医学界新聞

 

介護保険における質の保全を論議

第42回日本老年社会科学会が開催される


 さる7月6-7日の両日,第42回日本老年社会科学会が,初の看護職による女性会長となった中島紀恵子氏(北海道医療大)のもと,札幌市のかでる2.7にて開催された。
 同大会では,大会長講演「看護と介護を問いなおす」(中島氏)をはじめ,シンポジウム I「21世紀の高齢社会と老年社会科学のフロンティア」(コーディネーター=聖学院大 古谷野亘氏),II「介護保険―サービスの質の検証と課題」(座長=北星学園大 杉岡直人氏,北海道社会福祉協議会 白戸一秀氏)の他,教育講演「高齢者虐待の諸問題とその対策」(淑徳大 多々良紀夫氏)が企画された。また,ワークショップとして,「ケーススタディ」(講師=武蔵野女子大 根本博司氏),「レクリエーション」(講師=日本社会事業大 千葉和夫氏),「回想法」(講師=岩手県立大 野村豊子氏)の3テーマを実施。なお,一般演題は在宅ケア,家族看護,痴呆ケア,虐待などの領域から,示説・口演含め134題の発表が行なわれた。


高齢者虐待の予防と対応

 教育講演を行なった多々良氏は,「高齢者虐待は,学会としての重要課題の1つ」と述べた上で,アメリカで深刻な社会問題となっている高齢者虐待の実態と,1970年代からの行政における対応策検討に関して解説した。
 氏はまた,家庭内および施設における高齢者虐待の種類について,(1)身体的虐待,(2)性的虐待,(3)情緒的・心理的虐待,(4)世話の放任,(5)金銭的・物質的な搾取,(6)自己放任をあげた。
 その上で,予防と対応について(1)早期発見・早期介入,(2)家族介護者の訓練とサービス,(3)介護専門職の専門性と強化,(4)介護現場の地域開放化,(5)市民レベルの啓発運動,(6)法による規制の強化,(7)介護者の心理的負担の軽減等を指摘し,「高齢者の安全や人権を守るのは,みんなの仕事である」と結んだ。

介護保険の今後の課題を浮き彫りに

 本年4月から実施された介護保険に関連し,シンポジウム II が企画された。座長の杉岡氏,白戸氏は開催意図について,「介護保険が実施されてから間もない現段階においては,予想されるサービスの質を問う仕組みが十分な体制となっているか,専門家であるケアマネジャーの役割は十分期待に応えているか,専門家と行政・民間そして市民サイドとの連携にどのような問題が生じているのかという視点から検証したい。本シンポジウムでは,介護保険の要であるケアマネジメントに関わる専門家とともに今後の課題を浮き彫りにしたい」と述べ,「利用者の自立支援の尊重,ならびにケアマネジャーの質の保全はいかに確保されうるか」が,高倉淳氏(北海道栗山町助役),川島みどり氏(健和会臨床看護学研究所),白澤政和氏(阪市大)の3人のシンポジストが登壇し,語られた。

率先して主体的に進めた地域施策
 高倉氏は,介護保険の実施運営主体の立場から,「国や道からの手術を受けた政策を実施するだけでは主体的な施策とはならない」とし,「高齢」をキーワードに1988年には町立の介護福祉学校を設立,バリアフリー住宅改造の資金援助など,率先して地域施策を進めてきたことを報告。

ヘルパーの現任教育が必要
 また,川島氏は「ケアマネジャーに求められる視点と技術について」を口演。「本来,利用者の声を代弁するとともに,利用者が必要と求めるサービスを使えるように支援するのがケアマネジャーの役割だが,現在はケアプランを作成することが先行し,その役割を果たしていない」と述べ,ハードで雑多な業務に追われているケアマネジャーの現状を危惧するとともに,ヘルパーの現任教育の必要性を説いた。

生活支援・自立支援の再確認を示唆
 白澤氏は,制度・政策運営の立場から,「介護保険は自立支援社会を作ることを目的としたものであったが,生活支援の要素が弱くなり,利用者を『患者』としてみる医療ニーズの色彩が強くなり,生活支援からは解離したものとなっている」と医療化傾向を憂える発言を行ない,「生活支援」「自立支援」の意味を再確認する必要があることを示唆した。
 なお総合討論の場では,サービスの質向上のためにするべきこと,評価・情報開示・監査に関して,また評価システムのあり方が論じ合われ,ケアマネジャーの万全な体制と質の整理が必要とまとめられた。