医学界新聞

 

特別寄稿

清水 至(監査法人太田昭和センチュリー医療福祉部長・公認会計士) 

地方自治体病院と外部監査


 平成11年度より導入された地方自治体の包括外部監査結果が,全国の自治体病院関係者に衝撃を与えている。特に東京都では,監査対象となった4つの都立病院について,民間並みの厳しい評価基準を当てはめた場合,29億円もの補助金が過剰支出されていること,人件費が平均的な自治体病院より28億円多いことなどが指摘され,これを受けた石原慎太郎知事が都立病院改革に積極的に取り組む姿勢を示している。
 医療従事者に馴染みのあるとはいえない「地方自治体病院の外部監査」について,外部監査人を務める監査法人太田昭和センチュリー医療福祉部長の清水至氏に解説いただいた。
 なお,弊社発行の雑誌「看護管理」6月号に特別記事「外部監査で見えた自治体病院運営上の課題」(近藤浩明氏)を,「病院」7-8月号に連載「自治体立病院の外部監査」(岡村俊克氏)が掲載され,本テーマについてより詳しい報告がなされている。


地方自治体病院と外部監査

 平成11年度の外部監査において,東京都,神奈川県,千葉県等,多くの自治体で病院事業が監査テーマに取り上げられた。外部監査には毎年1回以上必ず実施される包括外部監査と住民や議会等の要求により随時実施される個別外部監査の2つの種類があるが,今回実施されたのは包括外部監査である。包括外部監査は,平成9年度の地方自治法改正で,「監査委員監査制度」を補強するものとして,全国の自治体(都道府県,政令指定都市,中核市等)に平成11年度より導入された(地方自治法第252条の37第1項)。

外部者であることのメリット

 外部監査人とその補助者には,外部者であることのメリットとして,専門性と独立性の2要件が求められる。
 専門性に関する要件とは,弁護士,公認会計士,会計検査などの行政事務等に従事した者で政令で定める者,税理士のいずれかの者であり,独立性に関する要件は,当該地方公共団体の常勤の職員,当該地方公共団体の長等の親類,議会の議員等の利害関係者ではないということである。

包括外部監査の目的

 地方自治体の外部監査の目的は,関係法令等に基づき適正かつ効率的に執行されているかどうかに主眼がある。この監査では,自治体によって提供されている公的サービスの成果評価と,財務に関しての適法性・正確性の評価を行なう。このような行政評価の視点から行なう監査は,3E監査またはVFM監査(Value for Money:支出に見合う価値)という。
 3E監査とは,(1)経済性(Economy)(2)効率性(Efficiency)(3)有効性(Effectiveness)の3つの英語の頭文字Eの観点から実施する監査である。(1)経済性とは最小のコストで適正な質の資源を確保することを,(2)効率性とは消費した資源から最大の効果を得ることを,(3)有効性とは期待される成果が達成されることをそれぞれ意味している。

自治体立病院の苦しい現況

 包括外部監査は,監査対象である地方公共団体の財務に関する事務の執行および経営に係る事業の管理のうち,地方自治法第2条第13項(住民福祉の増進および最少の経費で最大の効果)および同条第14項(組織および運営の合理化および他の地方公共団体に協力を求めて規模の適正化を図る)に規定する趣旨を達成するために,必要と認める特定の事件(監査テーマ)について監査するものである。
 自治体立の病院は,特掲医療を除いた一般医療部分については,原則として,収支均衡または黒字が求められている。しかし,平成9年度の自治体立病院の損益状況をみると,自治体立病院のかなりの病院が純損失の状況にあり,その結果,自治体立病院に対しては毎年一般会計から多額の支出が行なわれている。
 このように厳しい経営状況となっている自治体立病院は多い。そのためいくつもの自治体で包括外部監査人は,病院事業について調査すべき必要性を認め,監査対象として選定した。

自治体立病院が受ける監査等

 自治体立病院が受けている監査には,表1のようなものがある。
 このうち,(1)(2)については民間病院においても実施されているが,(3)(4)については原則的には自治体立病院のみで実施されている。(4)の外部監査は,自治体について毎年実施されるものであるが,病院事業に関しては監査テーマに選択された場合についてのみ実施されるものである。

表1 自治体病院が受けている監査
監査等の種類監査の観点
(1)医療監視病院等が「医療を提供する場」として的確か否か
(2)保健医療機関等に対する指導・監督保険診療の取扱いおよび診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底をはかり,不当,不正な事実が発見された場合には適切な措置をとる
(3)監査委員による監査主に財務事務の合規性(適法性および正確性)
(4)外部監査財務事務の合規性,成果評価(3E:経済性,効率性,有効性)

監査の着眼点の例

 病院事業を監査する場合の着眼点の例を表2に示す。

表2 監査の着眼点の例
(1)医薬品・医療材料の物流管理は適切に行なわれているか
(2)医薬品の購入は適切に行なわれているか
(3)医業未収金の管理は適切に行なわれているか
(4)契約事務は適切に行なわれているか
(5)一般会計補助金が適切な根拠に基づき合理的に算定されているか
(6)公営企業会計が適切に適用されているか
(7)病院事業の採算管理は適切に行なわれているか
(8)コンピュータシステムのセキュリティ管理は適切に行なわれているか
(9)人員数は規模に照らして適切か
(10)1人当たりの人件費単価は適切か

監査の結果(指摘)および意見

 外部監査報告書では,監査の結果(指摘)と意見が提出される。監査の結果(指摘)は,外部監査の実施により検出した事項であり,意見とは指摘に付加して提出される改善提案である。
 東京都の包括外部監査報告から,どのような内容が述べられているか見ていきたい(以下は「平成11年度東京都包括外部監査結果報告包括外部監査人 筆谷勇」を基礎に要約抜粋したものである)。

