医学界新聞

 

リスクマネジャーの権限

アメリカ・リスクマネジメント視察研修報告

金井Pak雅子(東京女子医科大学看護学部・教授)


さる7月15-22日の間,「リスクマネジメント視察研修」がアメリカ・ハワイ州のホノルルで開催された。この研修は国際治療教育研究所(事務所=東京都港区赤坂,所長=藤居則之氏)がハワイ大学看護学部との連携(看護経済研究会後援)により企画したもので,昨今の医療事故事情を踏まえ,リスクマネジメントの原点から確認していくことを目的とした。
 参加者は,全国各地の病院の看護部長,副部長,婦長などの看護管理職。成田市の新東京国際空港における結団式の時から,それぞれの施設が医療事故防止対策に格闘する毎日であることが報告される一方,今回の研修に対する期待が語られ,「観光地ハワイ」へ赴くという雰囲気ではなかった。

ハワイ州の認定リスクマネジャー第1,2号者から講義

 研修は,現地時間の17日から4日間びっしりとスケジュールが組まれていた。最初の3日間は朝8時半から研修が開始。昼食の1時間をはさみ,終了は午後4時だったが,それは予定に過ぎず,連日4時半をまわるくらいまで質問が絶えなかった。
 今回の講師は,ハワイ州クイーンズメディカルセンターのリスクマネジャーであるLinda Awong(RN)氏と,同キャスルメディカルセンターのリスクマネジャーJudi Correa(RN)氏の2人で,いずれもハワイ州としての認定リスクマネジャー第1号と第2号である。
 研修内容はリスクマネジメントの概念・定義・要素,病院リスクマネジメント部の機能と責任,情報開示,インフォームドコンセント,リスクマネジャー認定プログラムのほか,講師の方々のこれまでの体験事例を踏まえた解説もあり,参加者はそれぞれの施設で直面している状況と重ね合わせ食い入るように講義を聴いていた。また質問もたくさん出て,いつも何人かの手が上がっている状況であった。
 その主な質問や意見は,「リスクマネジャーとして,今日の地位や権限を確立するまでの経緯を知りたい」,「リスクマネジャーのフォローは誰がするのか」,「情報公開を推進することと個人(患者そして関わったスタッフ)を保護するということをどのように調整しているのか」,「インシデントとアクシデントを分類するツールがあれば教えてほしい」というものであった。

患者の意思に添わない手術には「待った」を

 なお,2日目の夜には10時ころまで,それまでの内容の確認と翌日の質問事項を抽出する討議を行なった。4日目には講師が所属する2つの病院の視察,そしてその後研修の終了に際して,修了書の授与,および評価があった。100頁におよぶテキストの他に,2つの病院で使用されているインシデントレポート用紙などの資料が何十枚も配布された。
 研修内容で最も印象に残ったのが,「患者が自分の受ける手術に納得をしていない」とリスクマネジャーが判断した場合,リスクマネジャーはその手術に「待った」をかけることができる権限を持っているということである。「リスクマネジメントの統括者」という役割を担うリスクマネジャーには,その責任とともに権限が保証されている,という大切さを,改めて認識させられた研修であった。