医学界新聞

 

日米独の痴呆性疾患治療を比較・検討


 さる5月25日,東京・千代田区の国立国際医療センターにおいて,介護保険と痴呆疾患治療研究班の主催による「日米独の痴呆性疾患と介護保険に関するシンポジウム」が開催された。日本でも本年度から公的介護保険制度が導入されたことを受け,日本の介護保険制度における痴呆性疾患治療と,米独の痴呆性疾患治療システムについて,日米独それぞれの専門家が比較・検討した。
 介護保険と痴呆疾患治療研究班の伊藤弘人氏(国立病管研)は,基調報告「痴呆性疾患専門棟調査の結果」の中で,第1次要介護認定は「痴呆度(MMSE)・ADL・GBSの程度について適切に判別しているが,徘徊・被害妄想などの問題行動については適切に反映していない」ことを示唆。これを受け,同研究班の小野昭雄氏(国立病管研)は,「日本における介護保険と痴呆性疾患治療」の中で「全国民が介護保険制度による,より良いサービスを受けるために,学術に基づいたさらなる研究が必要」と述べた。
 続いて,Clemens Cording氏(独・精神医学協会)は1995年に施行されたドイツの介護保険制度のシステムについて説明。在宅ケアを重視し,質の高い通所介護サービスおよび家族介護者への支援を提供した同国の介護保険の成果を認めながらも,痴呆患者に対する要介護度の評価不足や在宅ケアにおける質管理や経済的問題を指摘。一方,公的な介護保険制度を持たず,高齢者に対する医療費がメディケアやメディケイドを通じて支払われる米国の精神医学会診療部長を務めるLloyd I.Sederer氏も,ドイツと同様の問題を指摘。国家のガイドラインに基づいて,病院・ナーシングホーム・コミュニティが一体となり,適切で質の高いサービスと治療を実現する必要があると説いた。
 植田孝一郎氏(日本精神病院協会)と平井基陽氏(秋津鴻池病院)が加わったシンポジウムでは,高齢者の70%以上が施設で死亡している点に触れ,ターミナルケアや終末期における倫理問題にまで検討が及んだ。最後に平井氏は「介護保険および痴呆性疾患の治療は未知であるゆえに,多大な可能性を秘めいている」と結んだ。