医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


標準化された救命蘇生処置の普及をめざして

ACLSマニュアル
心肺蘇生法への新しいアプローチ
 沼田克雄 監修/青木重憲 著

《書 評》箕輪良行(船橋市立医療センター救命救急センター部長)

 とうとう医学書院からテキストになった,というのが私たちの実感である。待ちに待った本と言ってもよい。実は湘南ACLSを青木先生のところへ受けに行った人々は,自家版のマニュアルを持っている。こちらは改訂を重ねて体裁もよくなっていたが,今回の『ACLSマニュアル』に至って完成を見たと思われる。
 表紙にある心臓を示すハートの真中に心電図のQRSを形どった赤いロゴは,知る人ぞ知るものである。茅ヶ崎の病院では大多数の医師,看護職員がこのバッジをつけて歩いている。船橋の私たちの病院や医師同乗で現場出動するドクターカーの医師たちもこのバッジを胸やえり元につけるようになった。この2年間のことである。
 心原性の心肺停止や重症不整脈の治療に圧倒的な強みとなるアメリカ心臓協会のACLSコースを日本に輸入して紹介,普及に尽力されてきた青木重憲先生の功績は多くの方の知るところである。本書にもあるように既に国内で1000名以上が履修している。
 自家版のマニュアルの内容,主として重症不整脈(VF,VT,AVblock,AF)の診断,治療に関するアルゴリズム,薬剤の基本については従来通りである。2日間かけて行なわれるACLSコースで青木先生が紹介される話が,「クリニカルノート」として随所に散らばっている。
 最もありがたいのは,自家版にはなかった「ACLSの演習」と「プリテスト」の章が本書にある点であろう。私たちは船橋でACLSを普及させるにあたり,青木先生にご足労いただき手取り足取り,講習会成功の秘密を伝授してもらった。今後,この医学書院版が発行されれば,このような形でご迷惑をかけなくても済むと思われる。病院内や地域で新規にACLSコースを開始される皆さんにとって本書はありがたい。ただしお断りしておくが修了証と表紙にある赤いロゴのバッヂの授与がコースの目玉であることを強調しておきたい。

非専門医にとって福音

 標準化された救命蘇生処置の普及という点で非常に遅れてしまったわが国の現状にあって,本書の意義は大きい。心臓専門医や救急専門医の中には本書の内容への疑義をお持ちの方もいると思われる。しかし,多くの非専門医にとっても薬物,機器を使った心肺蘇生は他人事ではない。ACLSではこのようにしましょう,と現段階のEvidenceに基づいてプロトコールを定めたわけである。1つの選択肢であるが,シンプルでわかりやすく,どこにでもある薬剤に拠っているのが魅力だ。
 院外心肺停止の現場で,医師が本書のアルゴリズムに則って蘇生した患者から社会復帰例が続いている。船橋市では非公式なデータだが,目撃者のある心原性の心肺停止で40%近く生存率をあげた(99年度)。私たちは自信をもってACLSをすすめている。その意味でぜひとも一度,本書を手にとって味わっていただきたい。
 最後になって申し訳ないが,1つだけ本当のことを追加したい。青木先生のACLSコースもそうだが,マニュアルの内容を確実に身につけるには実際にやってみないとだめである。参加者が見守る中でシミュレーション人形の心電図モニターを眺めて,頭の中で「shock shock shock」と唱えながらDCのパドルを握らないと修得できない。成人学習の理論に基づいた医療従事者向けの生涯教育コースがACLSの本質なのである。その辺がわからないと本書のよさは理解できないおそれがある。

研修医から医学教育の現場の諸先生まで

 そういう意味で,研修医や実地医家に限らず,医学教育の現場にいる諸先生にも本書を勧めたい。救急患者を診られない日本の医学部教育の欠陥をBritish Counsilから指摘されているという情けない現状を打破するためにも。
A4・頁248 定価(本体3,600円+税) 医学書院


義肢装具学に最近の知識を1冊に

義肢装具学 第2版
川村次郎,竹内孝仁 編集/古川 宏,林 義孝 編集協力

《書 評》眞野行生(北大院教授・リハビリテーション医学)

