医学界新聞

 

インタビュー
浦上秀一氏(医真会IAU室長,八尾総合病院副院長)
小畑宣寛氏(医真会IAU課長・リスクマネジャー)

病院内監査機構の役割と可能性


 大阪府八尾市にある医真会八尾総合病院(森功院長,374床)は,医療事故の実態を積極的に情報収集し,自主的に公表するなどの先駆的な実践で知られている。
 「医療事故・エラーを低減し,質の高い医療を提供することで,信頼される医療機関として地域の健康づくりに寄与する」
 このようなヴィジョンのもと,今年3月,同病院は医真会オーディットユニット(以下,IAU)という監査機構を設けた。これは,昨年4月から兼任で配置していたリスクマネジャーを改めて専任として公募し,室長の副院長以下,計4名の機構として独立させたもので,同病院および関連6施設の医療の質向上をめざし,いずれの組織にも属さずに独自に調査活動を行ない,医療事故防止策などを提案する権限を持っている。
 今後の成果が注目される同機構の室長を務める浦上秀一氏と専任リスクマネジャーである小畑宣寛氏に話をうかがった。



―――IAUという監査機構の役割とは?
浦上 IAUの役割は個々の医療事故への状況把握とその対応を行ない,さらにデータを収集・分析して予防するということです。患者さんが抱えてこられる問題について何らかの対応をするというのが病院です。したがって,病院内で患者さんの身に害が及ぶようなことが起これば,即座に対応するのは当然のことです。この病院として本来有している役割に,もう1つ,それを分析して予防するという役割が加わり,それらの調整を一手に引き受けているセクションがIAUであるとお考えいただけわかりやすいと思います(他に,IAUには訴訟等,患者さんやご家族との事後的な交渉を行なう法務室と呼ばれる部門がある)。

膨大なエラーの分析と対策

―――なぜ,専任スタッフによる独立した監査機構が必要なのですか?
浦上 「危機管理は何よりも『事故報告』の収集から始まる」との考えのもと,1997年秋より同病院および関連6施設では,「医療の質調整委員会(危機管理委員会)」を組織してきました。ヒヤリとしたケースなど未遂のものを含め,必ず報告書を上げることをスタッフに義務づけてきたのです。この結果,院内には医療の保証と危機管理の必要性が共有され,昨年4月からはリスクマネジャー(兼任)を選任することになりました。
 リスクマネジャーが活動を始めることにより,従来からの報告書に加え,積極的な聞き取り調査が始まり,飛躍的に実態の掌握が進みました。現在,月平均約100件以上の報告書が提出されるまでになっています。医療事故の実態掌握が進むにしたがい,それに十分に対応するための専任者による機構が必要となったわけです。これが理由の1つです。
 そしてもう1つは,品質保証や医療過誤防止を行なうためには,職種横断的な取り組みが必要であり,それを可能にする機構が必要だったからです。どの組織からも独立した監査機構だからこそ,機動的な活動ができるのです。
 現在,IAUのリスクマネジャーは3人います。小畑氏が元看護士長で,他の2人はそれぞれ,元放射線科主任,事務職ですが,特に彼らには自らの「職種」の意識を捨ててもらっています。
小畑 エラーをなくすというのは,そのエラーから職位や自らの立場を守るということではなく,患者さんを守ることなのだという意識を定着させなければいけません。事故例を分析していてよく感じるのが,事故を産み出す診療・ケアのプロセスの中には患者さんが不在だということです。本当に患者さんを中心に考えて,診療やケアのプロセスを組みたてれば起こらないことが起こってしまっているのです。リスクマネジャーだけでなく,すべてのスタッフがそういった意識をもたなければエラーは決してなくなりません。

意識改革の積み重ねが大切

―――具体的な監査活動は,やりづらいものではありませんか?
小畑 もちろんそういうこともあります。当事者は反省し,後悔し苦しんでいる。できれば早く忘れてしまいたいという気持ちもある……。
浦上 こっそりと調査に入っているという印象は与えないようにしています。当事者と所属長に同席してもらって,職員食堂で食事でもしながら話をしたり……。しかし,話をすることの目的は,やはり被害を受けた患者さんのために,私たちは何をしたのか,何ができたのか,これから何をしなければならないのか,を考え,対策を見出すことです。そこでの議論は自ずと個人攻撃の方向には向きません。
 そして,そのような情報の収集・分析の中から具体的な提案が現場に対してなされると,現場のスタッフたちも,エラーのフィードバックによって,ミスが起きにくくなる,仕事が楽になるという経験をします。すると,品質管理への士気も高くなるし,「安全」に対する組織的な対応の有効性も認識されるようになります。
 そんな数年前から少しずつ続けられてきた意識改革の積み重ねがあるからこそ,スタッフたちは今「監査」というものを受け入れられるのだという気がします。
小畑 監査への抵抗感よりも,「報告を出すといいことがある」そんな意識が高まっています。IAUは活動を開始したばかりですが,成果を出せる手応えを感じています。
―――ありがとうございました。


 同病院の取り組みについては,雑誌「病院」(医学書院刊)に本年1月号から連載されている「病院管理フォーラム/八尾総合病院のリスクマネジメントの取り組み」に詳しく紹介されています。