医学界新聞

 

招聘講演から学ぶ,
リハビリテーション看護継続教育のあり方

野々村典子(茨城県立医療大学看護学科・教授)


リハ領域における看護継続教育のあり方を考える糸口として

 日本におけるリハビリテーション(以下,リハ)を取り巻く現況は,診療報酬改訂による回復期リハ専門病棟に代表されるように大きな転換期を迎えている。このような社会の変化はリハ領域における看護の位置づけの明確化を求めている。
 国際リハ看護研究会(代表筆者,後述)は,日本のリハ看護の領域をより明確にするために,諸外国のリハ看護の実態把握とその国民性,文化的相違を踏まえた比較をすること。また,日本におけるリハ看護の発展に寄与することを目的に活動を続けている。日本でもリハ看護は発展しつつあるが,その概念や方法論の明確化に至っているとは言い難い。そこで本研究会では,さる5月29日から6月11日の間,アメリカで20年間リハ看護実践を行なっている橋本・ゴンティエ・ルミ氏(米・ゴールデンウエスト大講師,MSN,RN,CS,GNP,CRRN;以下,橋本氏)を講師として招聘し,アメリカにおけるリハ看護の実態を知ること,そしてわが国のリハ領域における看護継続教育のあり方を考える糸口を求める検討を行なった。

アメリカにおけるリハ看護
基礎技術訓練の実際

慣性の法則を意図的に活用したテクニック
 6月1日には,茨城県立医療大学で,アメリカにおける卒後教育の実際を知ることを目的に,日米のリハ看護基礎技術訓練の実演を取り入れた講演会を行なった。そこでは,橋本氏によるボディメカニクスとトランスファー・テクニックのデモンストレーション,およびその後に参加者を交えてのディスカッションがもたれた。
 参加者の中には,生活支援技術の開発で著明な紙屋克子氏(筑波大教授)や大学院生の姿があった。実演や討議の中からは,援助の目的は同じであっても背景となる技術の考え方,方法,また教育や文化の違いが両国間に現れていることもわかり,興味深いものであった。
 橋本氏が強調したことは,「リハ看護に対する意識改革」である。その行動の1つとして,「患者,ナースともにこれから起こす行動に対し,予備動作として『スウィング』を十分に行なってから目的の動作に移ること」があった。
 具体的にはトランスファーの際,痙性のある患者の場合には,端坐位の患者がまず足踏み動作を十分にしてから次の動作に移ることがあげられる。また,2人で臥床患者を水平移動する場合も,横シーツを支える看護者が移動する前に振り子のように身体の動きを合せてから,目的の方向に移動することが実演で示された。これらは,「慣性の法則」を意図的に活用しており,日本では原理としてはわかっていてもあまり実践的には用いていない方法である。また,看護者と患者との身長差が大きい場合のトランスファーの基本も強調し,説明された。

病院採用時オリエンテーションの一環として取り入れているリハ看護技術
 このようにアメリカの研修はテクニックが中心となり,具体的にリハ看護場面をオリエンテーションしていた。例えば,ナース1人で行なう方法だけではなく,2人で行なう状況を具体的に示し,その方法についてデモンストレーションを,研修者も実際に行なうというプログラムであった。
 ある参加者の感想では,「日米間の原則に違いはないが,トランスファーの研修の中では一般看護とリハ看護のパラダイムの違いを体得させる目的が明確にあった」というものがあった。つまり,日本では方法論としてのトランスファー・テクニックの研修は行なわれるものの,リハ看護の概念作りには至っていないとの意見である。
 また別の参加者は,橋本氏のデモンストレーションを体験し,「誰でも(素人でも)使えるテクニックと思えた」と話していた。この理由としては,アメリカではトランスファーを行なう者が,有資格者だけではなく無資格者の導入が多いためと思われる。日本の場合は,患者のトランスファーのほとんどを有資格者であるナースが担っており,テクニックも同じ基準を持っていると考えられた。
 橋本氏も話されていたが,リハ看護は,他領域に比べて患者とナースとの身体的密着度が高いことが特徴であり,患者との親近感が増しているという印象がある。アメリカではこのようなリハ看護基礎技術訓練が,病院採用時のオリエンテーションの一環として行なわれている。