 『義肢装具学』第2版では,第1版と違って新しい試みがいくつか盛りこまれて,さらに充実した本となった。

社会のニードの高まりに応じて

 内容では,総論として歩行や義肢・装具のバイオメカニクスがわかりやすく解説されている。義肢編では,義肢の歴史から最近開発された義肢まで詳しく記載されている。特に適応,義肢の構成,アライメントの調整,義肢をつけての歩行・動作の特徴を詳細に,理解しやすいように記載されている。また装着前の訓練,装着後の訓練,家事訓練,職業訓練などが盛り込まれており,役立つ本である。
 装具編では,装具の歴史や装具の種類の他に,疾患・障害別に記載されている。片麻痺,対麻痺,スポーツ障害,先天股関節脱臼,ペルテス病,二分脊椎,筋萎縮症,骨折,拘縮,側彎,頸椎障害,腰痛症,脳性麻痺,リウマチ,末梢神経障害などと多くの疾患や障害を取り上げ,使いやすくなっている。最近の社会的ニードの高まりに応じて,座位保持装具,自助具,福祉機器の章も設けられている。
 経験主義に陥りやすい義肢・装具が,科学性と基礎的理論を背景として書かれているのが読みとれる。また各章の最後に要点を理解しやすいように演習問題があり,各章のまとめや国家試験などにも役立ちそうである。

医師から介護に携わる人まで

 本書は,義肢・装具の最近の進歩に基づくup to dateの知識を,その分野のリーダーの先生方が書かれたものである。特に編者の川村次郎先生は長年,義肢・装具の研究に携わってこられてバイオメカニクスなどの分析から実際的な義肢装具学まで,知識と経験の豊富な先生である。もう1人の編者の竹内孝仁先生は運動学,歩行分析学のみならず最近の福祉機器に大変詳しく,地域リハビリテーションへの応用の方面での第一人者である。本書はリハビリテーション医学,整形外科,神経内科などに携わる医師,理学療法士,作業療法士さらには義肢装具士に役立つし,またそれらの養成学校や研修会のテキストとしても大変役立つと思われる。座位保持装具や自助具・福祉機器の新しい章が入ることにより,老人保健施設,特別養護施設や介護に携わる人たちの参考書としても利用できる本である。

2色刷りで視覚的理解を促す

 全体の構成が,2色刷であり,明るい感じで,視覚的な理解をしやすくしていて好感がもてる本である。
B5・頁418 定価(本体7,000円+税) 医学書院


小児神経学を学ぶ人に最適のテキスト

Child Neurology 第6版 John J. Menkes 編集

《書 評》渡邊一功(名大院教授・小児科学)

「メンケス小児神経病」改訂版

 Menkes病の発見者である本者Menkes博士は,第6版緒言の中で「この種の教科書は,ますます複雑化する分子生物学,遺伝学,神経化学,神経生理学,神経病理学を臨床家にわかりやすい言葉にして説明し,さまざまな分野における無数の研究の進歩が患者の診断,ケア,治療にどのようなインパクトを与えているかを理解できるようにしなくてはならない」と述べている。著者はこの困難な仕事に挑戦し,見事に成功している。

小児神経学の最新の知識と展望

 またMenkes博士は,前版(第5版)の緒言では,「われわれは神経科学の分野で多くのことを学んだが,一方,臨床神経学においては多くのことを忘れてしまい,その結果,思慮深い病歴聴取と注意深い神経学的診察より,時間のかからない神経画像診断やその他の検査を優先するようになってしまっている。本書においては臨床的経験とそれに関連する神経科学の最新の進歩をミックスすることを意図してきた。神経科学に親しみを持ち,患者の評価と治療にその助けを求めるような医師は,単に臨床神経学に精通しただけの医師より臨床的問題を分析できるよい立場にあり,その分野にユニークな貢献ができる機会をより多く持つであろう」と述べている。その医師はまさにMenkesその人であるとも言えよう。
 本書は,小児神経学における最新知識の整理と展望に手頃な規模の教科書と言えよう。
頁1280 20,120円 2000年 Lippincott Williams & Wilkins社


「ビジュアル・ディバイド」時代の循環器テキスト

狭心症・心筋梗塞ビジュアルテキスト
堀江俊伸 著

《書 評》南淵明宏(大和成和病院心臓病センター・心臓外科部長)

 本を持つのが違法とされた世界を描いた古いSF映画があり,その映画で消防士(本を焼却する役目)は「本とは人々の知識の格差を生み出すもの。よって罪悪である」と説明する。狭心症・心筋梗塞に関するテキストとして書かれたこの本は,副題にビジュアルテキストとあるように,まことにビジュアルな表現方法を駆使していてきわめて有益である。本書を活用する人としない人では臨床能力にも大きな格差が生じるかもしれない。
 昨今の書物は,商品の差別化として,よりビジュアルであることを極めようとしているが,本書のような水準の出版物が市場を席巻する「デジタル・ディバイド」ならぬ「ビジュアル・ディバイド」の時代が到来したようだ。

