掲)は,さる8月22日に「リスクマネジメントマニュアル作成指針」を取りまとめ報告。「今後,厚生省においては各施設が本指針に基づき医療事故防止体制を確立し,適切かつ安全な医療の提供の推進を図られるよう指導されたい」と提言している。本号では,同作成指針の抜粋を掲載するが,全文は,近日中に弊社ホームページ(http://www.igaku-shoin.co.jp)上に掲載の予定。
 なおホームページには,平成11年度厚生科学研究(主任研究者=杏林大 川村治子氏)より,「看護のヒヤリ・ハット事例の分析」も掲載する予定である。


リスクマネジメントマニュアル作成指針(抜粋)

●第1 趣旨

 本指針は,国立病院,国立療養所および国立高度専門医療センター(以下「国立病院等」という)における医療事故の発生防止対策および医療事故発生時の対応方法について,国立病院等がマニュアルを作成する際の指針を示すことにより,各施設における医療事故防止体制の確立を促進し,もって適切かつ安全な医療の提供に資することを目的とする。

●第2 医療事故防止のためのポイント

 医療事故を防止するためには,各施設および職員個人が,事故防止の必要性・重要性を施設,自分自身の課題と認識して事故防止に努め,防止体制の確立を図ることが必要である。このため各施設は,本指針を活用して,施設ごとに医療事故防止対策検討委員会を設置し,施設内の関係者の協議のもとに,独自の事故防止マニュアルを作成するとともに,ヒヤリ・ハット事例および医療事故の分析評価ならびにマニュアルの定期的な見直しを行なうことにより,事故防止対策の強化充実を図る必要がある。

●第3 用語の定義

1 医療事故
 医療にかかわる場所で,医療の全過程において発生するすべての人身事故で,以下の場合を含む。なお,医療従事者の過誤,過失の有無を問わない。
2 医療過誤
 医療事故の一類型であって,医療従事者が,医療の遂行において,医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為。
3 ヒヤリ・ハット事例
 患者に被害を及ぼすことはなかったが,日常診療の現場で,“ヒヤリ”としたり,“ハッ”とした経験を有する事例。

●第4 マニュアルの作成および報告

1 作成
(1)各施設において作成するマニュアルは,原則として,医療事故の防止体制の整備,医療事故防止のための具体的方策の推進,医療事故発生時の対応を構成内容とするものとし,本指針の第5から第7の内容を基本として,施設内の関係者の協議に基づいて作成するものとする
(2)各施設は2000年度中にマニュアルを作成する
2 報告(略)

●第5 医療事故の防止体制の整備

 各施設においては,以下の事項を基本として,施設内における医療事故防止体制の確立に努める。
1 医療事故防止対策規程の作成(略)
2 医療事故防止対策委員会の設置(略)
3 リスクマネジメント部会の設置(略)
4 リスクマネジャーの配置(略)

●第6 医療事故防止のための具体的方策の推進

1 医療事故防止の要点と対策の作成
 医療事故防止のため,委員会等において,人工呼吸器,輸血,注射等についての具体的な注意事項を定める事故防止の要点と対策を作成し,関係職員に周知徹底を図る(以下,略)
2 ヒヤリ・ハット事例の報告および評価分析(略)
3 施設内における医療事故防止の周知徹底方法(略)
4 医療安全対策ネットワークへの協力(略)

●第7 医療事故発生時の対応

1 初動体制
(1)医療事故が発生した際には,医師,看護婦等の連携の下に救急処置を行なう
(2)重大事故の発生に備え,ショックや心停止に直ちに対応できる体制を整備する
2 医療事故の報告下図参照
3 患者・家族への対応
(1)患者に対しては誠心誠意治療に専念するとともに,患者および家族に対しては,誠意をもって事故の説明等を行なう
(2)患者および家族に対する事故の説明等は,原則として,病院の幹部職員が対応し,状況に応じ,事故を起こした担当医または看護婦等が同席して対応する
4 事実経過の記録(略)
5 警察への届出
(1)医療過誤によって死亡または傷害が発生した場合またはその疑いがある場合には,施設長は,速やかに所轄警察署に届出を行なう (2)警察署への届出を行なうに当たっては,原則として,事前に患者,家族に説明を行なう(以下,略)
6 医療事故の評価と事故防止への反映
(1)医療事故が発生した場合,委員会において,事故の原因分析など,以下の事項について評価検討を加え,その後の事故防止対策への反映を図るものとする(以下,略)
(2)医療事故の効果的な分析を行ない,事故の再発防止に資することができるよう,必要に応じて,ヒヤリ・ハット・医療事故情報分析表を活用し,より詳細な評価分析を行なう

リスクマネジメントスタンダードマニュアル作成委員会名簿
〈委員長〉福永 秀敏 国療南九州病院長
鮎沢 純子 東京海上メディカルサービス
池田みちよ 国立精神・神経センター武蔵病院看護部長 
井上 通敏 国立大阪病院長
北村惣一郎 国立循環器病センター院長
行天 良雄 医事評論家
斉藤理恵子 関東信越地方医務局看護専門官
鈴木美恵子 国療中部病院看護部長
関口 久紀 国立病院東京医療センター薬剤科長
野村 和弘 国立がんセンター中央病院副院長
福原 毅文 関東信越地方医務局長
町野  朔 上智大教授
武者 廣隆 国立千葉病院長