医学界新聞

 

【解説】「身体拘束ゼロ作戦」の意義

抑制をはずすことは寝たきりにさせないこと


身体拘束ゼロをめざす協議会の発足

 本年5月に,丹羽雄哉前厚生大臣は,縛らない看護・介護を前面に打ち立てた「身体拘束ゼロ作戦」の推進を表明。同6月9日に,厚生省内に「身体拘束ゼロ作戦推進協議会」を発足させた。「抑制廃止」をめぐっては,1999年3月31日付で,厚生省令「介護保険施設等における身体拘束の禁止規定」が通達されている(7月31日付,2398号に関連記事を既報)。

身体拘束ゼロ作戦の推進

 「身体拘束ゼロ作戦推進協議会」は,本年4月施行の介護保険法で身体拘束が原則禁止され,その上での質の高い介護サービス実現が望まれることから,「身体拘束を現場から廃止する努力と関係者の支援が重要」などを趣旨として発足した。また同協議会は,「身体拘束ゼロ作戦」を推進すべく,国および各都道府県に「推進協議会」の設置。身体拘束に向けて幅広い意見や情報交換を行なうこと」を具体的な取り組みと定め,本年度中に一部自治体にモデル協議会を設置し,来年度には全県に設置することを提示している。
 さらに,各都道府県の推進協議会には,具体的な助言を行なう身体拘束相談窓口や,助言指導を行なう介護相談員(介護サービス利用者のための相談等に応じるボランティア)の養成を行なうこと,「身体拘束ゼロマニュアル」の作成と普及,介護・福祉機器の開発と普及に加え,「身体拘束ゼロ推進シンポジウム」の開催なども計画している(図参照)。

高齢者医療にとっての大英断

 介護保険に「身体拘束禁止」の一項が入った背景には,1998年10月に福岡市で開催された「第6回介護療養型医療施設全国研究会」で発表された「抑制廃止福岡宣言」(表1参照)も関与していると言えるだろう。その宣言作成にかかわり,1986年から抑制廃止を実施している上川病院(東京都八王子市)の吉岡充理事長は,「福岡宣言を発表してからは,急速に拘束を禁止しようとする施設が増えてきました」と語る。また厚生省が示した「身体拘束ゼロ作戦」については,「これからの高齢者医療にとっての大英断であり,寝たきりゼロ作戦につながるもの」と位置づけ,「なにが抑制なのかを定義づけることも大切」と16のチェック項目を示す(表2参照)。

身体拘束ゼロ作戦は寝たきりゼロ作戦の実践編

 「寝たきりゼロ作戦」が世に出て10年がたったが,まだ「寝たきり」の状況は多くの施設,在宅でもみられている。吉岡理事長も,「身体拘束ゼロ作戦は寝たきりゼロ作戦の実践編となるものであり,より普及していくだろう」と予測する。抑制をやめることは,その人を起こすことにつながる。「抑制をはずすことは寝たきりにさせないこと」と現場の担当者や一般市民は気づき始めた。そのことが,一層身体拘束禁止に拍車を駆けている。「身体拘束ゼロ作戦」のこれからの方向性について吉岡理事長は,「この法律が熟知されるようになれば,現在の85%は抑制がなくなるでしょう。問題は残った15%ですが,5-10年後にはほとんどの施設で抑制がなくなると考えています」と語る。
 また,「不必要な抑制をしている施設が圧倒的に多いが,抑制をはずすことで患者は落ち着きをみせ,問題行動も減少する。さらに,患者や家族の満足につながり,スタッフの満足度もあがる」と指摘する声もある。そのためには,施設でのサービス提供者と受ける側が本当によい,というコンセンサスが得られることが重要であり,スタッフの意識改革とマンパワーも課題となるだろう。

表1 抑制廃止福岡宣言
 1998年10月30日
 老人に,自由と誇りと安らぎを
1 縛る,抑制をやめることを決意し,実行する
2 抑制とは何かを考える
3 継続するために,院内を公開する
4 抑制を限りなくゼロに近づける
5 抑制廃止運動を,全国に広げていく

表2 抑制チェック項目
1 徘徊しないように,車椅子(椅子)やベッドに胴や四肢を縛る
2 転倒・転落しないようにベッドに胴や四肢を縛る
3 点滴・中心静脈栄養・経管栄養等のチューブを抜かないように上(下)肢を縛る
4 点滴・中心静脈栄養・経管栄養等のチューブを抜かないようにミトン型のような手袋をつける(四肢の自由を奪う工夫や道具を含む)
5 車椅子(椅子)からずり落ちないようにY字型抑制帯をつける
6 車椅子(椅子)から立ち上がらないようにY字型抑制帯をつける
7 車椅子(椅子)からずり落ちないように腰ベルト(ひも)をつける
8 車椅子(椅子)から立ち上がらないように腰ベルト(ひも)をつける
9 車椅子(椅子)からずり落ちないように車椅子テーブルをつける
10 車椅子(椅子)から立ち上がらないように車椅子テーブルをつける
11 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する
12 脱衣・おむつはずしのある人に介護衣(つなぎ)を着せる
13 自分で降りられないように,あるいはベッドから転落しないようにベッドを柵で囲む
14 必要以上(食事もできなくなるほど)の眠気や脱力,精神作用を減退させる向精神薬の使用
15 鍵のかかる部屋(病室)に患者さんを閉じこめること
16 病棟の出入り口に鍵等をかけること
(上川病院理事長 吉岡充氏による)