臨床にすぐに活用できる内容

 本書はまず問診に始まる基本的で実際的な知識の解説,病態の説明,治療方法という構成をとっているが,読者の視覚にはまずふんだんにちりばめられたイラスト,概念図,写真が飛び込んでくるであろう。実践の場にある臨床家が備忘録として活用する場合,ビジュアルな内容を眺めるだけで十分に活用できる。現在学習中の読者には,触診の方法や大腿動脈の穿刺の基本的手技,動脈(観血的持続モニター)穿刺後の固定法など,すぐにでも臨床に活用できる内容のものまで親切に図示してあり,このような「まめ」でビジュアルな説明は既成のテキスト,解説書,マニュアルのいずれの範疇の成書でもいっさい見られなかったものである。

ふんだんにちりばめられたイラストで視覚から学ぶ

 狭心症の発生状況,A型患者の行動パターンなど,漫符(マンプ)を用いたイラスト,と言うよりマンガでまず視覚に訴え,ついで文章の説明を受けるというふうな方法で,短時間に楽しく重要な事項を掌握できるようになっている。さらには体外循環を用いた補助循環,血液濾過方法など,検査方法や治療方法の解説では欠点や現状の課題などについても言及されており(例えば私の分野の低侵襲冠状動脈バイパス手術には内胸動脈の採取など技術的難点が存在することなど),公正な見解である。
 病態の説明については,著者はこれまで研究成果の表現方法にミクロとマクロの病理組織を多用してきただけに,病理組織標本が余すところなく用いられており,実証性に富んでいる。
 本書は,医学的教育背景のない人にとっても十分に理解し,活用できる表現力をもった書籍である。循環器系の医療訴訟を担当する法曹関係者にもぜひお勧めしたい。
A4・頁304 定価(本体16,000円+税) 医学書院


血液学の最新の進歩から臨床まで学べる欲張りな教科書

標準血液病学 池田康夫,押味和夫 編集

《書 評》三浦恭定(社会保険中央総合病院長・自治医大名誉教授)

 本書は医学書院による「標準」教科書シリーズの1冊として新たに出版された。このシリーズは,戦時中の促成医学教育に端を発し,約50年前「ブルーライン」として親しまれていた一連の医学教科書が,何回か装いを新たにして最新の知識を盛込みつつ発展したものである。
 血液学は最近約10年間に分子生物学を取り入れて急速に発展した。例えば造血幹細胞,造血因子,転写因子,癌化学療法,幹細胞移植などのどれをとっても少し古い教科書では役に立たない。このように進歩の早い血液学の中から,医学生に必要な知識を整理して要領よく理解させるのはなかなか難しい。学問の進歩に加えて最近の医師国家試験では,患者に最良の治療を施す治療計画の立て方や,臨床現場での的確な処理能力を養うことが求められるようになり,近く試験内容の大幅な改訂が行なわれる予定もあって,この教科書もその目的に合せたものにすることが求められている。
 血液学はもともと基礎的研究が直ちに臨床への応用につながる学問であり,複雑で興味深い形態学と分子レベルに到る最新の知識がうまく結びついた分野である。したがってよい教科書があり,よい指導者がいれば,必ず心ある学生に深い学問的インパクトを与えるに違いない。

第一線での血液学者による記述

 一方,このような欲張りな要求を,あまり容量の大きくない教科書にもれなく盛り込むことはなかなか難しいし,何よりも有能な執筆者を選ぶことが肝要である。本書の執筆者はいずれも現在血液学の第一線で診療,教育,研究に当たっている血液学者で,その内容も最新の進歩を紹介しながら,概ね上記の目的に沿った無駄のない記述がなされている。この他「検査法」という囲み記事が筆者名入りで随所に配置されていて,検査法の進歩とその概要が簡単にわかるようになっており,理解しやすい。

医学教育から臨床医まで役立つ1冊

 この教科書の本来の目的は学生教育であろうが,新しい内容がよくまとまっていて,卒後の研修医や,日常血液疾患を診ることの少ない専門外の医師にも座右において役に立つ好著であると考える。教育の現場を離れた私にとっても,容易に正確な新しい知識を調べることができて便利で,併せて編集者に敬意を表する次第である。
 最後に出版社への注文であるが,分担執筆の本を読む場合に読者は各項目の執筆者が誰であるかを認識し,著者の個性を反映した内容を考えながら読むのが一般的であり,また執筆者の責任を明らかにすることも必要である。その意味では,目次部分以外にできれば本文中にも各項目ごとに執筆者名をはっきり記載するようにしてほしい。
B5・頁320 定価(本体4,500円+税) 医学書院


手元におきたい理学療法士・作業療法士のためのテキスト

標準理学療法学・作業療法学〈専門基礎分野〉
小児科学
 冨田 豊 著

《書 評》森下孝夫(広島県立保健福祉短大教授)