アメリカリハ看護事情について

 橋本氏は,前述した茨城県立医療大での実演・講演の他に,東京や大阪でも講演を行なったが,現在アメリカのリハ分野,そしてリハ看護界で広く受け入れられている概念について以下のように述べた。
●リハの土台となるリハ哲学は,患者にリハ活動,目標達成評価に関する責任を委任・移行することを目的としている。そして,リハ分野で働く専門家は,教育,セルフケア技術の開発などを通して,患者がその目的達成に必要な過程をサポートする。
●リハの主な目的は,(1)個々の障害者に特有なニーズに応える適切かつ総合的なサービスの提供,(2)身体的,心理的,職業的可能性の最大活用,(3)合併症の予防,健康増進,(4)福祉的援助,(5)社会復帰,(6)生活の質(QOL)の回復維持という6点に集約される。
●リハ分野で頻繁に使われる「障害」の概念は,WHOによる概念に加え,以下のような障害の概念を念頭に入れて障害を多方面から見直す必要がある。その第1は,「『人』があって『障害』が存在することに対する認識」である。それはつまり,「Spinal Cord Injury Patient」ではなく,また「A Person with Spinal Cord Injury」や「Diabetic Patients」ではなく,「A Person with Diabetes」であるという視点である。
 この表現方法は,リハ看護を専門とするナースの間では意識的に使われており,障害者に対する意識改革の1つの手段となっている。また,障害を考える時に大切な視点は,障害者の人としての「相違点」と「類似点」を認識する,transculturalな視点である。
 さらに,「Excess Disability=過剰障害」という患者が本来持っている障害に上乗せされた「なくてもよい障害」,それがあるために現実に達成可能な機能回復が阻害されたり遅れたりする障害にも視点をあてる必要があるということである。それには,心理社会的要因,身体的な要因としての合併症,社会的な不利(過剰障害)などがあげられる。なお,身体的障害だけが障害ではなく,目に見えない障害が目に見えるようにしなければならない。
●リハナースの定義は,「身体的または精神的障害,慢性疾患,老齢化に伴いライフスタイルの変化の必要性に直面した人々がそれに対応し,できる限りの自立と健康の維持のため,その手助けに必要な専門知識を持ったナース」(ARN,1997,橋本訳)とされている。
●リハナースの活躍の場は,リハ専門病院がすぐに思い当たるが,その他の場として,集中治療室,総合病院内のリハ病棟,ホームケア,長期療養施設,ナーシングホーム,大学・院内教育,研究分野,保険会社(ケースマネジャー),法律分野,企業家(entrepreneur)ビジネスなどがあげられる。
●リハを必要とする疾患例としては,脳卒中,脳外傷,外傷,脊髄損傷,筋骨格系疾患,多発性硬化症,脳性麻痺,ポリオ,呼吸器・循環器疾患,癌,エイズ,疼痛(慢性疼痛),火傷,薬物依存症・精神疾患がある。
 橋本氏はこのように講演したが,参加者の反応(東京会場でのアンケート結果)は,「よかった」が8割であった。その代表的な意見は,「文化の違いによる日本との看護の違いを知ることができた。その中で,日本でも取り入れられることは何かと考えさせられるよい機会となった」,「リハ看護の専門・認定看護師教育を受けることへの自信がなく,どうしようと数年が過ぎるが,これでよいのだと1つの道がみえ,確信が持てた」「アメリカのリハ看護事情について視野を広げることができ,またリハの基本やナースの役割を知ることができ,自分の振り返りにもなった」などであった。

リハ看護の今後のあるべき方向

 リハ看護の今後のあるべき方向は,リハ領域でのナースの役割機能を明確にし,患者やリハチームメンバーとチーム医療の目的を果たすために力を発揮していくことである。その意味で橋本氏は,「リハ看護が未来に向けて飛躍し,目標達成,生存競争に勝つためには,臨床・教育・研究の3つの分野における発展と3つの分野の提携が大切。また,リハ看護の専門性の確立と宣伝も重要となる」と強調していた。
 また橋本氏は,「臨床でのリハ看護としては,継続教育・卒後教育,他の医療従事者との連携,地域,消費者(障害者)との連携が重要」とした。
 一方,教育分野では「次世代を担うリハナースの養成,リーダー,自立性のあるナース,協調性のあるナース,自分自身を見つめ,他人と対等につきあう勇気と根気とパワーを持つナースの養成が必要」。研究分野では,「看護介入の効果の立証と適応,他の医療従事者と比較した看護介入効果の優位性,他の医療従事者との共同研究,研究分野で活躍できるナースの教育がテーマとなる」と述べた。
 さらに,専門性を持つリハ看護確立のための1方法としては,「リハ専門ナース,上級リハ専門ナースの資格を持つこと。リハ看護の専門性の宣伝のためには,リハ看護協会などの組織的なアピールと,自己アピール術があげられる」とし,すべての場合において「リハ看護の理念を政策に反映させることが必要である」と強調した。
 このように橋本氏は,講演,実演を通して日本の看護職に,「根気」「勇気」「元気」をたくさんおいていかれた。
 これらの成果を踏まえて,国際リハビリテーション看護研究会では本年12月に「急性期リハ看護を考える会」を開催する。アメリカにおいて,循環器専門看護師を長く経験した講師を招聘し,問題提起をしてもらいながら参加者間で討議をすることを考えているので,多くの方の参加を望みたい。

●急性期におけるリハ看護を考える会
――アメリカの循環器専門看護師の経験から(仮題)
〔開催日〕12月2日(土)
〔会場〕東京都リハビリテーション病院
・連絡先:〒300-0394 茨城県稲敷郡阿見町阿見4669-2 茨城県立医療大学(野々村研究室)内 国際リハビリテーション看護研究会事務局
 FAX(0298)40-2295
 E-mail:nonomura@ipu.ac.jp