(1)医薬品について払出数量と保険請求数量との照合を実施すべきもの(指摘)

 薬剤科の医薬品の払出数量と医事課で保険請求した医薬品の数量との照合が行なわれていない。監査人が一部について照合したところ,数百万円の差異が発見された。各病院ともこれらの照合を毎月行ない,差異については原因を追及し是正されたい。

(2)医薬品購入の効率化について(意見)

 医薬品の購入状況について,監査対象とした病院間について比較したところ,最も効率のよいA病院の効率を他の3病院が実現したとすると,合計で1億円の薬品費の節約ができると試算された。各病院間の医薬品購入情報の交換などによって,より一層の薬品費の節減に努められたい。

(3)医業未収金の回収管理状況について(指摘)

 各病院の医業未収金の回収管理状況について,平成9年度に発生した未収金に関する帳票等を閲覧した結果,債権回収の努力がなされていないものや,帳簿への記録の不備(責任者の指示書がないもの他)などの問題点が見受けられた。病院にとって未収金の管理は重要であり,適正な処理を行なわれたい。

(4)契約事務について(指摘)

 委託契約については,実質的なチェックが行なわれていないため問題が生じているものがある。今後は,給与実態や業務実態に適合した積算を行なうなど契約内容の見直しが必要である。
 また,契約方式についても,特命随意契約を行なっているものの中に,特命とする根拠が乏しいものがあるなど改善を要するものがある。

(5)カルテを適切に記載すべきもの(指摘)

 監査人がカルテ等の記載について調査したところ,各病院ともカルテの記載方法が不十分なものが散見された。
 診療記録の適切な記載は重要であり,個々の医師に対する指導を強化し記載に関する意識改革を行なう必要がある。早急に対策をたて是正されたい。

(6)一般会計補助金について(意見)

 「都の繰出基準」および算定方法・算定基礎数値を検討した結果,以下のような問題点があった。 (a)補助の対象事項の定義および範囲を明確に定めていないこと (b)算定方式は基本事項のみの定めとなっており,実際の算定に当たっては採用する数値に幅が生じること (c)補助対象となっている医療の収入・費用の算定の基礎数値が個別数値として把握できないために平均値等を使用した見做し計算をしていること
 監査人が,可能な限り実態に即した基礎数値により補助金額を試算したところ,この試算額より補助金支出額は29億円多い結果となった。この金額がそのまま補助金支出額の過大額というわけではないが,同じ「基準」を用いてこのような差が生じたということから,この「基準」および補助金算定方法の一層の明確化・精緻化を図られたい。

(7)一般医療の収支状況について(意見)

 上記(6)の試算結果に基づく補助金差額は,本来,一般医療部門が負担すべきものであるから,これを一般医療部門の収支計算に加えて各病院の損益を計算すると,監査対象病院の一般医療部門の赤字の合計額は27億円となる。
 一般医療部門は収支均衡または黒字となることが求められることから,早急に改善のための方策を検討されたい。

(8)病院事業会計(公営企業会計)の適用をすべきもの(指摘)

 Bセンターは,地方公営企業法にいう病院事業に当たるものと判断するが,同法第2条第2項に従った財務規程等を適用しておらず,貸借対照表および損益計算書等を作成していない。
 監査人が一般会計の収支から一定の前提条件のもとで,損益を試算したところ,最終損益は44億円の赤字となった。これは,特掲医療として一般会計補助金でカバーするべき部分を除き,病院の自助努力によって改善されるべき数値である。
 上記の財務規程等を適用して決算書を作成をするとともに損益状況の改善を図られたい。

(9)コンピュータシステムについて(意見)

(a)ホストコンピュータが設置されている電子計算センターについて,地下のコンピュータルームに漏水の痕跡があるなど,環境的セキュリティ(災害などに対する安全対策)をはじめとして,物理的セキュリティ(権限のない人間の侵入等に対する安全対策)および論理的セキュリティ(不正アクセスやハッカーなどに対する安全対策)に問題点があるので改善されたい。
(b)病院の経営管理に必要な人事情報,財務情報が他の局の管理するところとなっており,病院の統括部門の管轄するシステムと接続していない。適時にきめ細かな経営管理を実行するために必要な情報が迅速に収集され,分析できるシステム環境を早急に構築することを検討されたい。

(10)人件費について(意見)

 自治体病院の場合,規模・収入等に比較して人件費が過大であることが採算が悪い大きな原因の1つである。監査人が医業収入の金額等を基礎として監査対象病院の人件費を自治体病院の平均値等と比較したところ,病院の合計で医師人件費が8億円弱,看護要員人件費が20億円各々多額という結果となった。適正化のための方策を検討されたい。

監査結果の利用

(1)自治体および病院:業務改善
 各被監査対象となった自治体および各病院では,報告をもとに具体的な改善を行ない,政策医療の一層の実現に役立てることが求められている。また,多くの自治体病院および民間病院で同様の問題を抱えており,それらの病院では,今回の検討事項が参考となる。
(2)住民,利用者等:活動状況のより適切な把握と政策形成
 地方自治体の住民や利用者等については,利害関係のない外部監査人の報告をもとに,自治体立病院の活動状況をより適切に把握し,運営管理の改善やより有効な政策の立案などに役立てることができる。
 地方自治体の財源は有限であり,自治体病院の行なう医療が合理的なものであること。また,自治体立病院の運営は利用者である患者等のみでなく,広く住民間での公平が実現されるものあることなどが,自治体立病院の運営には求められている。