図表が多用され理解しやすい

 小児科学の成書は数あるが,いずれも600-1600頁に及ぶ大部なものが多い。本書は広範多岐にわたる小児科学を,療育に関連の深い疾患などに重点をおきながらコンパクト(210頁)にまとめているので,理学療法学科,作業療法学科の教科書として大変使いやすい。
 また,2色刷りでビジュアルに構成されており,図,表,写真を豊富に使って理解を助けている(本文184頁中に146もの図,表,写真が挿入されている)。患者を実際に見たことのない学生には,症例のイメージが湧きにくく理解しにくい面もあるが,図を使って説明したり,症例の写真(カラー写真も)を見せて理解を助けたりと懇切丁寧に記述されている。著者は小児神経科医で大学病院,肢体不自由児施設そして重症心身障害児施設に勤務するなど,発達障害のリハビリテーションに最も近いところにいる人物であり,そして,短期大学作業療法学科の教授である。この種の教科書を著すのに最もふさわしい人選だったと言えよう。「療育としてのリハビリテーション」「教育との協力」「就業と生活支援」などの見出しの一部を見てもわかることだが,「若い人を育てたい。療育チームの一員として信頼でき,ともに働けるスタッフに育ってほしい」という著者の願いがどの頁からもひしひしと伝わってくる。序文に『できるだけ「なぜ」「どうして」などについて説明するように心がけた』とあるように,機能の発達的変化やその障害を,単に機械的に覚えるだけではなく,その意味を考えるPT・OTになってほしいと願って書かれている。

国試も念頭においた丁寧さ

 本書の構成と内容を簡単に紹介すると,第1章「小児科学概論」では,小児の成長・発達の法則性や反射・反応の発達的変化および評価のポイントなどが述べられているほか,「極低出生体重児」と「超低出生体重児」など,あいまいに使われがちな「用語の定義」をまとめている点が便利である。また,「臨床場面では栄養,離乳,予防接種,感染症のことなどは保護者からよく相談を受ける基本的な事柄である」として,特に10頁にもわたって記述されている。第2章「診断と治療の概要」は,小児科医が診察を進めていく手順が示されており,PT・OTが症例の評価を進めていく際に大いに参考になる。また,「何らかの原因で心肺停止の事態が生じて手元に何もない時は,気道の確保,心マッサージが第一である。同時に,周囲にいる人をできるだけ早く多く呼び寄せて,救急処置の補助や外部への連絡に協力してもらう。同時に重要な処置に関しては,時刻を確認し記録しておくことが望ましい」などと,直面すると気持ちが動転して忘れがちなことに注意を喚起してくれている。第3章「新生児・未熟児疾患」では,低体重出生児などのリハビリテーションの機会が増加しつつあることを念頭において,新生児および周産期障害についての記述がかなり詳しい。第4章から17章では各器官ごとの代表的疾患について述べられている。先天異常や神経・筋・骨系疾患は病像がバラエティに富んでいるが,それぞれの病状の進み方など疾患の性質と発達について,長期的な視野で対応できるように,各疾患の紹介がなされている。各章の初めには,その章で理解すべき「学習目標」が示され,終りには「復習のポイント」が箇条書きで示されており,知識の整理がしやすくなっている。そして巻末資料に「セルフアセスメント」として,学習結果を自己評価するために,国家試験を想定した5者択一の問題と解答・解説が付されている。また,各章の最後に「理学・作業療法との関連事項」という短いコメントのあるのも嬉しい。例えば,第4章の後には「療育の場では,発達遅滞や進行性の疾患にめぐり合うことは決して少なくない。すべての疾患を詳しく記憶する必要はないが,原因のとらえ方と理解,病状の進み方,退行現象の有無などを理解しておくことは,長期予後をふまえながら患児の治療プランを考える上で重要である」と,アドバイスされている。

若い臨床家の知識の整理に

 本書はPT・OT学科の学生の教科書として執筆されたものであるが,学生のみならず臨床家にも,そして養成校の教員にとっても知識の整理に役立つ。近年,周産期,新生児医療はめざましい進歩を遂げた。そして生化学検査のほかに組織検査や画像診断など診断技術の向上,また,超未熟児の生命的予後の延長によって,さまざまな種類と程度の障害を持った子どもが療育の対象になってきている。このような時期に出版された本書は,臨床の若いPT・OTにとって,「担当した症例の理解に便利」「カンファレンスで頻発する専門用語が怖くなくなる」「回診についた時の医師の会話についていける」「病棟カルテが読める」「文献が読みやすくなる」などの効用がある。ぜひ手元におきたい1冊である。
B5・頁224 定価(本体4,000円+税) 医学書院